塩田紳二のPDAレポート

Garmin「Legend HCx」



今回、米国で購入したGarminのLegend HCx。カラー液晶を装備し、高感度GPSデバイスを搭載。付属地図をインストールしてカーナビゲーションが可能

 以前、GPSデバイスを紹介したが、今回、新たにGarminのeTrex Legend HCxを入手した。これは、ハンディサイズながら、地図の表示やナビゲーションも可能なもので、PNDのハンディ版とでもいう製品だ。

 長い間、GPSデバイスを使ってきたが、これまでの製品は、位置情報を記録するだけのGPSトラッキングデバイスだった。もっとも、筆者の使い方は、位置を記録しておいて、あとでデジカメ写真の撮影場所などを知るためだったので、これで問題はなかった。

 しかし今や、単三乾電池2本で20数時間動作するデバイスでも、ちゃんと、ルート検索とそれによるナビゲーションが可能になった。

 筆者は、ときどき、米国の取材でレンタカーを借りる。ただ、年に1回か2回ぐらいで、このためだけにわざわざ、米国でしか使えないPNDを買うというのもなんである。しかし、この機種ならば、普段の持ち歩きにも使え、さらに自動車でナビゲーションデバイスとしても利用できる。また、一般的にPNDは、バッテリを内蔵しているが、原則としては車のバッテリから電力供給を受けて動作することを前提としているため、2~数時間程度しか内蔵バッテリで動作できない。しかし、このLegend HCxだと、単三電池2本で25時間動作する。また、外部電源の供給も可能でカーバッテリでも動作させることができる。

●ポケットサイズながらナビゲーション機能も

 筆者が購入したのは、地図ディスクやカーマウントアダプタなどがセットになったもので、379ドル。eTrex Legend HCx単体だと260ドルぐらいである。本体には、アメリカやヨーロッパといった販売地域別に簡単な地図(主要な高速道路などのみ)が入っている程度で、そのままだと、単なるGPSトラッキングデバイスだが、地図ディスクから地図データを転送すると、都市内のルート検索やナビゲーションが可能になる。また、かなり簡単な世界地図と主要都市ぐらいは最初から登録してある。どれぐらい簡単かというと、日本はおおよその形は登録されいてるが、皇居のすぐそばまで東京湾が来ているぐらいのかなり簡単な地図だ。

 この機種では、GPS受信機の感度が上がっている。これまで使っていたeTrexでは、ビル街だと、測定困難な場合が多かったが、この機種だと、街中でもちゃんと位置測定が可能なばかりか、条件が良ければ室内でも位置測定ができる。また、電車など、窓の多い乗り物であれば、特に窓のそばに置かなくても位置測定が可能だ。

 トラック記録用として使うなら、これまでと同じで、電源を入れれば、GPSの捕捉を開始し、勝手にトラックを記録していく。あとは、ただ放っておくだけでいい。感度が高くなったせいか、カバンの外側ポケットに入れても、アンテナ部分がちゃんと天頂を向いていなくてもちゃんと位置測定してくれる。

 液晶は、176×220ドットと小さいが、256色のカラー表示が可能。地図もカラーで表示できる。ただし、匡体はこれまで使っていたeTrexよりも少し横幅が長くなっている。また、液晶の上に小さなジョイスティック(というかThinkPadのトラックポイントみたいなもの)があって、4方向+実行キーになっている。

 機能が大幅に増えたため、メニューには多数の項目がある。メインメニューに登録されている機能のいくつかは、ページとして表示可能で、本体右側のページ切替ボタンでページを順次切り替えていくことができる。逆に、ページに表示されない機能は、ページの1つであるメインメニューからアイコンを選択して表示させることになる。

 こうした機能の中には、月の満ち欠けや潮の状態を表示すカレンダーなどがある。GPSデバイスは、釣りなどのアウトドアスポーツで使うことも考えられているためだ。その他、電卓やゲームなども入っている。

地図をインストールしたサンフランシスコ市内は、細かく道路が標示されるが、地図がインストールされていない地域(米国版の場合には州単位)では、同じ縮尺でも主要なハイウェイのみ表示される 地図には、POI(Point Of Interest)も含まれており、拡大すると店舗やホテルなどのアイコンが表示される
標準で、本体には簡単な世界地図が入っている。この拡大率だと日本地図だとわかるが、拡大してみるとかなりアバウトな地図である 衛星の捕捉状態の表示。色分け表示が可能 メインメニュー。MarkとはWayPointの設定機能であり、登録したWayPointはFindで探す。Tracksは、経路軌跡記録に関するもの。時計や電卓、ゲームなども入っているほか、カーナビのような擬似3次元表示を行なうHighwayモードもある

●PCとはUSBで接続可能

 また、PCとのインターフェイスは、USBになった。これまでは、専用ケーブルが必要で、インターフェイスはシリアルだった。最近のPCはシリアルインターフェイスを持っている機種が少なく、このためにシリアル-USB変換アダプタが必要だった。デスクトップで使うときにはこれでも問題はないが、外出先や海外取材のときにノートPCで使おうと思うと専用シリアルケーブルとシリアル-USB変換アダプタを持ち歩く必要があり、これはかなりかさばっていた。これを持ち歩く必要がなくなっただけでもメリットがある。

 なお、このUSBインターフェイスは外部からの電源供給にも利用できる。付属のバッテリアダプタは、片側がシガーライターコネクタ、片側がUSBコネクタ(ミニB)になっているタイプである。

 セットに付属していた地図ソフトウェアは、MapSource City Navigator NTというもの。米国内の道路地図と、都市内のPOI(Point Of Interest。店舗やホテルなどの位置を示す情報)が収録されている。これは、州単位か、大きな州では2~3に分割した地域単位で地図をLegendへ転送できる。POIも同時に転送され、歩きながら近所の店舗を探すといった用途にも利用できる。Legendの本体メモリまたは、スロットに装着したmicroSDカードに転送が可能だ。付属のソフトウェアは、Legend内のトラックやWaypoint(場所の登録)、ルートなどの転送にも利用できる。筆者の購入したセットが単体よりも100ドル以上高いのは、このソフトの分だろう。Garminのサイトを見ると、このソフト単体で99.99ドルになっている。

 なお、Webサイトの情報などによれば、単体製品には、このMapSourceのWayPointやTrackを管理する機能のみのバージョンが付属しているようである。

 付属していたマウントアダプタは、片側が吸盤になっていて、ダッシュボードやフロントガラスに装着する。Legend HCxのバッテリカバーには、各種のマウント接続パーツやベルトクリップを付けられるようにねじ穴がある。ここに付属のプラスティック部品を付け、これでマウントアダプタに装着する。マウントアダプタは、ヒンジが2カ所あり、吸盤の取り付け角度にかかわらず、Legend HCxを見やすい角度に合わせることが可能だ。また、ヒンジ部分は、ネジで固定できるようになっている。

 内蔵しているナビゲーション機能は、ダウンロードした地図を使って、現在位置から目的地までの経路探索を行なうもの。いわゆるカーナビと同じ機能である。角を曲がるときには、ちゃんと指示が表示されるし、ハイウェイなどを走るときのために擬似3次元表示を行ない、出口や分岐を見やすくするモードや経路から外れたときの再探索(リルート)機能もある。ただ、日本のカーナビやPNDのように音声ガイド機能はない。次回、米国で車を借りるような機会があれば、実際に使ったレポートなどを行ないたいと思う。

付属のMapSource City Navigator NTには、米国の地図が入っている 同、拡大地図(サンフランシスコ付近)。このソフトには、ルート検索機能もあり、予めPC側でルートを検索させておいて、Legend HCxへ転送することもできる このソフトには、トラックやルート、ウェイポイント、地図などを管理し、Legend HCxと相互に転送する機能がある。米国外だと地図は表示されないが、トラックやウェイポイントの表示は可能

 これまで単純なGPSトラッキングデバイスを使ってきたが、ほぼ同じサイズで、ナビゲーションまでできるのはすごい。筆者的には、感度が良くなって、経路が途切れることなく記録できるようになったのがうれしい。また、このLegend HCxには、「Proximity」(近接)という機能があり、予め登録した地点に対して指定した距離(最短で10m)内に入ったときにアラームを鳴らす機能がある。

 筆者は、郵便物を投函するとき、いつも利用する駅へ行く途中にあるポストを使うのだが、よく忘れて通り過ぎてしまう。自宅から駅までは歩いて20分ぐらいで、ポストはかなり駅に近いので、近くに来るまでに郵便物のことをきれいに忘れている。さらに、このポスト、駅から戻るにはちょっと躊躇する程度の絶妙の位置にあり、毎日出かけているのに郵便物が投函できなかったことが多々ある。この機能を使うと、ポストが近づいた段階で音を鳴らすことができ、それで投函し忘れを防いでくれる。そのほか、帰宅時の乗り換え駅とか下車駅で音を鳴らせば、乗り越しも防げる(筆者はよく本に夢中になっていて乗り越すことがある)。かなり情けない例なのだが、位置情報を使えば、いろいろと便利なサービスが実現できそうだ。

●役目を終えたeTrexを分解してみた

 実は、このLegend HCxを購入したのは、今まで使っていたeTrexのまわりのゴムが切れてしまい、そろそろ替え時かと思っていたからだ。eTrexはもう役目を終えたので、分解してみることにした。これまで、筆者はGarminのGPSデバイスをいくつか入手したが、どれも分解していない。というのは、匡体が防水構造のため、シールで閉じてあるからだ。さすがに外で使うものなので、シールを剥がして分解するのはためらわれたのである。

 このeTrexは2世代目にあたり、同デザインの初代に比べると、メモリなどが強化されており、記録できるトラックのポイント数などが違う。

■■ 注意 ■■

・分解/改造を行なった場合、メーカーの保証は受けられなくなります。
・この記事を読んで行なった行為(分解など)によって、生じた損害はPC Watch編集部および、筆者、メーカー、購入したショップもその責を負いません。
・内部構造などに関する記述は編集部が使用した個体に関してのものであり、すべての製品について共通であるとは限りません
・PC Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。

 eTrexの中身は基板1枚。液晶側は、液晶パネルが、フレキシブル基板でメイン基板と接続されて折りたたまれていて、さらにGPSアンテナがある。

 反対側(バッテリ側)には、Garminのロゴの入ったデバイスとRAM、フラッシュ、そしてシールド内には、GPS受信関連の回路があるだけだ。

 また、バッテリとの接続は、バネがつかってある。防水構造とするためか、バッテリ側からは、+側、-側に対応するバネが匡体から出ており、ここにメイン基板上の接点が接触するような構造である。また、匡体でGPSアンテナの裏側にあるシリアルコネクタ側からはケーブルが出ていて、コネクタで基板と接続する。

 GPSの受信は、MAXIM社のMAX2745(Single Chip PGS System Frontend Down converter)を使い、1.5GHz帯のGPS信号を4MHzの中間周波数へと変換する。GPSの各衛星は、CDMAにより同一の周波数を使って信号を送信する。受信側では、受信信号に対して各衛星の持つ拡散コードを同期させて、信号を分離する。この同期処理などの部分は、他の適当なデバイスが見あたらないことから、おそらくカスタムデバイスに含まれていると思われる。そのほか、このカスタムデバイスは、全体をコントロールするCPU、LCDコントローラなども含まれていると思われる。

 メモリは、128KBのBSI社の超低消費電力CMOS SRAM BS616LV1010と、AMD(現Spansion)の8Mbit フラッシュメモリAm29SL800DB90である。後者は、ファームウェア(eTrexはファームウェアのアップデートが可能)の格納に、前者は、データなどの格納用と思われる。また、メイン基板上には、小さなバッテリ(2次電池?)があり、これでメモリのバックアップなどを行なっているのではないかと思われる。

 液晶側には、ドライバと思われるデバイスがある。液晶は、64×128ドットの4階調グレースケールが可能なもの。また、LCDを開くとその下には各種のテストポイントがある。筐体の液晶側だけを外して、LCDを開けば、そのままテストなどが可能になっているようだ。

 各種のスイッチ類も基板に直接載っている。本体回りに巻いてあるゴムがメンブレンキーボードのキートップ下にあるカップのような構造になっていて、基板上のスイッチを直接押すようになっている。ただし、ゴムの下には、透明なテープが巻いてあり、筐体上下の合わせ目をシールするようになっている。

 こうやってみると、かなり簡単な構造である。GPSによる位置測定は、大きく信号の復調とその後の計算処理からなる。拡散符合で変調された信号の同期と非拡散処理により、各衛星からの時刻信号などを取り出し、今度はその時差を使って、緯度経度を計算するわけだ。無線部分やアンテナなどにももちろんノウハウはあるだろうが、中心となる機能は、Garminのロゴのついたデバイスとそのソフトウェアの中にある。

 いったん、位置測定ができてしまえば、画面表示などにはたいした負荷は掛からないだろう。このGarminのデバイスは、構成的には、おそらく携帯電話のプロセッサ程度だと思われる。

今回分解したGarminのeTrex。これについては2007年11月に「モバイルでGPSデバイスを使う」で紹介した メイン基板部品側(筐体内では裏側にあたる)。Garminのロゴの入ったデバイスがあり、右側上の部分は、シールド(撮影のため上部のシールは剥がしてある) 液晶側。液晶は、フレキシブル基板でメイン基板と重なるように接続されており、両面テープで止められている。写真は、液晶を開いたところ。基板右側の四角い部分がGPSアンテナ
メイン基板表
裏の部品など

【表】主な搭載部品
メーカー 型番 デバイス概要
BSI BS616LV1010 Very Low Power/Voltage CMOS SRAM 64K16bit
AMD Am29SL800DB90 8Mbit CMOS 1.8V Super Low Voltage Flash Memory
MAXIM MAX3229 RS-232C Transiver
MAXIM MAX2745 Single Chip GPS System Frontend Down Converter
Garmin   コントローラその他

 今では、携帯電話にも搭載されているGPSだが、これまで、筆者が入手したGPSデバイスを眺めていると、まだまだ進化しそうな感じである。今回入手したLegend HCxだと、たとえば、駅舎のようなすぐ上が屋根になった建物に入ったぐらいでは、衛星を捕捉したままで、位置測定が続く。ビルの中だとさすがにきついが、外に出るとかなり短時間で位置測定を再開する。これまでのeTrexだと、外出時に持ち歩くと、記録したトラックが細切れになったが、Legend HCxだと、かなり連続したものになる。もう少しサイズが小さくなって、消費電力が下がれば、デジカメなどにも内蔵可能になるだろう。さらに進化が進むと、落とし物をGPSで見つけるといったことも笑い話ではなくなるかもしれない。

□Garminのホームページ(英文)
http://www.garmin.com/garmin/cms/site/us
□製品情報(英文)
https://buy.garmin.com/shop/shop.do?cID=145&pID=8701
□関連記事
【2007年11月1日】【PDA】モバイルでGPSデバイスを使う
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1101/pda67.htm

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(2008年6月24日)

[Reported By 塩田紳二 / Shinji Shioda]


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