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【ARMソリューションセミナーレポート】
車載用マイコンへの普及拡大を狙うARMコア

セミナー開会の挨拶をするアーム代表取締役社長の西嶋貴史氏

6月6日 開催



 大手CPUコアベンダー英国ARMの日本法人アーム株式会社は、6月6日に顧客向けのセミナー「ARMソリューションセミナー2008 in Nagoya」を開催した。

 ご存知の方も少なくないと思うが、英ARMが開発した32bit RISC型のCPUコア「ARMコア」は、世界中の携帯電話機に標準的に採用されているCPUコアである。PCのCPUアーキテクチャがIntelのx86系に統一されているように、携帯電話機のCPUアーキテクチャは現在では、ARMアーキテクチャにほぼ統一されている。

 しかし現在ARMにとって成長率の高い市場は、携帯電話機以外の分野である。携帯電話機市場は今後も拡大するが、ARMコアはすでに普及しているため、急激な拡大は見込めない。ARMコアが普及していない分野の方が、高い成長率を見込めるという理屈である。

 その1つが車載マイコン(Automotive)分野で、ARMコアがまだそれほど普及しておらず、自動車1台当たりのマイコン搭載数が増えている。出荷数量ベースで見たARMコアの市場は、2010年には2006年の31倍に拡大する可能性があると、同社が期待する分野だ(詳しくはARM Form 2007レポートを参照)。

 このためアームは、車載用マイコンへのARMコア採用に力を入れている。名古屋でセミナーを開催したのも、中部地区に自動車メーカーと自動車電装品メーカーが集中していることが大きな理由である。

 セミナーでは最初に、日本法人の代表取締役を務める西嶋貴史氏がARMの現状と車載マイコンへの取り組みを述べた。ARMコアは多種多様であり、演算性能や消費電力などの違いによって20種類を超える。そして200社を超える半導体メーカーがARMコアを採用していること、ライセンスの数は500を超えること、累積出荷数量は100億個を超えること、現在は1秒当たりにARMコア内蔵チップが平均で95個出荷されており、年間出荷数量はおよそ30億個に達することなどを説明した。

ARMコアの製品系列。横軸が年代、縦軸は性能(MIPS値)を示す ARMコアをライセンス導入した半導体メーカー。公表されたライセンスだけを掲載してある

 ARMコアは従来から、処理性能当たりの消費電力が少ないことを特徴としてきた。最近では乗用車が搭載するマイコンの数が多くなり、消費電力の大きさが無視できなくなっている。この点について、組み込み用途を狙っている米Intelのマイクロプロセッサ「Atom」と消費電力を比較したデータを示し、ARMコアの優位性を訴えた。

 車載用マイコンへのARMコアの搭載は、すでに始まっている。車載用マイコンや車載用SOC(Sytem on a Chip)などの車載用半導体にARMコアをライセンス購入した半導体メーカーは、公表されているだけで17社に上る。Freescale Semiconductor、Texas Instruments、STMicroelectronics、NXP Semiconductors、NECエレクトロニクス、東芝、富士通マイクロエレクトロニクス、沖電気工業などである。

「ARM11 MPCore」と「Atom Z500」の処理性能(ウエブページの読み込みに必要な時間)と消費電力を比較した ARMのハイエンドシングルコア「Cortex-A8」と「Centrino Atom」の消費電力および実装面積を比較した ARMコア内蔵車載用マイコンの例。Texas Instrumentsのマイコン「TMS570」がRobert BoschのECU(電子制御ユニット)に採用された

●NECエレ、世代カーナビにARMマルチコアを採用

 今回のセミナーではマイコンベンダーを代表し、NECエレクトロニクスと東芝がそれぞれ、車載用マイコンへの取り組みを説明した。NECエレクトロニクス(以下、NECエレ)は「車載情報システムにおけるマルチコアとARMプロセッサ」と題し、マイクロコンピュータ事業本部自動車システム事業部の吉田正康氏が講演した。

 NECエレは、車載ナビゲーションシステム用SOC「NaviEngine」に「ARM11 MPCore」を採用している。NaviEngineには、動作周波数400MHz、演算性能480MIPSのARM11コアを4個内蔵。NaviEngineとチューナ、DSP、システム制御用マイコン、オーディオ処理LSI、DRAMを組み合わせることで、ナビゲーションシステムを構築できる。

 NaviEngineの演算性能は最大1,920MIPS。NECエレは車載ナビゲーションシステム用マイコンには1,000MIPSを超える演算性能と5W以下の低い消費電力が必須だとしており、マルチコア技術を駆使して所望の性能を達成したと述べた。

 また次世代ナビゲーションシステム用SOCに、マルチコア用の最新ARMコア「Cortex-A9」を利用する予定である。マルチコア版とシングルコア版をARMと共同開発中だ。

 当初開発するマルチコアSOCは500MHz動作のCortex-A9を4個内蔵し、最大演算性能4,000MIPSを実現する。そしてCortex-A9に付属するSIMDプロセッサコア「NEON」を活用することでマルチメディア処理性能を高める。シングルコア版のSOCは、廉価版のナビゲーションシステムに向けたチップになる予定。

●東芝、Cortexシリーズを幅広く採用

 東芝は「車載用マイコンへの取り組み」と題し、セミコンダクター社システムLSI事業部車載システム応用技術部の高野裕之氏が講演した。

 車載用マイコンおよび車載用SoCには、ARMコア「Cortexシリーズ」を中心に採用していく。例えば制御系マイコンには「Cortex-M3」コアと「Cortex-R4F」コアを導入し、情報系マイコンには「Cortex-A9」コアをマルチコアで搭載する。これに東芝の45nmと微細な半導体製造技術、携帯電話機用LSIの低消費電力技術、マルチコアを円滑に動作させるバス/メモリアーキテクチャを組み合わせて大規模マイコンやSoCなどを開発すると説明していた。

 具体的には「Cortex-M3」を内蔵したシングルコアマイコンを電動パワーステアリングと車両安定性制御に向けて開発するほか、「Cortex-M3」のデュアルコアマイコンをハイブリッド車のモーター/発電機制御に向けて開発する。量産開始時期は2012年以降になる。またボディ系の制御用マイコンにも「Cortex-M3」を搭載する計画である。

 車載用マイコンでマルチコアが要求される理由は、1) 単一の機能処理性能を高める、2) 複数機能の統合制御を実現する、3) 機能安全と信頼性を確保する、の3種類に大別される。1)と2)では非対称型マルチプロセッシング(AMP)を基本としながら、部分的に対称型マルチプロセッシング(SMP)の適用を考慮する。マルチコア対応のOSとしては、μITRONをベースにした「TOPPERS/FMP(Flexible Multi-Processing)」の採用を検討している。ちなみに、TOPPERS/FMPは、名古屋大学の高田広章教授が主導している組み込み用オープンソースソフトウエア開発プロジェクト「TOPPERSプロジェクト」で開発したOS(カーネル)である。静的なタスク割り当てを基本としながら、動的なタスク分散機能を備える。

 また3)の機能安全への取り組みでは、国際規格「IEC 61508」の安全度水準(SIL:Safety Integrity Level)「SIL3」の認証をマイコンで取得すべく活動中だと述べた。イタリアのIPコアベンダーYogitech Spaが開発した不良低減用コア「faultRobust」を導入し、デュアルコアで冗長性を確保する手法に比べて、小さなチップ面積と小規模なソフトウエアでSIL3に対応していく。

□アームのホームページ
http://www.jp.arm.com/
□ARMソリューションセミナーのホームページ
http://www.jp.arm.com/event/solution2008.html
□NECエレクトロニクスのNaviEngineに関するホームページ
http://www.necel.com/applications/ja/common/automotive/naviengine/index.html
□TOPPERSプロジェクトのホームページ
http://www.toppers.jp/
□Yogitech Spaのホームページ(英文)
http://www.yogitech.com/
□関連記事
【1月15日】携帯電話の標準CPU「ARMコア」の現状~ARM日本法人の西嶋社長に聞く
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0115/arm.htm
【2007年10月18日】【ARM Forum 2007レポート】2010年をにらんだARMの戦略と新CPUコア
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1018/arm.htm
【2007年10月15日】ARM、マルチコアの高性能/低電力組込みCPU「Cortex-A9」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1015/arm.htm

(2008年6月16日)

[Reported by 福田昭]

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