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組込システム会議「ESC SV 2008」レポート【日本企業】

A&D ProcyonとEPSON S1D13521

【写真01】システムそのものは、外部からのトリガにあわせてサンプリングを開始し、同時に外部にトリガを出力するというもの。このレイテンシが900ns未満(!)というのが大きな特徴

会期:4月14日~18日(米国時間)

会場:米国サンノゼ McEnery Convention Center



 AMDブースに出展していたパートナー企業に、非常に面白いものがあったので、こちらを紹介しておきたい。こちらは純然たる日本企業であるが、話はちょっと複雑である。またほかにもいくつか、日本企業の動向をご紹介しておく。

●A&D Procyon

 東京に本社を置く株式会社エー・アンド・デイは、さまざまな計測機器の開発/発売を行なっている会社である。もっとも計測といっても、最近求められるものは、例えば自動車の開発に伴い、多数のセンサーからの出力をまとめて蓄積し、必要ならばそれをリアルタイムに変換/分析を行なうという類のものが少なくないようで、こうした目的に向けた、より高性能な計測(というより、データ収集/分析)システムが必要になってきている。

 この部分は、前回の記事でちょろっと出てきたNATIONAL INSTRUMENTS(NI)のビジネスに近いものがある。強いて違いを挙げれば、NIにとってのコアは同社のLabViewというソフトウェアであり、ハードウェアはむしろLabViewの付属品といったポジションになるが、エー・アンド・デイの場合はむしろハードウェアが主になるというあたりであろうか。

 そのエー・アンド・デイが今回AMDのパートナーブースで展示を行なったのがProcyonである(写真01)。一言で言うと超高速なサンプリングシステムであるが、これをOpteronベースのシステムで実現したという点が特徴的である。

 システムそのものはAD7003というSBC(Single Board Computer)とLEDAというバックプレーン、Polluxという評価ボードから構成される(写真02)。この構成は、最大で8P Opteronと2本のI/Oを接続できる構成となる(写真03)。各々のAD7003は1個のCPUにBroadcomのHT-2100/HT-1000を搭載し、そこに必要な周辺デバイスを集積した構造(写真04)。ボード上を見るとCompact Flashのソケットがちょっと目立つ(写真05)。

【写真02】Polluxは評価ボード(Evaluation Board)となっているが、実際にはAD7003で直接扱えないようなI/Oはこちらで扱うことになるから、I/Oボードと考えたほうが正しいと思われる 【写真03】各AD7003枚に2対のHTLinkがバックプレーン側に出ているから、丁度ディジーチェーンのように繋がっていると考えるべきなのだろう。この構成だと、複数のCPU間で同期を煩雑に取るようなアプリケーションではHTLinkの速度がボトルネックになる(特にCrossFireを使ってMemory Coherencyを取るようなケースでは、レイテンシが片方向当たり最大7hopに達する)可能性があるが、そうした用途でなければ柔軟にプロセッサを増やせる事にもなり、良い選択肢なのかもしれない
【写真04】HT-1000/2100は元々ServerWorksの製品。ただServerWorksがBroadcomの傘下に入ってしまっているので、現在はBroadcomということに。HT-2100はPCI Expressを合計24レーン出せるHT Tunnel、HT-1000はPCI-XやSATAを搭載するシステムI/Oとなる 【写真05】ボードの大きさは、VMEとかCompactPCIなどで使われる、いわゆるVME-B(233.35x160mm)。ただしバックプレーンは独自だから互換性はない(CompactPCIに関しては基本的には互換性がありそうだが、そのあたりは確認し忘れた)

 一方のPOLLUX(写真06)の方はというと、これはもう見事なほどにシンプル。ALTERAのStratixⅡとブート用のメモリ、電源が目立つ程度でしかない。

 これを繋ぐバックプレーンはボード3枚分のみを繋ぐLEDA(写真07)のみが展示されたが、内部はHyperTransportとPCI Express、CompactPCIがまとめて出る構造になっている(写真08)。

 最大構成の例を示したのがこちら(写真09)。一番右のAD7003が全体の制御を行ない、あとは全てI/Oモジュールとかアクセラレータとして機能する構造だ。正直言って、これをHPC(High Performance Computing)などに応用するのはちょっと難しそうに思うが、逆に制御系などには応用が広そうだ。

【写真06】ALTERAのStratixシリーズの場合、同社から必要なコアが提供されるので、何もしなくてもHyperTransport Linkに直結できるから、あとは必要なI/O関連の処理をFPGAの残り部分にインプリメントすれば完了である。もっとも別にALTERAでなくてもXILINXでも可なので、ALTERAを選んだのは単にボードデザイン担当者の趣味ではないかと思う 【写真07】左半分は通常のCompactPCIで、右側がHyperTransportとPCI Express。ブロック図を見ると、CompactPCI側にもSATAポートが2本出ており、このあたりはCompactPCIの空きコネクタをうまく使っているのか、並び替えをしてしまったのかどうかは不明
【写真08】PCI Expressは写真04を見るとx1レーンが7本出ており、これだけで全ピンを使ってしまっていそうだ 【写真09】こうした使い方をするなら、HTLinkがディジーチェーンであってもそれほど問題は少ないだろう。ただ前提として、全てのOpteron搭載ノードがNUMAで起動することが必須にも思えるが

 ところでこのProcyon、なぜESECとかETなど日本のイベントではなく、わざわざESCに出展したのか? 説明にたって居られた古川哲氏(設計開発本部 第3部 課長代理)に伺うと、そもそも開発そのものはミシガンにある同社子会社のA&D Technologyで行なわれたとの事。国内で開発しているとペースが遅すぎるため、古川氏自らA&D Technologyに出向、こちらで開発者を集めて行なったとの事だ。

 Procyonに携わった開発者は合計6名で、超少数精鋭による開発だった模様。同氏曰く、やはり国内の拠点だとメーカーに質問を(日本の子会社経由で)投げても、返事が戻ってくるのに異様に時間が掛かるため、開発期間が延びてしまうとか、質問の答えが正しく返ってこないといった事が頻発した。そこで開発はアメリカに移し、(日本の子会社を通さずに)直接メーカーと交渉する事で開発スピードを早められたらしい。

 またAMDを選んだ事については、当然ながら技術的なアドバンテージがあった事がまず挙がった。HTLink経由でマルチプロセッサを容易に構成でき、性能も高いことが決めてであったとか。特にHTLinkを経由することで、低レイテンシでCache Coherencyなアクセスを行なえる(Intelの場合、FPGAアクセラレータを使えば同じことが可能だが、こちらだと拡張性が限られる。またGeneseoはまだ登場していないし、Cache Coherencyでは無くなる上、Latencyも大きい。QPIが出てくればまた話は変わるかも知れないが、それはずっと先の話)事を挙げていたが、逆に言えば現状ではAMD以外の選択肢がないというのが実情かもしれない。

 ちなみに以前のプロジェクトでは別のメーカーのプラットフォームで開発を行なっていたが、あまりにサポートが遅すぎた事も、AMDを採用し、アメリカで開発する直接的な動機だった模様。これに加えて、日本AMDの担当者が積極的に同社をサポートした事も決め手になったようだ。

 もっとも、開発は一筋縄ではいかなかったようだ。HyperTransportの場合、拡張カードを装着できるHTXという規格が既に策定されているが、これはマザーボードにHyperTransport対応アクセラレータなどを1枚装着するといった構図しか想定していないもので、今回の用途には全く不適当。そこでバックプレーンに関してはA&Dが独自で設計を行なったが、いくらDiferrential/Point to Pointとはいえ、1GHzの信号を等長で配線するのは至難の業だった模様。

 ボード、バックプレーン共に層間配線(VIAを経由して、複数層に跨って配線を行なう)は厳禁であり、結局自動配線ツールなどは一切利用できず、手配線で行なったとか。バックプレーンは14層、AD7003などは16層になったそうであるが、このあたりを解決するにはHyperTransport Consortiumにも随分協力してもらったそうだ。

 ちなみに開発はミネソタであるが、驚いた事に生産は埼玉にある開発/技術センターで行なっているとか。というのも、例えばAD7003の場合BroadcomのチップセットやPLXのPCI Express Switch、IntelのGbEコントローラなどが搭載されているが、こうした部品を日本で調達するのは非常に難しいのが現状だからだ。

 エー・アンド・ディーは、こういっては失礼だが、分類としては大企業というよりも中小企業(の上の方)の括りに入る。2007年度の数字では社員600名、売上高は347億円で、東証一部上場は2006年。このクラスの会社の場合、チップメーカーはもとより、代理店でもしばしば相手にしてくれない事がある。もちろんDigiKeyのような会社もあるが、DigiKeyで全て片付くわけではないため、やはりメーカーなり代理店なりの協力は欠かせない。これに関しても、やはり日本AMDの担当者の尽力があって解決したそうで、このあたりに世界で通用する製品を日本で開発/生産することの問題が集約されているように思う。

 そのようにして何とか開発が終了したProcyonシステムだが、古川氏の悩みはどうやってこれを拡販してゆくか。せっかく少数ながら精鋭チームが出来上がっただけに、このチームが分散してしまうのは大変に惜しい。なので、すぐにでも新しいプロジェクトを立ち上げて彼らと共に開発を続けていきたいものの、そのためにはまずProcyonの開発費を回収して、次なるシステムの開発費のめどを立てる事が必要。

 最初のターゲットは自動車メーカー向けの測定装置などであるが(ミネソタという土地柄がこれを象徴していると思う)、それだけでは開発費回収に十分ではない。しかも製品自体が非常に高度な技術なので、これを使いこなせるユーザーはやはり限られてくる。

 ここで冒頭の問いの答えに戻る。なんだかんだといってアメリカ、特にシリコンバレーでは高度な技術を持ったユーザーが多い。例えば今回、スタンフォード大のある研究室が、メモリシステムの開発にこのシステムを使いたいと言ってきたという。こうした高度な技術を持ったユーザーを探すには、やはりシリコンバレーの方が適切というのがESC出展の理由だそうだ。

 今回のシステム、第一ターゲットは測定装置だが、Polluxの方は見ての通り十分スペースもあり、FPGAも搭載されているからユーザーロジックやユーザーサーキットは好きに搭載できる。なので、Procyonをベースに独自のシステムを作ることは、(技術力さえあれば)難しいことではない。逆にこうした使い方を積極的にしてもらうために、同社はProcyonのハードウェア仕様を公開している。仕様を公開してしまうと模造品が出てくるのではと思うが、古川氏によれば「この信号のルーティングは一朝一夕にできるものではない」(つまり、それだけ苦労したということだろう)そうで、むしろ積極的に仕様を公開して、拡販を図りたいようだ。ESECではなくESCを選ぶ明確な理由と意思が伺われる話であった。

●EPSON S1D13521

 セイコーエプソン株式会社、といってもESCにおける出展者はEPSON ELECTRONICS AMERICAだったが、ここが出展されていたのがE-Inkの電子ペーパー(写真10)向けの新しいコントローラであるS1D13521である。地味といえば地味であるが、米国におけるKindleの普及&人気もあってか、常時誰かが説明を聞いている状態だった。同じ内容の展示は、ESCとほぼ同時に開催されていたDisplay 2008でも行なわれていたそうなので、こちらでご覧になった読者もおられよう。

 会場ではE-InkのAM300評価キット(写真11~13)に実装される形で動作デモが行なわれた。S1D13521の特徴は

・従来製品の倍の速度で描画可能
・全画面書き換えだけでなく、部分書き換えも可能(これは動画でも良く分かる)
・32階調のグラデーションが表現可能
・温度センサーと連動しての表示制御が可能

といったところ。ただ、説明員によれば「それでもまだ十分早いとは言えない」との事。実際タブレット動作をさせると、やはりちょっと遅れが目立つのは事実。とはいえ現在のKindleよりも高速であるし、グラデーションも綺麗であった。これらを組み合わせて、例えばトップメニューでサムネイルを画面右上に表示させながらアプリケーションの選択を可能にさせる、といった応用例も示されており、なかなか期待が持てる。E-Inkによればサンプル価格は18ドル、セイコーエプソンでは1,800円となっており、8月から量産に入るという話であった。

【写真10】800x600のE-Ink VIZPLEX。電源を切っても表示がそのまま残る、という特徴を分かりやすく示したデモ。もっとも、このVIZPLEXそのものは従来と同じらしい。これは800x600ドット/166dpiのもの。動画はこちら 【写真11】評価キットのAM300。6月からオンラインで入手可能になるとか。右下は電池パックで、その上の基盤が制御部
【写真12】制御部のアップ。3ピース構造で、手前の細長いものは操作スイッチなどを搭載したインターフェイス接続部、左上はUSBコネクタやMMCカードスロットなどを搭載した外部接続部、右上がS1D13521の搭載された表示制御部 【写真13】表示制御部のアップ。右の大きなものはMicronのMobile SDRAMで、中央のやや小ぶりのものがS1D13521となる

●なぜかNipron

【写真14】Nipronのスタッフ。この4名のみでいきなりアメリカに乗り込んできたとか

 このA&DやEPSON ELECTRONICS AMERICA以外にも何社か日本系企業(Renesas Technologyはまた別格なのでここでは置いておく。Renesasは次の記事でもう少し紹介したい)が出展していたが、目立ったのはこの2社程度であった。やはり、ESCまではるばる来て出展するには、相応の覚悟がいるということであろう。そうした中で、なぜかNipronが出展していたのはちょっと驚きであった(写真14)。Nipronは、筆者なんかには旧社名の「日本プロテクター」の方がしっくり来るのだが、ご存知国産のハイエンド電源メーカーである。ただし日本ならばともかくESCで見かけるのはちょっと不思議であった。

 同社西部営業部 営業戦略室の池田まさみ氏に話を伺ったところ、なんとNipronとしてはこれがアメリカ初上陸との事。とりあえずコンシューマ向けや組み込み機器向けに販路を広げる第一歩ということでいろいろと情報収集に余念が無いようだった。反響はというと、やはり高効率電源には関心が高いようで、PFCで力率100%近くというのはもはや最低水準。出力がどの位の時にどの程度の効率かという特性を根掘り葉掘り聞いてゆくという感じだそうで、このあたりグリーン化が旗印に掲げられている昨今の情勢が見事に反映されている感じだ。

 「eコマースは英語対応になっているので、受注したら日本から発送する形になります」というレベルでは、商売としては成立しにくい感じであるが、製品の質はPC Power&Coolingあたりといい勝負なだけに、ぜひ頑張っていただきたいとは思う。

□ESC SV 2008のホームページ(英文)
http://www.cmp-egevents.com/web/esv/home
□関連記事
【4月21日】【ESC】どっこい生きてたmP6
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0421/esc04.htm

(2008年4月22日)

[Reported by 大原雄介]

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