PCで使われているディスプレイ出力は、今のところDVIが主流となっている。最近は、サポートする家電製品が増えてきたことから、HDMIが次世代の標準として有力視されているが、DisplayPortの動向も見逃すことはできず、その将来は見えにくい。 ●TVにPCがつながる今、この原稿を書いているノートPCに装備された端子群のうち、もっとも大きなスペースを占有しているのはVGAのアナログRGB端子だ。巷で使われているプロジェクタやディスプレイは、まだ、アナログRGBの入力しか受け付けないものが少なくないので、現時点ではこれはこれで仕方がない仕様だといえる。本体の小型化のために、小さなコネクタを使ったとしたら、結局、変換コネクタか変換ケーブルが必要になり、いざ使いたいと思ったときに、それを持ってきていないというオチが見えそうだ。 ここ数年、家電のTVが液晶やプラズマを使った薄型になったのを機に、HDMI端子を持つ製品が増えてきている。また、解像度も地デジのハイビジョンを表示するために、1,920×1,080ドットを確保、PCのディスプレイとして十分な能力を持つようになった。XGA解像度(1,024×768)に比べれば雲泥の差で、まさに広大なデスクトップをもう1つ作れる。 DisplayPortは、仕様の上ではHDMIよりも、圧倒的に優れた規格で、次世代のPC標準として期待されているが、ここまでHDMIが普及してしまった以上、今後、標準の座を奪うことができるかどうかは怪しい。 消費者にとってうれしいのは、手近なTVにPCがつながることである。かつてのTVはそれができなかった。PCにはPC専用の高解像度ディスプレイが必要で、それはTVとは別のものだった。ところが、HDMIは、音声を含むPCの映像出力を受け止め、目の前のTVに映し出してくれる。今は、ホテルの部屋のTVも、会議室のプロジェクターや大画面モニタが、ブラウン管から新しい世代のものに置き換わっていく時期にある。それらがHDMIとDisplayPortの両方の入力ができるようになっていればいいが、今からそれはちょっと考えにくそうだ。 HDMIは、そのフレームレートの点で、ゲーマーなどにとっては、使いにくいとされている。その点ではDisplayPortは有利だ。こうしたことを考えると、PC用のビデオカードやディスプレイは両方の端子を持ち、家電はこのままHDMIだけを使い続けるんじゃないかと考えている。コンパクトさが求められるノートPCは両方を装備するのは難しいため、どちらか1つということであれば、HDMIのみとなるんじゃないだろうか。より多くのディスプレイにつながることを考えれば、それはそれで正しい。 ●ネットワークがあるのにつながらないそもそも、持参したPCを出先で外部のディスプレイにつなぎたいのは、解像度の点でも、サイズの点でも大きな画面に表示させたいからだ。メール程度であれば、XGA解像度で十分だが、ちょっと大きな表を編集したり、じっくりとPDFに目を通したり、あるいは、持参した動画ファイルを楽しみたい、旅行先で昼間撮ったデジカメ写真をみんなで鑑賞したいといったときには、大きな画面がほしくなる。大きな画面は何もプレゼンテーションだけのためのものではないのだ。かつてのTVではそれが難しかったが、今は、HDMIのおかげでそれができるようになった。 以前も書いたように、Vistaには、ネットワークプロジェクタ機能が実装されている。ネットワークを介し、RDP(リモート・デスクトップ・プロトコル)を使ってディスプレイ出力を実現する機能だが、用途によっては、それも便利に使える。ただ、一般的なTVが、ネットワークプロジェクタのためのプロトコルを実装することは考えにくい。せっかくネットワーク端子が装備され、同じLANの中に置かれていても、願いはかないそうにない。たとえば、PCがセカンダリディスプレイに出力する画像をストリーム配信し、それをTVが再生するようなことは考えられそうだが、クリックしたりドラッグしたりといったインタラクティブな操作をどうPC側に戻すかという課題が残る。 一方、メディアファイルを再生するだけでよいというならDLNAを使ったソリューションも現実的だ。ただ、宿泊中のホテルの部屋に設置されたTVが必ずネットワークにつながっていて、持ち込んだPCを同じLANの中に置ける保証があるかどうかというと、それも難しそうだ。それに、現時点ではDLNAサーバー機能を標準装備するPCもそれほど多くはない。Windowsのメディア共有を使ってもいいのだが、今度は逆に、それに対応したTVがない。 結局は、何らかのケーブルでPCとTVを接続するというのが、もっとも現実的な解なのだ。技術的には明日からでもできそうなことが、さまざまな思惑や事情によってできなくなってしまっている。実にもどかしい。 ●TVにPCがつながれば新しいデバイスが生まれる今後、何かを表示するためのディスプレイデバイスが、必ず、HDMIやDisplayPortなどの端子を持つことが当たり前になっていけば、ディスプレイを持たないモバイルPCというのもありかもしれない。ディスプレイなしというのは考えにくいかもしれないが、あってもかなり小さいもので、操作のためのポインティングデバイスと文字を入力するためにコンパクトなキーボードを備えたボディを持っているといった形状はどうだろうか。 MIDが、そのような分野を想定しているかどうかはわからないが、あってもよさそうだ。セキュリティへを考慮し、公衆の面前でのPCの使用を禁止し、閉じた空間でしか使わないユーザーが増えてくれば、それもありだろう。リモートデスクトップ端末としてシンクライアント的な使い方しかしないのであれば、プロセッサの処理能力はそれほど高くなくてもいい。普通のTVをディスプレイとして使えるだけで、そんなカテゴリも考えられるわけだ。もし、各社のMIDが勢揃いした時点で、HDMIなどのディスプレイ出力を持たない製品ばかりだったらちょっと寂しい。 HDMIコントロールを使ってPCとTVを連携させるソリューションを各社が提案しているが、実際の製品を見てみると、PCにつながったTVが、PCディスプレイのミラーとなることしか想定していないものが多い。そこには、TVの画面をPCディスプレイのセカンダリとする発想が欠如しているのだ。 ちなみに、Windows Media Centerは、マルチディスプレイ環境でも使えるが、どれかのディスプレイでフルスクリーン化すると、その外にポインタを出せなくなってしまう。PCに複数台のディスプレイがつながることを、ほとんど考えていないのだ。もしそれができたら、メインディスプレイでコンテンツを選び、セカンダリディスプレイでそれを表示するといったことができて、PCを豪華で使いやすいインタラクティブリモコンとして使える。MIDは、そういう用途にも便利そうだが、今の状況では、それもかないそうにない。
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(2008年4月11日)
[Reported by 山田祥平]
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