最近、アップルとASUSTeKの両社から、コンパクトなルーターが発売された。スペックを見る限り、どちらもかなり魅力的な製品だ。両製品とも評価機をお借りできたので、今回は、その使い心地を紹介することにしよう。 ●出張先のインターネット接続環境 スーツケースの中には、色々な旅行グッズが入れっぱなしになっている。仕事、プライベートをあわせると、1年に5回程度、約30日間を海外で過ごすが、そのたびに荷物をパッキングしなおすのは面倒だし、詰め忘れのリスクもある。だから、常備薬や電気湯沸かし器などは入れっぱなしだし、PC関連では、海外コンセントアダプタ、テーブルタップ、LANケーブル、長尺の電話ケーブル、マウスパッド、マウスなどが入っている。そして、無線LANルーターもまた、海外旅行の必需品だ。 滞在先のホテルに到着し、部屋に入ったら最初にやるのは、部屋のLANにルーターを接続し、そこにつないだPCからインターネットに接続できるかどうかを確認することだ。それができなければ部屋を変えてもらう。多くの場合、5泊することになるが、滞在期間中、快適にインターネットを使えるかどうかは重要なポイントだ。 どうして旅先でルーターが必要かというと、必ず2台のPCを持って行くからだ。ホテルのLANが有料の場合、部屋に装備されたイーサネットケーブルをPCに接続すると、DHCPでIPアドレスやDNSサーバーなどが割り当てられるが、この状態で、ブラウザを開くと、スタートページがどこに設定されていても、必ず、認証のためのページが開くようになっている。そこで、クレジットカード番号を入力してサブミットすると、外に出て行けるようになる仕組みだ。 だったらハブでいいじゃないかということになりそうだが、そうもいかない。たとえば、MACアドレスがチェックされている場合は、別のPCを接続した際に、もう一度認証が必要となり、2倍の料金を支払わなければならないこともあるかもしれない。あるいは、接続そのものができないこともあるかもしれない。でも、ルーターがあれば、向こうからは一台の機器に見えるので、その心配はいらない。 ほとんどの場合、持って行った2台のPCのうち、1台は部屋に置きっぱなしで、もう1台を取材などに持ち出すことになる。部屋に戻ってきて、出先でとったメモなどを部屋のPCでも見えるようにするなどVPN経由で同期させたほうが手っ取り早い。そのためにも、ルーターがあって、全PCがインターネットに接続できたほうが何かと便利なのだ。 ●多彩な機能が目新しいデジタルライフスタイルルーター「AirMac」 まず、アップルの「AirMac Express」は、以前の製品のリニューアル版で、強化点はIEEE 802.11nに対応したことだ。94×75×28.5mm、215gの筐体は、ずんぐりむっくりした電源アダプタのようなイメージで、電源コンセントプラグが直についている。インターフェイスとしては、LAN端子、USB端子、アナログ/光デジタル両用ミニジャックが並ぶ。 この製品でできることとしては、 ・DSLモデム等を介し、PPPoEなどでインターネットに接続し、それをワイヤレスで使う、いわゆるブロードバンドルーター機能 といったことがある。 難点があるとすれば、設定に、必ずAirMacユーティリティと呼ばれる専用ソフトが必要なところだろうか。工場出荷時には「Apple Network XXX」というSSIDを持ったセキュリティ設定なしのネットワークが用意され、DHCPクライアントとしてWAN側からIPアドレスを取得する状態になり、マニュアルに記載されたパスワードが設定された状態になっている。同じLAN内にあるPCからは、Bonjourを使って探し出すことができるが、ホテルの一室にいるような場合は、いったん無線で接続してから、AirMacユーティリティを使って設定しなければならない。 設定は、Macの世界で「アシスタント」と呼ばれる対話型のインターフェイスで行なうようになっている。Windowsでいうところのウィザードだ。ただ、ぼくには、ここで使われている用語が難しすぎてダメだった。 最初に、 ・ワイヤレスネットワークがあり、AirMac Expressを追加するかネットワーク上の既存の装置と置き換える と尋ねてくる。既存のワイヤレスネットワークを検出した場合だ。今時、どんな場所にいてもワイヤレスネットワークのひとつやふたつは見つかるだろうから、必ず聞かれるといっていいだろう。ぼくはもう、ここでつまづいてしまった。ホテルで使うブロードバンドルーター設定としての正解は、「ワイヤレスネットワークはなく作成したい」だ。 設定時には手元のLANに接続するのだから、3番目からチャレンジしたのだが、こちらはワイヤレスがオフになり、無線LAN機能は使えない。 また、1番目を選ぶと、 ・既存のベースステーションまたはワイヤレスルーターをAirMac Expressに置き換える を選ばなければならない。結論からいうと、ここで3番目を選ぶと、最初に「ワイヤレスネットワークはなく、作成したい」を選んだのとほぼ同じ結果が得られる。 この製品の世界では、ネットワークというのは作成するか、拡張するものであり、作成はNAT付きルーティング、拡張はブリッジであるということがわかればなんということもないのだが、用語で混乱してしまう。しかも、そのまま設定を進めると、WAN側から設定ができてしまうがどうするかとか、WAN側がプライベートIPアドレスだから二重にNATを使うことになるから、ブリッジにしたらどうかといったことをたずねてくる。こうしたことを尋ねられないようにするには、最初に「ワイヤレスネットワークはなく、作成したい」を選べばいいのだ。この設定で、ワイヤレス接続した端末には、10.0.1.2から始まるIPアドレスがDHCPで割り当てられ、WAN側のネットワークへとルーティングされるようになる。 アップル製品だから、アッという間に設定ができるのかと思ったが、そうは問屋はおろさないといった印象を持った。個人的には「手動設定」ボタンをクリックして、全部、手動で設定する方がずっと簡単に感じた。 この製品の魅力は本当の意味でのオールインワンで、電源アダプタさえ持つ必要がないということだろうか。11nへの対応は、少しでも高速なネットワークが欲しい自宅では有効だが、旅先ではあまり意味がないかもしれない。AirTunesやプリンタ共有も自宅ならではの機能だと思う。ただ、最近のホテルは部屋のテレビがブラウン管から薄型パネルのものに置き換わる時期にきているようで、AV端子装備のテレビが設置されていることも少なくない。貧弱なスピーカーしかないノートPCで音楽を楽しみたいならAirTunesは便利かもしれないが、それだったら最初からiPodをテレビにつなげばいいのかなとも思う。やはり自宅のAVアンプに光接続して、PCのiTunesの再生音をストリーミングするのがよさそうだ。 ●コンパクトさが魅力で汎用性の高さがうれしい「WL-330gE」 一方、ASUSTeKから出荷が開始された「WL-330gE」は、世界最小の無線アクセスポイントを謳う製品で、従来製品のWL-330gをバージョンアップしたものだ。86×62×17 mmの筐体はわずか62gときわめて軽量だ。なお、対応規格はIEEE 802.11bとgのみだ。 設定は、ブラウザを使って行なう。取扱説明書には、WAN側端子とPCをLANケーブルで直結して設定し、192.168.1.200を開くように記載されていたが、これではうまくいかなかった。工場出荷状態では、defaultというSSIDでパスワードなしで接続できるようで、そこからつないで設定画面を開くことが出来た。 この製品は、4つのモードを持つ。 ・Gateway が設定画面でタブ設定され、任意のモードに切り替えることができる。 これまたGatewayとAPの違いがわかりにくいのだが、Gatewayがブロードバンドルーターで、APがブリッジだ。Adapterは無線LANクライアントとしての利用、Repeaterは既存の無線LANの拡張だ。デフォルト設定はGatewayとなっていて、各種セキュリティ設定をすませ、すぐに使い始めることができた。デフォルトのDHCP割り当てアドレスが、192.168.1.2以降となっているが、このアドレスは、ホテル内のLANが割り当ててコンフリクトを起こす可能性が高いので、別のプライベートアドレスに変更しておいた方がよさそうだ。本体のIPアドレスを変更すると、DHCP割り当てアドレスも変更してくれるなど、気が利いている。ただし、設定画面はすべて英語だ。 やはり魅力は、そのコンパクトさだろう。しかも軽い。電源アダプタが添付されているが、USB端子からの給電も可能というのがうれしい。製品添付のアダプタも十分にコンパクトだが、もっと小さな市販アダプタを使えるし、それがなくてもPCのUSB端子から給電することができる。ケーブルは、PSPなどで使われているごくポピュラーなものだ。手持ちのアダプタとケーブルの重量があわせて50gちょとなので、本体62gとあわせて計120g弱で無線LANルーターワンセットとなる。ちなみに添付の電源アダプタは72gあったので、ちょっとだけ重い。それでも、これと比べてしまうと215gのAirMac Expressがズッシリ感じてしまう。 設定したIPアドレスさえ覚えておけば、ブラウザだけで設定できることを考えると汎用性は高い。ルーターは一度設定してしまえば、めったに変更するものではないので、あまり気にする必要はないかもしれないが、ホテル内LANアドレスとのコンフリクトなどで、設定変更が必要になることもあるので、やはり、いつでもどこでもできるようになっているのは安心だ。特に、自宅では、困ったときに別のPCでインターネットに接続して、トラブルシューティングができるが、旅先ではそうはいかない。だから、何があっても大丈夫なようにしておく必要があるのだ。 さらに、旅先で使うルーターとしては、対応電源電圧は重要な要素だ。日本国内とアメリカだけなら100Vでいいが、アジア、ヨーロッパにでかけるとなると、240V対応が必要だ。今回の2製品は、両方とも100~240V AC対応なので安心だ。また、WL-330gE添付の電源アダプタの出力は5V1Aが定格だったが、500mA上限のはずのPCからのUSB給電でもうまく作動するようだ。 AC電源の確保できないところでルーターが必要になるシーンを、あまり想像できないのだが、これなら、バッテリ駆動も十分に視野に入るかもしれない。サンヨーのUSB出力付充電器などとあわせて使ってもいいかもしれない。 □アップルのホームページ
(2008年3月28日)
[Reported by 山田祥平]
【PC Watchホームページ】
|