3月中旬から、Windows Vista Service Pack 1のWindows Upadateによる配布が始まる。新機能こそないが、不具合の修正や、パフォーマンスの向上など、さまざまなメリットをもたらすSP1は、Vistaユーザー待望のものだといえる。今回はその背景について、マイクロソフト株式会社Windows本部プロダクトマネジメント部長、中川哲氏に話をきいてみた。 ●安心、キレイ、快適 最初から、この仕上がりだったら、Vistaは、もっと歓迎されたんじゃないか。すでに一部のユーザーに配布されているSP1を、数台のVista PCに適用してみてそう思った。574個の修正を含むというService Pack 1だが、そのうち、セキュリティ関連の修正は19個しかないそうだ。それだけVistaが最初からセキュリティに注力してリリースされたということらしい。修正点リストはここ(日本語版は現在制作中)。 すでに他の記事でもレポートされているように、導入には1時間以上を覚悟する必要がある。何度かのリブートを繰り返して完了したときには、今までのVistaは、いったい何だったんだろうと思うくらいに、体感でもはっきりわかるほどパフォーマンスが向上し、悩ましい不具合も目立たなくなり、理不尽な思いをするシーンが激減している。 中川氏によれば、SP1のポイントは、以下の3つに集約されるという。
574個の修正によりシステムの安定度が増す。 ★よりキレイ 240個近いグラフィックスやGUIの修正により、パフォーマンスが向上し、それがGUIの見やすさに直結する。DirectXとDirect3Dのバージョンアップも必見。 ★より快適 パフォーマンスが向上して快適に使える。鬼門だったネットワークコピーにも自信があり、また、冷却ファンやディスクの回転などを素早く制御できるようになったことで、ノートPCのバッテリのロングライフにも貢献する。 使ってみてすぐにわかるのは、ネットワークのパフォーマンスが向上している点だ。IEにしても、ネットワーク共有フォルダからのファイルコピーにしても、ずいぶん速くなっている。IEは同時セッション数が増えたわけではなく、スクリプト周りの処理に手が入ったそうだ。動画の再生などが行なわれる大きなページなどを含め、どんなページでも効果があるという。 ネットワークのパフォーマンスを向上させるには、ネットワーク制御にリソースを割り振る必要があり、そこは、チューニングがものをいう世界だ。PCのリソースは限られているから、ネットワークにリソースを裂けば、他のリソースが奪われる。だから、もしかしたら、どこか他の部分が遅くなっているかもしれない。でも、それにユーザーが気づくことはないだろうというのがマイクロソフトの言い分だ。 「われわれはF1を戦っているつもりはありません。ユーザーの快適さを追求しているのです。メモリのアロケーションの最適化などで、ネットワークにリソースを回したことで、Excelなどのデスクトップアプリケーションが、遅くなったと感じるようなことは、まずないはずです」(中川氏)。 ●足し算しても合計が合わない サービスパックというのは、これまでのバッチの累積でもある。だが、現時点でWindows Updateでひっかかるパッチをすべて適用しても、SP1導入後の快適さは得られない。本当は、これは、ちょっとおかしいと思う。足し算しても合計が合わないのと同じことではないか。段階的に配布してきたパッチの集大成なのだとすれば、すべてのパッチをあてた状態は、SP1導入後とイコールであってほしいと思う。実際、マイクロソフトも「SP1を待たなくても、Vistaは常に最新の状態にアップデートされている」とアピールしてきたはずだ。 評価のために、手元のメーカー製Windows Vistaノートをリカバリして工場出荷状態に戻し、SP1を導入してみた。最初、ネットワークにつないだ状態でWindowsを初期設定し、デスクトップが使えるようになった時点でSP1のEXEファイルを実行したところ、導入は始まったものの、Windowsそのものが、新しい更新プログラムを自動的にインストールしようとする。これらの更新はSP1を入れるのだから必要ないはずだ。案の定、SP1導入後、インストール失敗として大量の履歴が残っていた。これではちょっと気分が悪いので、今度は、ネットワークケーブルをつながずにリカバリして導入した。 マイクロソフトによれば「まっさらの状態に導入するのも、Windows Updateですべての更新が導入された状態で導入するのも同じ結果になる」(中川氏)という。また、今回のSP1は、極力、パッチ間の依存関係がないように作られているそうだ。「以前のSPは、そのときのWindowsの状態がどうであろうと、必要なものを順に導入していくように作られていたが、今回のSPでは、累積モジュールの順番を変えたり、途中を省いたりしても大丈夫なように作られている」(中川氏)とのことだ。現時点では、ユーザーメリットはないが、将来的には、アプリケーションの互換性を阻む特定のモジュールをアンインストールしたりするようなことができるユーティリティが公開されたりする可能性もあるようだ。 ●Windows Vista Start here 一方、SP1を導入したからといって、不具合がゼロになるわけではない。実際、ずっと悩まされてきたオフラインフォルダ関連では、まだ気になる点がある。 オフラインフォルダは、Vista Business以上のエディションに搭載された機能で、ネットワーク共有フォルダを、ネットワークから切れた状態でも利用できるようにする機能だ。共有フォルダ内のフォルダやファイルを右クリックして表示されるショートカットメニューで、「常にオフラインで利用する」をチェックしておくと、そのフォルダやファイルがオフラインファイルとしてキャッシュされ、ネットワーク切断状態でも利用できるようになる。そして、ネットワーク接続が復帰したところで同期され、変更や新規ファイルの追加などが反映される。常に、データを同じに保つことができ、モバイルPCのユーザーには、とても便利な機能だ。 それに、オフラインフォルダに指定しておくことで、検索のインデックス作成対象となる点も便利だ。通常は、ネットワーク共有フォルダについては、インデックスが作成されないのだ。 だが、その仕様がからんでいるのか、おかしな振る舞いをする。ローカルのHDDから、オフラインフォルダにファイルをドロップした場合、コピーではなく移動になってしまうのだ。これは、オフライン時もオンライン時も同じだ。オフラインフォルダを設定していない、通常のネットワーク共有フォルダではコピーになるし、オフラインフォルダでも、そこに作成されたサブフォルダではコピーになるので、明らかに振る舞いとしておかしい。つまり、エクスプローラは、オフライン設定された共有フォルダをローカルフォルダだと思い込んでいる。だから、インデックスも作成されるのかもしれない。 そんな枝葉末節に近いことが気になるくらいにSP1はいい。今までVistaを敬遠してきたユーザーも、これなら使ってもいいと思うようになるだろう。この春は、多くのパワーユーザーが、重い腰を上げてVistaに移行するに違いない。 マイクロソフトとしては「引っ越しや新しい環境への移行で、インターネットに助けられることが多いこの春は、Vista with SP1で快適にPCを使ってほしい」(中川氏)と、声高にアピールする。まさに、Vista Next、Vistaの再発進である。 ただ、メーカー製のVistaプレインストールPCにSP1が導入された状態で出荷されるのは、おそらく夏モデルからになるだろう。自作PCユーザーなら今すぐ、そして、メーカー製PCの買い換えを考えているなら、SP1搭載の夏モデルを選ぶのが賢明だ。新入学、就職のタイミングには間に合いそうにないが、各メーカーにも、2008年の夏モデルは、なんとかゴールデンウィーク前の出荷をお願いしたいところだ。 □関連記事
(2008年3月7日)
[Reported by 山田祥平]
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