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Wiiに逆転されたXbox 360の巻き返し戦略




●Xbox 360の盛り返し策が焦点となったMicrosoft

 MicrosoftがXbox 360を、どんな策で盛り返すのか。先週(2月18日〜22日)、米サンフランシスコで開催されたGDC(Game Developers Conference)におけるMicrosoftのキーノートスピーチの関心ポイントのひとつはそこにあった。

 Xbox 360は日本でこそ不調だが、日本以外の地域では、2005年末の発売からしばらくは絶好調だった。PLAYSTATION 3(PS3)とWiiに対して1年先行した利を活かして、発売8カ月で500万台の出荷を達成、2年目(2006年)のホリデーシーズンで1,000万台を超えた。この出荷ペースは、PlayStation 2(PS2)とほぼ並ぶ(ただしXbox 360は同期間にホリデーシーズンが2回、PS2は1回)。そのため、このまま台数の伸びが続いてリードを保つことができれば、今世代のゲーム機のトップシェアをつかむ可能性もあると見られていた。

 ところが、昨年(2007年)前半あたりから、それまで好調だった販売台数の伸び悩みが伝えられ始める。Microsoft発表による最新の出荷台数は、昨年(2007年)末で1,770万台。この数字だけを取るとそれほど悪くは見えない。しかし、Xbox 360が過去のPlayStation 2(PS2)の一人勝ちの構図を踏襲するなら、2年目の2007年はハード台数が飛躍し、発売25カ月後の2007年末には2,000万台後半に達していなければならない(PS2は約25カ月で2,868万台)。現在のXbox 360の出荷台数は、この数字に遠く及ばない。

各プラットフォームの累積台数の推移

 つまり、Xbox 360ハードは出だしから1年ほどはPS2のカーブにほぼ沿ったペースだった。ところが、その後はPS2曲線に引き離されてしまった。じり貧だった初代Xboxと較べると格段にいいペースだが、PS2の必勝ペースには遠い。

 スケールメリットを出すために台数シェア獲得が非常に重要となるゲームコンソールで、台数の伸びが鈍化することは悪い兆候だ。しかし、Xbox 360のこの問題は、2007年の年末商戦ではそれほど露出しなかった。Xbox 360のゲームタイトル販売が、非常に好調だったためだ。

GDCでキーノートスピーチを行なったJohn Schappert氏 (Corporate Vice President, LIVE, Software and Services, Microsoft)

 Microsoftは、Xbox 360のタイトルアタッチ率(ゲーム機1台当たり売れているゲームタイトル数)が極めて高いことを誇る。そのおかげで、Microsoftは年末商戦では、タイトルで稼ぐことができた。膨大なXbox 360タイトルの利益は、Microsoftの好決算にも貢献した。GDCのキーノートでも、Microsoftはタイトルの好調とその高い質を誇った。しかし、その一方でMicrosoftは昨年(2007年)のE3(7月)からは、カンファレンスで大々的に出荷台数を謳わなくなってしまった。

●コアゲーマーから広がらないXbox 360

 なぜ、Xbox 360の勢いが2007年に鈍ったのか。ゲーム業界で誰もが考えているのは、Wiiの伸張の影響だ。リテールへの出荷は累計で1,000万台を超えたと見られるPS3も、Xbox 360にある程度は影響しているだろうが、よりハイペースで伸びているWiiがXbox 360に大きく影響した可能性の方が高い。任天堂によると、Wiiの出荷台数は昨年(2007年)末で2,013万台。1年遅れてやってきたWiiが、PS2カーブと較べても約2倍という急伸で、一気にXbox 360を追い抜いてしまった。台数ベースのリーダシップは、任天堂に完全に奪われてしまっている。

 Wiiの登場まで、MicrosoftはXbox 360とWiiは競合しないと主張していた。マシンのスペックや性格も全く異なり、初期ターゲットとするユーザー層も異なるからだ。Xbox 360のライバルはあくまでPS3で、Wiiとは棲み分けると想定していたと考えられる。しかし、現状を見ると、Wiiハードの伸びがあまりに大きかったために、Xbox 360の広がる余地まで食い始めた可能性がある。

 Xbox 360の高いタイトルアタッチ率が示すのは、Xbox 360のユーザーがコアゲーマー層のままであることだ。ゲームに時間を費やし、ゲームタイトルをどんどん購入するコアゲーマーがXbox 360ユーザーに多いから、台数比でタイトルがよく売れる。実際、GDCキーノートでMicrosoftが示した、年末商戦でのXbox 360のミリオンセラータイトルは、『Halo 3』『Bioshock』といった、コアゲーマー色の強いタイトルがほとんどだった。

ホリデーシーズンには各タイトルが100万本を越えるセールスになった

 伝統的なゲーム機の普及モデルでは、まず、コアゲーマーに浸透させ、それから、よりカジュアルな周辺ユーザーへと広げる。MicrosoftのXbox 360戦略は、まさにこの戦略にのっとっている。このモデルのパターン通りに進むなら、次第にユーザー層が広がり、それに伴ってハードもよりハイペースで普及する。過去を見ると初代PlayStationとPlayStation 2(PS2)がこのパターンで成功している。

 ところが、今回は、コアゲーマーよりカジュアルゲーマーを優先して獲得にかかったWiiがあった。そして、その戦略は見事にあたり、Wiiはカジュアル層を中心に新世代ゲーム機では極めて速いペースで普及しつつある。そのため、本来ならXbox 360が第2段階で伸ばすはずだったゲーマー層をWiiが食ってしまった、と考えればXbox 360の鈍化の辻褄が合う。つまり、皮肉なことに、好調なソフトウェア販売が逆にXbox 360の行き詰まりを暗示している。逆に、Wiiはタイトルアタッチ率が低い。

●止まらないWiiの勢いがMicrosoftにとっての問題

 Microsoftにとって、この問題が痛いのは、Xbox 360のキャラクタが固定され、市場の伸びしろを奪われてしまう可能性があることだ。つまり、Xbox 360はコアゲーマー向けという認知が広がり、タイトルもコアゲーマー向けに偏重すると、ますますユーザーがその層に固まり、ゲームベンダーもコアゲーマー向けタイトルの開発に偏り、ますますカジュアルゲーマーが遠ざかるといった、ネガティブスパイラルが回り始めてしまう。

 もちろん、コアゲーマーの獲得がMicrosoftの目的ならそれで問題はないのだが、Microsoftの狙いはもっと大きいところにある。もともとは、ゲーム機という家電が、将来、リビングルームのメディアセンターに育つのなら、それを押さえよう、というのがMicrosoftのXbox戦略の原動力だった。もっと具体的に言えば、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)がそのポジションを獲る前に、自分たちで獲らなければならないと考えた。Xbox部隊の現場はともかく、Microsoftの上層は、そうした戦略でいたと思われる。

 今では、ゲーム機だけがメディアセンターに化けるというビジョンは色あせてしまっている。しかし、コンピューティングパワーを考えれば、デジタル家電の中でゲーム機が、パワフルなメディアセンターへの最短距離にあることは確かだ。

 第2世代のXbox 360で、Microsoftは、目的の半分は達成した。PS2の時のSCE一人勝ちの構図の再現を崩し、PS3に対して今はリードしており、今後、悪くても五分の勝負に持ち込むことに成功しそうだ。ところが、そこで、Wiiに予期していなかったどんでん返しを食らってしまった。

 このまま、WiiがPS2のように累計1億台も出てしまうと、いくらWiiのコンピューティングパワーやグラフィックス解像度が弱いとはいえ、数の力で、Wiiが家庭のコンピューティングプラットフォームとして定着してしまう。すると、ニンテンドーDSのように、その上で、非ゲームも含めてさまざまなコンテンツが充実するようになり、Microsoftの狙う場所をWiiに占められてしまう恐れがある。

●一見地味だがMicrosoftの経験に乗っ取った戦略

 こうした状況で、MicrosoftがXbox 360活性化のために取った手は何だったのか。

 GDCでMicrosoftが発表したのは、『ゲーム配布の民主化(Democratizing Game Distribution)』だ。簡単に言うと「Xbox 360に向けて、アマチュアプログラマが自分たちで作ったゲームをネットワーク経由で配布する手軽な手段を提供すること」となる。今年(2008年)末までに、個人クリエイターがXboxのネットワークサービスであるXbox LIVEを通じて自作ゲームを配布できるようにするという。

ゲーム配布の民主化(Democratizing Game Distribution)

 これは一見すると地味で、とても強力な一手には見えない。しかし、MicrosoftのXbox戦略全体を見渡すと、これが着実な手で、もしかすると将来のXboxの勝因になるかもしれないことがわかる。なぜなら、Microsoftやソフトウェア業界がこれまで成功してきた、PCのモデルに沿っているからだ。

 PCは伝統的に、プラットフォームをオープンにすることで成功を収めてきた。アマチュアを含めたプログラマが、PC向けにさまざまなソフトウェアを開発する。すると、アプリケーションが充実しているためにユーザーが増え、アプリケーションのビジネスがどんどん繁栄する。そこで、さらにアプリケーション開発が促進され、それがユーザーをさらに誘い込む。Microsoftの場合、自社のOSで、こうしたポジティブスパイラルを作り出すことが成功戦略だった。

 Microsoftが現在、Xbox 360でやろうとしているのは、閉じたソフトウェア開発が基本だったゲームコンソールに、PCの開かれたソフトウェア開発のモデルを“ある程度まで”持ち込むことだ。それによって、Windowsプラットフォームでの成功をXbox 360で再現する。それが、Microsoftの戦略だと推測できる。

●Microsoftの強味は優れたソフトウェア開発環境

 そもそも、MicrosoftがXbox 360でここまで善戦した、その理由は何なのか。それはMicrosoftの強味をゲームコンソールの世界に持ち込んだことだ。

 Microsoftの強味は、Microsoftが得意とするソフトウェア開発環境と開発サポートの提供だ。アプリケーションソフトウェアを作る側にとって、やりやすい環境を整えることが、Microsoftの持ち味だ。そして、それこそがこれまでのゲームコンソールに決定的に欠けていた点だった。

 Microsoftは、セガのDreamcastへのWindows CE移植で、まずゲームコンソールの経験を積み。次のラウンドの初代Xboxでは、優れた開発環境を提供した。もっとも、初代Xboxが登場した時には、ゲームデベロッパたちは、すでにPS2向けに自分たちのエンジンを開発してしまった後だったので、Xboxの開発環境の強味は活きなかった。そこで、Xbox 360では、PS3より先に、優秀な開発環境を整えたハードを出すことに注力した。

 Microsoftは、Xbox 360世代で提供するプログラミングフレームワークに「XNA」という名前をつけた。XNAの全体構想は壮大で、ゲーム開発に必要なAPIやデータフォーマット、プロトコルの標準を策定し、それらをカバーするツール類を提供、さらにはビジネス標準まで打ち立てるというものだった。また、XNAは、Xbox 360だけでなくWindowsもカバーし、将来はモバイル機器まで含める構想だった。

 XNAで当初構想していた要素の中には、まだ実現していないものも多い。しかし、XNAの中でとりわけ戦略的に重要だった、Xbox 360をオープンに開くためのフレームワークの導入はすでになされている。それが、プラットフォーム非依存のプログラミングフレームワーク『XNA Framework』をベースにした『XNA Game Studio』だ。

 次回では、MicrosoftのXNA FrameworkとXNA Game Studioによる、ゲーム開発の民主化構想を説明したい。

□関連記事
【2月21日】【Microsoft基調講演】MicrosoftはXbox LIVE上にゲーム民主国家を建国する(GAME)
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20080221/mskn.htm

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(2008年2月28日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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