つい先週、携帯電話会社を4年ぶりに変更。auからNTTドコモにナンバーポータビリティで移行した。すると2月6日に、日本通信の「コネクトメール」が、Gmailに対応したというニュースリリースが発表された。これはシメタということで、早速利用している。 コネクトメールは、FOMAネットワークからiモードを経由せずにネットワークサービスを利用するサービス。「メール」と銘打っているように、一番の目玉サービスはメールにあるのだが、実際にはすべての通信はiモードのシステムを通過しなくなる。iモード固有のサービスは(設定を変更しないと)利用できなくなるが、その代わりに得られるものもある。 ●iモードのシステムを利用せずFOMA端末を使う まずはコネクトメールというサービスの背景にある、いくつかの事情を紹介しておこう。いずれも携帯電話事情に詳しい人ならば常識だが、一般的なインターネット接続の仕組みとは違うので知らない人もいると思う。 一般に日本の携帯電話会社は端末向けのネットワークサービスシステムを独自に構築し、そのサービスのアーキテクチャに合わせ、端末そのものも設計している。そのサービスの代表格がiモードだ。iモードとNTTドコモのiモード端末はとてもタイトに統合されているから、ユーザーは携帯電話の機能として、簡単にiモードを利用できる。しかし、非iモード端末はネットにアクセスはできてもサービスは受けられない。 ちょっと回りくどい言い方になったが、たとえばWindows Mobile採用のNTTドコモ端末や、海外で入手したSIMロックフリーの3G端末にFOMAのSIMカードを挿入しても、ネットワークにはアクセスできるが、iモードサービスは受けることができないと言えば、「ああ、それなら知ってるよ」という読者も多いはずだ。 具体的には、端末のデフォルトではFOMAのSIMカードに記録されているAPN(Access Point Name:パケット通信を行なう際の接続先の名前)に繋がるようになっている設定を、日本通信の指定したAPNに変更するだけだ。 iモード端末のiモード設定から、「接続先選択(P905iの場合)」を選んで自分でAPNを登録すればiモードにはつながらず、指定した接続先に直結される。コネクトメールの場合は、日本通信が用意したAPNに接続する。インターネットへのアクセスも、iモードではなく日本通信のAPNを通じて行なわれるため、パケット通信料はPCを用いた通信時と同様の計算となる(パケホーダイ、パケホーダイフルとも対象外。これらの定額サービスはiモードおよびiモードフルブラウザ向けに用意されたAPNを通じた通信のみが対象)。 余談だが、NTTドコモが開始したデータ通信定額サービスは、音声契約をしているSIMカードでは利用できない。このことに不満を持つ人は多いだろうが、当面、情勢が変化するまでは、音声契約とデータ通信定額を同一契約では併用させないと思う。なぜなら、それを許してしまうと、上記のように相互接続している他社のAPNを通じ、iモード以外のサービスにユーザーが流れてしまうからだ。 iモードサービスとiモード端末はタイトに統合されていると書いたが、これは何も使い勝手や技術的な面だけではない。料金システムなどビジネスモデル全体が、iモードサービスと深く結びついている。 さて、余談が長引いたが、シンプルに言えば、iモード端末ではデフォルトで接続されるネットワークプロバイダに代わって、ネットワークサービスとインターネットへのゲートウェイを提供するのがコネクトメールである。 ●iモードメール互換手順でメールを端末にプッシュ 今のiモード端末はAPNを複数登録しておき、必要に応じて切り替えることが可能になっている。コネクトメールを契約し、端末の設定を行なった後でも、接続先を切り替えればいつでもiモードを利用可能だ。 NTTドコモとの契約内容の変更や料金確認などはiモードにつながらないとできないし、iモードのメールアドレスを登録する必要のあるサービスの利用もできない。会社が提供している携帯電話向け情報システムがインターネットを経由せずiモードと直接接続されている場合なども、iモードに変更しなければシステムを利用できなくなる。 しかし、そうした点が全く苦ではないなら、iモード契約そのものを解除しても、コネクトメール経由で端末のブラウザからインターネットへのアクセスは行なえる(あまりお勧めはしないが)。 ではなぜコネクトメールが、わざわざ「メール」という名前を使っているのかというと、APNを提供するだけでなく、iモードのプッシュ型メール(自動的に端末に配信されるメール)と互換の手順で、日本通信のサーバーがWebメールに届いたメールを仲介し、送ってくれるからだ。 コネクトメールが発表された当初は、このWebメールはアップルの提供する「.Macメール」のみだった。筆者はすでに.Macサービスを別の目的で利用中だったので、このアドレスを使えばいいと思っていたのだが、端末をNTTドコモに買い換えた直後、タイミングよくGmailにも対応してくれたのでこちらを選択した。
なお、GmailからはPOP3を使ってメールを取得しているそうで、契約の最初の段階では、30日前まで遡ってメールがプッシュされてきてしまう。前述したようにコネクトメールを利用する場合のパケット料金は定額料金対象外だから、これはちょっと大変だ。 しかし、これには解決方法がある。Gmailの「メール転送とPOP/IMAP」を開くと、POPダウンロードの欄に「今後受信するメールでのみPOPを有効にする」という設定がある。すでにPOPを有効にしている人は、いったんPOPを無効にしてから、再度この項目を選ぶと余分な過去のメールはプッシュされない。もちろん、初めてPOPを有効にする人なら、直接「今後受信するメールでのみ~」を選ぶだけだ。 ただし、この設定がうまくいかず、30日分のメールをすべて受け取ってしまう場合があると知人から指摘を受けた。大量のメールをGmailにため込んでいる場合は、念のため別のGmailアカウントを作成し、プライマリのGmailアカウントからメールを転送する設定にしておくといい。 実際に使ってみると、Gmailの優れた迷惑メールフィルタもあり、実に快適だ。もちろん、Gmailだから同じメールアドレスに届いたメールをPC環境と共有できる。携帯電話でWebメールにアクセスしているという人も多いと思うが、プッシュでメールが端末にきっちり届くのは、やっぱりいい。 ●日本の携帯電話の変化の始まり このところ、携帯電話の世界には、いくつもの変化が訪れている。 1つは端末購入のプランが複数用意され始めたこと。よくよく注意して各社のプランを見ると、完全に端末とサービスの料金が分離されていないようにも思える。ドコモショップでも「バリュープランは端末価格を一括払いするプランではありません」とハッキリ言われた(実は筆者が使っているP905iは、ある機能の評価テストを行なうため、端末のみ割り当てられたものだが、この場合は端末を持ち込んでもバリュープランでは契約できない)。とはいえ、買い方に選択肢が生まれてきたのは大きな変化だろう。 FOMAを用いたデータ通信専門のMVNO(仮想モバイルネットワーク事業者)をIIJが始めたというのも、やはり大きな変化の節目だと思う。このサービスはレイヤ2ではなく、IPレベルでの相互接続によるものとのことだが、ネットワークの相互乗り入れが進んでくれば、携帯電話ネットワークを用いた多様なサービスが生まれる可能性がぐんと高まってくる。 コネクトメールは、今は単なるメールサービス(+インターネット接続)でしかないが、今後、さらに発展していけば、携帯電話会社お仕着せのサービスではなく、自分でどのサービスを使うのかを選べるようになるかもしれない。同様のサービスは、ほかにも登場する可能性はある。 ネックはパケット通信料金だが、パケットパックへの加入で十分という人もいるはず。さらに日本通信はNTTドコモとのレイヤ2レベルでのネットワーク相互接続交渉がまとまり次第、自社で各種サービスを充実させていく。相互接続はさほど遠くない時期に行なえるようになるだろう。もちろん、データ通信定額サービスもPHSと同じように提供することになるから、その時点で日本通信は独自の端末を提供してくるだろう。もちろん、ほかにも競合は現れるに違いない。 もし、そうなってくると、厳しくなってくるのは既存の携帯電話会社かもしれない。iモードをはじめとする独自仕様のプラットフォーム上に構築したネットワークサービスが数多くあり、今更、そのすべてをオープンなプラットフォームには移し替えることができないからだ。技術的には可能だが、既存の企業顧客などもいる中で、サービスの基盤をガラリと変えるのはリスクが大きい。 しかし、変化がいったん始まれば、そう簡単に変化を求める流れには逆らえないものだ。端末料金の仕組みが変化したように、ネットワークサービスと端末のバンドル販売という状況にも変化が訪れる。そこにGoogleの「Android」が絡んでくると、いったいどんな化学反応が起きるのだろうか。 □日本通信のホームページ (2008年2月7日) [Text by 本田雅一]
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