先週、コンピュータ業界を大いに賑わした話題と言えば、やはりMacBook Airだったのではないだろうか。発表時、筆者は別の取材を海外で行なっていた最中だったが、PC誌以外からも数件の取材/コメントの依頼が届いたほどだ。それだけ注目度が高かったということだろう。 そんなMacBook Air、実物はどんなものかと最終試作品の取材をしてみた。そこでいくつか感じたことなどを、Apple側のコメントも交えながら書き進めていきたい。 ●デザインと裏腹に凸凹の多いMacBook Airのハードウェア構成 MacBook Airのニュースを見て、真っ先に感じたのは「なんと凸凹(デコボコ)の多いハードウェア構成なんだろう」ということだ。流麗な曲面に身をまとったMacBook Airのデザインは、滑らかで塊感があり、メモリ増設やバッテリユニットなどの開口部が一切ない。滑らかそのものの外観だが、一方で“一般的な”PC評価の視点で見ると、優れた部分(凸)と不足している部分(凹)を、かなりハッキリとさせた設計だ。 凸部分はプロセッサ性能を比較的重視した設計としていること。デザイン面での妥協を排除していること。凹部分は決して軽量ではないこと。外部入出力が少ないこと。バッテリ交換を自分で行なえないことなどだ。 ただし、MacBook Airの凸凹に関しては、コンセプトがハッキリとしていて悪くないように思う。個人的に気に入るか? と言えば、よく検討する必要はあろうが、モバイルコンピューティング専用Macとして、潔くワイヤレスで使うPCというコンセプトを徹底していて分かり易い。万能さはないが、“ハマルひとにはハマル”という製品も悪くないのではないか。 とはいえ、個人的に気になる部分はある。それはバッテリの交換が修理扱いになるという点だ。 もちろん、iPodをはじめとして、内蔵バッテリの交換が行なえない機器は存在するし、過去にはPCにも存在した。ではなぜ気になるかと言えば、ひとつにはPCのバッテリが、とても劣化しやすいからである。 リチウムイオンバッテリ(あるいは本機のようなリチウムポリマーバッテリ)は、熱にさらされるとサイクル性能が低下する。本機の場合、発熱体とバッテリが重なるように配置されているようだから、その影響を避けることはできないだろう。 また、自分ではあまり充放電を繰り返していないつもりでも、容量が減るごとに少しずつ継ぎ足し充電を繰り返すため、AC電源で使い続けているだけでも、バッテリは劣化していく。加えてリチウムイオンバッテリは満充電状態では化学的にもあまり安定していないそうで、70%充電ぐらいの状態で保存するのが望ましいという。つまり、満充電でずっとAC駆動しつづけている状態というのは、バッテリにとってあまり健全な環境ではない。
●実物に触れてみると…… 実際のMacBook Air試作機に触れた感じでは、LEDバックライトを少し落とし(といっても、十分な明るさ)てやれば、ワイヤレス接続でも十分に5時間は使えそうだった。バッテリの減り方の感じで言えば、JEITA標準テストのスペック値で6~6.5時間ぐらいをカタログに表記しているノートPCと同等レベルだと思う。 ちなみに搭載されているバッテリは7.2Vタイプらしく、満充電時の端子電圧は7.9V。満容量は4,854mAhと表示されていた。つまり35Wh程度の容量ということ。一般的にPCに使われている丸形セル6本パックの場合、容量はおよそ60Wh程度、4本パックで40Wh程度なので、4セルパックよりも少ない容量しかないことになる。 それでも、これだけ実用的なバッテリ持続時間を実現している(実際には、“していそう”)のは、なかなか立派だ。相当に省電力化が進んだのだろうか? もちろん、OSの違いというのもあるかもしれない。 キーボードは新型Apple Wireless Keyboardとそっくりで、キーデザインの好みはともかく、剛性は高くクリック感もしっかりあり、タッチは見た目よりもずっといい。 筐体全体の剛性も高く、手でねじっても大きく歪む様子はなかった。液晶裏のパネルはリブなどが入っていないのか、圧力をかけると大きくたわむが、全体的にみると薄さからは想像するよりも、はるかにしっかりとした質感がある。その分、シングルスピンドルかつ小さめのバッテリの割にはやや重い。このあたりはトレードオフの関係にあるので、なんとも言えないところだ。 試用したのは1.6GHzのMeromに80GB HDDのバージョンだが、もっとも意外だったのは1.8インチHDDの遅さをあまり感じなかったことだ。メモリが標準で2GB搭載されていることも、もちろん体感速度を上げているだろうが、一般的なモバイルPCとの一番の違いは、やはりOSがMac OS Xであるということだろう。 Leopardの世代になっても、さほど動作は重くなっておらず、素の状態からメモリ消費が大きいWindowsよりも、ディスクI/O速度への依存度が高くないのかもしれない。製品版で代表的なアプリケーションをインストールし、動作パフォーマンスを確認したいとは思うが、1.8インチHDDモデルでもあまり不満のないレベルにはあると思う。
●“Air”コンセプトに足りないピース AppleがMacBook Airという名前に込めたコンセプトは実に明快で、ワイヤレスがこの製品のキーワードになっていることは間違いない。無線LANとBluetoothを用いて、ワイヤーなしでコンピュータを用いるというコンセプトだ。 近い将来にはWireless USBを搭載し、USBポートも省略してしまうことがあるのではないだろうか。さらにWireless HDといった技術を用いれば、モニター出力もワイヤレス化可能だ。 Wireless USBとWireless HDはアプリケーションこそ異なるが、物理的なコネクションはUWB(Ultra Wide Band)技術を用いた無線通信で実現している。現状はそこまで周辺の状況が整っていないため、Bluetoothと無線LANの組み合わせで製品を構築しているのだろう。 ちなみにWirelessで使うというコンセプトは、再セットアップの手法にも反映されている。MacBook AirのHDDが論理的に壊れた場合、リストア用DVDを用いるが、MacBook Airには光学ドライブが存在しない。 しかしMacBook Airはシステムが起動しない場合でも、ファームウェアのレベルで無線LANに接続する機能があり、ローカルネットワークを探索。リストア用DVDを動作させているMac、あるいはWindows PCと無線LAN経由で接続し、ネットワークインストールが実行される。DVDドライブをネットワーク経由でサービスするためのユーティリティは、リストアDVDの中に収められている。 このように現時点で可能な範囲でワイヤレス化を図ったMacBook Airだが、個人的には1つ不満がある。それはハードウェアスペックや機能の不足ではない。本来、Appleが得意なはずの、ソフトウェアやネットワークサービスを組み合わせた利用提案が行なわれなかったからだ。 MacBook Airは、もちろん単体のコンピュータとしても利用可能だが、その割り切ったコンセプトからすると、フル機能のMacintoshから必要な部分だけを切り出した、モバイル専用Macといった性格が強い。ところが、現在のMac OS XにはモバイルPC向けにデータを部分的に切り出す機能はない。 たとえばMac Proで大量の写真、ビデオ、音楽を管理している人の多くは、MacBook AirのHDDやSSDよりも多くのデータを持っているはずだ。話を単純にするため、音楽だけを考えてみても、MacBook Airのストレージは160GBのiPod Classicよりも小さい。 もし、Mac OS Xがデータのインテリジェントな同期をサポートしていれば、持ち歩きたい音楽データのみをMacBook Airに転送しておくといったこともできるはずだ。写真なども、あるフォルダの写真は完全に同期させ、別のフォルダの写真は任意サイズまで縮小して同期させるといった使い方ができれば面白い。 多くの面でWindowsよりも優れた特徴を持つMac OS Xだが、複数のMacintosh同士をローカルネットワークの中でペアリングし、データの種類、あるいはフォルダごとに、異なるポリシーで同期するといった、“サブ”ノートPC的な使われ方を想定した機能はない。 とはいえ、現在のままAppleが留まるとは思いにくい。Appleは「MacBook Airは、新しいコンセプトを持つMacの、新しい第1歩に過ぎない。これを起点に進歩していく」と話している。 かつてiPodが売れない苦境の時代。AppleはWindows対応を行なったり、音楽のネットワーク流通を推進。さらにユーザーからのフィードバックをふんだんに織り込んで成功へと導いた。 もしAppleがMacBook Airを本気で「新しいタイプのモバイルコンピュータ」と位置付けてるのであれば、早晩、複数台Macintoshコンピュータ同士の同期などをサポートするのかもしれない。今は新しいコンセプトの製品が生まれたばかりだ。 これからのユーザーの意見とコンセプトの磨き込みが進むにつれ、次の進歩へと繋がっていくことだろう。数年もすれば、今、MacBook Airが抱えている“凹”も埋まって平滑なバランスの良い製品に生まれ変わっているかもしれない。 □Macworld Conference&Expoのホームページ(英文) (2008年1月24日) [Text by 本田雅一]
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