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鈍化しつつあるDRAM技術の進歩




●容量世代とDRAM技術の移行

 なぜDRAMの技術世代の移行はこんなに時間がかかるのか。DDR3も全然移行が始まらないし、DDR2も時間がかかった。移行が難しい理由はいくつかあるが、DRAMの容量世代のサイクルとのずれも影響している。

 DRAMの技術の移行は、容量世代の移行と重なるとスムーズに行なわれる。なぜなら、ダイオーバーヘッドが目立たなくなるからだ。標準技術のDRAMチップに対して、新技術のDRAMチップのサイズの肥大化がダイオーバーヘッドで、新技術DRAMには、必ずダイオーバーヘッドがある。しかし、DRAM容量の世代をまたぐと、このダイオーバーヘッドが目立たなくなる。

 DRAM業界は、もともとは、DDR1からDDR2への移行時に、容量世代の移行と技術の移行をリンクさせるシナリオを想定していたと言われる。256Mb(Mbits) DRAMから512Mb DRAMへの移行が、DDR1からDDR2への移行と重なった場合は次のようになる。256Mb DRAM同士で比べると、DDR1に対してDDR2は、ダイオーバーヘッドがあるため、DDR2の方が必ず高コストになってしまう。そのため、移行に時間がかかる。

 しかし、DDR2だけが次のプロセス技術で512Mb DRAMを製造し、DDR1は古いプロセス技術で256Mb DRAMに留まった場合は状況が変わってくる。256Mb DRAMと比べると512Mb DRAMの方がダイが大きくコストが高い。しかし、512Mb DRAMは倍容量であるため、ビット当たりのコストでは有利になる。

 まず、プロセスが1世代進むと、DRAMプロセスの場合は約70~80%へとダイがシュリンクする。その分、新しいプロセスの512Mbチップの方がビット当たりのコストが下がる。また、チップコストのうちのパッケージやテストのコストは、512Mbから1Gbへと移行しても、大きくは変わらない。そのため、1個の512Mb DRAMの方が、2個の256Mb DRAMよりコスト面では有利になる。

DRAMのプロセス技術と容量世代の移行シナリオ
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 こうした理由から、ある時点でDDR2 512Mb DRAMの方のビット当たりの単価が、DDR1 256Mb DRAMを下回る日が来る。つまり、2個のDDR1 256Mb DRAMに対して、1個のDDR2 512Mb DRAMの単価が同等かそれ以下になる時が来る。DDR1に対してDDR2の容量単価が安くなり、生産量もDDR2へと急激にシフトする「ビットクロス」が進む。その結果、スムーズにDDR2への移行が行なわれることになる。DDR2の方がDDR1に対して必ずダイオーバーヘッドが残るものの、それは容量世代の移行で隠蔽されてしまう。

 このように、容量世代の移行に、DRAM技術の移行が重なると、移行がスムーズに行く。そのため、こうした展開をDRAMコントローラ側のベンダーが操作することもある。チップセットやCPUに内蔵するDRAMコントローラが、例えば、新しい容量世代のDRAMでは新技術DRAMしか正式サポートしないとする。すると、旧技術DRAMについては、倍容量世代のDRAMを量産しても、普及できないことになる。

 最大手のCPUやチップセットベンダーがそうした動きに出ると、DRAMベンダーは新しい容量世代では旧技術DRAMを生産しにくくなる。そのため、新技術DRAMへのシフトが加速される。CPUやチップセットベンダーは、こうやってDRAMの技術移行をある程度コントロールしている。

●最初の見通し通りに行かなかったDDR2への移行

 しかし、こうしたシナリオ通りに進まないと、移行のハードルは高くなる。

 下の2枚のスライドは、JEDECの技術カンファレンス「JEDEX 2006」で示されたDDR1からDDR2への移行のシナリオと実際だ。左の図は最初の予測で、この段階では、DRAM業界は256Mb DRAMから512Mb DRAMへの移行が、DDR1からDDR2への移行とうまく重なると予測していた。このシナリオでは、DDR1での512Mb DRAMは、初期のダイの大きなサーバー向け製品が主流となる。512Mb DRAMのダイが小さくなり、製造コストが下がる頃には、技術はDDR2へと移行する。そのため、512Mb DRAMではDDR2が主軸となり、256Mb DRAMのDDR1に対してコスト面で有利に立つ。256Mbから512Mbへと移行が進むにつれて、DDR2への移行も自然と進むことになる。

DDR1からDDR2への移行のシナリオ
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DDR1からDDR2への移行の現実
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 ところが現実の移行は、ちょっと異なるペースで進んだ。512Mb DRAMへと容量世代が移行しても、DRAM技術はDDR1がある程度まで継続された。512MbでDDR1とDDR2の両方が量産されたため、DDR2のダイオーバーヘッドはより目立ってしまったという。同じ容量世代では、新技術のDRAMはコスト面で不利になるため、DDR2への移行がずれる。最初の予測より1年かそれ以上もDDR2へのシフトはスライドしたと言う。

 その結果、DRAMの容量世代が512Mbから1Gbへと移行するのも、当初のビジョンよりずれ込んだ。512MbのDDR2へと移行してから、1GbのDDR2へとシフトする流れになったためだ。これには、もう1つ要素がある。DDR2 1Gbはメモリバンク数が8バンクと倍増するため、よりコスト増になることだ。8バンクに増えることで10%のダイペナルティが生じるという。

予測から外れ、DDR2への移行がずれた
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 結果として、1Gb DRAMのビット当たりの価格が512Mb DRAMより下がり、1Gb品の生産量が512Mb品より多くなるビットシフト期を遅らせた。倍容量へと移行するまでに、この世代では3年サイクルになってしまった。エンドユーザーにとっては、同じDIMM数でのメモリ量が増えるペースが鈍化したことになる。

●昨年までのNANDとDRAMの間でのFabの生産調整

 ちなみに、DRAM価格と生産量について言えば、昨年(2007年)の前半頃までは、NANDフラッシュとの生産調整もDRAM価格に影響を及ぼしていた。DRAM価格の維持に、NANDの存在が一役買っていた。

 メモリベンダーは、当初はDRAMに先端プロセスを投入し、DRAMで減価償却が終わった枯れたプロセス世代でフラッシュメモリの製造を行なっていた。7~8年前までは、フラッシュの方がプロセス世代が古いことが多かった。しかし、NANDの成功で、トップベンダーはNANDに先端プロセスを割り当てるようになった。そのため、つい最近まで、NANDとDRAMのどちらも同じ先端メモリ向けプロセスで製造されていた。

 台湾ベースのメモリ調査会社DRAMeXchangeが、昨年(2007年)5月に行ったカンファレンス「DRAMeXchange Compuforum 2007」では、DRAMとNANDの両方を製造するメーカーが、2種類のメモリにFabのアロケーションを行なうことで生産を調整していることがレポートされた。つまり、NANDフラッシュがだぶつき市場価格が下がると、DRAMに生産を割り振る。DRAM価格が下がりNANDがタイトになると、NANDに生産を振るといった具合だ。

 実際には、Fabのアロケーションには一定の時間がかかるため、その間生産量のロスが発生する。しかし、2種のメモリの価格サイクルに合わせて生産量を調整することで、価格の維持がしやすくなる。SamsungやHynixといったDRAM大手は、NAND大手でもあるため、彼らが生産調整を行なうことによるDRAM価格への影響は大きかったという。

 DRAMは、長いこと、DRAMだけの生産サイクルで動いてきた。しかし、NANDの台頭で、DRAMとNANDとの間での調整による新しいサイクルが産まれた。ラフに言えば、NANDが高い時はDRAMが安く、DRAMが安い時はNANDが高い、というサイクルだ。

 ただし、それは一時的なトレンドで、現在は崩れつつある。NANDの方がプロセス技術が進んでしまったためだ。NANDは『ファンの法則(Hwang's Law)』と呼ばれる経験則の、1年毎に2倍容量を達成するため、微細化をリードしている。現在は、NANDとDRAMの間でのプロセス世代がずれてしまい(DRAMが6xnm、NANDが5xnm)、生産調整はきかなくなっているという。

●1Gb DRAMの中での移行がハードルを高くする

 では、DDR2からDDR3のシフトはどうなるのか。これも、1Gb DRAM世代の中で技術移行が行なわれる。そのため、DDR1からDDR2への移行と同様に、ハードルが高い。2Gb DRAMへの移行がもっと早く来るのなら、2GbへのシフトでDDR3へと移行して、ダイオーバーヘッドを目立たなくさせる方法がある。しかし、2Gb DRAMへの移行は、早い見通しでも3年、遅い見通しでは4年とも言われている。そのため、1Gb世代の中でDDR2からDDR3へと技術をシフトしなければならない。

 同じ容量世代ではダイオーバーヘッドを隠蔽できないため、DRAMベンダーは全体に穏やかな移行の見通しを立てている。スタートから3プロセス世代で、価格プレミアムが消えるというシナリオで、それだけ長い期間が必要となる。

 今の時点では、今年夏あたりにはハイエンドPCの一部でシステムメーカーが採用できるレベルに到達。今年冬には、PCメーカーの上位モデルがDDR3を売りにするようになる。DDR2に対しては、まだかなり割高だが、導入が現実的な価格に入るという見通しだ。来年(2009年)に入るとメインストリームの上位にDDR3が浸透し始め、2009年後半には本格的に広まり始めるというのがよく聞かれるビジョンとなっている。

DDR3エコシステムの要約
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 穏当な見通しでは、DRAMの量産ボリュームが、DDR2からDDR3へと完全に移行するのは2009年後半から2010年だと言われている。すると、DDR2から生産量の面で主役が交替するまでに4年程度の期間がかかることになる。オリジナルの構想だった3年サイクルよりも遅れている。ちなみに、DDR4の規格化のスタートも、DDR3の時と比べるとちょっとフェイズが遅い。DRAMの進化のペースは、鈍化しつつあるのかもしれない。もっともDDR4ではディファレンシャル伝送で、違う局面を開く可能性もある。

DRAMのプロセス技術とダイサイズ
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●公式ロードマップでも3年で2倍へと微細化ペースが鈍化

 256Mbから512Mbのケースに見えるように、DRAMの容量の増加ペースも鈍化している。以前はDRAMは2年サイクルで容量が倍々になっていたのが、現在は3年サイクルに落ちている。今後はさらにサイクルが長くなる可能性もあるという。

 DRAMの容量世代の移行サイクルの変化は、DRAMの半導体プロセス技術(デザインルール)のロードマップの変化にも影響されている。DRAM技術の全体のトレンドを整理すると、下の図のようになる。

DRAMのプロセス技術と容量世代
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 上2段のプロセス技術と容量世代は、半導体業界のロードマップ「International Technology Roadmap for Semiconductors (ITRS)」を参照している。昨年(2007年)9月のIntel Developer Forum(IDF)時に示されたエルピーダメモリのデザインルールの2013年までのロードマップも、ほぼこれと同様であり、これがDRAM業界の標準的なロードマップと考えてよさそうだ。ただし、実際にDRAMベンダーが図のプロセス技術で量産に入る時期は、ロードマップより1年ほど後ろへずれる。それが3段目の量産出荷品のプロセス世代の段だ。

 DRAMの製造プロセスは1年毎にシュリンクする。ITRSの最新のロードマップ(2006)では、DRAMのデザインルールは1年で約90%弱に微細化、3年で70%に微細化するペースとなっている。ダイ面積で言えば、1年で約80%にシュリンク、3年で50%にシュリンクする。だから、DRAMのチップ当たり容量は、3年で2倍に増えるペースとなる。各社が昨年(2007年)本格出荷を始めたのは70nmプロセスで、今年後半に量産ベースになるのが65nm、来年に登場するのが57nmといったペースだ。DRAMベンダーによって、プロセスの数字の詳細は異なるが、ほぼこのペースに沿っている。

 見てわかる通り、これはIntelなどCPUベンダーの唱える、2年で70%に微細化し、2倍容量になるというCPUの集積度増大ペースとは開いている。DRAMも、以前は2年で2倍のペース(それ以前は3年で4倍)に合わせたプロセス微細化を続けていたが、今は微細化のペース自体が鈍化している。DRAMの大容量化が、技術的にそれだけ難しくなっていることを反映している。DRAMは、微細化に従ってトレンチをより深く掘るなどの改良を続けてきたが、ハードルはどんどん高くなっている。ただし、ITRSロードマップでは、CPUのプロセスも同様に3年サイクルとなっており、Intelなどのロードマップとは開いている。ITRSのロードマップで、半導体業界全体の足並みが揃っているわけではない。

 いずれにせよ、ロードマップではDRAMは3年で容量が2倍になる。図の2段目の容量世代は、ITRSによる生産が始まる最大容量で、DRAMチップのダイサイズもサーバー向けの100平方mm台中盤かそれ以上のサイズを想定している。そのため、実際にPC&ボリュームサーバーで視野に入る80平方mm以下のDRAMチップの容量世代はこれよりかなり遅れる。

 プロセス技術から計算できるセオリー上の容量に、多少現実の移行を元にした修正を加えたのが図の4段目だ。ただし、2Gbへの移行は、さらに後ろにスライドするという意見もある。少なくとも、以前のように2年で2倍のペースには戻りそうにない。そのため、PC&サーバーに搭載できるメモリ量の増大も、ペースが落ちることになる。

 これは、ファンの法則で1年(または15カ月)で2倍容量へとシフトを続けるNANDとの差がますます開くことを意味している。ビット単価当たりのコストで、NANDの方がさらに有利になって行く。そうなると、コンピュータのメモリ階層に、NANDを挟み込もうというモチベーションがさらに高まることになる。

メモリ階層の深化
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□関連記事
【1月31日】【海外】65nmで本格化するDDR3メモリへの移行
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0131/kaigai413.htm
【2007年9月4日】【海外】PCのメモリ階層の変革を展望するMicrosoftとIntel
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0904/kaigai383.htm
【2007年8月7日】【海外】岐路にさしかかるDDR3モジュール
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0807/kaigai379.htm

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(2008年2月4日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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