AMDは1月23日にRadeon HDシリーズのラインナップを拡充。ミッドレンジ以下のGPUの新製品を発表した。「ATI Radeon HD 3600」シリーズと「ATI Radeon HD 3400」シリーズに計3モデルをラインナップしており、いずれも55nmプロセスで製造されるのが特徴となる。ここでは、「Radeon HD 3650」と「Radeon HD 3450」のパフォーマンスを見てみたい。 ●今回の発表で全セグメントを55nmプロセスに 今回発表された、Radeon HD 3600シリーズとRadeon HD 3400シリーズの主な仕様は表1にまとめた通りだ。Radeon HD 3600シリーズは動作クロックやStreaming Processing Unitの数などは極端に変更されておらず、Radeon HD 3400シリーズも大きな引き上げは行なわれていない。
【表1】ATI Radeon HD 3600/3400シリーズの主な仕様と比較
価格はRadeon HD 3650のGDDR3版が99ドル、DDR2版が79ドル。Radeon HD 3470が59~65ドル、Radeon HD 3450が49~55ドルとなっており、どちらもバリュー向けといっても差し支えないレベルの価格帯での販売が見込まれる。 これらの製品はRadeon HD 3000シリーズに属することからも分かる通り、いずれも55nmプロセスで製造されることになる。2007年11月に紹介したRadeon HD 3800シリーズの記事では、80nmプロセスで製造されたRadeon HD 2900 XTに対し、55nmプロセスで製造されたRadeon HD 3800シリーズは大幅な消費電力減を見せている。このプロセスがミッドレンジ以下の製品で採用されることに対して、どう効果を見せるか興味を持てる。 Radeon HD 3800シリーズ同様、DirectX 10.1、PCI Express 2.0への対応が行なわれているほか、GPU負荷が低いときにクロックを落とすことで省電力化するPowerPlay技術も採用されている。今回の製品は、基本的にはラインナップの拡充という表現よりは、刷新というほうが正しいように思う。 ただし、今回の新製品で初めて採用される技術もある。それが「ATI Hybrid Graphics」である。1月7日にNVIDIAが発表した「Hybrid SLI」と似たような技術で、チップセット内蔵グラフィックと外付けビデオカードを連携することで、省電力とパフォーマンスのバランスを良化する技術だ。使い方はHybrid SLIと似ており、内蔵グラフィックのみ、外付けビデオカードのみ、両GPUの同時使用、という3つのモードが設けられる(図1)。
Radeon HD 3400シリーズは、このHybrid Graphicsをサポートしているのである。ただし、チップセットはRS790Gのコード名で呼ばれる次期チップセット製品でサポートされる予定で、こちらの登場を待つことになる。 また、Universal Video Decoder(UVD)に関しても改良が加えられた。従来のRadeon HD 2400 PROなどでは高解像度のコンテンツになるとビデオメモリ帯域幅が不足しがちであったという。しかし、Radeon HD 3600/3400シリーズのUVDは改良されており、DDR2版のRadeon HD 3450のようなバリュービデオカードでも、より安定したHD解像度コンテンツの再生が行なえるようになっている。 今回テストするのは、AMDから借用した「Radeon HD 3650(GDDR3)」と「Radeon HD 3450」のリファレンスカードである(写真1、2)。Radeon HD 3450のクーラーはファンを搭載しているが、パッシブクーリングも可能とされており、ファンレス製品も多く登場することになりそうだ。
ブラケット部は、Radeon HD 3650はDVI×2+ビデオ出力、Radeon HD 3450はDVI+D-Sub15ピン+ビデオ出力の構成で、後者のD-Sub15ピンはロープロファイル利用時に取り外し、または別ブラケットによる取り付けが可能になっている(写真3、4)。
リファレンスカードは標準的な構成となっているが、Radeon HD 3600/3400シリーズはHDMI出力に対応するほか、GPUコア内にDisplayPort出力を2系統持っている。出力端子周りは製品によって個性が出る可能性はありそうだ。 なお、両カードとも、動作クロックは定格通り。PowerPlayによりアイドル時は動作クロックが下がる。Radeon HD 3450は同3800シリーズ同様に300MHzまでコアクロックが下がり、Radeon HD 3650のコアクロックは110MHzまで下げられているのが興味深い(画面1、2)。
●ミッドレンジ~バリューセグメントの製品を比較 それでは、ベンチマーク結果を紹介したい。テスト環境は表2に示した通り、比較対象には、GeForce 8600 GTS/8500 GT/8400 GSの各GPUを搭載するビデオカードを使用した(写真5~7)。
【表2】テスト環境
Radeon HD 3650/3450のドライバは、AMDから評価用として提供を受けたもので、現在公開されているCATALYST 8.1よりも若干古い日付が示されたドライバとなっている。GeForceシリーズのドライバは、最新の正式版ドライバであるForceWare 169.25だ。 今回はミッドレンジ以下のビデオカードのテストということで、テストする解像度は1,024×768、1,280×1,024、1,600×1,200の3パターンとした。ただし、LOST PLANETのみ、指定できる解像度の都合で、640×480、1,280×720、1,600×1,200の3パターンとしている。なお、解像度以外のクオリティ設定やハードウェア環境は、前回のGeForce 8800 GSのテストと統一しているので、相対的な比較は可能である。 まずは「3DMark06」(グラフ1~4)と「3DMark05」(グラフ5)の結果から見ていくと、Radeon HD 3650は、GeForce 8600 GTS以下、GeForce 8500 GT以上という傾向になっている。スコア差からすると、今回テストしていないGeForce 8600 GTあたりとぶつかる製品であろう。また、Feature Testにおいては、Pixel Shaderの性能で優れる傾向も見せている。 一方のRadeon HD 3450は、GeForce 8500 GT以下、GeForce 8400 GS以上といったところで、特にHDR/SM3.0テストで良好な結果を見せるのが印象的だ。このHDR/SM3.0テストでは、Radeon HD 3650も描画負荷が高まるほどGeForce 8600 GTSに肉薄する結果も見せている。
「F.E.A.R.」(グラフ6)の結果は、Radeon HD 3650にとっては、やや辛い結果となっており、GeForce 8600 GTSに劣るというよりも、GeForce 8500 GTよりも勝る程度という評価になるレベルだ。解像度もさることながら、フィルタをかけたときの落ち込みがGeForce 8600 GTSよりも大きい傾向を見せている。 Radeon HD 3450も、全般にGeForce 8400 GSにも劣る結果となった。高解像度は両製品とも下げ止まり感のある結果になっているが、XGA以下の解像度でプレイするにしても、GeForce 8400 GSのほうが一段上のクオリティで利用できるだろう。
「Crysis」(グラフ7)の結果は、このクラスの製品では、すべてをVery Highに設定した状態では根本的にプレイが難しいことを印象付けているが、相対的な比較という面でみると、高解像度でRadeon HD 3650が優れた結果を見せたのは興味深い。 一方のRadeon HD 3450とGeForce 8400 GSの比較では、むしろ低解像度のほうが好結果を残すという、Radeon HD 3650とは対照的な傾向を見せている。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ8)も、傾向としてはCrysisに近い。描画負荷が低い状態ではGeForce 8600 GTSが圧倒するのに対し、負荷が高まるとRadeon HD 3650が盛り返している。これらの傾向は3DMark06のHDR/SM3.0テストと似通っており、SM3.0以降の描画で負荷が高まっても性能が落ちにくいという特徴を見せている。一方のRadeon HD 3450は、GeForce 8500 GT/8400 GSに明らかに劣る結果となってしまっている。
「World in Conflict」(グラフ9)におけるRadeon HD 3650の結果も、CrysisやCoHに似た傾向は見せているものの、ここは、GeForce 8600 GTSのほうが全体に優れた結果という印象を残す。また、Radeon HD 3450も、全体的にGeForce 8500 GT/8400 GSに劣る。 このアプリケーションに限ったことではないが、高負荷の描画でパフォーマンスが落ちにくいとはいっても、そうした設定で利用した場合における絶対的なFPSは現実的な利用に耐えるものとは言い難い。その点で、惜しい製品という印象を残す。
「Call of Juarez DirectX 10 Benchmark」(グラフ10)はRadeon勢が優れたスコアを出しやすいアプリケーションであり、ここでは、Radeon HD 3650/3450ともにまずまずのスコアを出している。とくに、Radeon HD 3650は価格帯が一段上となるGeForce 8600 GTSをも安定して上回っており、このアプリケーションに対する強さを見せつけた格好だ。
「Unreal Tournament 3」(グラフ11)の結果は、ミッドレンジでも実用に耐え得るスコアを出ている点で重要度が高い。Radeon HD 3650はBotを表示した場合のスコアでGeForce 8600 GTSと同等レベルのスコアを出しており、このアプリケーションでは価格帯の違いを感じさせない。FlyThroughでは若干劣るスコアとなっており、ハードウェアの素行というよりは、ドライバが良好である可能性が高い。 一方、Radeon HD 3450のバリュー製品は、さらに低い解像度でしかプレイできなさそうであるが、GeForce 8500 GTより低く、GeForce 8400 GSよりは良好といった傾向に収まっている。
「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ12)はNVIDIA製品が強さを見せるアプリケーションだけあって、その差は明確である。Radeon HD 3650でもGeForce 8500 GTに近い結果になっており、NVIDIA勢がワンランク違うパフォーマンスを見せている。
最後に消費電力の測定結果である(グラフ13)。Radeon HD 3800シリーズのテストの時には、Radeon HD 2900 XTから大幅な電力削減が見られたわけだが、今回のRadeon HD 3650/3450シリーズでは、それほど目立った結果にはなっていない。 過去に実施した、Radeon HD 2600/2400のテストを参考にGeForce勢と相対的に比較してみても、消費電力はほとんど変わっていないと判断できる。それどころか、Radeon HD 2400 ProよりもRadeon HD 3450は消費電力が増してしまうほどである。つまり、55nmプロセス化があまり効果を発揮していないことになる。 Radeon HD 3800シリーズの場合は、55nmプロセス化と同時にトランジスタ数の大幅削減という特徴があった。前者に目を奪われがちであったが、この消費電力減は、プロセスシュリンクよりも、トランジスタ数削減およびメモリコントローラの縮小に伴うメモリチップ数の減少といった要素のほうが大きかったのだろう。
●価格への反映に期待したい55nmプロセス化 Radeon HD 3650のテスト結果を反芻してみると、GeForce 8600 GTS以下、GeForce 8500 GT以上というパフォーマンスと見ることができる。GeForce 8600 GTSとの差は大きく、直接の対抗はGeForce 8600 GTになるだろう。ただ、Radeon HD 2600 XTは、もう少しGeForce 8600 GTSと良い勝負をしていた。 将来的にRadeon HD 3670などの製品が出るのかも知れないが、AMD製品のミッドレンジのパフォーマンスは、現時点では一歩後退した印象を受ける。 一方のRadeon HD 3450は、Radeon HD 2400 Proの後継という位置付けになるが、このパフォーマンスはほぼ横ばいといったところ。GeForce 8400 GSと同等レベルである点に変わりはない。ただ、こちらはUVDの進化や、Hybrid Graphicsへの対応といった点で、恩恵はありそうである。 とはいえ、基本的にはパフォーマンス面でのインパクトは非常に低い印象に留まる新製品といえるだろう。あとは、価格への期待である。正確なダイサイズは不明だが、基本的には仕様に変化がない状態で55nmプロセスにシュリンクしたということは、Radeon HD 2600/2400シリーズよりもダイサイズは小さくなっている可能性が極めて高い。ということは、それだけ歩留まりが上がり、販売価格の引き下げにつながることになる。 AMD(旧ATI)のビデオカードの参考価格は、国内の自作向け製品の価格としては当てにならないことが多いのだが、今回の製品の参考価格は非常にアグレッシブな価格付けになっている。これが、そのまま市場価格にも反映されるようであれば、今回の新製品は大きな魅力を持ってくる。 逆に言えば、価格面の魅力がないとNVIDIA製品に対する製品の競争力の点で一歩劣る印象も否めないわけで、実際の製品がどういった価格で登場するか、期待を持って待ちたい。 □関連記事 (2008年1月23日) [Text by 多和田新也]
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