●インパクトに欠けるサプライズ
結局、今年のMacworldで発表されたAppleの新製品は、MacBook AirとTime Capsuleの2つのみだった。初めてIntel製プロセッサを搭載したMac(iMacとMacBook Pro)が発表された一昨年(2006年)や、iPhoneが発表された昨年(2007年)と比べて、インパクト的に小さいような気がしてならない。これなら先週発表した新しいMacProとXServeも、いっしょに発表すれば良かったのに、という気さえしてしまうが、プロ用の2モデルを先行させてでもMacBook Airに注目を集めたかったのだろうか。 確かに薄型のMacBook Airは絵になる。こちらの新聞でも写真入りで取り上げられている。しかし、メインストリーム向けの製品ではないだけに、Appleの売り上げにどれだけ寄与するかというと未知数なのではないかと思う。遠い将来、コンピュータの博物館、あるいは現代美術の美術館に収蔵されることになるかもしれないが、実用の道具として見た場合、MacBook Airが自分の利用形態にピッタリはまるという人は、意外と少ないのではないかと思っている。Webサイトの購入ボタンをポチッと押しそうになって思いとどまる、そんなマシンに思えてならないのだ。 MacBook Airのインパクトがそれほど大きく感じられなかった理由の1つは、さまざまなメディアから事前情報の形で、概要がリークされていたからでもある。Appleはさまざまなメディアから注目を集めており、こうした事前リークを完全に防ぐことは難しい。が、発表された製品がリーク情報と大差なかったことは、確実にインパクトを弱めたのではなかろうか。 もちろん、インパクトは製品のスペックだけで決まるものではない。たとえば価格設定でも大きなインパクトを与えることは可能だ。2005年1月のMacworld Expoで発表された初代iPod shuffleは、当時市販されていた同じ容量のメモリカードやUSBメモリより安価だった。その価格が与えたインパクトは大きい。続く同年9月に発表されたiPod nanoと併せて、もう日本のメーカーはかなわないな、と筆者に感じさせた。 それを思うと、MacBook Airは価格にも大きなインパクトはない。1.8インチHDDモデルの229,800円、SSD搭載モデルの388,400円は、妥当な価格ではあっても衝撃の価格ではない。 というわけで、どうも今回のMacworld Expoはサプライズ、良い意味での裏切りに乏しかった。Jobs CEOのキーノートでおなじみの「One more thing」も今回はなかった(筆者はついNo more thing?と思ってしまった)。サプライズがなかったのがサプライズだったのかもしれない。 筆者が事前に期待していたのは、直前のCESでIntelが発表した新しい45nmプロセスによるPenrynファミリのプロセッサを搭載したMacだ。昨年11月に発表された第一弾は、Xeonとハイエンドデスクトップで、モバイルアーキテクチャを採用するメインストリームのMacに搭載できるチップではない。が、1月に発表された製品には、モバイル向けのプロセッサが含まれており、1月から出荷されることになっている。これを採用したMac、特に位置付け的に上位にあるMacBook Proのリフレッシュがあってもおかしくないと思っていた。現時点で45nmプロセスのプロセッサを搭載したMacは、Mac Proだけである。 ●コンテンツの扱いが生む格差 もう1つ筆者にとって残念だったのは、コンテンツに関する話の比重が高かったことだ。今回のMacworldでは、iTunes Movie Rental、iTunes Digital Copyといった、映画コンテンツに関するサービスの話題が登場した。iTunes Movie RentalはiTunes Storeからムービーコンテンツをダウンロードして利用するサービスで、だいたい映画1本で1GB程度。利用にはブロードバンド回線の契約が不可欠だ。 ブロードバンドが利用できないユーザー向けに提供されるのがiTunes Digital Copyだ。これはDVDのパッケージに通常のDVDに加え、MacやPCに取り込む専用のデータを納めたDVDをセットして販売するもの。iTunes(Mac/PC)とWindows Media Playerで利用することができる(iPodなどのポータブルプレイヤーにも転送可能)。本稿執筆時点では、Star Warsのパロディアニメである「FAMILY GUY Presents BLUE HARVEST」(20世紀FOX)の1タイトルしか提供されておらずバリエーションに乏しいが、今後タイトルが増えることになっている。
が、これらのサービスは米国に限ったものであり、利用には米国におけるiTunesストアのアカウントが必要になる。また同等のサービスは当面、わが国で利用することはできないと思われる。何せ、レンタル以前に、iTunesストアにおけるムービーのダウンロード販売さえ始まっていないのだ。 コンテンツに関連した話題が増えると、話が権利がらみとなり、どうしてもドメスティックになってしまう。IntelのViivがあまり大きな話題になっていないのも、Viivにコンテンツ再生が占める割合が高いため、各国毎のコンテンツそのものの違い、さらにはコンテンツに関する権利を取り巻く事情が各国毎に異なることが、Viivとしてのアイデンティティを打ち出せないためではないかと思う。権利はビジネスの問題であり、グローバルな技術の問題と違って、ローカルな話題にならざるを得ない。 ●日本が失ったエコシステム さて、Macworldの展示会会場だが、Moscone Centerの南館と西館の両方を使う大がかりなものだ。筆者はIDFやWinHEC、WWDCといったイベントでSan FranciscoのMoscone Centerを訪れているが、たいていは南館あるいは西館の利用で、両方を使ったイベントは、IDFで1度あった記憶があるくらいだ。両方の展示会場、展示会場間の道路は、大勢の来場者で賑わっており、2日目、3日目になっても減少する兆しを見せないのは驚くべきことだ。
展示会場で最も大きなブースを構えるのは、当然のことながらAppleで、その中心であるMacBook Airのコーナーは連日大盛況だ。さまざまなトピックを取り上げるステージも大人気で、まぁこれは納得というところ。Appleを除くと、それほど大きなブースを構えている企業はない。 フロアを歩いていると、iPod関連アクセサリを扱うブースが多いことに気づく。感覚的には、そこら中のブースがiPodケースを展示しているような気さえしてくる。が、冷静に数えてみると、南館で19ブース、西館で11ブースで、会場の3分の1はiPodケースじゃないかと思った印象ほど多いわけではなかった(これでも十分多いが)。
ただ、この数字はiPodケースを扱っているブースの数だけで、PC(Mac)バッグのみのブース、iPodスピーカーのブース、ヘッドフォンのブースなどは含んでいない。iPodアクセサリ全般となれば、展示会場の3分の1は占めているのではないかと思う。それだけのエコシステムを築くほどの成功が背景にあるからこそ、音楽レーベルや映画スタジオに対する高い交渉力を得ているわけだ。日本の家電業界が失ったものの大きさを思わずにはいられない。
□関連記事 (2008年1月18日) [Reported by 元麻布春男]
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