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MacBook Airは買うべきか買わざるべきか




 1月15日、Macworld Conference&Expo初日のキーノートスピーチに、Appleのスティーブ・ジョブズCEOが登壇した。ジョブズCEOが取り上げた話題を大きく分けると4つだった。

1. Leopardと専用バックアップデバイスとなるTime Capsule
2. iPhoneとiTouchの新しいファームウェアによる機能拡張
3. 映画のオンラインレンタルサービスとファームウェアアップデートによるApple TVでの対応
4. 新しいMacBook Air

 この中で最も注目度が高いのは、もちろん4のMacBook Airだろう。世界で最も薄いノートPCという触れ込み通り、最薄部で4mm、最も厚い部分でも19.4mmと2cmを切る。ジョブズCEOはMacBook Airの薄さをソニーのVAIO TZと比較して見せたが、VAIO TZは薄型だが2スピンドル機。同列に比較することはできない。

 薄さの一方で見逃されがちなのは、MacBook Airの重量が1.36kgあること。国産の超低電圧版CPU搭載モバイルノートに比べると明らかに重い。その理由の一端はデザイン性を重視した筐体にもあるのだろうが、より本質的な理由は採用したCPUにありそうだ。

ゲストとして登壇したIntelのポール・オッテリーニ社長

 動作クロック1.6GHz/1.8GHz、4MB L2キャッシュ、800MHz FSBという発表されたスペックから考えて、TDPが10W級の超低電圧版ではなく、17W級の低電圧版のCPUを採用したものと考えられる。さらにキーノートスピーチのプレゼンテーションにもあるように、通常のプロセッサより小型のパッケージを採用した製品だ。が、現時点で、IntelのWebサイトに、該当するプロセッサの情報はない。キーノートスピーチにゲストとして招かれたIntelのポール・オッテリーニ社長は、1年かけてこのパッケージのプロセッサを開発したと述べており、現時点ではAppleスペシャル的なプロセッサだと考えられる。

 ただし、全くどこにも存在しないプロセッサというわけでもなく、ダイの仕様は65nmプロセスによる低電圧版プロセッサ、L7500(1.6GHz)およびL7700(1.8GHz)相当のものだと思われる。これを通常より小さなパッケージに封入したということで、呼称はCore 2 Duo SL7500およびSL7700といったところだろう。同様のプロセッサは、すでに富士通がLOOX R/FMV-LIFEBOOKに1.2GHz動作品をSL7100として採用している(こちらもIntelのWebサイトには情報がない)。バッテリ駆動時間を重視した富士通、処理性能を重視したAppleというところだろうか。

MacBook Airのマザーボード。下の鉛筆で大きさがわかる 通常パッケージのプロセッサ(左)とMacBook Air採用プロセッサの比較。左のプロセッサのマーキング(LE80537)からこれが65nmプロセスによるMeromコアのT7400であることが分かる。MacBook Airのプロセッサも、ダイの大きさは同じだ

 組み合わせるチップセットについて明らかにされたのは、マザーボードの写真とグラフィックス機能がチップセット内蔵のGMA3100ということ。GMA3100であることから、このチップセットが965系であることが分かる。おそらくチップセットもLOOX R/FMV-LIFEBOOKと同じGS965 Expressチップセットと考えるのが妥当だろう。

 このCPUとチップセット(GMCH)は、一体型のヒートシンク/ファンで冷却される。超低電圧版を採用すれば、ヒートシンク/ファンをさらに小型化することが可能だし、ひょっとするとファンレス化もできたかもしれない。当然、軽量化も可能だったハズだが処理性能は低下する。このあたりのバランスをどう考えるかは、メーカーの考え方しだい、というところだ。

 MacBook Airのバッテリ駆動時間は5時間とされるが、スペック表にはわざわざカッコ書きで「(ワイヤレス)」と但し書きされており、無線ネットワーク機能(802.11n対応)を利用した状態で公称5時間、ということのようだ。バッテリは従来のMacBookシリーズ同様、リチウムポリマー電池で、おそらくジョブズCEOのプレゼンテーションに登場したMacBook Air内部写真で黒い部分だと思われる。通常のリチウムイオン電池では、この薄さは実現できなかっただろうが、iPod同様、構造的にユーザーによるバッテリ交換は難しそうだ。大容量バッテリのオプションが設定されていないことを考え合わせると、5時間という駆動時間に満足できるかどうかで、MacBook Airに対する評価も分かれるかもしれない。

MacBook Airの内部。下側の黒い部分がリチウムポリマーバッテリではないかと思う 冷却はファンレスではない

●I/Oの制限が多いMacBook Air

 さらに評価が分かれそうなのは、MacBook AirのI/O機能が著しく制限されていることだ。無線LANとBluetooth 2.1+EDRを除くと、利用可能なのはUSB 2.0ポートが1基とディスプレイ出力用のmicro DVIポート、音声出力のヘッドフォン端子のみで、有線LANポートやメモリカードスロットも存在しない。ある意味でMacのシンボルでもあったFireWireポートさえ、MacBook Airではついに省略されてしまった。FireWireの実用化後、FireWireを持たないMacというのはこれが初めてなのではないだろうか。事実上iPodがUSB専用化したことなどから、いずれこうした日もくるとは予想されたが、現実になるとやはり驚いてしまう。

 現在、PCが備えるUSBポートというのは、ノートPCの機能拡張の中心であると同時に、さまざまな周辺機器への電源供給元でもある。機能的な拡張だけなら小型のUSB Hub(パッシブハブ)を携帯すればすむが、電源供給やポータブル機器の充電となると、パッシブハブでは役に立たない。大電力を必要とする周辺機器の接続は1台のみという制約は、かなり厳しそうだ。

MacBook Air

 iPhoneやiPod touchの仕様でも分かるように、米国においてモバイルインターネットの中心はWiFiである。一応、3Gのサービスは始まっているものの、カバーエリアが著しく限定されるため、米国の携帯電話網の中心は今でも2G〜2.5Gだ。WiFiにしても必ずしも全米をくまなくカバーしているわけではない(何せ米国は広い)が、大都市ならたいていはスターバックス等で簡単に利用できるし、クレジットカードを使ったオンラインサインナップが簡単にできる。

 しかしわが国において、モバイルインターネットの中心は3G携帯電話網であり、そのカバー範囲がかなり充実している。PCカードやCFカードでノートPCを3G携帯電話網に接続することが主流となっており、どうしてもそれが利用できない場合のフォールバックオプションとして、USBモデムやBluetoothによる携帯電話接続が利用される、といった感じだ。だからBluetoothをサポートした携帯電話を利用しようとすれば、それだけで機種が制約される。USBモデムは、どうしても外部に飛び出す点を嫌うユーザーが少なくない。

 MacBook Airの場合、メモリカードスロットもないから、USBモデムを使ってしまうとデジタルカメラのデータを取り込むことさえ難しくなる。Time Machine用のHDDを接続することもできなくなってしまう。だから無線でTime Machineが使えるTime Capsuleを用意しましたというのはいくらなんでも行き過ぎだろう。

 もともと、この主の軽量・薄型サブノートPCというのは、米国ではあまり市場が大きくない。だからこそ、ここしばらくはこのジャンルに製品を投入してこなかったハズだ。この主の製品が最も渇望されていたのは日本市場だと思われるが、バッテリ駆動時間より性能重視のCPUや、WiFi前提のコネクティビティなど、どうも日本の市場で求められているものと少し違うものがでてきてしまったという感が否めない。

 筆者は、どちらかといえばバッテリ駆動時間より処理性能を重視する、日本では異端に属する人間だが、その観点から見るとHDDが1.8インチな点が辛い。低電圧版CPUに1.8インチHDDという構成は、ThinkPad X41のパターンだが、現行のX60/X61でHDDを2.5インチに戻させた? 日本のユーザーの心をくみ取って欲しかったところだ。もう1つのオプションであるSSDは容量が足りない上、価格が跳ね上がってしまう。なお、メモリは2GB固定で増設はできない。どうも性能重視派にとっても、モビリティ重視派にとっても、微妙な気がするのだが、コアなMacファンにとってはモバイル用途にほかに選択肢はない、ということなのだろう。

 確かにMacBook Airは薄く、スタイリッシュだ。歴史上、最も美しいサブノートPCかもしれない。しかし、このデザインを実現するために失ってしまったもの、犠牲にしたものも少なくない。購入に際してはそこをよく考える必要がありそうだ。

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【1月16日】アップル、2cmを切る超薄型モバイル「MacBook Air」
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【1月16日】Macworld速報。ジョブズCEOがMacBook Airを披露
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(2008年1月16日)

[Reported by 元麻布春男]


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