2008 International CES Intel基調講演レポート
CanmoreとMenlowで家電とモバイルに攻勢をかける
会場:Las Vegas Convention Center 会期:1月7日~10日 米国ラスベガスで開催中の2008 International CESは、1月7日(現地時間)に開催初日を迎え、会場は多くの来場者であふれかえり、人とすれ違う隙間もないほどだ。そうしたなか、メイン会場からはやや離れたSands Expoでは、松下電器産業とIntelによる基調講演が行なわれた。 夕方に行なわれたIntelの基調講演では、社長兼CEOのポール・オッテリーニ氏が登壇し、今年のIntelのコンシューマ向け製品の説明を、ユニークな形で紹介した。今年、Intelがコンシューマに向けて強力にプッシュしていくのが、“Canmore”(ケーンモア)と呼ばれる家電用のSoCと、“Menlow”(メンロー)と呼ばれる超低電圧のポータブル機器向けプラットフォーム(CPU+チップセット)の2つで、オッテリーニ氏の講演もこの2製品をフィーチャーしたものになった。 ●家電にも本格的なインターネットの機能が実装される これまでのIntelのCESでの基調講演といえば、“デジタルホーム(Digital Home)”というキーワードが登場し、それに関するビジョンが語られていくというものだった。しかし、Intelのデジタルホーム戦略の中心であった“Viiv”戦略は事実上の終焉を迎え、Intelは新しい方向に軌道修正を始めている。 そうしたIntelが打ち出そうとしているのは、“各市場セグメントに最適な半導体を提供する”というIntelの本来の役割に立ち返ったものだ。だから、昨年(2007年)あたりからIntelの幹部の発言から“デジタルホーム”という言葉は徐々に聞かれなくなり、今はどちらかといえば半導体の魅力を語るキーワード(例えばそれはCore 2であり、45nmプロセスルールなどである)を使うのが通例になっている。今回の基調講演もそうした傾向を引き継いでいる。 今回オッテリーニ氏がフォーカスを当てた製品は2製品ある。1つはCanmore、もう1つがMenlowだ。 オッテリーニ氏は最初に「最初のMTVのミュージックビデオは'81年に公開された。それ以前には音楽は単に音楽だった。しかし、音楽と動画を組み合わせたミュージックビデオの登場により、音楽はTV向きのコンテンツにもなった。同じような変化が今まさに家電にも起きようとしている。TVやオーディオコンポ、HDDレコーダ、すべてがインターネットで1つにつながる時代への移行が、今まさに進んでいるのだ」と述べ、ミュージックビデオの登場を引き合いに、インターネットがデジタル家電に入ることで大きな変化が起こると指摘した。 そして、「家電業界はインターネットへの移行を真剣に検討し始めている。我々もそれに賛同したい。それは今、まさに始まったところだ」と述べ、これからデジタル家電の業界も、Webを閲覧できるといった低いレベルのインターネット機能ではなく、Googleなどサービスプロバイダが提供する本格的なWebサービスをフルに使いこなせるような、高い機能を実装していく時代が始まるとアピールした。 ●パーソナルインターネットの時代はすぐそこに 「これまでのインターネットは、ユーザーが能動的にWebサイトにアクセスしてサービスを受けた。しかし、これからはもっと受動的にサービスを受けられるように変化する必要がある。例えば、プッシュメディア、RSS、パーソナルアラートで実現してきたように、ユーザーに対して受動的に提供する新しい機能をインターネットに付け加えていくことが重要だ」とオッテリーニ氏は指摘。インターネットはユーザーの要求を予測し、それに基づいたサービスを提供していく必要があると述べ、オッテリーニ氏はこれを“パーソナルインターネット”と表現した。 その具体的な例として、オッテリーニ氏はその実例として、Intelが開発しているMID(Mobile Internet Device)を利用して、壇上に北京の町並みを再現し、そこでMIDとWiMAXのようなモバイルブロードバンドを利用すると、どのような利用方法が可能かをデモした。 オッテリーニ氏とそのアシスタントはMIDを利用して、北京の通りの漢字表記をMIDのカメラで撮影し、それを文字認識して英語に翻訳したり、通りかかった中国人の女性に道を聞くのにMIDの音声認識機能を利用して翻訳したり、お店の写真を撮ることでレストランの情報を検索して表示するなどといったデモを行なった。 「このように、これからは機器が現在起こっていることを認識し、Web上のサービスと連携してユーザーがほしい情報を機器が自分で取得するということは、すでに今の技術でも可能になりつつある」と述べた。
●ムーアの法則はこれから続く オッテリーニ氏が掲げる“パーソナルインターネット”を実現するには、4つの要素が重要という。それが半導体、ワイヤレスブロードバンド、コンテキスト、自然なユーザーインターフェイスだ。それらを活用していけば、これまでは無かったような新しいビジネスモデルを創造し、顧客に対して新しい価値を提供できるはずだとオッテリーニ氏は語った。 その最初の要素である半導体に関しては、オッテリーニ氏はIntelは製造技術をさらに進化させ、新しいマイクロアーキテクチャを採用した半導体の投入を行なうことで、業界をバックアップしていきたいと述べた。 「半導体業界では、何よりも製造技術を進化させ、トランジスタをより微細化することが重要だ。18カ月から24カ月に1チップあたりのトランジスタ数は倍になるというムーアの法則通りに業界は発展してきたが、これまで何度もこれ以上は進化しないのではないかと言われ続けてきた。しかし、そのたびにエンジニアが新しい発見をすることでそれを回避できた。現在のロードマップではさらに5世代以上の半導体が計画されており、10年から14年程度は続いていくだろう」と、今後もムーアの法則と業界の成長は続くという見解を示した。 オッテリーニ氏は、Intelが昨年導入した45nmプロセスルールをアピールし「Intelのエンジニアたちが導入した新しいHigh-kのメタルゲートにより、画期的に消費電力などを抑えることが可能だ」と述べ、同社のプロセスルールの先進性をアピールした。
●デジタル家電に新しい可能性をもたらすCanmoreとMenlow さらに、半導体の具体的な例として、CanmoreとMenlowを紹介した。CanmoreはIntelが今年導入を予定しているデジタル家電向けのSoCで、x86プロセッサ、GPU、チップセットなどが1チップになっている。家電メーカーは省スペースかつ高い処理能力を備え、インターネットの世界で標準の命令セットとなっているx86命令をそのまま利用することができるというメリットがある。 オッテリーニ氏は「Canmoreを利用することで1080pのビデオや7.1chのオーディオを簡単にデコードできるし、オンラインゲームなども楽しめる。こうしたチップをHDTVなどに採用すれば、パーソナルインターネットの機能をフルに実装可能だ」と述べ、x86ベースでソフトウェア開発などの点でメリットが多いCanmoeの採用をメーカーなどに訴えた。
また、オッテリーニ氏はモバイル機器向けのMenlowについても紹介し、「Menlowを利用することで、より小さくポータブルな機器を作ることができ、しかも既存のソフトウェア資産をそのまま活かせる」と述べ、東芝が試作したMenlow搭載のUMPCを紹介した。また、オッテリーニ氏はAdobeの新しいソフトウェアプラットフォームである「AIR」を紹介し、「MenlowプラットフォームではAIRをサポートする。AIRを利用することで、ユーザーはエンターテインメント環境を、ネット経由で今よりも簡単に利用できる」と述べ、UMPC/MID向けのソフトウェア環境も徐々に揃いつつあることをアピールした。 さらに、ワイヤレスブロードバンドについても触れ、「WiMAX、3G、4Gなどさまざまな通信方式があるが、Intelが最も推しているのはWiMAXだ。WiMAXは柔軟性が高く、多くの国で導入が決定している」と述べ、今後もWiMAXなどを推進していくことでパーソナルインターネットの実現を後押ししていきたいと述べた。
●自然なユーザーインターフェイスがパーソナルインターネット普及の鍵 最後にオッテリーニ氏は自然なユーザーインターフェイスについて触れ、「例えば、Wiiの新しいコントローラは従来のゲームパッドに比べてより自然に使いこなすことができる。我々はそうした新しいユーザーインターフェイスを開発し、ユーザーに提供しなければならない」と述べ、新しいユーザーインターフェイスとして3Dモデリングを利用して3D上に人間の動きを再現するなどの使い方を提案した。 その例として、オッテリーニ氏は米国のロックバンドSmash Mouth(スマッシュマウス)のボーカリストであるスティーブ・ハーウェル氏が壇上に呼ばれた。ここでは「eJAMMING」と呼ばれるインターネットを経由してジャム(バンドとしてみんなで演奏すること)を行なうソフトウェアを利用して実際に演奏してみたり、「BigStage」という今年半ばにサービスが開始される予定の3枚の写真から人間のアバターを作成するサービスのデモなどが行なわれた。最後にはネットを経由して、3Dモデリングで作られたSmash Mouthのメンバーが演奏を行なうという“ネット演奏”でオッテリーニ氏の基調講演は“終演”となった。
□2008 International CESのホームページ(英文) (2008年1月9日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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