NVIDIAが11月17日に発表した新チップセット「nForce 780i SLI」。前回お伝えした3-way SLIの記事でnForce 780i SLI搭載マザーを使用してテストを行なっているが、今回はチップセットの性能にフォーカスを当てて検証してみたい。 ●nForce 680i SLIとの最大の違いはnForce 200の存在 nForce 780i SLIは、百の桁が上がっていることでも分かる通り、マーケティング的にはnForce 680i SLIからのメジャーアップデートという位置付けになる。しかし技術的に見ると、その実態は、nForce 680i SLIからのマイナーアップデートになっている。 両チップセットのブロックダイヤグラムは図1と図2に示した通りで、シリアルATA×6、IDE×1ch、USB 2.0×10、Gigabit Ethernet MAC×2、PCI Express x1×4など、おもにサウスブリッジとなるMCPによって提供される機能にはまったく差がないことが分かる。
それもそのはずで、ノースブリッジとなるSPP、サウスブリッジとなるMCPともに、nForce 680i SLIと同じ設計(マイクロアーキテクチャ)のチップとなっており、そのリビジョンアップ版が使われているからだ。そのため、対応するメモリはDDR2 SDRAMのままである点も同一なうえ、SLI Ready Memoryによってサポートされる最大クロックもDDR2-1200相当までで変わらない。ちなみに、ESAに関してはnForce 680i SLI登場後に発表された技術であるため、このチップセットのダイヤグラムに含まれていないが、これもnForce 680i/780i SLIともにサポートされる。 nForce 780i SLIの機能強化点は主に2つ。1つはYorkfield、Wolfdaleといった、45nmプロセスのCPUに対応する点だ。2つめがPCI Express 2.0 x16のサポートである。とはいえ、先述の通りチップ自体のマイクロアーキテクチャは変わっていないため、SPPはPCI Express 2.0をサポートせず、PCI Express x16を備えるのみだ。そこで、「nForce 200」というコンパニオンチップを介して、PCI Express 2.0インターフェイスが提供される(図3)。このnForce 200はスイッチの機能も持っており、PCI Express 2.0 x16を2系統提供できるようになっている。MCP側が持つPCI Express x16と併せて、3-way SLIを利用するわけだ。
ただ、SPPはPCI Express x16しか持たないため、このままではSPP-nForce 200間の帯域が不足する。そこで、SPPのPCI Expressをオーバークロックにより4.5Gbpsへ拡張。PCI Express 2.0の5Gbpsには一歩及ばないものの、SPP-nForce 200間のPCI Express x16レーンの帯域幅は理論上、上下合わせて14.4GB/secという計算になる。 先述の通り、nForce 200はスイッチの機能も持っており、ここに接続される2枚のビデオカードはNVIDIA SLI時に直接通信ができるようになっている(図4)。そのため、SPP-nForce 200間はPCI Express 2.0 x16のフルの帯域幅でなくても問題ないと判断されたと想像される。
さて、今回も引き続き、ASUSTeKの「P5N-T Deluxe」をテストに使用している(写真1)。前回、3-way SLIのテストを実施していることでも分かる通り、PCI Express x16スロットを3本備え、スロットの上部にはSPPとnForce 200のチップ、スロットの右側にMCPのチップが搭載され、各々がヒートシンクで覆われている(写真2)。 この3本のPCI Express x16スロットは、配線を見る限り、最上段と最下段の青いスロットがnForce 200、中段の黒いスロットがMCPから提供されているように見受けられる。ちなみに、2-way SLI時には“最上段と最下段に装着する”といいった内容がマニュアルに記載されており、nForce 200で完結するSLI構築が推奨されている。
●チップセットの違いによる総合性能比較 それでは、まずはチップセット別の総合性能比較を行なっていきたい。テスト環境は表1に示した通りである。比較対象はnForce 680i SLIを搭載する「P5N32-E SLI」(写真3)と、Intel X38 Expressを搭載する「Maximus Formula」だ(写真4)。CPUはnForce 680i SLIがサポートする最も性能の良いCPUということで、Core 2 Extreme QX6850を選択している。 なお、nForce 780i/680i SLIはSLI Ready Memoryをサポートしており、この性能も気になるところであったが、P5N-T DeluxeのBIOSからSLI Ready Memoryを有効にすると、まったく起動しなくなるというトラブルが発生してしまった。そのため、今回は定格のDDR2-800動作でのみ比較を行なっている。
【表1】テスト環境
それでは、Sandra XIIの「Processor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark」(グラフ1)、「.NET Arithmetic/Multi-Media Benchmark」、「JAVA Arithmetic/Multi-Media Benchmark」(グラフ2)と、PCMark05のCPU Test(グラフ3、4)の結果から見ていきたい。 .NET/JAVAを除いては基本的に横1列に並ぶのが正しい結果と言えるテストであるが、若干バラつきの見られる結果となった。誤差といえなくもない範囲ではあるが、全体的にnForce 780i SLIで芳しくない結果が出ており、やや気になるところではある。 また、nForce 680i SLIの.NET/JAVAでは浮動小数点演算テストであるWhetstoneで低めの数字が出ているが、ほかのテスト結果を見る限り、これはCPUの演算性能とは別の部分に問題があるように見受けられる。 続いてはメモリ性能のテストである。この連載では普段からSandraを利用したメモリアクセス速度のテストを行なっているが、何度も触れている通りnForceシリーズのチップセットでスコアが低くなる傾向がある。そこで、今回はPCMark05の16MBブロック転送テストの結果も紹介しておく。グラフはSandra XIIの「Cache & Memory Benchmark」(グラフ5)、PCMark05の「Memory Test - 16MB」(グラフ6)、PCMark05の「Memory Latency Test」(グラフ7)の順である。 Sandraに関してはやはりnForce両製品のメインメモリアクセスに関して問題がある動きが感じられる。逆にIntel X38 Expressが良過ぎる印象を受けなくもなく、ここは比較としてはふさわしくない。ただ、キャッシュメモリに関しては、ほぼ同等程度に発揮されている。 そこで、メインメモリのアクセスに関しては、PCMark05のメモリテストに含まれる16MBブロック転送の結果を参考にしたい。こちらを見ると、若干ではあるが、Intel X38 ExpressよりもnForce 780i SLIの方が良好な結果を見せている。ただし、nForce 680i SLIはIntel X38 Expressよりも悪い傾向になっている。nForce 780i SLIのメモリ周りに関しては、リビジョンアップの際に多少手が加えられたのかも知れない。いずれにしてもnForce 780i SLIとIntel X38 Expressは高いレベルで拮抗しているわけで、良い傾向とはいえるだろう。
次に実際のアプリケーションを用いたベンチマークテストの結果である。テストは、「SYSmark 2007 Preview」(グラフ8)、「PCMark Vantage」(グラフ9)、「CineBench R10」(グラフ10)、「動画エンコードテスト」(グラフ11)だ。 いくつか気に留めておきたいポイントが見られる。1つはnForce 680i SLIのパフォーマンスがいま一つ安定感に欠ける点だ。動画エンコードやCineBenchのようにCPUへ負荷が大きいアプリケーションではそうでもないが、SYSmark 2007やPCMark Vantageのようにさまざまなデバイスへ負荷がかかるアプリケーションでは、時折ガクンとパフォーマンスが落ちる。チップセットというよりはマザーボードと今回の環境の組み合わせによるものかも知れないが、nForce 780i SLIに比べ見劣りする結果となった。 一方、本題のnForce 780i SLIであるが、PCMark Vantageの結果から見られる通り、HDDのパフォーマンスがIntel X38 ExpressのICH9に劣る傾向がある。そのためか、SYSmark、PCMark Vantageに加え、動画エンコードでも性能が伸び悩む結果となった部分が多い。nForce 780i SLIに利用されているMCPは、IntelのICH8世代と同時期に登場したものであることも大きな影響を受けているのではないだろうか。
最後に3Dパフォーマンスのテストである。「3DMark06」(グラフ12、13)、「3DMark05」(グラフ14)、「Crysis Single Player Demo」(グラフ15)、「Unreal Tournament 3 Demo」(グラフ16)、「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ17)の各テストを実施している。 nForce 780i SLIと680i SLIを比較すると、3Dパフォーマンスでは若干ながらnForce 780i SLIが劣る傾向が見られる。ここまでの結果からCPUやメモリ周りのトータルパフォーマンスではnForce 780i SLIが良好な結果を見せてきたが、ここで逆転する現象が見えた格好だ。nForce 200を挟むことによるオーバーヘッドがありそうだ。 ●nForce 680i SLIとの3-way SLI性能比較 さて、次にnForce 780i SLI、nForce 680i SLIでそれぞれ3-way SLIを構築した場合のパフォーマンス差を見てみたい。テスト環境は表2の通りで、nForce 780i SLIにおけるテスト結果は、前回の記事から流用している。 GeForce 8800 GTXによる3-way SLIを構築し、2枚はNVIDIAリファレンスカード、1枚はASUSTeKの「EN8800GTX/HTDP/768M」を使用(写真5)。ディスプレイは2,560×1,600ドットの解像度に対応するナナオの「FlexScan SX3031W-H」を用いている(写真6)。 ちなみに、前回記事同様、nForce 680i SLIを用いても、やはりSLIを構築した時点でLOST PLANET EXTREME CONDITIONが起動しなくなってしまった。よって、nForce 680i 環境でもこのアプリケーションはテストできていない。
【表2】テスト環境
では、まずはDirect X9アプリケーションである、「3DMark06」(グラフ18~20)、「3DMark05」(グラフ21)、「F.E.A.R.」(グラフ22)の結果から見ていきたい。チップセットの違いだけということで、基本的に大きな差はない。 ただ、3DMark06のHDR/SM3.0テストで顕著であるが、低解像度の3-way SLI使用時やシングルビデオカードや2-way SLIにおいては、若干nForce 680i SLIが高いスコアを出し、高解像度の3-way SLIでは逆転する結果が見られる。 また、F.E.A.R.は全般にシングルビデオカードではnForce 680i SLIが好調であるのに対して、SLIでは2-way/3-wayともにnForce 780i SLIの方が優れたスコアがでる傾向になっている。
続いては、Direct X10アプリケーションにおける結果である。テストは、「Crysis」(グラフ23)、「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ24)、「World in Conflict」(グラフ25)、「Call of Juarez DirectX 10 Benchmark」(グラフ26)、「Unreal Tournament 3」(グラフ27)である。 先のDirect X9アプリケーションのところで紹介した、3-way SLIで描画負荷が高い状況でのみnForce 780i SLIが優れた結果を残すアプリケーションとしては、COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTSが挙げられる。フィルタを適用した場合にnForce 780i SLIの3-way SLIの方がパフォーマンスが高いが、ほかは全般にnForce 680i SLIの方が良いスコアだ。 また、非常に極端な結果となったのはCall of Juarez DirectX 10 Benchmarkで、2-wayまではnForce 680i SLIが僅差で高いスコアとなり、3-way SLIになると大差をつけてnForce 780i SLIが有利になる。このアプリケーションはビデオカードへの負荷がCPUに対して際立って高いこともあり、こうした極端な結果に結びついたのだろう。 World in Conflict、Unreal Tounament 3の2つは、nForce 680i SLIが全般に僅差で良好なスコアを出す傾向がみられたアプリケーションだ。ただ、World in Conflictはわりと高い解像度で使った場合でも、2-wayより3-wayの結果が低いシーンが散見されるのは特徴といえる。 ほかの異なる傾向となったのはCrysisである。2,560×1,600ドット以外の条件では、シングルではnForce 680i SLI、2-way/3-way SLIではnForce 780i SLIが良い結果となるが、2,560×1,600ドットのみ傾向が逆転する。明らかにほかと違いすぎる傾向であり、このアプリケーションに関してはマルチGPU対応パッチが出るまでは、最終的にどういう傾向なのか言及しづらいのが正直なところだ。 ただ、このCrysisを除けば、ある程度、傾向はまとめることができると思う。全般にnForce 680i SLIの方がパフォーマンスが良いが、描画負荷が高い条件ではnForce 780i SLIが差を詰めるもしくは逆転するといった結果が全体の傾向といえる。
●意外に消費電力が低いnForce 780i SLI環境
最後に消費電力のテストである。前半に行なった総合性能比較の各環境の消費電力をグラフ28、後半の3-way SLIのテスト環境における結果をグラフ29に示している。 マザーボードが違う環境であるため、チップセットの消費電力比較としては参考程度に留まるわけだが、際立って低い消費電力となったのはIntel X38 Expressだ。nForce両製品との差は大きく、マザーボードの違いを超えて、チップセットレベルで違いがあると見ていいだろう。 ただ、似たような構成といえるP5N-T Deluxe(nForce 780i SLI)とP5N32-E SLI(nForce 680i SLI)の比較において、前者の方が消費電力が低い結果になったのは少々意外だった。 先述の通り、nForce 780i SLIは、nForce 680i SLIのチップのリビジョンが上がっているだけである。これはnForce 200と結ぶPCI Expressインターフェイスのオーバークロック動作に対する耐性をもたせるためのものと見ることができる。そのため、PCI Expressインターフェイスをオーバークロック動作している分の消費電力は増加するはずだ。 また、nForce 200に関しても、ヒートシンクを載せる必要がある程度に発熱するチップであることが考えれば、無視できる消費電力とは思いにくい。チップセットレベルではnForce 780i SLIの方が消費電力が高くなると考える方が自然だ。 だが、現実にはハッキリとnForce 780i SLIを利用した環境の消費電力が低い傾向が出ている。SPPとMCPのプロセスがこなれて低電圧で動作するようになったといったこともあるかも知れないが、マザーボードの違いによるものが大きいと筆者は考えている。特に、P5N-T Deluxeには、ASUSTeK独自の電力管理機構である「EPU」を搭載しており、このあたりも低消費電力に貢献しているのかも知れない。
●780iの優位点はYorkfield対応に帰結 以上の通り、nForce 780i SLIのパフォーマンスを見てきたが、まずトータルの性能として、nForce 680i SLIより安定して若干良い傾向は見られた。とくに、同クロック、同パラメータで動作するメモリパフォーマンスでも優れた点を見せたのは嬉しい傾向といえる。 ただ、3Dパフォーマンスについては、nForce 680i SLIの方が安定して良い。これは前半の総合性能比較でも、3-way SLIの比較でも一致した傾向だ。ただし、3-way SLIを構築したときは、描画負荷が高まるとnForce 780i SLIの方が有利になっている。描画負荷が高いアプリケーションや、2,560×1,600ドットでフィルタを適用してクオリティを高めるなどの使い方をするならばnForce 780i SLIの方が良いということになるが、それほど大きな差ではなく、現実的にはnForce 680i SLIの方が3-way SLI構築には無難な選択肢に感じられると思う。 だが、そうした高負荷な状況で3Dゲームを楽しむユーザーが、Yorkfieldに対応しないnForce 680i SLIを選択、もしくは使い続けるというのは、ちょっと考えにくい。また、3-way SLIを構築することによって、相対的にCPUがボトルネックになりやすくなるわけで、CPUアップグレードの選択肢が狭まるという面もある。 PCI Express 2.0対応によるパフォーマンスへの期待が注目されがちなnForce 780i SLIであるが、実際のところは、むしろYorkfieldに対応するという点の方が重要度が高いように思う。このチップセットの一番の魅力は、YorkfieldでSLIを組める。この点に尽きるのではないだろうか。 □関連記事 (2007年12月25日) [Text by 多和田新也]
【PC Watchホームページ】
|