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【Intelイスラエル訪問レポート】
イスラエルに建設中の“Fab28”を公開
~2008年末までに大量生産を開始

イスラエルのキリヤットガットに建設中のFab28の完成予想図。周囲にはまだ場所に余裕があり、将来のさらなる拡張も可能になっている

11月29日(現地時間) 開催



Maxine Fassberg氏

 米Intelは、同社がイスラエルのキリヤットガット(Kiryat Gat)に建設中の新しい半導体製造施設“Fab28”を報道陣に公開した。Fab28は、同社が今年(2007年)後半から量産を開始している45nmプロセスルールの半導体を製造する工場として建設を進めているもので、最新の300mmウェハを利用して生産が行なわれる予定となっている。

 Intelイスラエル副社長兼技術・製造事業部 本部長のMaxine Fassberg氏によれば、Fab 28はすでに建物の建造を終え、現在は生産に必要な装置を導入している段階にあるという。これからさまざまな動作検証などを経て、来年(2008年)末までには製品の大量生産を開始することになるという。

●浮き沈みの激しい半導体業界。多大な投資はある意味ギャンブル

 Maxine Fassberg氏は、まずはじめに現在の半導体産業の現状について説明した。Fassberg氏は半導体産業の売り上げについて、ビルが建ち並ぶ夜景の景色になぞらえて「半導体産業は浮き沈みが激しい産業だ。過去10年を見てみても、売り上げは上がったり下がったりだ。こうした状況の中で、製造施設にどのように投資していくかは半導体製造企業にとって非常に重要だ」と述べ、製造施設への投資の難しさを指摘した。

 確かに、半導体メーカーにとって最大のコストは、ファブ(Fab)と呼ばれる製造施設への投資だ。半導体メーカーにとってそうした製造施設への投資を回収するには、そこで製造した半導体を売り上げるしかなく、それは言うまでもなく企業としての収益に大きな影響を与える。だが、その売り上げがジェットコースターのように上下している現状では、製造施設への投資に慎重にならざるを得なくなるのも無理はないとも言える。

半導体業界の売り上げは年によって上がったり、下がったり

 しかし、そうした中でもIntelは45nm、そしてその先の32nmと最新プロセスルールの製造工場に多大な投資を続けていくという。そうした強気の見通しをする理由の1つとして、Fassberg氏は産業全体におけるマイクロプロセッサの普及率をあげた。「マイクロプロセッサの産業全体の規模は年間で400億ドルだ。それに対して半導体全体では3,500億ドル、電機産業全体では1兆8,000億ドルの売り上げがある。つまり、マイクロプロセッサはわずか2%程度に過ぎず、まだまだ大きな可能性があると考えている」(Fassberg氏)とのべ、今後マイクロプロセッサがより多くのデバイスに使われていくようになることで、まだまだ成長の余地があるという見解を明らかにした。

マイクロプロセッサ業界の販売額 半導体業界全体の販売額 電機業界全体の販売額は1兆8,000億ドル。マイクロプロセッサ(400億ドル)はまだ2%に過ぎず、今後も成長の余地があるとFassberg氏は説明した

●Intelの強みは最先端のプロセス技術、マイクロアーキテクチャ、大規模な製造施設

 そうした状況の中でのIntelのアドバンテージは、なんと言っても世界最大の半導体メーカーという“規模の論理”で優位に立っていることだという。Fassberg氏は「300mmウェハを製造できるようなメガファブ(大規模な工場)を1つ作るには、建物に10億ドル、製造装置に25億ドル、給料や敷地使用料などに5億ドル以上と、合計で35億ドル近くの投資が必要になる」と述べ、最新の300mmウェハを利用して製造する半導体製造工場への投資が巨額になっていることを指摘した。

 Fassberg氏は調査会社iSuppliが調査した2006年の半導体メーカーの売り上げ統計のグラフを示し、「年間の売り上げが80億ドルや50億ドル以下の半導体メーカーがまだまだ多い。そうしたメーカーにとって300mmウェハのメガファブへの投資は余裕でできるものではないだろう」と述べ、こうした巨大な投資をできる余裕がある半導体メーカーは決して多くないことを指摘した。確かに、売り上げが50億ドルしかないメーカーにとって35億ドルもの投資は売り上げの半分にも相当し、かなり厳しいものであると言わざるを得ない。Fassberg氏はさらに「今後はより小さな規模の半導体メーカーはアライアンスを組むなどの対策に出てくるだろう」と考察した。

 昨年(2006年)の推計で300億ドルを超える売り上げがあるIntelにとっても、300mmウェハのメガファブへの投資は決して生やさしいものではないが、それでもIntelは45nmプロセスルール世代のメガファブを新たに2つ建設し、引き続きアドバンテージを拡大していきたいという考え方を持っている。Intelが現在建設を行なっている45nm/300mmウェハのFabが、米国アリゾナ州のFab32、そしてここイスラエルのキリヤットガットのFab28だ。なお、米国ニューメキシコ州のFab11Xは現在の90nmプロセスルールから45nmプロセスルールへ切り替わる。従って、45nm世代のメガファブは合計で3拠点ということになる。

【表1】Intelの45nmプロセスルールのFab
場所建設方法ウェハ生産開始(予定)
D1D米国オレゴン州ヒルズボロ65nmから切り替え300mm2007年(開始済み)
Fab32米国アリゾナ州チャンドラー新規300mm2007年(開始済み)
Fab11X米国ニューメキシコ州リオ・ランチョ90nmから切り替え300mm2008年
Fab28イスラエルキリヤットガット新規300mm2008年

 こうした大規模な製造施設を持っていることは、Intelにとって競争上の大きなアドバンテージになっていることは言うまでもない。「Intelのアドバンテージは、ベストとも言えるプロセスルール技術、優れたマイクロアーキテクチャデザイン、そして世界で最大規模の半導体製造施設を所有していることだ」(Fassberg氏)との通り、45nmプロセスルールの製品を他社に先駆けて量産して製品を投入したり、さらにIntelが“Tick-Tock”(チック・タック)と呼ぶ、最新プロセスルールと新しいマイクロアーキテクチャを交互に投入する確実な新製品のリリース、そしてそれらを大量に生産する施設を他社よりも大規模に作り上げること、これらが相乗効果となって、2007年終わりの予測で340億ドル近いという売り上げ(iSuppliの調査より)を実現しているのだ。

2006年の半導体メーカーの売り上げ。35億ドルもかかる新しいメガファブの建設コストは各メーカーの収益に大きな影響を与える Intelの強みは、最先端のプロセス技術、マイクロアーキテクチャ、そして大規模な製造技術という三拍子がそろっていること そうした強みを活かすべく、Tick-Tockモデルで、新プロセスルールと新マイクロアーキテクチャを交互に投入していく

●コピーイグザクトリー戦略でFabのすべてをコピー

 Intelの45nmプロセスルール製品の現状だが、発表はすでに行なわれている。11月12日(米国時間)に発表された、“Yorkfiled”ことCore 2 Extreme QX9650と、“Harpertown”ことXeon 5400シリーズだ。

 Fassberg氏はIntelの45nmプロセスルールについて「“High-Kとメタルゲートを採用したトランジスタは、'60年代後半のポリシリコンゲートのMOS型トランジスタの採用以来の大きな変革だ”というゴードン・ムーアの言葉の通り、ユーザーに大きなメリットをもたらすはずだ」と述べ、Intelの45nmプロセスルールが省電力や性能などの点でユーザーにメリットをもたらすとアピールした。

 Fassberg氏によれば、現在のところ45nmプロセスルールは、まず米国のオレゴン州ヒルズボロにある300mmウェハのロジック開発FabであるD1Dにおいて生産が開始され、そこで得られた情報は、今後稼働していく3つのメガファブ(Fab32、Fab28、Fab11X)の3つにすべてコピーされていくという。「IntelのFabは、コピーイグザクトリー(Copy Exactly)と呼ばれる戦略に基づき、その内容すべてがコピーされる。それは建物の造りはもちろんのこと、製造装置の型番、位置、通路、はてはトイレの位置などすべてがその対象だ。

 「このコピーイグザクトリーの戦略により、すべてのFabをスムーズに立ち上げることができるのだ」(Fassberg氏)と話す通り、45nmプロセスルール世代のFabはすべてD1Dの内容がコピーされるという。とにかくすべてをコピーすることで、結果的にスムーズに立ち上げることができるのだ。Intelはこうしたコピーイグザクトリーの戦略を、ここ数世代でずっと行なっており、それを45nm世代でも繰り返していくのだ。

45nmプロセスルールのアドバンテージ 45nmプロセスルールを利用してさまざまな製品に展開 Intelの300mmウェハを利用して製造するFab。45nm世代ではパイロットとなるD1Dを含めて4つの製造施設を展開

●イスラエルに多大な投資を行なうIntel。さらなる雇用計画も

 Intelの45nm世代のFabのうち、イスラエルに建設されるのがFab28だ。以前の記事でも説明したように、Intelはイスラエルに複数の拠点を持っている。その中でも大きな拠点はハイファ、キリヤットガット、エルサレムの3つだが、それ以外にもいくつかの拠点があるという。まとめると以下のようになっている。

【表2】Intelのイスラエルにおける拠点
都市名機能担当製品/工場名
ハイファデザインセンターマイクロプロセッサ/ソフトウェア/ワイヤレス製品
ヨクネアムデザインセンターグラフィックス/通信
ヤクムデザインセンターハードウェアコンポーネント
ペタフ・チクヴァデザインセンターWiMAX製品
エルサレムFabFab8
キリヤットガットFabFab18/28

 Fassberg氏によれば、2006年にIntel イスラエルからイスラエル国外に輸出された総額は13億ドル。イスラエルの企業としては最大でイスラエルの電機業界の8.5%を占めるという。さらに'99年~2006年にIntelがイスラエルに投資した額は110億ドルに達しており、こちらもイスラエルの私企業では最大の投資額になっているとのことだ。従業員に関しても、イスラエルの人口の0.1%にあたる7,000人近くを雇用しているが、2008年にはFab28の本格稼働にあわせてさらに1,000人の雇用を予定しているという。

 Fassberg氏によれば、Intelは今後もイスラエルへの投資を続けていくという。「我々はFab28を中心に今後も投資を続けていく。我々がFab28に投資する額は、2009年の終わり時点までの予測で35億ドルに達する見込みだ」(Fassberg氏)と述べ、Intelが今後もイスラエルの経済界において重要な位置を占め続けるだろうという見通しを明らかにした。

Intelのイスラエルにおける拠点 Intelはイスラエルにおいて、非常に規模の大きな輸出業者であるという
2008年にはさらに1,000人の新規雇用を創出するという イスラエルにおける私企業による投資としてはIntelが最大

●2008年末までには大量生産を開始予定のFab28

 今回報道陣に公開されたのはFab28の外観で、現在建物の建設はほぼ終わりつつある段階だという。Fab28には2つの建物があり、クリーンルームと呼ばれる実際に製造を行なう棟、それを稼働させるためのオフィス棟、クリーンルームに化学物質を提供するためのケミカル棟の3つがそれだ。今のところは、まだオフィス棟とクリーンルーム棟の建物は内装工事などを行なっている段階で、実際の利用はこれからということになりそうだ。

定点観測ビデオによる建設の様子。2005年12月から建設を開始し、11月29日の時点では建物そのものの工事はほとんど完了していた
Fab28のクリーンルーム棟。すでに建物の工事は完了しており、内装工事などを行なっている段階だという クリーンルーム棟の薬品処理施設。要するに巨大な空気清浄機のようなもの
Fab28のオフィス棟。まだ内装工事中のようで、工事関係者が中を歩き回っていた 化学薬品などを貯蔵するケミカル棟。パイプを通じてクリーンルーム棟へと供給する まだまだ工事関係の車両が走り回っている

 Fassberg氏によればFab28での大量生産は2008年末を予定しており、これからその目標に向けて製造設備の導入が行なわれるという。設備の導入後には、実際にラインを動作させてきちんと生産できるかが確認され、その後生産が開始されることになるという。

 なお、気になる生産の立ち上がりだが、Fassberg氏によれば「45nmプロセスルール世代は、なんといっても素材が変わるので、立ち上がりに関しては難しいかと予想していた。しかし、オレゴンのD1Dを視察してきたが、我々が考えていたよりも順調に立ち上がっていた。それをコピーイグザクトリーでここFab28に持ってくるので、順調に進むのではないかと考えている」とのことだ。

□Intelのホームページ(英文)
http://www.intel.com/
□関連記事
【11月30日】Core 2 Duoの故郷を報道陣に公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1130/intel.htm
【10月26日】Intel、Fab 32で45nmプロセスのCPUを製造開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1026/intel.htm
【2005年12月2日】Intel、イスラエルに45nmプロセスのFab 28を建設
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1202/intel.htm

(2007年12月3日)

[Reported by 笠原一輝]

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