PCでは、複数の異なるインターフェースが使われているが、ここ10年で、きわめてポピュラーな存在になったのがUSBだ。シンプルなモバイルノートでさえ、2つや3つの端子を備えていて、各種周辺機器の接続に活用されている。この端子が、もっと汎用的に活用できるものにならないものか。USB 3.0規格の策定は、その未来を模索するプロセスでもある。 ●ACアダプタの呪縛Googleの創業者の一人であるラリー・ペイジが、データ転送のみならず、電力供給もできるインターフェースを提案したのは、2006年頭のCESにおける基調講演でのことだった。デバイスごとに異なる電源の規格を統一し、もはや収拾のつかない状態になっているACアダプタの呪縛から解き放たれたいという趣旨の話だったと記憶している。 ただ、そのために、まったく新しいインターフェースを策定するというのは、ちょっと考えにくいし、正直、無茶だと思う。だから、現状でポピュラーなものを発展させる方が普及はたやすい。だとすれば、やっぱりUSBだろう。 実際、現在のUSBは、電源の供給という点で、きわめて重要な役割を果たしている。いわゆるバスパワーで作動する各種デバイスへの駆動のほか、携帯電話やPDA、スキャナなど、miniB端子や専用2極端子を持つデバイスの充電、駆動などに活用されている。 USBが供給できる電源は5V/0.5A、つまり、2.5Wだが、最近では2つのUSB端子を束ねることで1Aを供給するような二股ケーブルなどもよくみかける。 USB端子は、通常、PCに装備されているものだが、量販店等などでは、コンパクトなUSB電源供給専用のACアダプタも500円前後で売られている。かつては0.5Aのものが多かったが、最近は1A供給のものもあるようだ。このアダプタと汎用的なUSBケーブルさえあれば、多くのデバイスを充電し、作動させることができるのだ。すべての周辺機器がUSBで充電でき、作動させることができ、そのための端子も共通であればどんなに便利だろうか。 ●新たな標準電源規格の策定が進められている「USB 3.0」は、そのデータ転送速度が注目されている。なにしろ、USB2.0の10倍というのが目安である。カッパーの他に、光伝送も規格化されている。数字的なオーダーが1桁変わるというのは、かなり大きなインパクトを与えるものだ。 IDFのショーケースでは、USB 3.0のプロモーターグループが草案段階にある新規格を紹介していたが、話を聞いてみると、電源供給に関する規格は、論議が進行中で、まだ何も決まっていないのだそうだ。そして、現在の5V、0.5Aが非力であるというのは、十二分に認識しているともいう。 ここまで普及してしまった以上、5Vというのはもう変えられないだろう。できるとすれば、1.5Aくらいまでを供給できるようにすることだ。5V/1.5A=7.5Wあれば、バスパワーだけで使えるデバイスは一気に増える。そのことで、デバイスとPCを接続するためのケーブルが1本だけでいいというケースが多くなる。つまり、ACアダプタがいらなくなり、バスパワー駆動デバイスが増えるということだ。イメージスキャナなど、比較的大きな電力を要するデバイス、製品によってはモバイルプリンタなども動いてしまいそうだ。 本当は電圧がもっと高い方が効率はよさそうだが、そこには目をつぶり、すべてのデバイスがDC5Vで稼働するように規格が統一されていれば、かなり便利な世界ができあがる。 たとえば、部屋の壁のACコンセントのそばに、DC5Vのコンセントが世界統一規格の形状、つまりUSB端子として用意されていて、あらゆるデバイスが、それを使えるようなイメージだ。海外に行っても、コンセントの形状や電圧に悩む必要はない。そして、PCそのものでさえ、そのコンセントを使って充電ができ駆動ができる。妄想に近いとは思うが、そうなればいいのにと願っているユーザーは、けっこうな数、いるんじゃないだろうか。そして、その妄想をかなえる直近のチャンスがUSB 3.0だと思うのだ。 ●電源供給源としてのUSB株式会社村田製作所とセイコーエプソン株式会社が無接点式の急速充電システム「ワイヤレス急速充電システム」の共同開発に取り組むことで合意したそうだ。2009年中には量産体制を整えるとのことだが、こちらもまた、電源供給事情にインパクトを与えそうな話題だ。なにしろ、台の上に置いておくだけで、短時間で充電ができるのだ。デバイスがワイヤレス対応していれば、まさに常時ケーブルレスが成立する。 だが、どんなに便利な機構でも、それが標準化されていて汎用的なものではなければ、その恩恵は激減する。単に異なる電源供給手段が増えるだけで、かえって話はややこしくなるかもしれない。 USBに関しては、それを電源供給のためだけに使おうという試みを初めて手にしたのは、ノートPCにつけるUSBライトだっただろうか。今ではすっかり有名になった扇風機は、調べてみるとイーレッツから2001年に発売されている。あれからまだ6年間しかたっていないのに、USBを電源のためだけに利用するデバイスは、今や山のように存在する。こうして電源供給源としてのUSBは、まさに市民権を得たわけで、この市民権を行使しない手はない。 電子機器は、電源の供給がなければ、何の役にもたたない。でも、その確保に関しては、軽視されていた時代がけっこう長く続いてきたように思う。特にリチウムイオンバッテリの登場以降は、バッテリ頼りとなり、その充電機構までは配慮が足りなかったといってもいい。スタイリッシュなデバイスなのに、なぜか大きく不格好なACアダプタが付属しているというのは、よくある話だ。たとえ、アダプタがコンパクトにできていたとしても、AC側のケーブルをワールドワイド対応のために240V対応すると太くなってしまうので、アダプタから端子が直に出ているようなケースでは、テーブルタップに差し込む際にも、隣の差し込み口と干渉してしまい8口タップが4口くらいにしか使えないこともある。そういう状況がずっと続いてきた。 充電ができるリチウムイオンバッテリやリチウムポリマーバッテリが優れていることはわかっていても、一般的な乾電池を使うデジカメに根強い人気があるのは、月に一度二度しかカメラを持ち出さないユーザーにとっては、いざ使おうとしたときに充電ができていなかったりすることなく、そのあたりのコンビニで容易に入手できる乾電池を使えることが好まれるからだという。 リチウムイオンバッテリは、放置しておいても数カ月は、ほとんど自己放電することがないので、本当ならいったん充電しておけば、使いたいときに使えないということはなさそうなのだが、形状がまちまちなら充電器もバラバラなので、汎用的とは遠い位置にある。これもまた、専用充電器を使う以外に、USBでも充電できるようになっていれば事情は変わってきそうだが、最近は、USB充電できるデジカメはあまり見かけない。 今やPCはコモディティである。家庭にAC100Vがあることが当たり前であるように、“USB5V”があることを新しい当たり前として認めれば、電子機器はもっと身近な存在になるにちがいない。
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(2007年9月28日)
[Reported by 山田祥平]
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