フリースケール・テクノロジ・フォーラム・ジャパン2007レポート Windows SideShowデバイスの開発キット9月12日 開催 フリースケール・テクノロジ・フォーラム・ジャパン2007(FTFJ2007)では、午後に数多くの技術講演が開催された。「トラックA」から「トラックF」までの6個のトラックに分かれ、それぞれのトラックで5件の講演を連続して行なったのである。当然ながら、すべての講演を聴講することは不可能だ。そこで聴講した技術講演のなかから、いくつかをピックアップして概要を紹介する。 本稿ではSideShowデバイスの開発キットに関する技術講演を採り上げる。「小型LCD搭載製品の短期間開発―.NET Micro FrameworkとSideShow用i.MXS開発キットの活用」と題した講演(講演番号B-5)で、フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン ワイヤレスグループ マルチメディア・アプリケーション・マーケティングの神長慎氏が講師を務めた。 Windows SideShowについては、本誌でも何度か紹介されており、ご存知の方が少なくないと思う。Windows SideShowはWindows Vistaに追加された新しい機能で、PCと「Window SideShowに対応した機器(Window SideShowデバイス)」の間で情報を交換できるようにする。具体的には、PCはSideShowデバイスにデータ(テキストや画像など)を送信し、SideShowデバイスからイベント(ボタン入力やメニュー選択など)を受信する。
SideShowデバイスに求められる機能は、PCと接続できることと、ディスプレイを備えていることくらい。PC周辺機器や組み込み機器の開発者からみると、アイデア次第でいろいろなSideShowデバイスを比較的手軽に開発できる。なおSideShowを備えるのはWindows VistaでもHome Basic以外のエディションである。個人向けの販売店で入手できるPCはHome Premium搭載機が主流となっているため、ほとんどのPCでSideShowデバイスを扱えることになる。 SideShowデバイスには、Enhanced(エンハンスド)とBasic(ベーシック)の2つのバージョンがある。エンハンスドはMicrosoftが提供するソフトウエア部品を利用するデバイス、ベーシックは独自仕様に基づくソフトウエア部品を利用するデバイスであり、エンハンスド・デバイスの方が開発が容易である。フリースケールのSideShow用開発キットも、エンハンスド・デバイスの開発を想定したものだ。 エンハンスド・デバイスのソフトウエア構成は、最下層にOSに相当する「.NET Micro Framework」が動作しており、その上に拡張機能であるSideShow Extensionがあり、さらにその上に、GUIを司るSideShow Shellが載る形になっている。ここで.NET Micro Frameworkとは、Microsoftが提供予定の組み込み機器向けソフトウエア・プラットフォームのこと。Windows CE搭載機器よりもさらに小規模で低消費電力の組み込み機器を想定している。フットプリントは250KB~500KBと少なく、ハード・リアルタイム性を持たない。Microsoftからは.NET Micro Framework用のソフトウエア開発キットが提供されている。
.NET Micro Framework搭載機器およびWindows SideShowエンハンスド・デバイスのアプリケーション開発用にフリースケールが商品化したのが、「i.MXS(アイエムエックスエス)開発キット」である。開発キットのリファレンス・ボードに搭載しているマイクロコントローラが「i.MXS」なので、このような名称となっている。i.MXSはARMコア内蔵マイクロコントローラ・ファミリ「i.MX」のローエンド品で、低価格かつ低消費電力の組み込み機器に適する。解像度がVGA(640×480ドット)のカラー液晶ディスプレイに対応した液晶コントローラとUSB 1.1対応のデバイス・コントローラを内蔵しており、SideShowエンハンスド・デバイスに十分な機能を備える。
リファレンス・ボードにはマイクロコントローラのほかに、2.5インチのQVGA(320×240ドット)カラー液晶パネル、32MB SDRAM、8MBのフラッシュメモリ、USB 1.1インターフェイス、RS232ポート、キーパッドなどが搭載されている。開発キットにはUSBケーブルが付属しており、PCとボードはUSBケーブルで接続される。開発キットの価格は約6万円である。 アプリケーション(またはガジェット)開発の手順は次のようになる。Windows Vista搭載PCでVisual Studioを使い、アプリケーションを開発する。次にUSBケーブルを経由して、リファレンス・ボードのフラッシュメモリにアプリケーションを書き込む。それからリファレンス・ボードでアプリケーションを動かし、デバッグを実行する。またMicrosoftのWebサイトから、SideShowデバイス用のシミュレータを入手できる。 なおフリースケールは「i.MXS開発キット」の普及に力を入れており、その一環として現在、SideShowアプリケーション・プログラムのコンテストを開催中である。コンテストの応募者は、開発キットを特別価格の15,450円で購入できる。限定50キットはすでに完売したので、追加で20キットを用意したと講演では述べていた。 この講演は技術トラックの中では最後の時間帯(午後5時20分~午後6時10分)に当たり、聴講者はそれほど多いとは言えなかった。しかし講演の最後に設けられた質疑応答は非常に活発で、有益と思われる情報がいくつか得られた。 例えば、SideShowデバイスを使うとPCの電源がOFF(またはスタンバイ)になっていてもPCからSideShowデバイスにデータを取り出せるとMicrosoftのSideShow紹介ページには説明がある。これは実際には、SideShowデバイスがPCをいったん起動させ、PCのデータを取り出してからPCの状態を戻していることが明らかとなった。この一連の動作はPCのユーザーからは見えない。 SideShowデバイスは、まだ普及しているとはいえないが、アイデア次第で発展する可能性を秘めており、もう少し注目されてもよいジャンルだと思われる。 □フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンのホームページ (2007年9月18日) [Reported by 福田昭]
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