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HPが考えるイメージングの未来




 Hewlett-Packard(HP)が、アジア/パシフィック地域のコンシューマを対象に、この秋冬に投入する製品をお披露目するイベントがシンガポールで開催された。前週のニューヨークでのイベントは、PCを統括するPSG主催によるものだったため、PC関連製品がクローズアップされていたようだが、こちらではプリンタ各製品の新製品紹介も積極的だった。

●オールインワン機はすでにPCの周辺機器ではない

 プリンタ製品の写真画質競争が一段落し、その次のトレンドとしてオールインワン仕様が当たり前になって久しい。本当は画質競争も、もっと続いてほしいところなのだが、現実問題として、ローエンド機でも目を覆うようなプリントは出てこなくなっている。YouTubeの動画だって、プリクラの出力だって、画質はさておき、おもしろいものはおもしろい。やっぱり原点はコンテンツそのものだなということがよくわかる。コンシューマは、それを知ってか知らずか、今あるものを存分に楽しんでいる。

 そんな状況の中で、今年、HPが提案するのは、まさに究極のオールインワン機だ。タッチパネルを採用した明快なGUIを持つプリンタ/スキャナ/コピー機能統合の製品で、今回はついにスーパーマルチドライブを内蔵、メモリカードリーダで読み取ったデータをDVDに書き込み、さらには、LightScribeテクノロジを使ってメディア盤面へのラベルプリントまでこなしてしまう。

 日本での発売予定機種は未定だが、ハイエンド機のHP Photosmart C8180のスペックを見てみると、3.5型タッチスクリーン、有線/無線LAN、Bluetooth対応、CD/DVD書き込み、96bit/6色カラースキャンといったところで、主要特長だけを見る限り、文句のつけようがない。

 たぶん、PCを購入するユーザーは、決して少なくない割合で、デジカメ写真を楽しみたいからという動機を持っている。特に、日本では、メールやインターネットは携帯電話で十分と考えるユーザー層が少なくないので、その傾向は強いと思う。

 こういう製品が出てきてしまうと、その手のユーザーには、もはや本当にPCを購入する理由がなくなってしまうのではないかと思えてしまう。ここまでくると、オールインワン機は、PCの周辺機器ではなく、もはや、立派なアプライアンスだ。

●Webページプリントにシフトするプリンタ用途のメインストリーム

 プリンタのアプライアンス化は、果たしてPCの普及に、ある種の弊害とならないのか。この疑問をCris Morgan氏(Senior Vice President Imaging and Printing Group HP Asia Pacific & Japan)にぶつけてみたところ、杞憂であるという返事がかえってきた。特に、これからPCの本格的な普及期を迎えるアジア地域でも同様だという。

 なぜなら、彼らは、インターネット接続の便利さや必要性をすでに理解し、インターネットへの接続にはPCが必須と認識している。だからPCの市場はまだまだ伸びるし、それに伴ってオールインワン機のような市場も同様に伸びるというのだ。

 でも、日本の様子を見ていると、本当にそうなのだろうかという懸念も残る。個人的に身の回りを見回しても、特に、高年齢層では、携帯電話で十分にインターネットを楽しんでいる人々が目立ち、PCはいらないという声も聞こえてくるからだ。

 その結果、得られるコンテンツは、リッチなものを追求するよりも、コンパクトにまとまり、3型前後のディスプレイでも十分に実用になるものばかりになっていくことはないのだろうか。ちょうど、写真プリントの画質が、ある程度のところまできて、それで十分という気配が漂い始めたようにだ。

 実は、HPはすでに、写真プリントをプリンタのメイン用途としては考えていないようだ。プリンタの出力の多くは、Webページの印刷にシフトしているともいう。そして、次のソリューションとして、スクリーン上で見えているコンテンツを、いかに、思いのままにプリントアウトさせるかというフェイズで製品開発に取り組んでいる。

 今秋からは、こうしたソリューションを実現するために、IEのプラグインとして、ページのプリントユーティリティなども提供されるようになる。Webページのプリントで、右端が欠けたり、不必要な項目のために、1行だけはみ出して不要なページが印刷されるなどの不便を解消するとともに、画面の切り取りツールを用意し、専用のクリップボードに複数のクリップを一時保存、それらを並べ、不必要な要素は削除した上で印刷したり、それをPDFとして出力したりすることができるユーティリティだ。

 国内のプリンタベンダーは、すでにこうしたユーティリティを添付しているところもあったが、デモンストレーションを見て、実際にその場で試してみた限りは、けっこう使い物になりそうで、Webページの印刷に際する多くの不満は解消されそうだ。

 つまり、これからのHPにとってのオールインワンプリンタは、写真をプリントするアプライアンスとしての意味合いを持たせつつも、インターネットをより便利に楽しくするための周辺機器として、PCを補佐する役割がメインになるということだ。

●HPが新たに起こすムーブメント

 「What You See is What you Get」の頭文字をとったWYSIWYGは、永年、イメージングがめざしてきた基本理念だった。そこでは、スクリーンが主であり、プリンタは、それを忠実に出力することが求められた。それは、今でも変わらないけれど、HPの話を信用するなら、なにやら、ちょっと風向きの違うムーブメントが起こりつつあるようだ。

 WYSIWYGである必要はなく、紙とスクリーンは違うのだから、紙は紙で、それにもっとも適した出力があってもいいのではないか。HPのユーティリティなどを見ていても、今はまだ、プリント出力のための最適化は、人間が行なう必要があるが、プリントのときだけに使われるスタイルシートなどでプリントをインテリジェントに制御できるようになる可能性も出てきそうだ。現在のWebページでは、印刷ボタンやプリントフレンドリーレイアウトのページなどを別に用意して、同様のことをやろうとしているが、今後はもう少し状況が変わっていくかもしれない。

 写真のプリントとWebページのプリントで大きく性格を異とするのは、写真が保存のためにプリントされるのに対して、Webページは役に立てるためにプリントされ、用が済めば捨てられる運命にあるという点だ。だから、それなりの品位で印刷ができればいいが、スピードは速いほうがいい。なにしろ、今、巷で定着している用語でいうなら「インターネットを印刷する」のだから、印刷対象となるコンテンツは膨大だ。

 もし、そういうことが本当に実現するなら、サイズが大きく満員電車の中ではとても広げられず、読んでいるうちに指が真っ黒になってしまう新聞を、必要な部分だけ毎朝プリントアウトして通勤するようなユーザーも出てくるかもしれないし、そのためのコンテンツを用意するサイトも出現する可能性がある。

 ぼくは、今でも紙の新聞を購読しているが、インターネットですませようとしないのは、掲載されているコンテンツの中で、何が大事で何が大事でないのかを一目でわかる一覧性が、Webページの多くにないからだ。これは、新聞社の本業が新聞の発行であり、Web版はその副業であるからだろうけれど、いつまでも、この状況が続くとは思わない。A4用紙の両面2枚程度に、その日の朝刊のダイジェストが数秒でプリントできるのなら、プリンタの使い方はまたひとつ、大きな変革を迎えるだろう。たとえば、Googleニュースなどと連動して、プリントページがインテリジェントに作れれば、おもしろいことができそうだ。HPが将来的なビジョンとして考えているのは、たぶんそういうことなのではないだろうか。

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【9月13日】米HP、コンシューマー製品の発表イベントをシンガポールで開催(DC)
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/accessories/2007/09/13/7031.html
【9月7日】米HP、ファッションとの融合を提案する大規模な製品発表会を開催
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0907/hp.htm

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(2007年9月14日)

[Reported by 山田祥平]


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