先日、Athlon 64 X2の最高動作クロックとなるAthlon 64 X2 6400+を発売したことが記憶新しいAMDだが、その1つ下の製品となるAthlon 64 X2 6000+に、89W版が新たにラインナップされた。従来と同じ90nm SOIプロセスでより消費電力を抑えた本製品を検証してみたい。 なお、本製品は日本のみでの発売となり、8月31日から秋葉原などで販売される。1,000個ロット時のOEM価格は25,000円。 ●TDPを大幅に抑制したハイエンドCPU まず、今回発表されたAthlon 64 X2 6000+(89W版)のスペックを従来の125W版製品と比較したものを表1にまとめている。
【表1】新旧Athlon 64 X2 6000+のスペック比較
TDP以外では、コア電圧や電流が引き下げられたほか、T.Caseも緩和されていることが分かる。125W版のAthlon 64 X2 6000+は、製品ブランドの位置付けはメインストリーム向けCPUではあったものの、熱設計的な位置付けはハイエンドのAthlon 64 FX-62などと同じ条件が適用されていたわけだが、これでようやく名実ともにメインストリーム向けCPUと同じ感覚で利用できるCPUになった。 ただ、このCPUには、どうしてこのような低消費電力化が実現可能となったのか、という点で謎が残っている。まず、プロセスは従来と同じ90nm SOIが利用されている。そして、CPUの写真とCPU-Zの結果から見る限り、従来製品と同一リビジョンのコアが適用されているようにも見える(写真1~2、画面1~2)。 しかし、AMDから提供されたスペック情報を見ると、トランジスタ数やダイサイズが従来製品から変化している。これは、いずれかの資料に間違いがない限り、コアの再設計があった可能性を示唆している。 ●性能の同一性と消費電力の抑制を確認 それではベンチマークの結果を紹介していきたい。テスト環境は表2に示した通りで、今回の主題は、従来製品からパフォーマンスの変化がない点の確認と、消費電力がどの程度抑制されるかのチェック、という2点である。
【表2】テスト環境
マザーボードはASUSTeKの「M2N32-SLI Premium Vista Edition」(写真3)で、同社Webサイトからダウンロードできた最新版BIOSとなる「BIOS Revision 0603」を適用している。 まず、「Sandra XI SP4」の「Processor Arithmetic Benchmark」と「Processor Multi-Media Benchmark」(グラフ1)、「PCMark05」の「CPU Test」(グラフ2、3)を利用したCPU性能、そして、Sandra XI SP1の「Cache & MemoryBenchmark」(グラフ4)と「EVEREST Ultimate Edition 2007 Version4.00」のCache & Memory Benchmark(レイテンシの項のみ、グラフ5)の結果を見ておきたい。 同一アーキテクチャ、同一スペックの両CPUであり、ほぼ同じスコアとなっているのは妥当な結果といえる。グラフ1のDhrystoneや、グラフ4のキャッシュ性能で若干ながら目立つ差も見られるが、全体を通して見ると、この差が決定的なものと判断できるほどではなく、誤差と見ていいだろう。 続いてはアプリケーションと3D描画関連のテストである。実施したのは、「SYSmark 2004 Second Edition」(グラフ6)、「CineBench 9.5」(グラフ7)、「動画エンコードテスト」(グラフ8)、「3DMark06」の「CPU Test」(グラフ9)、「3DMark06」(グラフ10)、「3DMark05」(グラフ11)、「F.E.A.R.(SoftShadows無効)」(グラフ12)、「Splinter Cell Chaos Theory(HDR有効)」(グラフ13)、「LOST PLANET EXTREME CONDITION(DX9版)」(グラフ14)の各アプリケーションだ。 ここまでに紹介した通り、CPUとメモリの性能はほぼ同一ということもあって、ほぼ同じスコアとなる結果が出ている。。唯一、経験的に誤差が小さいはずのF.E.A.R.の結果で安定した差が付いているのが気になる程度である。ただ、CPUの特性を細かく判別するような性格のアプリケーションではないし、差も数fps程度なので、これも誤差と判断して良いかと思う。 最後に消費電力のテスト結果である(グラフ16)。TDPが125Wから89Wへと引き下げられたわけだが、実際の消費電力にはどの程度インパクトを与えるかというと、今回のテストではアイドル時で38W、アプリケーション実行時の結果で40~50Wという大きな差が出ている。 以前にテストした、125W版とCore 2 Duo E6700との比較(http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0220/tawada96.htm)ではピーク時に60W以上の差が付いていたわけであるが、このCPUに肉薄する消費電力まで落ちたことになるだろう。同一スペックのCPUでここまで消費電力を落とせたことは高く評価できる結果である。
●メインストリームCPUの感覚で利用できるハイエンドCPU 以上の通り、結果を見てきたわけであるが、まず消費電力云々の前の前提条件ともいえるであろう125W版との性能差については、差がないことを確認できている。そして、消費電力ではアイドル時、ピーク時ともに40~50W前後の抑制効果は期待できる結果となっている。 AMDの次世代プロセッサ「Phenom FX」の動作デモなども行なわれ、次への期待が高まる中、せめて初夏の価格改定時に出ていれば、と思わせる感もあるが、1つのプロセスを熟成して、違うセグメントを狙った製品を作っていくというAMDらしい製品ではある。 冒頭でも触れた通り、これまでのAthlon 64 X2 6000+は価格こそ2万円台にまで落ちたものの、冷却回りはハイエンドCPU並みの要件が求められてきた。しかし、この製品の投入によって、メインストリームと同じ条件で利用できる高性能CPUという位置付けになったとみていい。 例えば、現在4000~5000番台の89W TDPのCPUを使っている人にとっては、CPUを差し替えるだけでハイエンドCPUが搭載できることになる。Socket AM2環境を利用しているユーザーにとって、嬉しいアップグレードパスが登場したといえる。 □関連記事 (2007年8月31日) [Text by 多和田新也]
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