OEMメーカー筋の情報によれば、Intelは8月にロードマップをアップデートし、ノートPC向けCPUの拡充を図ることを明らかにしたという。それによれば、IntelはこれまでノートPC向けCPUの熱設計消費電力には、44W、35W、17W、9W、5.5Wという5つの枠を用意してきたが、Montevina世代のCPUとなる開発コードネーム“Penryn(ペンリン)”世代においては、25Wの熱設計枠を追加することを明らかにしたという。 この25W枠のCPUを追加することで、CPUのクロック周波数を上位版の35W版とほぼ同じものを実現しながら、LV版に利用されているようなより薄型軽量なシャシー(筐体)のものを利用することで、高性能でより薄型のノートPCを実現するのが狙いだ。 ●新たに通常電圧版のシャシー向けに25Wの熱設計消費電力枠を設定 既報の通り、Intelは今年(2007年)の5月に投入したSanta Rosaプラットフォームの後継となるモバイル向けプラットフォームとしてMontevinaプラットフォームを2008年第2四半期に投入する。その詳細に関しては以前の記事でふれたとおりで、CPUのPenryn、チップセットのCantiga、通信モジュールのShirley Peak/Echo Peakから構成されている。 そのCPUのPenrynの熱設計消費電力の枠は、オリジナルの計画ではSanta Rosa用、つまり現行のCore 2 Duo(Meromコア)と同等であるはずだった。実際、4月に北京で行なわれたIntel Developer Forum(IDF)において、Intel 上級副社長兼モバイルプラットフォーム事業本部 本部長のムーリー・イーデン氏は「Montevina用Penrynの熱設計消費電力の枠は、Santa Rosa用のそれを維持する。通常電力向け、低電圧向け、超低電圧向けはデュアルコア版とシングルコア版が従来通り利用される」と述べており、この時点では44W、35W、17W、9W、5.5Wという5つの枠と、Santa Rosa用と同じ構成になっていたのだ。 しかし、OEMメーカー筋の情報によれば、Intelは新たに通常電圧版(SV版)に25Wの枠を設定することをOEMメーカーに対して通知してきたという。これにより、MontevinaプラットフォームにおけるCPUの熱設計電力の枠は以下のようになる。
【表1】Santa RosaとMontevinaのCPU熱設計消費電力
●新たな熱設計消費電力枠の設定は45nmプロセスへの自信の表われ 以前の記事でも指摘したが、Montevina向けPenrynには、Penryn-QC(クアッドコア/L2キャッシュ12MB)、Penryn-DC(デュアルコア/L2キャッシュ6MB)、Penryn-DC/3M(デュアルコア/L2キャッシュ3MB)、Penryn-SC(シングルコア/L2キャッシュ2MB)という4種類のダイがあるのだが、このうち25W版が用意されるのはL2キャッシュメモリがハーフサイズのPenryn-DC/3M版のみとなる。つまり、フルサイズキャッシュ版のPenryn-DCについては、35W版のみの設定となる。
【表2】Penrynのダイバリエーション
確かにPenryn-DC/3Mは、上位版のPenryn-DCに比べるとL2キャッシュのサイズが3MBとなるので、ダイサイズも小さくなっているほか、クロック周波数もリリース時のPenryn-DCが3GHzを超えるのに対して、25W版のPenryn-DC/3Mは2.53GHzに抑えられており、技術的にはそのあたりが熱設計消費電力を25Wに抑えることができる大きな理由だろう。 一方で別の理由を指摘する関係者もいる。Intelに近い関係者は「おそらくIntelの45nmプロセスルールの歩留まりがIntelが当初想定していたよりもよいのだろう」と指摘する。というのも、CPUの熱設計消費電力というのは、歩留まりの高低と大きな関係があるからだ。一般的には、熱設計消費電力を下げるということは、歩留まりが下がるということを意味するからだ。 例えば、熱設計消費電力を35Wに設定している場合、ウェハからとれるダイのうち20%が2.53GHzで動作するという歩留まりだったとしよう。それを熱設計消費電力を35Wから25Wに下げると、35Wでは2.53GHzで動いていたものも25Wにすると動かないものもでてきてしまう。先ほどの例で35Wでは20%だった歩留まりが、例えば10%や5%になってしまうというわけだ。 1つのウェハから100個のダイがとれると仮定すると、熱設計消費電力が35Wの場合は2.53GHzが20個とれるのに対して、25Wでは5%だとすると5個しかとれない計算になる。つまり、35Wでは2.53GHzで売れるはずの個体(この例で言えば15個)を、それ以下のグレードとしてしか販売できないことになる。下手をすればこれが数百万個の単位で発生するわけで、それがIntelの収益に与えるインパクトは決して小さくないはずだ。 もともと、Penryn-DC/3Mも35Wの熱設計消費電力に設定されていたのだから、それを25Wに下げることができたということは、熱設計消費電力を下げたとしても、歩留まりが目標を上回っている、つまり歩留まりが予想されていたよりもよいということなのだろう。 実際、あるOEMメーカーの関係者は「Intelの担当者が45nmプロセスルールの立ち上がりは非常によいと説明していった」と述べており、そうした情報を裏付けている。 ●OEMメーカーのなかには25Wの継続性に疑問を呈する声も この新しい25Wの熱設計消費電力枠という設定に関するOEMメーカー側の反応はさまざまであるという。ネガティブな反応からいくと3つの反応があるという。 1つ目の反応は、Intelが新しく設定したこの25Wの枠が、過去の経緯から来る「今更なんだよ」という反発だ。そもそも今の通常電圧版の35W(SV/35W版)の設定が、もともとは25Wだったものを35Wに拡張したものなのだ。 Intelは2003年にBaniasを導入した時、通常電圧版の消費電力は25Wに設定していた。この25WはBanias(Pentium M)、次のDothan(同)までは継続されたものの、デュアルコアのYonah(Core Duo)、Merom(Core 2 Duo)では35Wに拡張されてしまったからだ。この時に、OEMメーカーはいろいろ知恵を絞って、25Wから35Wになってもシャシーが厚くなったりなどがないように熱設計をなんとかやりくりして対応したのだ。そうした経緯があるだけに、いまさら25W版をもう一度作りましたと言われても“はい、そうですか”と言えないわけだ。 もう1つは、この25Wの枠が今後も継続されるのかという点に対する不信感だ。すでに述べたように、熱設計消費電力の枠は言ってみれば歩留まりと裏返しであるので、仮に今後Intelの歩留まりが悪化した場合、この枠がなくなり35Wに統合ということも当然考えられることだ。今後、25W向けのシャシーを新しく設計するとして、次の世代になった時に25Wの枠がなくなってしまってはその投資が無駄になる。 そして最後の反応だが、この話がMontevina(モンテヴィーナ)プラットフォームのリリースまで1年を切ったこの段階で出てきたということへの当惑だ。というのも、各OEMメーカーかも2008年の第2四半期に予定されているMontevinaプラットフォームに向けてシャシーの設計を始めてしまっており、今更25W版を、と言われても35Wの設計で動いていたものに25W版を乗せるぐらいしか方策はなく、すぐに25Wに最適化したシャシーを作るのは厳しい情勢だ。 ●SV版の高性能と省スペースを両立したいベンダには福音となる可能性 そうした問題点はあるものの、OEMメーカーのなかにはこの25W版の存在を好意的に受け止めているところもある。具体的には、現在LV版向けのシャシーを利用してノートPCを作っているようなベンダだ。 例えば、2008年に第2四半期時点でのLV版の最高速SKUは今年の第4四半期にリリースが予定されているCore 2 Duo L7700(1.8GHz)だが、同じ時期に投入されるPenryn DC/3M/25W版の最高SKUは2.53GHzになる。LV版の熱設計消費電力は17Wで、あと8W拡張することで25Wになる計算になる。つまり、LV版のシャシーを持っているベンダが8Wなんとかすることで、メインストリーム向けの高クロックのCPUを搭載することが可能になるのだ。OEMベンダにとって、性能が低いと思われているLV版を搭載するよりは、SV版を搭載した方がカタログ上の見栄えもよく販売戦略上メリットがあると言える。 もう1つ重要なことは、2008年第3四半期には以前の記事で紹介した小型のパッケージが導入される。これにより、CPUやチップセットの実装面積を減らすことが可能になる。チップの実装面積が小さくなることは、それだけマザーボードのサイズを小さくすることが可能になるので、この点でもこれまでSV版では難しかったより小型で薄型のノートPCへの搭載が可能になる。 そうした観点から、SV/25W版の存在は高性能ながら薄型軽量なノートPCを製造したいOEMベンダにとっては福音となる可能性を秘めていると言える。
□関連記事 (2007年8月30日) [Reported by 笠原一輝]
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