山田祥平のRe:config.sys

シルバーをゴールドに変えるあの手この手




 高齢になってから始めるPCはたいへんだが、いったんそのハードルをクリアすれば、高齢によるネックをさまざまな場面でPCがパーソナルデジタルアシスタントとしてバックアップしてくれる。

●なんちゃってクアッドを指摘する恐るべきおばあちゃん

 インテルが「コンピューターおばあちゃんの会」の会員向けPC勉強会を開催、吉田和正共同社長がPCを構成する主要部品を紹介しながら、PCを組み上げ、完成品を同会に寄贈した。CPUはCore 2 QuadにチップセットはIntel G33 Express、メモリは2GB、250GのHDDを搭載する高スペックなWindows Vista Home Premium PCだ。バランス的にHDDの容量がちょっと少なすぎるとか、マザーボードにDVI出力がないのは使いにくそうだとか、つっこみどころはあるものの、自作が思ったほど難しくないことを知った参加者だから、ビデオカードやHDDの増設にもチャレンジしてほしいものだ。もしかしたら、そんな拡張の余地を残したのは、意図的なものだったのかもしれない。

 勉強会後、参加したおばあちゃんの1人に感想を求めたところ、思ったよりも簡単そうだという答えが返ってきた。かといって自分でチャレンジするのは怖いという。PCはちょっとさわるとすぐに機嫌を損ねるので、なかなか親しめないともいう。それは、PCのソフトの問題であって、機械の問題ではないのだから、怖がらずに、ぜひ、やってみてくださいとお願いしておいた。

 吉田社長は、PCが自作できることの理由として、「TVは部品数が多くて自作は無理ですが、PCは部品の点数が少ないから自作も簡単なんです」という説明をしていた。それもあるが、やはり、業界標準の部品を組み合わせて構成できるという点が大きいだろう。業界標準だからこそ、ネジ穴の位置から、ベイのサイズまですべてが統一されている。パーツのすげ替えも簡単だ。

 勉強会中、会員の1人が光学ドライブで使われるフラットケーブルと、シリアルATAケーブルの違いを質問した。パラレルATA用のフラットケーブルはもうすぐその使命を終える運命にある。実にするどい着眼点だ。

 さらに、別の会員はCore 2 Quadのダイを見せられ、コアが2つだけ存在することを指摘、それでなぜクアッドなのかと聞き、関係者が答えに窮する場面もあった。これで「なんちゃってクアッド」が思わぬところで露呈されてしまった。

 「コンピューターおばあちゃんの会」は、2007年7月26日~29日の期間、おばあちゃんの原宿、巣鴨地蔵通り商店街に和風インターネットカフェ「すがもPC茶屋」を開くそうだが、インテルは、その企画にも協力するなど、シルバー世代へのアプローチに熱心に取り組んでいる。

●ハードはともかくソフトが微妙なシニア向け技術要件

 先だってインテルは、シニア世代にやさしいPCライフの環境構築に向けた技術要件を策定、その概要を発表した。インテル、ビットワレット、マイクロソフトによる「スマートデジタルライフ推進プロジェクト」の一環として策定されたもので、今後、業界各社の賛同を募り、準拠ハードウェア、サービスの普及促進を図っていくという。

 プレスリリースによれば、PCの技術要件は次のようになっている。

搭載CPU:Intel Core 2 Duo プロセッサ
OS:Windows Vista Home Premium または Ultimate
Webブラウザ:Microsoft Internet Explorer 7 または同等の機能を持つWebブラウザ
タッチパネル対応ディスプレイ/ペン操作対応タブレット
ディスプレイ・パネルのサイズ:9型以上
初期状態復帰ボタン
バッテリ
記憶装置:SSD(Solid State Drive)
メモリ容量:1GB以上
重量:1.5kg以下
FeliCaポート搭載
Ethernet、Wireless LAN 搭載
ドッキングステーション
USB 2.0、Webカメラ、マイクロフォン内蔵

 すでに準拠PCとしてPBJが製品のプロトタイプを紹介しているが、要件に微妙に届いていない部分もある。携帯電話との連携などで、FeliCa技術は今後登場するであろうキラーアプリケーションにとって、必須の存在となるだろうから、それを取り入れたことは評価できる。また、あえてコンバーチブルにせず、ピュアタブレットにしている点も悪くない。モバイル用途を重視しなければ、ディスプレイパネルは、もう一回り大きいものでもよかったかもしれない。

 問題はソフトだ。この技術要件ではPC以外に、ポータルやコンテンツ、サービスに対しても要件を規定しているが、そちらは、最低限のGUIを提案するにとどまり、曖昧さは否めない。たとえば、クリックボタンについてはピクセル数で指定しているが、画面解像度が特定できない以上、絶対的なピクセル数を規定することに、どんな意味があるというのだろう。また、「大きな文字で読み易く、理解し易い」文章とは、どのくらいのサイズで、どのような内容の文章を指すのだろう。

●ユーザー体験の向上は資源の無駄遣いではない

 誤解されることを承知で書けば、実は、このような施策でシルバー世代を特別扱いすることは、本当はあまり望ましくないことなんじゃないかとも思っている。というのも、デジタルデバイドの問題は世代を問わずに潜在すると感じているからだ。それでも、こうした動きが出てきたことは悪いことではない。シルバー世代に優しいPCなら、どの世代にも優しい存在でいられそうだ。

 PCの良いところは、その汎用性にある。専用機は単純だが、その非力なプロセッサゆえに犠牲になっている部分がたくさんある。TVを見るのと、ビデオを録画するのと、音楽を聴くのと、本を読むのに、個別の専用機を使うことを強いられ、それぞれのリモコンに悩むよりも、PCを唯一の入り口にして、そこからすべての目的を達成できた方が覚えることは少なくてすむ。アプリケーション毎の違いはあるにしても、その基本的な作法が同じであることは、Windowsが永い年月をかけて築いた貴重な資産だ。何でもPCで用が足りるのなら、PCをさわっている時間も増え、そのことは、スキルアップにつながっていくだろう。

 バスの帯域幅の狭さゆえに、もてあまし気味のプロセッサ能力は、ぜひ、さらなるユーザー体験向上に積極的に使ってほしいものだ。デジタルスキルの高いユーザーであれば、貧しいGUIでも、それなりに使いこなすだろうし、処理速度の遅さは経験でカバーできる部分もある。でも、世の中にはそうでない層の方が多いのだ。その層のために、リッチなユーザー体験を追求することは、決して資源の無駄遣いではないと思う。

□コンピューターおばあちゃんの会のホームページ
http://www.jijibaba.com/
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【7月3日】インテル、シニア向け“Edyパソコン”のガイドラインを策定
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0703/sdlp.htm
【2006年6月13日】インテル/ビットワレット/マイクロソフト、FeliCaの普及を目指す共同プロジェクト
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0613/bitwallet.htm

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(2007年7月13日)

[Reported by 山田祥平]


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