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WWDC 2007レポート

WWDC 2007基調講演詳報(1)
~ Windows対応のSafariが登場

会期:6月11日~15日(現地時間)

会場:San Francisco「Moscone Center West」



 米AppleによるWWDC 2007の基調講演はおよそ1時間30分にわたって行なわれた。今年の講演は「Leopardの新機能」、「Windows版Safariの登場」、「iPhoneへのサードパーティ製アプリケーションの導入」の3点が大きなポイントとなっている。速報版に続いてお届けする本稿では、Leopard以外の2つの要素と、速報版では紹介できなかったゲストスピーカーなどについて取り上げる。

iPhoneを除いた全てのデモンストレーションを自ら行なったスティーブ・ジョブズCEO

 講演はほぼ定刻の現地時間10時にスタートした。ホールの照明が落ち、最初にスクリーンに登場したのは「どうも、Macです。PCです。」という例のCM。正式には「Get a Mac(Macをはじめよう)」というシリーズだ。日本ではお笑いのラーメンズによるバージョンが日本向けにアレンジされて放送されている。ここで流されたのはもちろん米国のオリジナル版。内容はPC役の人が、黒のロングスリーブシャツにジーンズというスティーブ・ジョブズCEOのスタイルを真似て登場し「Vistaは実に良く売れている。私は辞任、そしてAppleは解散します」とかますもの。その手には茶色のZuneが握られているなど、わかる人にはわかるというこの場でしかできないギャグになっている。

通常のCMでは背広姿のこの男性(PC)、今日は衿なしのロングスリーブシャツにジーンズというジョブズCEOっぽい格好で登場

 場内爆笑の中、本物のスティーブ・ジョブズCEOが登壇。まずは「WWDC 2007へようこそ」と参加したデベロッパを歓迎して講演がスタートした。世界中から訪れた今年のWWDCへの参加者は5,000人を超えて過去最大規模。ADC(Apple Developers Connection)への登録者も95万人を数え、昨年比20万人増。開発者コミュニティの拡大と近年の注目度の高まりを強調してみせた。またWWDCでの講演においてはApple Storeの現状や市場の伸びなどについて触れられるケースも多いが、今年はそうした部分は取り上げられていない。

 ジョブズCEOはこの1年を振り返り、その最大のトピックとして「すべてのコンピュータをIntelに移行するというアグレッシブなプロジェクトを、アップルの内部チーム、アプリケーションをユニバーサル化したデベロッパが素晴らしい仕事をした」と評価。そして、素晴らしい仕事をしたもうひとつのグループがIntel自身だと述べて、Intelのポール・オッテリーニ社長をステージへと招いた。

 Appleのチーフデザイナーであるジョナサン・アイブ氏が自らデザインしたという記念と感謝の品をジョブズCEO自らオッテリーニ社長へと手渡すと同氏は「アップルと仕事ができたことは、私にとって最も素晴らしいことの1つ」と答え、さらに「我々はさらに素晴らしい製品の開発を続けている」と現状のパートナーシップが良好に進展していることをデベロッパの前で印象づけて見せた。

我々が成し遂げてきたこと。全てのラインナップでIntel化を推し進めてきた 2005年のWWDC以来の登場となったIntelのポール・オッテリーニ社長 Appleのチーフデザイナー、ジョナサン・アイブ氏のデザインした記念品をプレゼント。オッテリーニ氏は「さらに素晴らしい製品を開発中だ」と今後も良好な関係を示唆

 ゲストスピーカーの紹介はさらに続く。「ゲームに関する素晴らしいニュース」として、世界最大のゲームパブリシャーであるEA(エレクトロニックアーツ)がMacプラットホームへ帰ってくることを歓迎した。WWDCに限らず、Appleの講演では日本のユーザーにとっては意外に思えるほどゲームの話題が多い。今ではXboxのキラータイトルとして認知されているHaloも、開発会社がMicrosoftに買収される前はMac向けのタイトルとして開発が始まり、初公開はMacworldの基調講演であったほどだ。これはPCゲーム市場が日本からは考えられないほど巨大で、PS3やXbox360、Wiiなどの家庭用ゲーム機市場と肩を並べるほどの規模があるからにほかならない。魅力的なゲームの存在は、コンピュータを購入するという動機付けに欠かすことのできない要素なのである。

 Macのゲーム市場は現状どうしてもPCゲームの移植作品で成り立たざるをえない。Macゲーム専門のパブリシャーがヒット作を中心に移植を行なっている。言い換えればPCプラットホームに比べてハズレがないのも事実だが、幅の広さや即応性にはかなり劣る。そんななか、世界最大のパブリシャーであるEAが自社が提供するマルチプラットホームのひとつにMacを加えることは、まさにビッグニュースであるわけだ。

 ステージに登場したEAのチーフクリエイティブオフィサーであるBing Gordon氏は「コマンド&コンカー3」、「バトルフィールド 2142」、「Need for Speed Carbon」、そして「ハリーポッター」シリーズなど、誰もが知るEAの人気タイトルをMacプラットホームに供給することを明らかにした。もちろん定番のスポーツタイトル「MADDEN NFL '08」や「TIGER WOODS PGA TOUR '08」などもラインナップに加わっている。

 ゲーム関係で登場したもう1人のゲストは、FPS開発のカリスマJohn Carmack氏。id Software代表でチーフテクニカルオフィサーを兼任する。Quake、DOOMといったタイトルは、ゲームファンならずとも一度は耳にしたことがあるはずだ。

 Carmack氏がWWDCに持ち込んだのは、同社の新世代エンジン「id TECH5」。技術デモとしてはこのWWDCが初公開になるという。正式発表は7月に開催されるE3 Business Summitで、Mac、PC、PS3、Xbox360向けに提供される。さらにMacプラットホームに関しては、E3でもう1つの発表を行なうことも予告した。

世界最大のゲームパブリシャーであるEA創業者の1人、Bing Gordon氏。現在のEAはマルチプラットホームのタイトルが多く、PCや家庭用コンソール機に次ぐプラットホームとしてMacが加わる。ジョブズCEOは「EAが本格的に帰ってきた」と歓迎 FPS開発ではカリスマ的存在、id SoftwareのJhon Carmack氏。初公開となる同社の新世代エンジン「id TECH5」を披露した。同時にE3におけるさらなる発表も予告 「id TECH5」デモの一場面。従来のタイル状なテクスチャとは異なる手法、20GBにも及ぶ巨大なメガテクスチャを使って世界を表現する

●Windows対応Safariの登場で、Safariのシェアを拡大

 ジョブズCEOによる講演の定番である「One more thing…」。今回は、Mac OS Xの標準WebブラウザであるSafariのWindows対応というサプライズだった。噂系のサイトでは総アルミボディのiMacとか、SSD搭載のウルトラポータブルとか極秘情報という呼び名の妄想が飛び交う中で、このことを予想に加えていたのはほとんどなかったと思われる。可能性としては以前から指摘されていたのも事実だが、このタイミングで現実化するとは考えられていなかったことだ。

Safari 3.0で、Mac OS XとWindows XP/Vistaにマルチプラットホーム化する

 ジョブズCEOはまずSafariのマーケットシェアの拡大について触れた。2003年にそれまでのInternet Explorerに代わるMac OS Xの標準ブラウザとして登場してから約4年でユーザ数は1,860万人ほどに達し、5%のシェアを獲得した。同氏が示したデータによれば、ほかにInternet Explorer(以下IE)が78%。Firefoxが15%を占める。OSのシェアを考えれば、Windows標準であるIEの絶対的な優位は変わらない。またマルチプラットホームで展開するFirefoxに対して、Mac OS X単独のプラットホームでは、客観的にも5%は上限に極めて近いラインと考えるべきだろう。

 Safariのシェアをさらに伸ばすにはどうしたらよいか? その結論が、Windows対応のSafariを開発するというアイディアを現実へと移すことだった。ジョブズCEOが言うようにAppleには「iTunesなど、Windowsアプリケーションの開発経験がある」。実際、AppleがWindows向けにも開発を行なっているアプリケーションには成功事例が多い。iTunesはもちろんQuickTimeなどもMac OS以上にWindowsプラットホームでインストールベースを飛躍的に伸ばしているソフトウェアだ。

 ジョブズCEOは、Windows対応版のSafariの優位性をアピールするにあたって、その高速性を前面に出した。Windows版SafariはWindows XPそしてVistaの2つに対応するアプリケーションだが、XP上で計測したデータを示してみせた。HTMLのパフォーマンスでは、IEで2.4秒のものがFirefoxでは1.6秒、Safariでは0.9秒で処理が行なえる。また、JavaScriptでも同様に、4.6秒、3.7秒、2.2秒というスコアを示して見せた。

 ジョブズCEO曰く「Safariはもっとも革新的なWebブラウザであり、最速のブラウザでもある。IE7に比べて2倍高速で、Firefoxと比較しても1.6倍速い。さらに、GoogleとYahoo!の検索機能を統合している」とのことだ。

 速報や僚誌でも既報のとおり、Windows対応のSafariは基調講演の終了とほぼタイミングを同じくして、パブリックβ版のダウンロードが開始されている。提供は米国のAppleサイトからのみ。Leopardに搭載される「Safari 3.0」とほぼ同等の機能が実装されている。Windows版だけでなく現行のMac OS X Tigerで利用できる「Safari 3.0」も同様にパブリックβのダウンロードが可能になっている。Windowsユーザーだけでなく、いち早くLeopardの一端に触れたいMacユーザーも一見の価値はあるだろう。

 一方でこれらはβ版ということもあり、特に日本語環境下において不具合発生の報告が早々に話題に上っている。これらはWindowsにおいてはOSが日本語版という要素に加えて、ブラウザ上の2byte文字表示に関する実装の甘さがあるようだ。マルチランゲージのMac OS Xにおいても、特に日本語が含まれているサイトでの安定度には欠ける。

 今となっては懐かしい話ではあるが、最初のSafariがパブリックβとして提供された時も特に日本語関係の処理は酷い物であった。禁則処理などは言うに及ばず、特定の文字コードが化けたりもした。それでも現状は5%のシェアを確保し、多くのMacユーザーが満足できるものとなっているわけだから、ここはβと割り切るしかないだろう。前回同様に、バグ報告のためのボタンも用意されている。願わくば日本語関係のバグレポートはApple本社ではなくアップルジャパンでもある程度の取りまとめをするなどの工夫は欲しい。前回は、日本人にしか気づきにくい日本語特有の問題を英語を駆使してApple本社の米国人エンジニアに報告するという非効率的で解決の遅れそうな手段が中心となっていた。完成度はもちろんのこと、こうした状況の改善も望みたいところである。

2003年に登場したSafariは、2007年までに約5%のシェアを得るに至った IEが圧倒的な78%というシェアを持つ。マルチプラットホームのFirefoxが15% 次期Safari3.0は、Mac OS XとWindowsのマルチプラットホームでシェアの拡大を目指す
Leopardで表示したNew York Timesのサイト Windows XPで表示したNew York Timesのサイト Windows Vistaで表示したNew York Timesのサイト
Windows XP上で動作させた時のHTMLパフォーマンス Windows XP上で動作させたときのJavaScriptパフォーマンス Google、Yahooの検索を統合。もっとも革新的で高速なWebブラウザと強調

●iPhoneは6月29日に米国で出荷開始。Web2.0でサードパーティアプリも開発可能に

 iPhoneが基調講演の話題として取り上げられるのは、WWDCの参加者にとっても予想どおりという展開であろう。ジョブズCEOは敢えてiPhoneを「One last thing…」として、最後のテーマに選んだ。最初のスライドはJune 29 18Daysと書かれたもの。 「iPhoneの出荷は6月29日になる」とジョブズCEOは説明した。

 WWDCで重要視される理由「では、開発者にとってはどうか?」。次に出てきたこの言葉は、参加者の待ち望んだポイントである。ジョブズCEOによれば、iPhoneが初公開されたMacworld Expoにおいても説明したように、iPhoneをクローズドにするのはiPhoneを安全な状態に保つためというのが最大の理由である。そこで「安全な状態を保ち、サードパーティによるアプリケーション拡張ができる状況」を生み出すための方策が、AJAXなどWeb2.0の技術を用いて、標準的なWebアプリケーションとして提供する手法だ。

 iPhoneにはMac OS Xと同じ完全なSafariエンジンが組み込まれている。すべてのサードパーティ製アプリケーションはSafariを介してiPhoneへとアクセスする。そのため、ユーザーが操作するうえではあたかもiPhone上のネイティブアプリのように見えるとジョブズCEOは説明した。

 またこの手法のメリットとして、アプリケーションの配布はユーザー個々に届けたりダウンロードさせたりする必要がない。開発したアプリケーションはインターネット上に置けばそれでできあがり、アップデートも容易だ。SDKも不要で、Webアプリケーションを作成する技術があれば誰でもiPhoneの機能が拡張できる。そして、「Amazonやネットバンキングの取引と同じくらい安全」とジョブズCEOは胸を張った。

 iPhoneのデモには、iPhoneソフトウェアを担当するScott Fostall氏が登場。「ここに参加している皆さんが作ったWebアプリケーションから、iPhoneのサービスが利用できます」と実際に1人で1カ月以下の期間、600行程度のソースコードで作ったというデモ用アプリケーションを使って、iPhone標準のメールアプリを呼び出してのメール送信やGoogle Mapの利用などを実演して見せた。

 日本のユーザーにとっては今のところ指をくわえて見ているしかないiPhone。Macworldでは来年以降にアジア地域での展開も言及されていたが、今回の講演では販売地域の拡張について触れられることはなかった。

 Leopardの詳細については、続報の基調講演(2)で詳しくとりあげる。

iPhoneにサードパーティ製アプリケーションを搭載する革新的な方法とは? iPhoneにはフルスペックのSafariエンジンが搭載されている AJAXなどのWeb2.0ベースアプリケーションでSafariを介しiPhoneへアクセス。あたかもネイティブなアプリケーションのように組み込み機能と連携する
iPhoneのデモには、iPhoneソフトウェアを担当するScott Fostall氏が登場 実際に1人で1カ月以下の期間、600行程度のソースコードで作ったというデモ用アプリケーションを使って、iPhone標準のメールアプリを呼び出してのメール送信 同じデモ用アプリケーションで、Google Mapとも連携してみせた

□Appleのホームページ
http://www.apple.com/
□WWDC 2007のホームページ
http://developer.apple.com/jp/wwdc/
□WWDC 2007ニュースリリース
http://www.apple.com/jp/news/2007/may/01wwdc.html
□関連記事
【6月12日】【WWDC2007】Leopardに搭載される10の機能を紹介
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0612/wwdc02.htm
【6月11日】Apple、Mac OS X標準Webブラウザー「Safari」のWindows対応ベータ版を公開(窓の杜)
http://www.forest.impress.co.jp/article/2007/06/12/safari3beta_en.html

(2007年6月13日)

[Reported by 矢作晃]

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