第381回
ソニー「VAIO type T」開発者インタビュー



 VAIOシリーズ発売10周年モデルとして登場した新型VAIO type T(TZ)。単純な軽さだけで言えば、軽量化を大前提に開発されたtype G、あるいはパナソニックの「Let'snote R6」には及ばないが、薄型のデザインや柔軟なドライブ構成など、多様な使い方に対応したハードウェア構成を選べるなど、独特の魅力を放つ製品に仕上がっている。

 今回はその規格、開発に関わったメンバーに加え、複雑な筐体構造の組み立てを工場の生産ラインに落とし込んだ製造現場の技術者に、製品が生まれてきた背景を聞くべく、長野県安曇野市豊科にソニーイーエムシーエス長野TECを訪ねてみた。

チームリーダーの鈴木雅彦氏 ソフトウェア、BIOS担当の藤井 康隆氏
メカ担当の花村英樹氏 電気系統担当の宮入専氏 ワンセグチューナ担当の帰山武士氏

●たどり着いた「妥協しないデザイン」

 まずは型どおりに、企画スタート時の状況から伺ってみた。前モデルのVAIO type T(TX)も、同シリーズ2世代目のモデルとして、2スピンドル機としては非常にコンパクトな仕上がりだったが、搭載プロセッサはシングルコアプロセッサに限られていた。今回はさらにCore 2 Duoを搭載した上で、トータルのパッケージや使い勝手も改善していかなければならない。

超えるべき目標となったバイオノート505

 「企画は昨年(2006年)7月ぐらいからスタートさせました。当初は10周年モデルという話は出ていなかったのですが、企画を進めるうちに“そういえば、これが出る時期はちょうど10周年だ”という話になり、TXの開発に関わったメンバーで新しい挑戦をしようとなったんです。type Tは小型モバイル機ですから、バイオノート505を超えるものを2スピンドルのパッケージで作りたいというのが目標でした」

 もっとも、いまだにソニーのモバイルPCではベンチマークになっているバイオノート505だが、発売から10年が経過し、若い購買層は505を見たこともない人が増えている。加えて2スピンドルでワイド液晶のtype Tは、製品カテゴリの面でも初代505とは異なる。それでも初代505を意識するのはなぜなのか?

 「TZでは、筐体デザインの面で妥協しないことを最初から決めていました。薄くフラットな筐体デザインを実現するには、本体部とバッテリを重ねないよう配置しなければなりません。すると必然的に初代505と同様のヒンジ部をシリンダー状のデザインにすることになります。ソニーでシリンダーデザインとなると、やはり初代505と比較する人が出てきます。初代505ファンから見て良いものだと思ってもらえなければ合格ラインに届かず、悪いとなればけちょんけちょんに言われる。そうした宿命を負う製品だと覚悟して企画、開発を進めました。

 実際、TXは底面がやや膨らんだデザインになっていたが、開発陣はバッテリパックがケース込みで21mmになることから、本体部を20mm以下のフラットデザインにすることを目標としたそうだ。実際には22.5mmとなったが、下部を面取りしたデザインにも助けられ、見た目にもスッキリと細身のデザインに仕上がった。

●VistaでもXPと同等の消費電力に

バッテリは本体から飛び出さない円柱形のデザイン

 もう1つ。開発時に大きな目標としたのが、ノートPC用としては一般的な円柱形の18650というバッテリセル3本のパックで、実用的なバッテリ持続時間を実現することだ。

 「フルフラットの薄型デザインは、ヒンジ部の間に入る3セルのSバッテリのみの場合で、6セルのLバッテリでは厚みが増えてしまう。つまりSバッテリだけでも、きちんと使い物になるバッテリ駆動時間を実現しなければ、薄型デザインの意味が出てきません」

 結果、スペック上の最大バッテリ駆動時間はSバッテリ時にも6時間(SSD+DVDスーパーマルチドライブ+メモリー1GB構成時)を実現した。もちろん、この数値は省電力設定をスーパースタミナにした時のJEITA標準ベンチマークの値であり、実際に1セルあたり2時間を駆動させるのは難しい。LEDバックライト機は、JEITA標準ベンチマークで有利という面もある。実際には4時間程度と考えるのが良いだろう。

 とはいえ、Windows Vistaになり業界全体でバッテリ駆動時間が短くなる中、3セル6時間のスペックは、簡単には出せない。

 「Vistaでもスタミナキープは、営業側からの最低限の要求でした。短くなるのは到底許容できない。とはいえ、自分たちが省電力化できる領域は限られています。今のシステムでは、消費電力の6割ぐらいがIntelのチップセットで、ここは省電力化できません」

LEDバックライト搭載の液晶。表示されているのは白い壁紙こと「ロングライフバッテリウォールペーパー」。壁紙をこちらに設定するだけでバッテリ駆動時間が少し伸びるという

 「そこで取り組んだのが、LEDバックライトとLCDドライバの部分で、開発初期の段階からTXよりも省電力化することを狙っていました。具体的には高輝度、高効率のLED光源を使い、LCDドライバは3分割チップだったのを2チップに統合しています。LEDは効率と輝度の両方が上がっているため、従来よりも輝度が上がっているにもかかわらず、消費電力は下がっています」

 実はこの部分。製品の説明会でも不思議に思っていたところだった。TZは色再現域が広がり、従来よりも色純度、特に純度の高い緑と赤が出ているが、こうした広色域化を実現するにはカラーフィルタの色を濃くしなければならない。カラーフィルタの濃度を上げれば透過率は下がり、輝度も下がる。その中で輝度を上げ、さらに消費電力が下がったというのだから、どんな仕組みなのか? と疑問を持っていた。

 「主な内容として、LED発光効率の進化、高効率バックライト回路の設計、液晶モジュール内での光拡散ロスの低減があげられます。VAIOがLEDバックライト採用時から継続して行なってきた液晶の電力効率改善策は10項目以上にのぼっており、そこから節約された電力をバランスよく色/輝度/省電力に振り分ける事により、モバイルPCでダントツの高画質を実現しています」

 前述したように、現在のモバイルPCは細かな部分の省電力化が進み、さらにCPUの省電力化や液晶パネルのLEDバックライト化など、考えられる対策はほとんど行なわれており、その結果としてチップセットが6割もの電力を消費する状況だ。加えて細かな省電力化の努力も、Vistaによって相殺されている現状がある。

 実はVistaには内部でUSB接続されたデバイスの省電力化など、いくつかの点で従来より優れた点もあるのだが、各デバイスの省電力管理手法が変化したためにチューニングが進んでいないという側面がある。それらに加え、プロセッサがCore SoloからCore 2 Duoに変わっていることを考えれば、バッテリ駆動時間は短くなってもおかしくなかった。

 「Vistaで電力消費が増える主な理由は、Vista用ドライバがまだ成熟していないことが大きい。しかし、我々はデバイスベンダーから提供されたドライバを評価し、各デバイスごとの消費電力の振る舞いを計測し、XPよりも増えた分は削るようベンダーにフィードバックをかけながら開発しました。その結果、Vistaになって消費電力が増えたデバイスはなく、プロセッサの違いは前述したような工夫で補っています。最終的にはTXとTZのシステムレベルの消費電力は、ほぼ同等になりました。また、細かな点ですが真ん中に“VAIO”の文字を薄くあしらった、真っ白な省電力壁紙も用意しています。ノーマリーホワイトの液晶パネルは、白の時にもっとも消費電力が低くなるためです。わずか10分ほどの違いですが、背景を白くすることでバッテリ駆動時間が延びます」

 このほか、カタログ値のバッテリ駆動時間に可能な限り近付けるよう、光学ドライブを自動的にOFFにし、使用する時だけONにするといった動的な切り離し/取り付けを行なったり、オーディオがミュートされている際には、アンプ回路自身の電源を落としておくといった、本当に些細な部分での省電力化が行なわれている。

●SO-DIMMで2GBのサポートはどのように?

 本機の仕様を見た際に気になっていたことが、もう1つある。それは内蔵メモリなしでSO-DIMMが1スロットという構成だ。TZはi945GMSをチップセットとして採用しているため、外部接続のメモリは1チャネルしかサポートされていない。i945GMSの最大搭載メモリは、内蔵512MB+外部1GBの最大1.5GB。つまり、内蔵メモリを搭載しないTZは、本来は1GBまでしかメモリを使えないことになる。

 「本来はそうなのですが、TZのデザインとサイズを実現するには、チップのパッケージサイズが小さなGMSを使う以外に方法がありません。加えて内蔵メモリを基板上に搭載する余裕も全くない。そこで、規格上は存在しないSO-DIMMの2GB版を、Intelとも相談しながらサポートできるようにしました。現在はソニー純正メモリにしか2GB SO-DIMMはありませんが、近くサードパーティからも登場すると思います」

写真右上、ひときわ大きなチップが移っている部分がtype Tの基板 前モデルとの基板の比較。右がtype T(TZ)。ここにメモリスロットがある

 もちろん、理想的にはメイン基板上に+512MBのメモリも張るのが良かったのだろうが、フルフラットで薄型。さらに光学ドライブ装着も可能にするTZのデザインでは、すべての部分でメイン基板とそのほかの部品が重ならないよう設計しなければならない。

 「メモリをメイン基板に張ってないから、基板が小さくなったんでしょ? と言われることもありますが、決してそうはなりません。たとえば、Intel推奨の設計では、CPU用にもっと多くのカップリングコンデンサを配置しなければならない。しかし、部品の特性や基板デザインを見直して信号品質を管理し、指定されているコンデンサのほとんどを省いています。Core Solo採用のTXと比べても、基板サイズで30%削減し、部品点数は14%も減らしました」


左が従来のサイレントファン1、右が今モデルに搭載されたサイレントファン2。直径はほぼ同じだが、羽の部分を外にのばすことで冷却効率が向上

 これだけ基板を小さくし、さらに薄型でデバイスの重なりを作れないとなると、設計者はほとんど部品のレイアウトを選べない。発熱体を分散させたり、あるいは集中的に冷却するといった計画を立てにくくなる。ところが、TZはパームレスト周辺の"涼しさ"や冷却ファンの音量といった点でも優れている。熱くならず、静かなのだ。

 「まず、冷却ファンをCore 2 DuoとCeleronで分けています。Celeronは従来と同じTDP5.5Wなので設計が楽なんですよ。しかしCore 2 Duoは発熱が大きいので、“サイレントファン2”と我々が呼んでいる、新しいフィン形状の冷却ファンを採用しました。このファンは同じ回転数なら、風量が16%増えるハイテクファンで、静音化に大きく貢献しています。また、基板が小型化したことで発熱体が本体奥に集中配置できました。これでパームレスト部の発熱を抑えています。パームレスト下には、発熱が少ない1.8インチHDD(あるいはSSD)ぐらいしか主要部品がないため、快適に使っていただけるはずです」


●“作りやすさ”よりも“理想形”を追って

 さて、ここまでは設計上の工夫や回路の縮小、省電力化といったことをテーマに話を伺ったが、ここからは主に構造面の話に移っていきたい。

 コスト重視で組み立てやすい設計を行なうことが多い現在のPCだが、TZは実にアクロバチックな、言い換えれば組み立てにくい構造をしている。加えて光学ドライブ部を2.5インチHDDにしたり、1.8インチHDDとSSDを選べたり、あるいはワンセグチューナとそのアンテナを内蔵できるなど、VAIOオーナーメイドによる構成選択の幅が広く、多様な仕様を生産現場で、オーダーごとに作り分けなければならない。

 どんなメーカーのどんな製品でも、ユニークな構造、デザインを採用しながら、生産効率を上げる(低価格化を実現する)には、エンドユーザーが想像するよりも遙かに大きな努力が必要なものだが、TZは多数あるPCの中でも、もっとも“難物”と言える製品だろう。なにしろ、あのVAIO type U(UX)よりも作りにくいのだとか。

 たとえばSSDの採用は企画の時点から決めていたというが、現時点においてSSDだけではすべての用途をカバーできない。そこで1.8インチHDD、光学ドライブ、そして以前から要求の強かった2.5インチHDDを組み合わせた構成をバイヤーが選択できるようにした。すべての組み合わせは14種類になるそうだが、その中から自分たちの欲しい6種類を選択。これはメモリやワンセグチューナの有無を除いた組み合わせである。

ボトム部分。パームレストの方向に少し折り曲げが入っている

 また、薄型PCにありがちな筐体の弱さやキーボード部分の剛性についても、特に配慮しているという。

 「具体的にはカーボンファイバーを、ボトムシャーシと液晶パネル側の面に使っています。液晶パネル側の外装はカーボンシート数を増やし、0.2mm厚くすることで剛性を上げました。パームレスト角の部分をつまんで持っていただくと、全体に硬く高い剛性感を出せているのがわかるでしょう。これはボトムシャーシのカーボンシートを手前側に少し折り曲げて成型した効果もあります」

 さらにキーボードの剛性を出すため、キーボード面は3つのパーツを組み合わせた複合的な構造を採用している。

 ほとんどのノートPC用キーボードは、薄いアルミ製の板の上に作られており、ペラペラの剛性がないキーボードアセンブリを、落としぶたのように填め、数点をネジで留める。キーボードの組み付けを後から行なえるため、工程の柔軟性が高く、異なる種類のキーボードをオーダー仕様に合わせて後から組み付けることが可能だ。

 しかしTZはパームレストと一体化されたキーボードベースとキーボードフレーム(キーボード周囲のツヤのある部分)でキーボードアセンブリを固くサンドイッチ構造で挟み込み、薄く固い一体構造の部品を作ってから本体に組み付ける方法を採用している。

分割されたキーボード部分。上がキーボードベースとキーボードフレームを一体化したもの 組み付けると1つの部品のように

 さらに難物はアンテナの引き回しだったようだ。本機にはIEEE 802.11n用のアンテナ3個、Bluetooth、FeliCa、ワンセグチューナと、6種類のアンテナが内蔵されている。このうちBluetooth、FeliCaのアンテナは本体側にあるが、シリンダ型ヒンジでは、液晶部と本体部をつなぐ部分にほとんど空間がないため、残りの4つのアンテナ(+カメラユニットの配線)をヒンジに通すだけでも大変そうだ。

 加えてワンセグチューナの受信感度を向上させるため、メイン基板とチューナユニットを離れた場所に配置し、アンテナをノイズ発生源から遠い場所に組み込むようにしている。受信感度はTXに比べ5〜7dBも上がっているという。

●設計チームと生産現場を直結。ギリギリの詰め込みを実現

 これらの難題を抱えながら、仕様や設計の面で妥協せずにTZを製品化へと持ち込めたのは、1つには設計から生産までのプロセスを一体化したことに大きな理由がある。

 現在、国内で生産されているVAIOシリーズは、生産を担当している長野TECに、商品を企画するプロジェクトのリーダーから、各部の設計チームまでが所属し、実際の生産ラインに載せるところまでを見据えてプロジェクトが進行している。

 そこではCADツールのシミュレーションコードを内部で開発しながら、熱設計、電波などの干渉、基板設計などをバーチャルに行なう。熱設計や基板設計、デザインの担当者はもちろん、実際に製品を組み立てる製造現場の責任者も参加し、問題を解決するにはどのような構造にすべきなのか。どう工夫すれば、妥協せずに量産ラインへと持ち込めるのかなどを話し合い、設計を詰めていく。

 このため、以前ならば「効率よく作れない」ために妥協していた部分も、膝を詰めてアイディアを出し合いながら、mm単位での追い込みを行なうようになった。

 たとえばシャーシの金型1つとっても、配線材を取り付けるガイド部の爪にわずかな面取りを入れたり、基板位置をほんの少しずらして空気の流れを確保したりと微調整が行なわれている。メイン基板には階段状に切られた部分があるが、これもその結果生まれたもの。あらゆる隙間を利用して、各部担当の納得できる線を見つけ出した結果である。

 インタビューは企画/設計チームとは別に、製造ラインへの実装を行なったチームにも行なったのだが、企画段階で目標仕様を伝えられ、シミュレーションが始まってからは「これは何かの冗談だろう。このまま設計が進めば、生産ラインを担当する工員へのストレスが高すぎる製品にある」と直感した。

メカ担当の戸塚貴大氏 電気、基板周り担当の下村芳仁氏
製造・全体統括担当の小澤洋輔氏 製造・導入担当の丸山貴弘氏

 サイズ的には小さいtype U(UX)の製品化にも関わったチームが、このTZも担当しているが、「実際にはTZの方が遙かに複雑で細かな、組み付けに配慮が必要な構造になっています。UXは確かに小型なのですが、最初から作りやすさを意識して設計されていました。それに対してTZは、作りやすさよりも理想を追っている。なんとか企画倒れになって欲しい」と願ったほどだという。

 「特にケーブルの引き回しが複雑なことに悩みました。モノを安定した品質で効率よく組み立てるには、組み立て時のリズムが大切なんですが、ケーブルは狭い場所に正確に通して行かなければならないため、リズムが悪くなります。作っているのは人間ですから、リズムが崩れやすい工程ではミスしやすく、品質不良を出しやすい」

 実はこの“ケーブルの引き回し”こそ、ギリギリまで部品密度を上げたTZを生み出す鍵となっている。

●ケーブルスペースゼロの設計で、ケーブルを通す作業工程

 ヒンジから液晶パネル周囲のアンテナ配線に関しては、工場内でも特に優秀な小型製品組み立てのスペシャリストに試作部品を組み立てさせ、どのように組み立てれば良いかを、実際に作業する担当者からも意見を聞きながら、解決策を見つけ出していった。

 “配線のガイドとなる爪の部分を面取りするよう、金型を工夫した”という話を書いたが、これも現場の工員からの意見を取り入れたものだ。角のある爪では、配線材の被覆に引っかかり、スムースに取り付けが行なえないからである。アンテナケーブルは電気的な特性を落とさないよう、まとめて配線せず、1本づつ手で配置する必要があるため、これだけでも生産性が大きく変わってくる。

 そして、さらに製造部門の担当者たちを悩ませたのが、本体内のケーブル配線だ。

 TZは徹底した薄型設計とするため、丸皿ネジのわずかな高さを回避するよう、筐体に穴を空けておき、それをモデル番号シールで隠すといった裏技的な手法まで用いて、0.1mm単位で高さ方向の隙間を詰めてある。

 CAD上では、すべての構造体が折り重なり、無駄なく配置されるようになっているのだが、スピーカやマイクのケーブルなど自由配線の線材を通すスペースは「あらかじめ確保されておらず、空いている隙間をくぐり抜けられるよう、組み立て段階で工夫しておかなければならなかった」のだ。

 キーボードを取り外すと、アンテナ線が大きく迂回して通され、その端をテープで仮止めしてあるところがある。これは反対側のキーボード側のユニットに突起部があり、それを避けるために迂回しているところ。

キーボードと液晶ベゼルを外したところ。角や縁、パーツの合間を縫うようにぎりぎりのスペースで各種ケーブル/アンテナが通されている ヒンジのアップ。わずかな隙間を通してアンテナが通されている

 サンドイッチ構造のキーボード部分や、奥行きを無くすために複雑な構造となっているタッチパッド部なども、生産性を大きく落としかねない部分だが、製造側でも「魅力的な製品を作るには、難しいことに挑戦しなければ」と努力した部分なのだろう。

 「僕ら自身、自分でVAIOを購入して使っているユーザーですから、キーボードの剛性を出すこと、薄くすること、小型化することなどが、どれだけ商品の魅力に繋がるかを解っています。自分たちが欲しいと思える製品を作るためにも、少々の困難ならばなんとかしよう。もちろん、絶対に妥協出来ない部分。具体的には確実に品質が落ちる、故障率が高くなると思う部分はキッパリと断りますが、それ以外は可能な限り、製造側でアジャストしました」

●TZで進化した長野TECの生産ライン

 実際に製品を作るのは人間。ロボットが小型のモバイルPCを組み立てられるわけじゃない。だからこそ自分たちの活躍する場がある。そう考えて生産ラインへの実装にアイディアを絞った担当者たちだが、量産時に毎日の作業を行なうのは、また別の現場工員たちだ。あまりにハードルの高い生産技術を要求しすぎれば、現場の士気を落としかねない。

 「これはできるゾ! こんな作り方なら、もっとカッコいい製品になるじゃないか! と士気を上げることも大切ですが、プロとして自分たちなら出来ると自信を持ってもらうことも大切なんです。たとえば、実際には難しい作業でも、“"簡単に組み立てられるよ”とスムースかつシンプルな動作で手本を示してあげると、“なんだ簡単じゃないか”となりますよね。だから、簡単に組み立てられると感じてもらえるよう、いろいろな工夫をし、“練習”も積み重ねました」

 それらを繰り返すことでスキルを積み重ね、作業員が自信を持つことで、次にはより難しい製品へと挑戦できる。UX、TX、TZと挑戦してきたことで、長野TECそのものが進化してきたと実感しているようだ。

 また、TZの開発では生産工程の比較的基礎の部分にも、変化をもたらしているという。多様なドライブ構成、カラーバリエーション、オプション構成を備えたことで、従来よりも扱う部品の点数が増えた。たとえばワンセグチューナの有無により、液晶パネルのベゼルが違っている。アンテナが突出する穴にふたを填めるのではデザイン的に美しくないため、わざわざ、アンテナ無し用のベゼルを別部品で持っている。

 これらすべての要因により、工員の周りに部品を配置しておき、伝票を見てから適切な部品を組み込むという手法が使えなくなった。部品点数が多すぎて、部品箱/棚が足りなくなったからである。たとえ並べられたとしても、作業効率の低下やミスの増加につながる。このため、自分で部品を選ばなくとも、自動的に必要な部品を供給するシステムを開発。製造ラインに導入した。

 またメイン基板を極限まで削ったことで、動作テスターを接続するコネクタを取り付けることができなくなった。そこで、メイン基板上の数カ所に電極パッドを分散配置しておき、基板上から電極ピンを持つ治具を押しつけることで信号を取り出し、テストする新しい方法も開発したという。

 半ば呆れてしまうほどの努力を積み重ねが生んだTZ。その経験があれば、まだまだ先に進める場所もありそうだ。開発チームはまた異なる製品にチャレンジしていく。TZ開発チームの“次”にも期待したい。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□type Tの製品情報
http://www.vaio.sony.co.jp/T/
□関連記事
【5月17日】【本田】VAIO type Tファーストインプレッション
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0517/mobile377.htm
【5月17日】ソニー、VAIO 10周年記念モデル「type T」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0517/sony1.htm

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(2007年6月7日)

[Text by 本田雅一]


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