CeBIT 2007レポート【AMD編】 AMDがR600の概要とクアッドコアOpteronのウェハを公開会期:3月15日~21日(現地時間) 会場:独ハノーバー市ハノーバーメッセ(Hannover Messe) CeBIT 2007において、AMDは記者会見を開催し、同社がまもなく発表する予定のDirectX 10世代のGPUであるR600の概要などに関する説明を行なった。 それによれば、R600はDirectX 10に対応したユニファイドシェーダを備え、ハードウェアによるMPEG-4 AVC/VC-1などのデコードを可能にするデコーダエンジンのUVDなどを備えるほか、HDMIソリューションに対応するためHDオーディオのコントローラをGPUに内蔵するなどの特徴を備えているという。 また、AMDはデスクトップPC向けのクアッドコアCPUとして開発コードネーム“Agena”(アジェナ)、ノートPC向けの次世代プロセッサとして“Hawk”(ホーク)、さらに2008年には“Griffin”(グリフィン)を投入することなどを明らかにした。 ●DirectX 10に対応したGPUとなるR600世代
AMDの上級副社長兼グラフィックスプロダクトグループ ジェネラルマネージャのリック・バーグマン氏は、「第2世代のユニファイドシェーダを備えていること、そしてBDやHD DVDのハードウェアデコードを行なえるUVDを搭載していること、HDMIの実装が容易になること、この3つがR600世代GPUの特徴だ」と述べ、R600には、3つの重要なポイントがあると説明した。 バーグマン氏によれば、R600世代のGPUに搭載されているユニファイドシェーダは、MicrosoftのゲームコンソールであるXbox 360に搭載されている“Xenos”に搭載されている48個のエンジンから構成されているユニファイドシェーダに継ぐ、第2世代のエンジンとなり、DirectX 10とシェーダモデル4.0をフルサポートするという。 「DirectX 10への対応により、GPUの表現力は飛躍的に向上する。これによりより3D画面のリアリズムが増すことになるだろう」(バーグマン氏)と、DirectX 10に対応するメリットが大きいと述べた。ただし、それ以外の点に関しては何ら公開されず、もっと詳しい詳細は製品のリリースを待つ必要がありそうだ。
●BD/HD DVD問題の切り札となるハードウェアデコーダのUVD R600に内蔵されるUVD(Universal Video Decoding)は、いってみればハードウェアのMPEG-4 AVCデコーダだ。現在PCにおいて、BDやHD DVDのビデオを再生する場合、ビデオのデコードはGPUのアクセラレーション機能を併用しつつも主にCPUで行なわれる。たとえば動き補正などに関してはGPUのアクセラレーション機能を利用するが、それ以外のデコード作業は主にCPUが利用される。 問題は、そうした作業がCPUにとってかなり負荷が高いものとなってしまっていることだ。たとえば、HD解像度のMPEG-4 AVCを現状のPCでデコードした場合、ビットレートが25Mbps程度であればコマ落ちなくデコードできるのだが、BDのフルスペックである40Mbpsに達している場合、現在最速のCPUを利用してもコマ落ちが発生してしまうのだ。 ただし、現在発売されているBDやHD DVDソフトの多くは平均ビットレートは20Mbpsを切っているものが多い。ビットレートが25Mbpsを超えていても瞬間的なもので、ユーザーが映画を見ていても、大幅にコマ落ちしていると感じるソフトはそうは多くない。しかし、今後そうしたコンテンツが発売される可能性は十二分にあり、AMDやNVIDIA、IntelといったGPUベンダに対して、特に日本のPCベンダを中心としたOEMベンダから不満の声が出ていた。 そこで、AMDがとった手段はシンプルなものだった。AMDが家電向けに提供しているMPEG-4 AVC/VC-1デコーダチップからエンジンをもってきて、R600のエンジンに統合したのだ。 「UVDの機能は弊社の家電向け部門と協力して開発している。クオリティに関しても家電に近いものが提供できるはずだ」(バーグマン氏)との通り、家電向けの部門を抱えているAMDの強みを生かしたやり方をしたわけだ。「UVDを利用することで、CPUの負荷は大きく下がり、GPUだけでも40Mbpsのコンテンツをデコード可能だ」と述べ、UVDのメリットを大いにアピールした。 なお、NVIDIAはG80世代で従来と同じPureVideoエンジンを採用しており、MPEG-4 AVCやVC-1のアクセラレーション機能は搭載しているが、完全にハードウェアだけでデコードできるエンジンは搭載していない。Intelに至っては次世代のチップセットの上位モデル(G35)でようやくVC-1のアクセラレーション機能を実装するという段階で、この点は今後1年ほどAMDのアドバンテージになる可能性がある。
●R600世代ではオーディオコントローラがGPUに入りHDMIの実装も容易になる
また、バーグマン氏は、R600世代のHDMI実装に関しても説明を行なった。AMDは、すでにR500の世代から、HDCPの暗号化鍵をGPUに封入しており、特に外部チップを用意しなくてもGPUだけでHDCPの実装が可能だ。R600世代では、これに加えて、GPUの内部にHDオーディオのコントローラを内蔵しており、HDMIの実装がさらに容易になるという。 このアプローチは、AMD初の統合型チップセットである「AMD 690」でも利用されている。なぜ、オーディオコントローラをGPUに統合するのかといえば、それはHDMIではオーディオとビデオの信号をマージして同期する必要があるからだ。HDMIはオーディオとビデオをケーブル1本で送ることができるが、PCではビデオとオーディオはそれぞれ別のチップでコントロールするので、何らかの形でマージする必要がある。 現在多くのPCでは、マザーボード上に搭載されているオーディオCODECのデジタル出力(S/PDIF)を、ビデオカード側に用意されている入力に接続して、オーディオとビデオをマージする仕組みになっている。しかし、この場合オーディオCODECとの組み合わせによっては、うまく動かなかったり、オーディオとビデオが同期しないなどの問題が発生する可能性がある。 そこで、AMDのアプローチは、HDMIを利用する時だけ、R600に内蔵されたオーディオコントローラを利用して、マザーボード側のオーディオコントローラはそれ以外の出力(たとえばラインアウトやスピーカーなど)を利用するという方向性を採るという。これにより、オーディオコントローラとビデオカードを接続する必要もなくなるし、互換性の問題を解決することができる。 ●ノートPC向けの製品やバリュー向けも用意されるR600世代、デビューは4月か?
さらにバーグマン氏は、ノートPCについても触れ、「R600世代は65nmのプロセスルールで製造される。これにより、ワット性能(消費電力あたりの性能)は大きく改善されるはずだ」と述べた。 OEMメーカー筋の情報によれば、R600世代のGPUの消費電力はかなり大きなものになる可能性が高いと言われている。ある関係者によれば、ハイエンドモデルのR600は250Wを超える消費電力になってしまうと言われており、メインストリーム向けのRV610も75Wを超え、上位モデルでは100Wを超えてしまうという。 ただし、ローエンド向けのRV630は25~35W前後に収まると言われている。これでもノートPCでもかなり厳しい。しかし、OEMメーカーの関係者によれば、ノートPC向けはもっと低い消費電力に抑えられているようで、前の世代に比べても消費電力は下がる見通しであるという。 なお、今回バーグマン氏は、R600世代の製品発表に関して何も明らかにしなかった。OEMメーカーの関係者によれば「AMDは当初このCeBITでの発表を目指していた。しかし、ボード設計を若干見直すことになり、発表をやめたようだ」とのことで、遠からず発表されることになりそうだ。多くの関係者に取材した結果、今のところOEMメーカーには4月のどこかのタイミングとだけ知らされているようで、まもなくお目見えするだろう。 ●Barcelonaのウェハと新しいコードネームが公開される このほか、AMDはクアッドコアOpteronとなる開発コードネーム“Barcelona”のウェハなどを公開した。 また、Barcelona世代のデスクトップPC向けクアッドコアの開発コードネームがAgenaであることなどを明らかにした。写真を見る限り、4つのCPUコアが搭載されているだけでなく、L3キャッシュも搭載されており、Barcelonaとほぼ共通のダイであると思われる。 こうしたことから、要するにBarcelonaのデスクトップPC版であると考えるのが正しいのかもしれない。Agenaは2007年の後半に投入される予定であるという。また、Quad FX向けの製品も投入されることも併せて明らかにされており、すでにQuad FXを持っているユーザーもクアッドコアを利用することで、最大で8プロセッサにアップグレードできる。 また、ノートPC向けの次世代プロセッサがHawk、さらに2008年に投入される全く新しいモバイル向けのプロセッサがGriffinであることなどが明らかにされたが、いずれも詳細は語られなかった。
□CeBIT 2007のホームページ(英文) (2007年3月17日) [Reported by 笠原一輝]
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