●国内でも実用化進むUWB 微弱なパワーで広い周波数帯域の電波を数ナノ秒という短時間出力することで、短距離ではあるものの、数百Mbpsクラスの通信帯域を得ようという無線技術がUWB(Ultra Wide Band)だ。もともと軍用技術として開発されてきたUWBだが、米FCCが民間転用可能にする方針を決めたため、にわかに注目を集めるようになった。 注目が集まったのは、無線による広帯域の伝送に、さまざまな用途があると認められた証拠。だが、製品化を目指す多くの会社が、電波の利用形態、変調方式、製造に用いるプロセスなど多くの点で対立する結果となる。IEEEによる標準化作業により、最終的には2つの陣営に収束するものの、2陣営の対立はついにまとまらず、2006年1月、作業の場であったIEEE 802.15.3aによる標準化が取り下げられこととなってしまった。つまり、2陣営が推すそれぞれの規格に準拠した製品が、市場で決着をつけることになったわけだ。 その一方で、わが国でもUWBの実用化に向けた取り組みが本格化した。2006年7月12日、総務省は電波監理審議会の答申を受けて、UWB無線システムを利用可能にするために必要な法令の改正を行なう方針を明らかにする。そして2006年8月1日、電波法施行規則、無線設備規則、特定無線設備の技術基準適合証明などに関する規則のそれぞれ一部を改正する総務省令を公布、即日施行された。これにより、わが国でも特に免許などを必要とすることなく、UWB機器を合法的に利用することが可能となった。 それからすでに半年近くが経っているが、一向にUWBに対応した製品は登場してこない。そう思っている人も少なくないのではなだろうか。筆者も、UWBに対応した機器は、まだ製品化されていないと思いこんでいた。 ●対応が早かったワイ・イー・データ ところが、実際にはひっそりとUWB機器は製品として売られていた。総務省令が改正された同じ2006年8月、株式会社ワイ・イー・データがUWBを用いた「UWB Wireless Hub」の出荷開始を発表している。そして、10月下旬から同社の直販サイトで販売を始めていたのだ。 おそらく日本初のUWB製品となったのは、ワイー・イー・データの「YD-300」。USB 2.0に対応したWireless Hubで、HubとPC間の接続に4.1GHz帯のUWBを用いる。Wisair製のリファレンスデザインをベースにワイ・イー・データのアンテナ技術を組み合わせて製品化したものらしい。当然のことだが、Wireless Hubには動作のためにACアダプタが必要になる。 パッケージには、PCのUSBポートに取り付けるUWBに対応したドングル(HWA:Host Wire Adapter)、ドングルの向きを変えて偏波面を調整するためのUSBコネクタアダプタ、Wireless Hub(DWA:Device Wire Adapter)、Hubを立てるためのスタンド、ACアダプタ、ドライバCD-ROMが含まれる。UWBドングルは一昔前のUSBメモリを連想させる形状と大きさで、思っていた以上に小さい。一方Wireless Hubは、カセットテープを一回り大きくしたサイズで、USB 2.0ポートを4つ搭載する。
用いるチップセットが、IDFでもおなじみのWisairのものであることからも分かる通り、IntelやTIが進めるMB-OFDMに準拠した製品だが、ワイ・イー・データの製品ページにはいくつかの注意事項が書かれている。通信距離が最大約10mで3m以下になる場合もある、というのはUWBのコンセプトから当然のこととして、PCとUSB機器間の通信速度(実効値)が最大約30Mbpsであることが明記されている。 本機のPHYレベルのデータレート(理論値)は最大480Mbpsと、有線のUSB 2.0と変わらない。しかし、実際に機器を接続した実効値は最大30Mbps程度になることを示している。こうした制限は、第1世代の製品には良くあることで、たとえばPCIバスにしても、Intelの第1世代のチップセット(420TX/430LX)では規格(133MB/sec)よりはるかに低い30~40MB/secにとどまっていた。PCIバスのデータ転送速度が、PCIの規格値と比べて見劣りしなくなったのは、第3世代の430FX(Triton)チップセットから。USBやIEEE 1394のチップについても同じようなことが該当した。好ましいことではないかもしれないが、避けられないことではある。 注意事項の最後は、WiMediaおよびUSB-IFのCWUSB準拠品ではありませんという項目だ。CWUSBというのは、Certifed Wireless USBの略で、USB-IF(USB Implementers Forum)が公認したWireless USB規格を指す。おそらくWiMedia/MB-OFDM陣営と対立するDS-UWB陣営のCable-Free USB(こちらはUSB-IFは公認していない)と区別するための名称だろう。 WiMediaが採用するMB-OFDM準拠でありながら、CWUSB準拠ではないということの意味だが、たぶん本製品がCWUSBのアソシエーションモデルに対応していないことによるものではないかと思われる。アソシエーションモデルというのは、CWUSB準拠の製品間でのペアリング方法のこと。オフィスなど多くのユーザーがいる場所では、特定のHWA(ホスト側のアダプタ)と、特定のDWA(機器側アダプタ)のみをペアリングにより接続可能にしておかないと、混線等のトラブルが生じる。 このペアリングの方式としてCWUSBでは、ケーブル式(Cable Association Model)と数値式(Numeric Association Model)の2つを規格化している。ケーブル式は、ワイヤレス接続の前に、1度直接ケーブルで接続することによりペアリングを行なう方式、数値式というのはHWAとDWAに表示される数字が一致するのを確認して接続ボタンを押す方式だ。しかしこのYD-300では、HWAを接続したPCのタスクトレイに常駐するプログラムに、DWAのID(MACアドレス風の12ケタの16進数)を入力することでペアリングを行なう。 12ケタの16進数を入力するというのは、PCならともかく、デジカメのような民生機ではとても採用できない。それを考えれば規格に含まれないのは当然ともいえるが、YD-300のベースとなったWisairのリファレンスデザインは、CWUSBのアソシエーションモデルが決まる前に設計が進んでいたのだろう。 またパッケージに含まれているドキュメントには、本機がアイソクロナス転送をサポートしていないことが書かれている。したがって、オーディオ機器(USB Audioクラス)やWebカメラ(USB Videoクラス)の製品は動作しないことが考えられる。本機はUSB Hubと考えると決して安くない製品(上述の直販サイトでの価格は税込み41,790円)だけに、購入に際しては、こうした制限を理解しておきたい。 ●ベンチマーク結果 さて、実際の利用だが、最初にWindows XP SP2が稼働するシステムにドライバをインストールし、USBポートにドングル(HWA)を接続、Wireless HubにACアダプタを接続する。付属の説明書を参考に、ドングルとHubの向きを調整したら、タスクトレイに常駐するアプリケーションを呼び出して、Product ID #の項に、Hub底面のシールに書かれているIDを入力し、Registerのボタンをクリックすれば、準備は完了する。後は、普通の有線Hubと同様に、USBデバイスを接続すればOKだ。
Wireless Hubが利用可能になったところで、実際にデータ転送速度がどの程度なのか調べてみることにした。テストとして、Wireless HubにUSB 2.0対応のHDD(バッファローのHD-H250U2)を接続し、簡単なベンチマークを距離と偏波面を変えて行なってみた(この時の信号強度も併記してある)。また、表には参考までにテストに用いたHDDをケーブルでPCに直接接続した場合と、手持ちのRAID 5対応NAS(HD-HT1.0TGL/R5)のスコアも掲載しておく。
【表1】テスト環境
【表2】テスト結果
表を見てまず分かることは、有線接続のUSB 2.0に比べてハッキリとスコアが落ちることだが、これは注意書き(実効転送レートは最大30Mbps)から予想できたこと。やむを得ないスコアと言えるだろう。 距離による違いだが、最大到達距離が3m~10mをうたうだけあって、1.6m程度離しても、ガックリと遅くなることはない。ただ、至近距離(20cm)では問題にならなかった偏波面の整合/不整合の影響が、1.6m離すと若干うかがえるようだ。 YD-300は、わが国で正式に製品として購入できるようになった初のUWB機器であり、その意味では記念碑的な製品だ。ただ初期の製品ゆえ、性能や使い勝手(アソシエーションモデルが今後登場する製品と互換性がないこと)の点で未完成な部分も目に付く。価格も決してリーズナブルとは言い難く、技術サンプル的な色合いの強い製品である。製品としては、最新の技術を人より先に試してみたいというユーザー以外にはすすめられないが、本製品がUWB製品普及のきっかけになる可能性を考えると、注目すべき存在といえるだろう。 □ワイ・イー・データのホームページ (2007年1月25日) [Reported by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
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