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Macworld Conference&Expo San Francisco 2007
スティーブ・ジョブズCEO基調講演レポート
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会場:San Francisco The Moscone Center
(モスコーニセンター)
会期:1月9日~12日(現地時間)
“The first 30 years were just the beginning. Welcome to 2007.”(最初の30年間は、始まりに過ぎなかった。2007年へようこそ)
今年で創業31年目に突入する米Apple(社名をApple Computer Inc.からApple Inc.に変更。詳しくは後述)は、上のような刺激的な言葉で2007年の幕を開けた。
毎年1月にサンフランシスコで開催されるMacworld Conference & Expoは、同社が新製品の発表を行なう重要な場だ。今年のAppleの目玉は、動画や音楽を大画面TVで楽しむためのセットトップボックス「AppleTV」と、携帯電話「iPhone」。iPodとMacの新製品はなく、次期OSである「Mac OS X 10.5 “Leopard”(レパード)」と、「iLife」および「iWorks」の新バージョンについての発表もなしと、例年とはまったく異なる展開を見せた。
AppleTV | iPhone |
●音楽、ビデオのダウンロード販売が絶好調
基調講演は、予定より15分遅れで始まった。米Appleのスティーブ・ジョブズCEOは、体調が悪そうだった2006年8月のWWDC(世界開発者会議)とはうってかわって、晴れやかな様子で現れた。
まずはiTunes Music Storeにおける音楽のダウンロード販売が引き続き好調で、20億個の曲が売れたと発表。音楽のダウンロード販売において、米Amazonを抜いて業界第4位になり、米Targetにせまりつつあるという。また、iTunesによるビデオのダウンロード販売も好調で、すでに5,000万本のTV番組、130万本の映画が売れたと発表した。さらに、米国では映画の配給元に、ディズニーに加えて米パラマウントが新たに参加する。これにより、映画コンテンツの充実が図られる。
なお、2006年末に「iPod」の対抗馬として米Microsoftが発売した携帯マルチメディアプレーヤー「zune」に対しては、12月の市場シェアが、「iPod」の62%に対し、「zune」はたった2%としかないと皮肉った。
●写真や音楽、ムービーを、リビングの大画面TVで楽しめる「AppleTV」
最初に発表された新製品は、PCに保存した写真やムービー、音楽といったコンテンツを、大画面TVで観賞するためのセットトップボックス「AppleTV」だ。AppleTVの外観は一辺が約20cm、厚みが2.8cmの正方形をしており、見た目はMac miniに似ているが、より平べったい。
AppleTVを家庭のTVにつないでネットワークに接続すると、MacまたはWindows PCに保存された音楽やムービー、デジカメ写真をTV画面で再生できる。ハイビジョンTVをリビングルームで楽しむ大型iPodに変身させる機器だ。
AppleTVはIntel製のプロセッサを内蔵し、PCとはIEEE 802.11b/g/n無線LANで通信可能。Ethernetも備える。TVとの接続には、高解像度の映像を劣化なしで送信できるHDMI端子か、コンポーネント端子を用いる。40GBのHDDを内蔵し、iTunesをインストールしたPCと動画や音楽を同期できるほか、最大5台のPCからストリーミング方式で動画や音楽を受け取って再生できる。
友人のPCにコンテンツを公開する機能も備えており、IDでセキュリティを確保している。
米国では2月出荷開始予定で、価格は299ドル。日本でも2月に出荷を開始し、価格は36,800円だ。
AppleTVを真上から見たところ。Appleらしいシンプルですっきりしたデザインだ | AppleTVを使うと、iTunesをインストールしたPCと、大画面TVが連携できる。PCとの接続に、無線LANを使えば、ケーブルもなくスッキリ | AppleTVの背面。ハイビジョンTVの接続に最適なHDMI端子のほか、コンポーネント端子やUSB 2.0ポートも備える。ケーブルは別売 |
●ついに登場、Appleの携帯電話「iPhone」
「iPod」「電話」「インターネット」の3つを統合した「iPhone」。開発は2年半前から秘密裏に進めてきた |
フィル・シラー上級副社長によるデモを交えてにぎやかに行なわれたAppleTVの発表後、ジョブズCEOは「2年半もの間、この日を待ちわびていた……」と、静かに語り始めた。
「'84年、最初のMacintoshによって私たちはコンピュータ業界に革命を起こし、2001年、iPodによって音楽の楽しみ方に革命を起こしました。今日ここに新たな3つの革命を発表できることを幸運に思います」
続いてスクリーンには、「iPod」、「電話」、「インターネット」の3つのアイコンが映し出され、その3つを1つに合体させた革新的プロダクトとして、ついに噂のApple製携帯電話「iPhone」が披露された。
「iPhone」が従来のスマートフォンともっとも異なる点は、操作ボタンを撤廃し、画面内に表示されるGUIを指でタッチして操作する点だ。
「現在のスマートフォンが使いづらいのは、すべての操作を同じボタン類で行なうのにムリがあるから。それを解決する方法として、私たちは20年前にPCですでに行なった方法を取りました。画面にインターフェイスを表示させるのです」とジョブズCEOは述べた。
「次に、携帯電話では、PCのマウスの代わりに何を使って操作すべきかを考えました。 スタイラスは使いづらいので、指を使って画面を直接タッチします。しかもマルチタッチ対応なので、複数の指を使って直感的に操作できるのです」
ジョブズCEOはそう説明すると、アドレス一覧のスクロールや画面の拡大/縮小などを、指で操作して見せた。たとえば、複数の指を使ったiPhoneの操作例。画面に表示された写真を2本の指でタッチし、タッチしたまま指の間隔を広げると「拡大」、指の間隔をすぼめると「縮小」して表示されるといった具合だ。
「私たちは、PCにおけるマウス、iPodにおけるクリックホイールに続き、iPhoneにおけるマルチタッチでユーザーインターフェイスに新たな革命を起こします」とジョブズCEOは語った。
iPodと携帯電話が合体すると、こうなる!? Apple自らがジョークとして見せた、偽物のiPhoneのイメージに、会場からは笑い声が上がった | 従来のスマートフォンが使いづらいのは、端末の下半分を物理的なボタン類が占めており、操作に合わせて変更できないからだ、と説くジョブズCEO |
iPhoneは物理的なボタンを廃し、タッチパネルを採用。すべての操作を指で行なえる。「誰がスタイラスを使いたいと思う?」と、PDAで一般的なスタイラスを、ジョブズCEOは完全否定 | 複数の指を使ったiPhoneの操作例。画面に表示された写真を2本の指でタッチし、タッチしたまま指の間隔を広げると「拡大」、指の間隔をすぼめると「縮小」して表示される |
●目新しい技術をてんこ盛り、スマートフォンの常識を覆す「iPhone」
iPhoneは、4種類の電波に対応するGSM携帯電話で、EDGEも使える。OSには“OS X”を採用。携帯電話とはいえ、完全なマルチタスクで動作し、通話しながらメールを送信したり、Webページや写真を閲覧したりできる。Macと同じアプリケーションが動作するのかどうか詳細は明らかにされていないが、Mac OS XでおなじみのWidgetが動作するなど、PC並みに機能が豊富な各種アプリケーションが使えるようだ。また、通話中にかかってきた別の電話を受けたり、複数人による電話会議も簡単に行なえるという。
【お詫びと訂正】初出時にCPUをIntel製と記載しておりましたが、その後Intelより否定のコメントが発表されました。現時点での公式なコメントは「未公開」となっております。お詫びして訂正させていただきます。
iPhone上で動作するさまざまな種類のWidgetのデモ。Mac版と同じWidgetがそのまま動作するのかどうかは不明 |
IEEE 802.11b/g無線LANも内蔵しており、インターネット使用時に無線をキャッチすると、回線を電話から無線LANに自動的に切り替える。無線LANを利用することで、Webブラウジングやメールチェックを高速/安価に利用できるメリットがある。
また、iPhoneは環境照度、近接度、加速度の3つのセンサーを内蔵しており、周囲の明るさに応じて画面の輝度を変えたり、タッチによる誤動作を防いだり、本体の向きが縦か横かで画面の表示を自動的に切り替えることができる。そのほかにも200万画素のデジカメを内蔵し、Bluetoothにも対応するなど、ハード的には大変贅沢な作りだ。
バッテリ駆動時間は、動画再生/通話時が約5時間、音楽再生時が16時間と、携帯電話にしては短い点が気になる。また、通話時の音質にガサガサとノイズが入ったり、残響音が目立ったが、製品版では改善されることに期待したい。操作スピードは、曲やアドレスリストのスクロール、写真の一覧表示、Web閲覧など、どれも携帯端末とは思えないほどスピーディだった。
iChatのようなインターフェイスで、テキストによるチャットを行なえる。文字は画面上のキーボードをタッチして入力 | iPodのように、充電クレードルに載せると、PCと自動的にデータをシンクロ。音楽、ビデオ、住所録、予定表、メールなどあらゆるデータが「iPhone」で簡単に持ち運び可能に |
一般的なHTMLページを完全に表示できるWebブラウザを内蔵。内蔵センサーにより、iPhoneを横向きにすると、表示が自動的に横方向に切り替わる |
●米国でのサービス開始は2007年6月、本体価格は499ドルから
米Cinglerのスタン・シグマン氏が壇上に現れ、クールなiPhoneのために最良の通信網を提供すると述べた |
iPhoneの発売とサービス開始の時期は、米国では2007年6月、ヨーロッパでは2007年第4四半期の予定だ。アジアでの発売は2008年の予定で、残念ながら日本でiPhoneを使えるようになるのはまだまだ先のことになる。価格は、4GBモデルが499ドル、8GBモデルが599ドル。
携帯電話で気になるのが通信キャリアだが、Appleは米国ではCingulerと提携すると発表した。Cingulerは米国でNo.1のシェアを誇る携帯電話キャリアで、現在5,800万人に利用されているという。しかも、同社の抱える米at&tは、米国一のブロードバンドプロバイダなので、AppleがCinglerと組むと、携帯通信とブロードバンドの両方を入手できるというメリットがある。
●目標は、2008年までに携帯電話のシェア1%を占めること
また、AppleはPCだけを売る会社ではない、ということを強調するために、社名を「Apple Computer Inc.」から「Apple Inc.」に変更したというアナウンスも行なわれた。近年のiPod人気によって、Apple=コンピュータメーカー、という認識は変わってきたと思われるが、携帯電話に進出するにあたって、社名を正式に変更することを決意したようだ。
ジョブズCEOは、携帯電話の販売台数が、PCや携帯音楽プレーヤーとは比較にならないほど大規模であることを説明したのち、2008年度には世界の携帯電話のシェア1%を獲得することを目標にしたいと述べた。たった1%のシェアでも、販売台数としては1,000万台になる。
iPhoneの紹介後、基調講演が終わりに近付くと、会場の人々は次々に立ち上がって拍手をし続けた。観客のノリが異常によいため、「Apple信者の集い」と揶揄されることもあるMacworld Expoの基調講演だが、これほどの喝采は珍しい。
最後に、ジョブズCEOは、iPhoneの開発に尽力してきたスタッフたちに起立をうながし、会場からは再び大きな拍手がわき起こった。ジョブズはスタッフに感謝の気持ちを述べたあと、自らの家族に対し、「家族の支えなしには、とてもここまでたどり着けなかった。特にここ6カ月間は、仕事に忙しくて夕飯すら共にできない日々がずっと続いていた。本当にありがとう」と、涙ぐんでいたのが印象的だった。
基調講演が終わる直前、スタッフや家族に対する感謝を語りながら、思わず涙ぐむジョブズCEO。唇をグッとかみしめてこらえていた | 2年半にわたる努力がようやく実を結ぶ喜びに満ちあふれたジョブズCEO。基調講演後、iPhoneを持って再びステージに現れた |
□Macworld Conference&Expoのホームページ(英文)
http://www.macworldexpo.com/
□Appleのホームページ(英文)
http://www.apple.com/
□Macworld基調講演のページ(英文)
http://www.apple.com/quicktime/qtv/keynote/
□関連記事
【1月10日】米Apple、iPod機能内蔵のOS X搭載携帯電話「iPhone」(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070110/apple2.htm
【1月10日】アップル、HDMI/40GB HDD搭載プレーヤー「Apple TV」(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070110/apple1.htm
【2006年9月14日】アップル、Special Eventの模様を日本でも公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0914/apple.htm
(2007年1月10日)
[Reported by 宮本朱美]