カノープスは、Windows初期にはPower Windowシリーズのグラフィックスカードで、近年はMTVシリーズのTVチューナカードで一般のユーザーにも広く知られていただけに、このニュースは多くのユーザーに驚きと衝撃で迎えられた。 買収は、オーナーであり会長兼社長を務めていた山田広司氏および親族が所有する株式に加え、公開買い付け(TOB)を実施、2006年の1月に発行済み株式総数の94.31%を取得して終了した。TOBの完了を受けて、カノープスは非上場企業となったが、買収後のカノープスがどのような事業展開を行なうのか、必ずしも明らかではなかった。 その同社が、買収から1年近くを経て、トムソンの放送機器会社であるグラスバレーと経営統合することとなった。それを記念するパーティが、国際放送機器展(Inter BEE 2006)が開催されている幕張で開催された。この機会に、今後の事業展開の方向性について話を聞くことができたので、お知らせしよう。 一般ユーザーにとって気になるのは、広く知られているグラフィックスカードやTVチューナカードの事業がどうなるか、ということだろう。カノープスを買収したトムソンが、グラスバレーとの経営統合を行なったことでも明らかなように、これからの事業の中心がプロフェッショナル向けの製品になることは間違いない。どうやら、PC向けのグラフィックスカードやTVチューナカードに関する事業は、終息する方向のようだ。
'93年に登場したPower Windowシリーズのグラフィックスカードは、それまで組込向け/産業向けのカード製品を主力としていたカノープスの名を、一躍、一般のユーザーに広めた。グラフィックスチップ市場の寡占化と、チップメーカーによるカード製品のリファレンスデザイン化により、差別化が難しくなると、TVチューナカードのMTVシリーズを製品化、一世を風靡した。これらのシリーズの後継製品が消えてしまうのは残念なことではある。
著作権保護されたデジタル放送は、TV番組に関する限り、一般コンシューマからビデオ編集の自由を奪う。コピーワンス規制は解除されるという話もあるが、まだ不確定な部分が多く、現状で具体的な事業計画は立てられない。解除されたとしても、デジタルチューナ製品でどれだけ他社製品との差別化ができるかは難しいところだ。 Windows Vistaの売り物の1つである新ユーザーインターフェイスのAeroは、カノープスのTVチューナカードが採用してきたビデオオーバーレイと両立しない。こうした逆風を考えれば、同社が事業の重心をプロフェッショナル向けにシフトするのもやむを得ないことかもしれない。 ただ、コンシューマ向けの事業から完全に撤退するのではなく、ビデオ編集関連の事業は続けていきたいという。会社の知名度を維持し、高める上で、コンシューマ向けの製品があるのとないのでは、大きな違いがある。現時点での具体的な製品計画は不明だが、近い将来何らかの発表があることだろう。 となると気になるのは、既存製品のサポートだ。上述したように、Windows VistaのAeroはMTVシリーズが採用するビデオオーバーレイと共存しない。Windows VistaでもAeroを無効にすることで、ビデオオーバーレイを利用することは可能だが、これが良いソリューションでないことは明らかだ。
MTVシリーズについてWindows Vistaへの対応を期待したいところだが、オーバーレイを前提に設計されたカードを、ドライバだけでDXVA仕様に変更することは難しい。既存のMTVシリーズのVista対応については「まだ最終決定はしていない」(同社企画マーケティング本部課長の伊左次裕氏)とのことだが、それほど可能性は高くないのではないかと思われる。一時代を築いた製品が消えざるを得なくなってしまうのは残念だが、これも時代の流れなのだろう。
□カノープスのホームページ (2006年11月17日) [Reported by 元麻布春男]
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