●大容量化が進むNAS製品 個人でも利用可能なネットワーク接続型のストレージ(NAS)デバイスは、21世紀になって普及した製品の1つだ。NASそのものの歴史はもっと古いが、企業向けの高価なものが主体で、個人が手軽に利用できるようになったのは、比較的最近のことである。その背景にブロードバンドの普及と、それに伴う家庭内ネットワークの普及があることはいうまでもない。 当初提供された製品は、1台のHDDを内蔵、ネットワーク接続可能にしたものだったが、個人向けのNASが広まるにつれて、製品のバリエーションが豊富になってきた。最近目立つのは、専用OSと専用クライアントユーティリティを用いたNDASのようなソリューションで、ローエンド向けのネットワークストレージに広く使われている。手軽で比較的パフォーマンスも良好だが、専用ユーティリティがサポートしないOSでは利用できない、複数クライアントからの同時書き込みに制約があるなど、注意すべき点もある。 逆に個人およびSOHO向けとしてはやや高価であるものの、RAIDによる冗長性を持たせた製品も登場している。特に、容量と冗長性のバランスに優れたRAID 5をサポートした製品は、最低でも3台以上のドライブを内蔵する必要があり、個人向けとしてはハイエンドに属する製品となるが、大容量と信頼感の両立という点で高く評価されているようだ。 このネットワーク接続型RAID 5対応ストレージという製品分野で先鞭をつけたのは、バッファローの「TeraStation」シリーズで、1年あまりの間、市場を独占してきた。が、ここにきてようやく他社からも対抗製品が登場し、市場がにぎわい始めている。 今回紹介する「LHD-LANQG」シリーズは、ロジテックが発売するネットワーク接続型ストレージ製品。RAID 5構成に加え、RAID 0およびRAID 1をサポートする。標準で4台のシリアルATA HDDを内蔵し、その容量により1TB(250GB×4台)、1.6TB(400GB×4台)、2TB(500GB×4台)の3モデルが用意されており、「TERAGATE」という愛称を持つ。今回試用したのは最上位の2TBモデル(LHD-LAN2000QG)だ。 ●外付け電源仕様の「TERAGATE」 まず外観だが、4台のHDDを内蔵したにしては非常にコンパクトだ。が、その秘密の一端は電源を内蔵せず、外部ACアダプタ式としたことにもある。背面4カ所を固定するローレットネジを回すと、背面パネルが手前に開き、上部ボンネットも取り外しできる仕組みだ。4台のシリアルATA HDDは、筐体内部でフレームにネジ止めで固定されており、交換に際してはネジ回しが必要となる。背面パネルには比較的大型の冷却ファンが取り付けられているが、熱源の1つである電源を内蔵しないこともあり、動作音は比較的静かだ。
内蔵するCPUは、Freescaleの組み込み用プロセッサであるMPC8241。玄箱でもおなじみのPowerPC系のRISCチップで、266MHzのものが使われている。Silicon Image製のシリアルATAコントローラ、NEC製のUSB 2.0ホストコントローラ、Marvell製のGigabit Ethernetコントローラなど、使われているパーツはいずれもポピュラーなものばかりである。 NASを構成するサーバOSは、著作権表示などを見る限りSynology製のようだ。同社はMicrosoftでストレージ関連ソフトウェアのマネージャを務めていた技術者が中心となって設立された会社で、ロジテックは従来よりSynology製のNAS専用OSを採用していた。以前はSynologyはNAS専用OSそのものを外販していたが、最近ビジネスモデルを転換、NASシステムの販売を中心とした会社に生まれ変わっている。同社の製品ラインナップには、LHD-LANQGシリーズの色違いとでもいうべき「Cube Station(CS-406/CS-406e)」が用意されており、本機がACアダプタ式なのも、そのせい(Synologyが全世界へ販売することを前提に設計しているため)かもしれない。
本機の使い勝手だが、セットアップは付属のユーティリティで簡単に行なうことができる。特に、ブロードバンドルータをDHCPサーバとして利用可能で、特にセキュリティを必要としない家庭内ネットワークであれば、「1クリックセットアップ」を選択するだけで、すぐに本機が利用可能になる。本機に自動割り当てされたIPアドレスが何であるかなど、一切気にする必要もない。この時点では、アクセス制限や管理者パスワードといったセキュリティは一切設定されていないが、必要であればWebベースの設定ツールを利用して、簡単に設定できる。 これだけでネットワーク上のストレージスペースとして本機を利用することができるが、設定が終了した直後はバックグラウンドでパリティ整合性のチェックが行なわれている。チェック中でも利用することは可能だが、パフォーマンスは低下する。半日から1日でパリティチェックは終わるから、放置して完了を待った方が良いかもしれない。
●ベンチマーク結果 ストレージとしての性能だが、設定完了後、パリティ整合性チェックが終了するのを待って簡単なテストを行なった。ジャンボフレームを有効にした本機(MTU値8,000bytes)を表1に示したクライアントPCにマウントして、831MBのMPEG-2ファイルの相互コピーと、FDBench 1.01を実行した。また、参考までに筆者が常用しているバッファロー製のTerastation(初代)でも同じテストを行なった(こちらは使用中であり完全に同一条件ではないので参考まで)。
【表1】クライアントPCの構成
その結果は表2の通りだが、読み出しは比較的高速なものの、書き込みについてはあまり高速でない、という結果となった。メーカーのWebサイトのデータは、5台のクライアントPCを接続しての比較で、今回とはテスト条件が大きく異なる。単一クライアントからの集中的なアクセスより、複数クライアントからの同時アクセスに適したチューニングがなされているのかもしれない。
【表2】ベンチマーク結果
使ってみて便利だったのはWindowsとMac、どちらのクライアントからも日本語のファイル名やフォルダ名が正しく利用できることだ。ファイル名/フォルダ名に最大84文字(全角)という制限はあるが、WindowsとMacの混在環境では重宝する。
●ストレージ機能以外の利用法も 単純なストレージスペースとして使う以外の利用法としては、簡易Webサーバ機能とダウンロードリダイレクタ機能が上げられる。簡易Webサーバ機能はその名前の通り、LAN内で参照する目的で簡単なWebサーバを作成する機能だが、さらにこれを利用して写真を公開する「Photo Station」と呼ばれる機能が用意されている。 本機上にphotoと呼ばれる共有フォルダを設定し、そこに任意のフォルダを作成し、写真ファイルを置いておくと、ブラウザで一覧表示ををしたり、簡単なスライドショーができる、といった機能だ。PCであれば、フォルダをマウントして、適当なビューワーソフトで見た方が手っ取り早いかもしれないが、非PCクライアントから写真を見る際などは便利だ。 後者のダウンロードリダイレクタ機能は、クライアント側で任意のURLあるいはbit torrentファイルを指定して、ターゲットファイルをNAS上に直接ダウンロードするもの。ファイルサイズが大きくダウンロードに時間がかかる場合に役立つだろう。
今回の試用を通じて若干気になったのは、本機の動作がまれに不安定になる場合が見られたことだ。テスト中に、エラーを示すビープ音がなり、ネットワークドライブにアクセスできなくなることがあった。いずれの場合もリカバリはできたものの、これではせっかくRAID 5を採用した安心感が揺らいでしまう。今回用いたのが試用機で、個体の理由かもしれないが、ファームウェアのアップデートなどが待たれるところだ。
□ロジテックのホームページ (2006年10月17日) [Reported by 元麻布春男]
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