●デュアルコアが全デスクトップCPUの75%に 「Core Microarchitecture(Core MA)」の新CPUファミリをアグレッシブに展開することをIntel Developer Forum(IDF)で宣言したIntel。現在のIntelのデスクトップCPUロードマップを整理すると下のようになる。IntelデスクトップCPUロードマップのメッセージは明瞭だ。簡単に要約すると「100ドルから上のCPUはデュアルコアへ、さよなら3GHz」となる。
ロードマップ上では、来年(2007年)は「Core Microarchitecture(Core MA)」の浸食の年となる。「Core 2 Duo(Conroe:コンロー)」から派生したCPUが上下に広がっていくイメージだ。上はデュアルダイのクアッドコア「Kentsfield(ケンツフィールド)」が登場。下の価格帯にはシングルコアの「Conroe-Lite(Conroe-L)」系が入る。2007年後半には、Core MAがIntel CPUのほとんどを占めるようになる。 IntelがOEM向けに出している移行ガイドラインもこうした動きを裏付ける。現在の計画では、2007年第2四半期にはCore MA系(デュアルコア、シングルコア、クアッドコアの合計で)が60%以上を占めるようになる。Core 2は、出荷量の問題からメーカーPCへの浸透が今1つなので実感が沸きにくいが、1年以内に6割までCore MAに置き換えるプランだ。もちろん、大手OEMが抵抗しなければの話だが。 そして、Core MAへの移行はデュアル/クアッドコア化でもある。IntelのOEMガイドラインでは、今年(2006年)の第3四半期のデスクトップCPUは、OEM向けの全量のうち50%をデュアルコアが占める。だが、2007年第2四半期には、デュアルコア比率はさらに増大し、75%前後に至る予定だ。コストの高いクアッドコアの比率は低いが、デュアルコア化は怒濤の勢いで進むことになる。 ●100ドルがデュアルコアとシングルコアの境界に 境界線は100ドルライン。100ドルから下のCPUはシングルコア、100ドルから上のCPUはデュアルコアで線引きがされるようになる。若干の例外もあるが、2007年にはこうした区分となり、シングルコアCPUは廉価CPUという位置づけが明瞭になる。シングルコアのPentium 4は、2007年頭にはさらに価格を切り下げられる見込みだ。半年間で、Pentium 4の価格は1/3以下にまで下がる。 デュアルコア化の一方で、CPUの動作周波数は下がっていく。IntelがCore MAにすっかり移行すると、少なくとも65nm世代では3GHzを超えるCPUがなくなることになる。そもそも、IntelのデスクトップCPUのクロックは、過去2年の間、止まったままだ。2年前までの、1シーズン毎に1グレードずつ動作クロックが上がるというビートは完全に消えた。それどころか、デュアルコア化で逆にクロックは下がって来た。 Core MAへの移行で、デスクトップCPUのクロックは3GHz未満というラインに落ち着くことになる。PC業界にとってやっかいなのは、これから1年は、CPUの周波数も上がらなければ、世代交代もない、価格も変わらない状態になること。大きな製品の入れ替えは、45nm世代が出てくるタイミング、少なくとも2007年の終わり頃までは期待できない。クアッドコアは高コストなので、デュアルコアを浸食するような出荷にならない。独自性の薄いOEMメーカーは、PC製品の差別化に苦労することになる。 ●Kentsfieldを低価格化、CeleronにもCore MAを 過去2カ月程度の間に、IntelはデスクトップCPU製品のポジショニングとブランディングを微調整し、新たにSKU(Stock Keeping Unit=商品)を加えた。 KentsfieldのハイエンドCPU「Core 2 Extreme」は、6月の段階ですでに第4四半期にローンチを引き上げることが顧客に非公式に伝えられていた。比較的最近になって、IntelはパフォーマンスCPUの価格帯にも「Core 2 Quad」として投入することを決めた。これは、Kentsfieldが事実上半額近くのバーゲンになったことを意味する。 ハイエンドのExtreme系CPUは、999ドルとかなりのマニアでないと手が出ない価格帯で、通常のメーカー製PCには入らない。しかし、その下のパフォーマンスセグメントとIntelが呼ぶ価格帯は、通常500ドル台と大きく開いている。メーカーPCにも一応は入る価格帯で、TDPもExtremeは130Wなのに対して、一応100W周辺にまで下がる。 2007年に入ると、シングルコアCPUもCore MAへの転換が始まる。シングルコアのConroe-Lが登場するからだ。Conroe-Lは、NetBurst系の「CedarMill(シーダーミル)」を置き換えて浸透していく。ここでややこしいのはIntelのブランド戦略で、シングルコアのConroe-L系にはPentiumブランドとCeleronブランドが冠せられる。 簡単に言うと、Pentium 4を置き換えるのがConroe-LベースのPentiumプロセッサ、Celeron Dを置き換えるのがConroe-LのCeleronプロセッサとなる。PentiumとCeleronの後にサブブランド名がつくのかどうかは、まだわからない。PentiumブランドConroe-LはL2キャッシュが1MBでFSB 800MHzで1.4~1.8GHz、CeleronブランドConroe-Lは512KBでFSBは未定(533MHz?)だ。下がブランディングを整理した図だ。
●ダルマ落とし式ブランディング戦略 このブランディングの結果、Core MAイコールCore 2ブランドではなくなり、ブランドとマイクロアーキテクチャの関連性はなくなる。ブランドは、単純に、価格帯と最大フィーチャであるCPUコア数の違いを区分けするだけのものとなる。その結果、一時的にせよ、Pentium系ブランドでは、Core MAとNetBurst MAの両系統のCPUが入り交じることになる。ちなみに、Pentium Dも、2007年の中盤以降は消えていくと予想される。 2007年のCPUブランディングを整理すると次のようになる。ハイエンドは“Extreme”サブブランド、パフォーマンス&メインストリームがCore 2、その下の旧Celeron価格帯はPentium系ブランド、Celeronもカバーしていなかった最低価格帯をCeleron系ブランドが占めるようになる。ブランドは2階層から3階層へと多層化する。ダルマ落とし方式で、ブランドが1つずつスライドしたわけだ。Celeronは、40~60ドル台という、以前のIntelなら考えられなかった価格帯に押し込められることになる。 IntelはそもそもCore MAからはCPUブランドを引っ込め、プラットフォームブランドを前面に出すつもりだった。しかし、市場での退潮で、そうも言っていられなくなり、結局、より複雑なCPUブランディングを取ることになった。 ●新マイクロアーキテクチャとしては異例に小さなCore MA 今回、Intelのマイクロアーキテクチャの移行計画が迅速なのは、Intelにとってコスト面の痛みが小さいからだ。従来、ブランドニューの新マイクロアーキテクチャCPUは、ダイサイズ(半導体本体の面積)が大きくなるため製造コストが高く、そのため迅速に浸透させることができなかった。しかし、Core MA系CPUは、IntelのブランドニューCPUとしては、異例にダイが小さい。 具体的には、デュアルコアのConroe 4MB L2のダイサイズは143平方mmで、シングルコアで1MBのConroe-Lは77平方mmになると言われている。そのため、Intelは比較的スピーディにCore MAへの切り替えができる。下がダイサイズとマイクロアーキテクチャの関係を示す図だ。
ConroeとMeromは基本的に同一のダイなので、図中のMeromがConroeを、Merom-LがConroe-Lを示す。 Intelの過去の新マイクロアーキテクチャCPUは、PC向け製品として導入する時には200平方mm前後のダイだった。0.18μm版Pentium 4(Willamette:ウイラメット)は217平方mm、350nm版Pentium Pro(P6)は196平方mm。また、初のデュアルコアの90nm版Pentium D(Smithfield:スミスフィールド)も206平方mmだった。これまでのパターンだと、200平方mmクラスのダイのCPUが、2世代目になって140平方mm前後になり、普及版CPUとなる。NetBurstで言えば0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)(146平方mm/131平方mm)、P6系なら128平方mmの初代Pentium III(Katmai:カトマイ)あたりが2世代目の普及CPU世代となる。 過去の例と比較すると、Conroeのダイサイズは、新マイクロアーキテクチャCPUのサイズではなく、2世代目の普及版CPUのサイズだ。そのため、コスト面だけを見ると、Pentium 4やPentium IIIの普及期のように、Core 2 Duoも普及させることができる。
●CPUダイの小ささがCore MAの強力な武器 Conroeのダイの小ささは、NetBurst系デュアルコアと比べるとよくわかる。65nm版Pentium D(Presler:プレスラ)は、81平方mmのCedar Millを2個ワンパッケージに納めている。単純に合計したダイ面積は162平方mmとなり、Conroeより大きい。Intelは、Preslerは2ダイに分かれているので、製造歩留まりは同サイズのモノリシック(単一)ダイより高いと説明するが、パッケージ工程はより複雑になる。コスト的には、Preslerの方がConroeより若干いいかもしれないが、極端には違わないだろう。 つまり、Intelにとっては、Core MAとNetBurst、どちらのCPUを作っても、コストはさほど変わらないことになる。だったら、パフォーマンスが高く付加価値もあるCore MAの方へと急いで置き換えるのは自然な流れとなる。 Conroeはダイが小さいため、デュアルダイ構成でクアッドコア化も可能となる。143平方mmのダイを2つ載せたKentsfieldは、単純計算では286平方mmだが、これはサーバーCPUなら驚く程ではない。Preslerと同じ理由で、歩留まりは286平方mmのモノリシックダイのCPUより高くなる。 同様にConroe-Lのダイサイズも、非常に競争力が高い。Conroe-Lは、2006年初頭のプロジェクト段階で77平方mmとされており、実際の製品版シリコンではさらに小さくなる可能性が高い。Intel CPUのダイサイズの下限は80平方mm前後で、Conroe-Lはちょうどこのレンジにピタリとはまる。NetBurstなら81平方mmの65nm版Pentium 4(Cedar Mill)クラス、130nm版Pentium M(Banias:バニアス)の82平方mmとも同程度だ。ちなみに、512KB L2のCeleronブランドConroe-Lは、1MB版Conroe-Lと同じダイだと推定される。 ダイサイズがこのレンジに入ると、CPUの製造コストは30ドル台の前半になる。そのため、ボトムの価格が40ドルを切るようなことになっても、最低限のマージンは確保できる。 こうして見ると、Core MAへと進むIntelのロードマップには、Core MAのCPU自体の設計がコンパクトで、製造コストが低いことが大きく影響していることがわかる。CPUコアのトランジスタ数が少ないことは、低消費電力化にも大きく寄与している。つまり、CPUコアの規模が小さくダイが小さい、これがCore MAの強力な武器だ。
□関連記事 (2006年10月6日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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