元麻布春男の週刊PCホットライン

HDDキャッシュシステム「Robson」のもう1つの効果




●SRAMがリードするIntelのプロセス開発

45nmプロセスの試作ウェハ。SRAMセルのブロックにロジックのブロックが接続されている
 最近Intelが良く用いる表現の1つに「Intel 3.0」というものがある。創業から'80年代初めにかけてのメモリ製品中心の時代がIntel 1.0、それから20世紀末までのマイクロプロセッサ記号としてのIntel 2.0、そして21世紀のプラットフォーム企業がIntel 3.0というわけだ。

 確かにIntelは1985年にDRAM事業から撤退し、事業の主力をマイクロプロセッサへ移した。が、メモリから完全に手を引いたわけではない。携帯電話をはじめとする組込用途や、PCのBIOSやファームウェアの格納に使われるフラッシュメモリ(NOR型フラッシュメモリ)は、Intelが展開する事業の1つであり、この分野において、SpansionやST Microなどと並びトップベンダの1つに数えられる。

 また、単体での外販は行なっていないが、現在のIntel製プロセッサは、256KB(Celeron Dプロセッサ)から9MBを超える(Itanium 2プロセッサ)、大量のSRAMをキャッシュとして搭載している。単体で販売されないからなかなかピンとこないが、プロセッサに含まれるキャッシュをSRAMとしてカウントすれば、IntelはSRAMメーカーとして大手(ひょっとすると最大手)に数えられるのではないかとも思う。

 と同時に、こうしたプロセッサ用の高速SRAMは、Intelの半導体プロセス開発におけるテクノロジドライバの役割を果たしている。微細な製造プロセスに実用化のめどが立ったというニュースは、そのプロセスを用いて作られたSRAMの写真と共に届けられることが多い。

 最初に公開されるダイの写真がSRAMチップ(ダイの大半がSRAM)であるのに対し、量産が近づくにつれ、SRAMセルとロジックが混載されたウェハ、最後はSRAMをキャッシュとして持つ完全なプロセッサのウェハへと、公開される情報がステップアップしていく。今回のIDFで公開された、45nmプロセスにより製造された300mmウェハは、SRAMとロジック(レジスタやALUなどを模した論理回路)が混載されたもので、2007年の量産開始を目指して開発が順調に進んでいることがうかがえた。

●NANDフラッシュの新たな用途となる「Robsonテクノロジ」

 フラッシュとSRAMに加えてIntelは、2005年11月に発表したMicron Technologyとの合弁(IM Flash Technologies)により、NANDフラッシュメモリ事業にも参入した。セル構造がSRAMに近いNOR型メモリに対し、NAND型フラッシュメモリはDRAMに近い。かつてはDRAMメーカーであったIntelだが、撤退して20年を超える。今すぐDRAMやNAND型フラッシュメモリの量産に使える工場などあるハズもなく、この点でもパートナーが必要だったのだろう。

Intelのフラッシュメモリ生産施設(IM Technologies分を含む)

 現在IM TechnologiesがNAND型フラッシュメモリを量産しているアイダホ州のBoise工場は、この地に本拠を構えるMicron Technologyからリースする形をとる。同じく2006年後半に量産を始めるバージニア州のManassas工場(元々は東芝のDRAM工場だったところで、2002年にMicronへ売却)も、Micron Technologyからのリースとなる。IM Technologiesが自社で保有する工場は、2007年に稼働予定のUtah州Lehi工場(IM Technologiesの本社所在地でもある)からだ。

 さて、NAND型フラッシュメモリ事業に参入する理由としてIntelは、高い成長率が期待できることを挙げている。NOR型フラッシュメモリの成長率がこのところ横ばいなのに対し、NAND型フラッシュメモリは高い伸びを続けている。ここにきてiPodの減速が伝えられているが、近い将来本格的なビデオに対応したiPodが登場すると期待されているし、デジタルカメラや携帯電話で使われるメモリカード、USBメモリなど成長が期待できる分野が多い。

 また、このタイミングで参入する理由としてIntelは、自社プラットフォームへのNAND型フラッシュメモリの適用を挙げた。今回のIDFで次世代モバイルプラットフォームであるSanta Rosaの一部としての採用が発表された「Robsonテクノロジ」がそれだ。

Intelプラットフォームに対するNAND型フラッシュのインテグレーションであるRobsonテクノロジ

 基本的なアイデアは、PCI Expressバス上にNAND型フラッシュメモリを置いて、それをディスクキャッシュに使うというもの。システムのブートやアプリケーションの起動が高速化される。DRAMに比べてフラッシュは、消費電力や熱の点で有利であり、キャッシュによるディスクアクセスの減少と合わせ、バッテリ駆動時間の延長にも寄与する。

 同様なアイデア(NANDをディスクキャッシュに使う)としては、昨年のWinHECでMicrosoftが発表したHybrid Diskというコンセプトがある。Hybrid Diskは、HDD自体に不揮発メモリ(NANDフラッシュに限らない)を搭載し、システムレスポンスの向上、バッテリ駆動時間の延長、データロスのリスク低減、信頼性の向上といった効果をねらったものだ。また、HDD上のATAコントローラを使うことで、コスト上昇も最小限に抑えられる、というのがMicrosoftの説明であった。

Robsonテクノロジの概要

 それに比べてRobsonは、狙っている効果はHybrid Diskとほぼ同じ。違うのは、PCI Expressに対応したコントローラとNANDフラッシュメモリをミニカードのモジュールとして、ホスト側に搭載するということだ(ミニカードの半分サイズも検討されている)。こちらはコントローラカードやモジュールのコストがかかる一方で、HDDを選ばない、というメリットがある。変なたとえだが、レンズ内蔵式の手ぶれ補正と、カメラ本体内蔵のCCDシフト式手ぶれ補正みたいな感じだ。

 さらに、キャッシュ容量をOEMが(ひょっとするとユーザーも)選択可能になる、という利点も考えられる。ハードディスクメーカーはコストにシビアで、ある意味保守的なところがあるので、市場での価格変動が大きく、製品ごとにインターフェイスの異なる不揮発メモリ(NANDフラッシュメモリだけでもメーカー毎に仕様が異なる)を調達して搭載することを欲しない可能性も高い。ましてや、複数の容量オプションを用意するというのは、考えにくい話だ。Microsoftのハードディスクメーカーに対する影響力より、Intelのシステムメーカーに対する影響力の方が強い、ということも考えられる。Hybrid DiskよりRobsonの方が実用化に近いかもしれない。

 反対にRobsonで懸念されるのは、どこまでIntelの製品を使わなければならないのか、ということだ。Sean Maloney副社長が基調講演で見せたスライドでは、Robsonモジュール上の2つのチップ(PCI Express対応のコントローラと、NANDフラッシュメモリ)の両方にIntelのロゴが書かれている。これを額面通り受け取ると、Robsonは、IntelのコントローラとIntelのフラッシュの両方を買わなければならない、ということになる(Robsonのドライバの関係上、コントローラはIntel製にならざるを得ないだろうが)。

 もしRobsonがSanta Rosaプラットフォームの一部(オプション)であるだけでなく、Centrinoの一部ということになれば、OEMはIntelのプロセッサ、チップセット、無線LANコントローラに加え、IntelのフラッシュコントローラとNAND型フラッシュメモリまで買わなければならなくなる(iAMTの関係上、企業向けPCではGigabit EthernetコントローラもIntel製でなければならない)。この点をフラッシュ事業部の担当者にたずねたところ、コントローラの方は分からないとしながら、フラッシュメモリは特にIntel製でなくても対応するのではないか、という話だった。

 ただ、Intelはこれまで仕様がバラバラだったNAND型フラッシュメモリの世界に、業界標準を作ろうとしている。Open NAND Flash Interface(ONFI)と呼ばれるもので、ピンアウト、コマンドセット、それぞれのチップ毎に異なる能力(タイミング、バッドブロック管理など)を読み出す標準的なインターフェイスなどを規定することで、NAND型フラッシュメモリにおける製品間、世代間の移行を容易にしようという狙いだ(IntelはNOR型フラッシュについてはST Microとの間で、製品仕様の統一を発表している)。

 標準化といえば聞こえはいいが、後発企業が追いつくための策といえなくもない(インターフェイスが標準化されることは、ユーザー企業にもメリットがあるのは間違いないが)。果たして先発企業がすんなりとONFIに乗るのかどうかは、現時点では分からない(ONFIのアナウンス時、まだ賛同企業などは公表できない、ということであった)。が、もしRobsonのコントローラがサポートするのは、非Intel製でもONFI準拠のフラッシュだけ、などということになれば、ONFIを無視することは難しくなるだろう(ONFI自身は、オープンな標準であり、ライセンス料などは不要だと思われるが)。Micron TechnologyによるLexar Mediaの買収といったニュースも飛び込むなど、NAND型フラッシュの世界は激動の時代を迎えているようだ。

□IDF Spring 2006のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/spring2006/
□IDF Spring 2006レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/link/idfs.htm
□関連記事
【2005年11月22日】IntelとMicron、NANDフラッシュ製造の合弁会社を設立
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1122/intel.htm
【2月24日】インテル、次世代コアMerom/Conroeの改良点を公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0224/intel.htm

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(2006年3月11日)

[Reported by 元麻布春男]


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