山口真弘の電子辞書最前線

第4回 キヤノン「wordtank G70」
スタイラスとタッチスクリーンを備えた英語特化モデル




wordtank G70

2005年12月中旬 発売

価格:73,500円

連絡先:キヤノンお客様相談センター
     Tel.050-555-90025



 キヤノンの電子辞書「wordtank G70」は、タッチスクリーンを採用し、スタイラスによる入力が可能な電子辞書である。位置付けとしては英語特化型に当たり、オックスフォード系の英英辞典を中心に、英語研究に向いたコンテンツが充実したモデルである。

●コンテンツの「数」ではなく「質」を追求した英語特化モデル

 本製品は、前回取り上げたSIIの「SR-E8500」と同様、英語系のコンテンツに特化した電子辞書である。旅行英会話系のコンテンツを搭載していない点も「SR-E8500」とよく似ているが、本製品はさらに発音機能に対応しないほか、TOEIC系の学習コンテンツも一切搭載しないなど、研究/学習/ビジネスユースをストイックに追求した仕様となっている。

 本製品の搭載コンテンツ数について、カタログでは20のコンテンツ名が記載されている一方、Webの製品ページを見ると「12種類もの大辞典を収録」とされており、どちらが正しいのか混乱しやすい。さらにパッケージには「充実の英語辞書16冊搭載」と書かれており、わけが分からなくなってくる。本製品単体ならまだしも、他社の英語特化モデルと比較する場合、どの値を比較値として用いればよいのか、一見しただけでは分からないだろう。

 同社では、コンテンツの数え方について「100,000項目以上収録の辞典あるいは書籍名に大辞典と付くものをカウント」とカタログや製品ページに注釈を入れている。つまり、この基準を満たさないコンテンツを省いた場合は「12」となり、すべてのコンテンツを含めた場合は「20」となるのだ。ひたすらコンテンツ数のみを追求する競合他社に対し、コンテンツが持つ項目数を重要視する同社の姿勢が見て取れる。

 ちなみに、同じ方法で各社英語モデルのコンテンツ数をカウントすると、前回紹介したSIIのSR-E8500は「8」、その上位モデルSR-E10000は「12」、カシオXD-GT9300は「9」、シャープPW-V8900は「7」となる。本製品はSIIのSR-E10000と並び、英語モデルとしては最多の“コンテンツ”を搭載していることになる。

 余談だが、電子辞書のコンテンツのカウント方法は、メーカーによって全く異なるのが現状だ。例えば「ブリタニカ国際大百科事典」は、部門ごとに1コンテンツとカウントすることで計6コンテンツと見なすメーカーもあれば、全体で1つのコンテンツとカウントするメーカーもある。また、脳力トレーニング系のコンテンツを数に含めるメーカーもあれば、そうでないメーカーもある。

 これらのスタンスが各メーカーで異なる以上、すべての電子辞書を同列で比較することは不可能に近い。であればコンテンツに含まれる項目数をひたすらカウントすればよいかというと、それはそれで異論もあるだろう。上に挙げた「100,000項目以上収録の~」というカウント方法もあくまで目安であり、誰もが納得できる値とは言えないだろう。

 ただ、電子辞書の価値はコンテンツ数だけで判断できるものではなく、こうした別の尺度もあるということは、ユーザーとしては知っていても決して損にはならないはずだ。

●バックライトがなく液晶画面が見にくいのが難。音声機能もなし

 冒頭からいきなり話が脱線したが、「wordtank G70」を外観と主な仕様から順に見ていこう。

 本製品の筐体はシルバーとガンメタルの2色で、上蓋を開いた状態では全面がガンメタルといった体裁である。どことなくハードボイルドさを感じさせ、店頭でシルバー主体の他社製品に混じって並べられると明らかに目立つ。ちなみに上蓋のシルバーの部分はアルミ素材が採用されている。

 他社上位モデルに装備されているSDカードスロットはなく、コンテンツの追加は行なえない。また、音声出力機能も省かれる。

wordtank G70本体。ガンメタリックのカラーが特徴的 上蓋を閉じた状態。シルバーの部分はアルミ素材
右側面。ダイヤルは液晶の濃淡調整に用いる。右側にはスタイラスが収納できる 左側面。カードスロットなどはなく、ストラップホールのみのシンプルな仕様

 さらに、最近の電子辞書には珍しく、バックライトを搭載していない。そのため見る角度によっては液晶画面が見えにくいことがある。本体右側面に画面の濃淡を調整するためのダイヤルがあるので、必要に応じてここで調整することは可能なのだが、液晶のコントラストそのものがあまり高くないため、他社製品と見比べていても目が疲れやすいように感じる。視野角についても、広いとは言えない。

連載第2回で取り上げたカシオXD-GT6800(右)との比較。液晶画面のクオリティはカシオ製品に分がある。バックライトも利用できるカシオ製品と違い、暗い場所で利用するのは厳しい 液晶の視野角(写真中央)を、カシオXD-GT6800(写真右)と比較したところ。ほぼ同じ角度から撮影したものだが、こちらもカシオ製品に分があることが分かる。事実上、ほぼ正面において操作することが必須となる

 キーボードはQWERTY配列。ボタンは丸型で大きく、キーピッチも14mmとタッチタイプも十分に可能なのだが、かなりキーが固めで反発力があるため、連続してタイプしていると指先が疲れやすい。本体を両手でホールドして親指でタイプするか、本体を置いて人差し指を中心に押すスタイルが基本になるだろう。

キーボードは一般的なQWERTY配列。キーピッチは約14mmあり、押しやすい 上段にはファンクションキーが並ぶ。もともとのコンテンツ数が少ないこともあり、他社製品のように任意の辞書を特定のキーに割り当てる機能はない 右下には上下左右キーのほか、前/次の見出しキーが並ぶ。中央の訳・決定キーもサイズが大きく押しやすい
左下には各種機能キーがレイアウトされる。間隔が適度に開いており、いずれのキーも押しやすい。ラベルも明瞭だ バックスペースキーに相当する登録/削除キーが右上にある電子辞書はきわめて珍しい 付属のスタイラス。金属製でずっしり重い。長さは10cm強
メニュー画面。全コンテンツがコンパクトに表示されている。テキスト中心の機能的なイメージだ タッチタイプはキーサイズ的には可能だが、キーがやや固めであるため、指先が疲れやすい。また、J/Fキーに突起がないため、ホームポジションが分かりにくい

 キーボード上段にファンクションキー、下段に各種操作キーという配置は他社製品と同じだが、操作キーの間隔が他社製品と比べて広いため、押し間違いにくいのは好印象だ。中央の「訳・決定」ボタンも、一段階へこんでいて押しやすい。また、ON/OFFキーなど要所が色分けされており、直感的に分かりやすい。

 ファンクションキーは、SII社の製品と同様、1つのキーに複数のコンテンツが割り当てられており、例えば「英英」ボタンを押すたびに英英ODE→英英NOAD→英英OALDと切り替わる方式になっている。そもそものコンテンツ数が多くないため、これらのファンクションキーだけで大部分のコンテンツを直接呼び出すことができる。

キーボード上段のファンクションキーには、1つのキーに複数のコンテンツが割り当てられている。例えば「英英」キーだと、押すたびにODE→NOAD→OALDと順に切り替わる仕組みになっている

 ファンクションキーから呼び出せないコンテンツを含め、すべてのコンテンツを表示するには「メニュー」キーを押す。他社製品のようにタブ式ではないものの、一画面にコンパクトにまとめられていて直感的に分かりやすい。特定のコンテンツが呼び出せなくて迷うことはまずないだろう。イメージ的には質実剛健といった感じだ。

 画面サイズは5.2型。文字サイズは12/16/24ドットの3段階切替と、他社とほぼ同じだ。入力方法は他社と同様に、ローマ字入力とカナめくり入力がサポートされる。

文字サイズは12-16-24ドットの3段階で変更できる。やや行間が詰まりすぎているのが気になるが、1画面に収まる情報量としては十分な量だろう

 重量は単4電池×2本を含め288g、電池寿命は100時間と至って標準的。ACアダプタはオプションを含め用意されていない。本体面積はカシオのXD-GT6800とほぼ同じで、電子辞書としてはやや大きめ。ポケットに入れるには大柄な印象だ。

京ぽん2ことウィルコムWX310Kとの比較。筐体がシルバー、キーボード面がブラック系のカラーであるなど、よく似た配色だ
パスポートとのサイズ比較。ポケットに入れるにはやや大柄 単四電池×2本で駆動する

●スタイラス×タッチスクリーンで快適なオペレーションが可能

 本製品の大きな特徴は、スタイラスが付属し、タッチスクリーンによる入力が可能なことだ。

 例えば、本連載で重点的に取り上げてきた「複数コンテンツ間の連携検索」について、このスタイラスが威力を発揮する。表示されている本文の中で分からない単語があれば、それをスタイラスで範囲選択し、反転しているエリアをスタイラスで1回タップするだけで、複数辞書検索モードにジャンプできるのだ。調べたい単語だけを範囲選択できるので、検索結果の精度も高い。なにより直感的に操作できる点は高く評価したい。

 また、本製品はWindowsで言うところのタスクバーが画面右端に表示されており、ここに表示されているメニュー/戻る/進むといった各種アイコンをスタイラスでタップすることにより、基本的な操作が行なえる。表示されるスマートアイコンの種類は、いまいち分かりにくいが、スタイラスを最大限に活用できるインターフェイスは高く評価したい。

 さらにこのタスクバーについては、現在表示している見出し語について、他のコンテンツに同じ見出しが収録されているか、その有無を表示してくれる機能を持っている。つまり、リアルタイムで複数コンテンツ間の検索を行ない、ジャンプ可能なコンテンツをアイコンで示してくれるのだ。同社が「ディクショナリーリンク」と呼ぶこの機能は、他のコンテンツに同じ見出しがあるかをいちいち手動で検索しなくてはいけない他社製品に比べると、はるかに操作手順が少なくて済む。研究/学習用途でさまざまな説明を参照したい場合、一度使うと手放せなくなる機能だ。

スタイラスは本体右側面に収納する スタイラスで操作しているところ。複数辞書検索やマルチジャンプによる検索は、このスタイルのほうがスピーディに操作できる
本文中の任意の単語をスタイラスでなぞって反転させ、1回タップすることにより、単語の意味を検索することができる。直感的でわかりやすい検索方法だ

 1つだけ難を挙げるとすれば、これらの操作がすべてスタイラスで行なえるにもかかわらず、文字を入力する場合だけは、キーボードを使う必要がある点だ。スタイラスを持ったまま指でキーボードを押すという行為は、実際に使っていても違和感を覚える。

 スタイラスの先端でキーを押せればいいのだが、前述のように反発力が強いため事実上不可能だ。液晶のドット数の問題もあるとは思うが、液晶画面の下段にソフトウェアキーボードを表示させ、すべての操作がスタイラスで行なえるようにすればよかったかもしれない。

●英語を「読む」「書く」「理解する」に特化したコンテンツ群

 コンテンツ面では、オックスフォード系を中心に、アメリカ英語とイギリス英語の違いを意識したコンテンツを多数搭載していることが特徴だ。また、口語や俗語を多く含んだ「口語英語大辞典」など、実際の話し言葉に則したコンテンツが豊富なことも特徴である。やや矛盾するようだが、発音機能がないことも踏まえると、自分が「話す」ことよりも「読む」「書く」「理解する」に重きを置いた製品だと言える。

 特に、スタイラスが使えることを考えると、論文からペーパーバックの類まで、英語の文献を片手でめくりながら、複数辞書で単語の意味を調べるには最適だ。ただ、そうなるとますます、スタイラスで文字入力ができないことが不便に思えてしまう。後継製品では何らかの進化を期待したい。

 また「事典 現代のアメリカ」といった、米国について知るための読み物的なコンテンツが収録されているのも面白い。お遊び系のコンテンツがほとんどない電子辞書だけに、こうした読み物としても楽しめるコンテンツの存在は貴重だ。ただ、デフォルトでは検索画面がトップに表示されるのだが、読み物として使うためには、むしろ目次が最初に表示されるほうが親切ではないかと感じた。

 このほか、ユニークなコンテンツとして、「漢字源」に内蔵されている、漢字の筆順をアニメーションで表示してくれる機能が挙げられる。スタイラスを利用しての筆順テストも行なえるなど、タッチスクリーンを生かした機能は他社製品にないものだ。ただ、本製品のターゲットとなるユーザーを考えた場合、本製品でこの機能が活用されるかはやや微妙なところだ。むしろ同社の電子辞書ラインナップにある学習/受験モデル「V35」や中国語モデル「V90」、「G90」の機能をそのまま搭載したものと見るべきだろう。

読み物的なコンテンツ「事典 現代のアメリカ」。アメリカの風習と文化について解説されている。任意の単語による検索も可能だ 見出し語によっては写真やグラフといった図版も用意されているが、解像度が低いため、あくまでおまけ程度だ
漢字源では、漢字の筆順をアニメーションで表示できるほか、スタイラスを利用した筆順テストも行える 画面右端に表示されるスマートアイコン。同じ見出しを持つ他の辞書にジャンプできるほか、メニュー画面を呼び出したり、文字サイズを変更することができる。ディクショナリーアイコンを中心に、デザインが直感的に分かりにくいのは残念

●必要なコンテンツを予め理解しているユーザー向けの製品

 電子辞書というのは、購入時になにかと欲が出やすい製品である。店頭で製品を見ていると、あのコンテンツも使うかもしれない、このコンテンツも使うかもしれない、と気持ちが揺れ動く。そうした場合、本製品のようにコンテンツのバリエーションが少ない製品は、どうしても不利になってしまうのが現実だ。

 ただ、本製品はもともとそうした「あれもこれも」といったニーズに対応する製品ではなく、オックスフォード系の英語系コンテンツをはじめ、自分に必要なコンテンツをしっかりと理解している人向けの製品だと言える。各社がラインナップする英語モデルの中でも、これだけ豊富な項目数のコンテンツを内蔵した製品は他にない。他社製品で本製品と同等の項目数を持たせるためには、追加コンテンツカードの購入で数万円の追加出費が必要になってしまう。

 液晶画面が他社製品に比べて見劣りすることや、スタイラスとキーボードの使い分けについてもう一工夫欲しいと感じるなど、ハードウェア面がやや力不足なのは事実だが、英語コンテンツの充実度は群を抜いており、複数辞書の連携機能も含めて英語を深く理解するにはうってつけの製品だ。研究/学習/ビジネスユースにおいて、良きパートナーとなってくれるだろう。

【表】主な仕様
製品名 wordtank G70
メーカー希望小売価格73,500円
ディスプレイ5.2型モノクロ
ドット数480×240ドット
電源単4電池×2
使用時間約100時間
拡張機能なし
本体サイズ148×104×19mm
(幅×奥行き×高さ)
重量約288g(電池含む)
収録コンテンツ数12(コンテンツ一覧はこちら)

□キヤノンのホームページ
http://canon.jp/
□製品情報
http://cweb.canon.jp/wordtank/g70/
□関連記事
【2005年10月18日】キヤノン、受験対策向け電子辞書「wordtank V35」
~英語上級者向けの「wordtank G70」も
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1018/canon.htm

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(2006年8月24日)

[Reported by 山口真弘]


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