ThinkPadのZシリーズは、ThinkPadシリーズの中では唯一ワイド液晶を搭載した製品だ。 これまで内部アーキテクチャはIntelのSonomaプラットフォーム(Pentium M+Intel 915+Pro/Wireless 3945ABG)ベースだったが、今回Napaプラットフォームベースにアップデートされた。 ●Z61t/Z61m/Z61pの3つのモデルが用意されている レノボのThinkPadシリーズは、軽い方からX、T、Z、R、Gシリーズという5つのラインナップが用意されている。今回紹介するZシリーズは、薄型ノートPCでワイド液晶を搭載したモデルで、同じく薄型ノートPCであるTシリーズが4:3比の液晶を搭載しているのと比べて差別化が図られている。 Zシリーズには、14.1型液晶を搭載し2kg強と比較的軽量な「Z61t」シリーズ、15.4型液晶を搭載した「Z61m」シリーズ、同じく15.4型液晶を搭載しながらワークステーション用GPUを搭載している「Z61p」の3つのモデルが用意されている。表はそのラインナップで、Z61tとZ61mに関しては液晶のトップカバーがチタニウムになり、CCDカメラが内蔵されたモデルが用意されている。 今回取り上げるのは、そうしたZ61シリーズの中での最高峰製品となる「ThinkPad Z61p」(以下本製品)だ。Z61pは“モバイルワークステーション”の名にふさわしい仕様になっている。 液晶カバーはThinkPadブラックを採用しており、CPUにはCore Duo T2500、GPUにはMobility FireGL V5200、1,920×1,200ドット(WUXGA)の15.4型液晶と、デスクトップPC顔負けのスペックなのだ。
【表】Zシリーズのラインナップ
●Napaプラットフォームを採用したCentrino Duoブランドの製品 今回登場したZ61シリーズは、ケースなどは基本的にはZ60シリーズを受け継いでおり、一見すると外見に大きな違いはないように見えるだろう。だが、内部はほとんど別物と言って良いほど大きく変わっている。 その大きな要因は、すでに述べたように利用されているコンポーネントがSonomaプラットフォームからNapaプラットフォームへと変更されたためだ。本製品は、CPUはCore Duo T2500(2GHz)、チップセットはIntel 945PM Express、無線LANはIntel Pro/Wireless 3945ABGとなっており、いわゆるCentrino Duoブランドとなる。 メインメモリは標準で1GB搭載されている。利用されているのはDDR2-667で、5-5-5-13とDDR2-667としては一般的なレイテンシのDRAMが利用されていた。ただ、実装は1GBのSO-DIMMが1枚で行なわれている。このため、シングルチャネルで動作しており、Intel 945PMがサポートしているデュアルチャネル動作にはなっていない。もっとも、DDR2-667のシングルチャネルでも帯域幅は5.4GB/secに達しており、Core Duoのシステムバスである667MHzの帯域幅の5.4GB/secとマッチしている。 後述するように本製品ではGPUは、チップセット内蔵ではなく単体のGPUを利用しており、内蔵GPUがメインメモリを利用する必要もないため、シングルチャネルでも特に性能面でのペナルティはほとんどないと考えられるだろう。もっとも、それでも少しでも性能を上げたい人は、購入後に同容量のメモリを導入して、デュアルチャネル構成で利用するといいだろう。 なお、メモリソケットは底面ではなくパームレストの下に隠されている。底面にあるネジ4本を外すとパームレストを外すことができるのだが、カバーの手前部分が割と堅いツメで止まっており、無理に外そうとするとツメを割ってしまう心配がある。こうしたことに慣れているつもりでいる筆者でも最初はちょっととまどったので、あまり慣れていないユーザーであればマニュアル(電子マニュアルなので、必要部分を印刷して利用するとよい)や保守マニュアル(レノボのWebサイトで公開されている修理時の分解手順などが書かれたマニュアル)などを参照して慎重に作業したいところだ。 HDDは100GBの2.5インチのシリアルATAドライブが採用されている。採用されているのは、日立GSTの「HTS721010G9SA00」で、7,200回転の高速なドライブだ。HDDは本体の底面に、ネジ1本で止められているカバーの中に格納されている。もちろん保障の範囲外になるが、ユーザーレベルで交換することも可能で、保証終了後などにHDDが壊れてしまったときにも簡単に交換することができるのはよい。
●ドットピッチ0.17mmという超高精細な15.4型WUXGA液晶を採用 本製品のもう1つの特徴は、15.4型ながらWUXGAという超高精細な液晶ディスプレイを採用していることだ。ちなみに、下位モデルとなるZ61mは、15.4型WSXGA+(1,680×1,050ドット)液晶/ドットピッチ0.20mmで、正直言ってそれでも結構細かいと感じるので、0.17mmは目にかなり厳しいというのも事実だ。その代わりWUXGAという解像度のおかげで表示できる情報はかなり増えることになるので、こればっかりはトレードオフということになるだろう。 ThinkPadシリーズでは、他社のコンシューマ向けノートPCのようにグレア液晶は採用しておらず、映り込みの少ないノングレア液晶を採用している。ノングレア液晶は、映り込みが少ないというメリットがあるが、グレア液晶に比べて輝度が低いという特徴がある。実際、簡易輝度計で本製品の液晶の輝度を計測してみると150cd/平方m程度だった。ただ、ビジネス用途がメインになるであろう本製品の場合、150cd/平方mあれば十分だと言える。実際、150cd/平方m以上の輝度が必要になるシーンは、コンテンツの再生時なのだがそれは本製品の主用途ではないだろう。 “モバイルワークステーション”という位置付けがされている本製品は、GPUにはワークステーション向けのATI Technologies Mobility FireGL V5200が採用されている。Mobility FireGLとMobility Radeonの違いは、業務用の3Dアプリケーションでの動作保証がされているかどうかだ。実際、Mobility FireGL V5200も、チップそのものはMobility Radeon X1600と同等だが、専用のドライバが用意されており、「3D Studio MAX」などの業務用3Dアプリケーションで動作が保証されている。 もちろん、3Dの機能はMobility Radeon X1600と同等で、Shader Model 3.0に対応した12個のピクセルシェーダユニット、5個のバーテックスシェーダユニットを備えている。メインメモリは256MB搭載されており、メモリバス幅は128bitとなっている。ATIのビデオ高画質技術「Avivo」にも対応しており、付属の「CatalystControlCenter」を利用して設定も可能だ。なお、PowerStripをインストールして調べたところ、エンジンクロックが398MHz、メモリは640MHz(320MHz/DDR)と表示された。
●根強いファンに支持される伝統の7列配列キーボードは健在 すでに述べたように本製品はワイド液晶を採用している。このため、液晶ディスプレイはキーボードよりも長くなっており、本製品では余った左右をスピーカーのスペースにあてている。ThinkPadシリーズはどうしてもビジネス向けという扱いがされているため、スピーカーなどはボディの内部で開口部が小さいという場合が少なくないのだが、本製品の場合は液晶が横長で、スピーカーの開口部を設ける余裕があるため、キーボードの左右にThinkPadシリーズとしては大きめの開口部が確保されている。とりあえず出張先で音楽を聴いたりDVDを楽しんだりするには十分なものと言えるだろう。 キーボードは、根強いファンに支持されるThinkPad伝統の7列配列で、通常のキー入力はFnキーを利用しなくてもすべて行なうことができる。キーピッチは19mmとフルサイズになっており、ストロークも十分確保されており非常に快適に入力することができる。また、ポインティングデバイスはスティックタイプのトラックポイントとパッドタイプのタッチパッドの両方が用意されている(レノボではUltraNavと呼んでいる)。両方同時に利用することも可能だし、どちらかだけという使い方も可能だ。あるいは、タッチパッドの方をボタン代わりだけに利用するなども可能で、付属の“UltraNavの設定”を利用して細かく設定することができる。 ●光学ドライブは±R DL対応DVDスーパーマルチドライブを採用 本体の右側面には、光学ドライブのスロットが用意されている。ThinkPadシリーズにはTシリーズやXシリーズなどで採用されている9.5mm厚のドライブを利用したウルトラベイスリムと、RシリーズやGシリーズなどで採用されている12.5mm厚のドライブを利用したウルトラベイエンハンスドの2種類の拡張スロットがあるのだが、本製品はウルトラベイエンハンスドが利用できる。オプションで、ベイバッテリやシリアルATAドライブをセカンドHDDとして利用するアダプタなどが用意されており、さまざまな利用シーンに対応することができる。 なお、ドライブは±R DL対応DVDスーパーマルチドライブで、DVD±Rが最大8倍、DVD±R DLが最大4倍、DVD-RWが最大6倍、DVD+RWが最大8倍、DVD-RAMが最大5倍、CD-Rが最大24倍、CD-RWが最大16倍で書き込み可能となっている。このほか、右側面にはSビデオ出力、USB 2.0ポート×2が用意されている。また、USBポートはもう1つ背面にも用意されており、都合3ポートが利用することができる。 本体の左側面はミニD-Sub15ピン、モデム、Gigabit Ethernet、オーディオ入出力、IEEE 1394(4ピン)、Type2 PCカードスロット×1、ExpressCard/54/34スロットとなっている。 前面にはマルチカードリーダ、赤外線通信ポート、無線のハードウェアスイッチが用意されている。ThinkPadシリーズは、ビジネス向けということもあり、XシリーズにSDカードスロットがついていることをのぞくと、あまりメモリカードリーダはさほど積極的に搭載してこなかった。ただ、前モデルの「Z60」シリーズからは、メモリースティック/SDカード/MMCに対応したマルチカードリーダが搭載されていた。本製品でもそれが拡張されており、前出の3つのカードに加えてxD-Picture Cardにも対応するようになった。 また、無線スイッチも前モデルのZ60から追加された機能で、このボタンをOFFにすることで、ハードウェア的に電波をOFFにすることができる。飛行機や病院など電波を出してはいけないところで安心して利用できる意味でもありがたい機能だ。 なお、本製品には無線LANに加えて、Bluetooth 2.0+EDRの機能が内蔵されている。ソフトウェアスタックとしてはBroadcomの2.0対応スタックが採用されており、2.0に対応したさまざまな機器を接続して利用できるのはうれしいところだ。 標準で添付されてくるバッテリの容量は56.16Whと、48Whあたりが標準的な容量となる6セルバッテリに比べて容量がやや大きくなっている。このため、JEITA測定法で3.8時間と高性能なGPUを搭載している割にはバッテリ駆動時間が長めになっている。なお、オプションで9セルの大容量バッテリも用意されており、長時間利用したい場合にはこちらを利用するといいだろう。
●ThinkPadを特徴づけるThinkVantageソフトやGoogle Desktopがプリインストール レノボは現在ThinkPadシリーズと「3000 Notebook」シリーズという2つの製品をリリースしている。ThinkPadシリーズがハイエンドでビジネスユーザー向け、3000 Notebookシリーズがローエンド向けという位置付けとなっている。 ThinkPadシリーズと3000 Notebookシリーズとの差別化ポイントとなっているのが、レノボがThinkVantageテクノロジーと呼ぶ、一連の使い勝手を改善する機能やソフトウェアツールだ。例えば、ネットワーク接続の機能をプロファイル化してワンタッチで切り替えられる“Access Connections”、PCが衝撃を受けたときにHDDのヘッドを即時に待避してHDDのクラッシュを防ぐ“ハードディスク・アクティブプロテクション・システム”、日々のバックアップをとりシステムに障害が発生したときにはWindowsを起動しなくてもすぐにリカバリーできる“Rescue and Recovery”などがその代表となっている。こうしたソフトウェアや機能などを活用することで、PCが使えなくなることでビジネスが止まってしまうという事態を防ぐ仕組みが施されている。 もちろん、セキュリティ面にも配慮されており、パームレスト部に備え付けられた指紋認証モジュールと付属の「Client Security Solution 7.0」を利用することで、Windowsへの指紋でのログオンやファイルの暗号化なども実現可能となっている。 また、本製品には、標準でGoogle DesktopやPicasaなどGoogleが配布しているツールがプレインストールされている。Google Desktopを利用することで、PC内部のファイルを高速に発見することが可能になるので、ビジネスにも役に立つだろう。もっとも、これらのソフトはGoogleのサイトから無償でダウンロードできるので、特にバリューがあるというわけではないが、プリロードのイメージに含まれることで、リカバリしても再インストールする必要がないという点は便利だ。
●Mobility FireGL V5200の採用で高い3D描画性能を実現 今回も実際のベンチマークソフトを利用して、本製品の性能を計測してみた。利用したソフトはFutureMarkのPCMark05、3DMark03、スクウェア・エニックスが配布しているFINAL FANTASY XI Official Benchmark 3の3つだ。 結果は以下の通りで、CPUにCore Duo T2500という2GHzのCPUを採用したことで、CPU周りも高い性能を発揮しているし、何よりもMobility Radeon X1600相当のMobility FireGL V5200を搭載していることで、3D描画性能もIntel 945GM内蔵のIntel GMA 950を利用した他のモデルに比べて高い性能を発揮している。また、本製品はビデオメモリが256MBと余裕がある設定になっており、2007年に登場するWindows Vistaにおいて「Aero Glass」を有効にしても余裕で利用することができるだろう。そうした点もポイントが高い。
【表】ベンチマーク結果
●価格も超弩級だがそれだけの価値はあるワイドThinkPadのフラッグシップ 以上のように、本製品はThinkPadのワイド液晶モデルZシリーズのフラッグシップ製品として、Core Duo T2500、1GBメモリ、7,200回転の100GB HDD、Mobility FireGL V5200、15.4型のWUXGA液晶など、その名にふさわしいコンポーネントから構成されており、さらに定評のある7列配列キーボード、デュアルポインティングデバイス、使い勝手に配慮した数々のソフトウェアなど、ハイエンドPCとして必要十分な機能を備えている。 ただ、1つだけ難点をあげるとすれば、その価格だろう。本製品はオープンプライスだがレノボの直販サイトでの価格が349,650円(税込み)と、ノートPCとしてはかなり高額な部類になってしまっている。もっとも、以前のThinkPadのハイエンドは50万円弱という価格が当たり前だったわけだから、考えようによっては“安い”ともいうことができる。 ThinkPadの機能やブランドに価値を見いだせるユーザーであれば、決してこの内容でこの価格は高くはないと言えるのではないだろうか。 □レノボ・ジャパンのホームページ (2006年8月17日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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