そこが知りたい家電の新技術


ナショナル 食器洗い乾燥機
「新・子育て家電 NP-BM1」
~除菌ミストで、洗浄力を大幅に強化

NP-BM1

発売中

オープンプライス

このコーナーは、メカ好きなPCユーザーの目で、生活家電について取材し、その技術の面白さを探る企画です。(編集部)




松下電器 松下ホームアプライアンス社 家庭電化事業グループ ランドリービジネスユニット 商品企画グループ 食洗機チーム チームリーダー・橋本茂幸氏

●「新・三種の神器」の一角を担う食洗機

 家電業界には、「三種の神器」という言葉がある。

 昭和30年代の戦後の高度成長期に、「TV」、「洗濯機」、「冷蔵庫」という、3つの憧れの家電製品を指したのが最初だ。

 最近では、「デジタル家電 三種の神器」という言葉も生まれ、「薄型TV」、「DVDレコーダー」、「デジタルカメラ」の3つの製品が、成長製品として注目を集めた。

 そして、今、「新・三種の神器」といわれるのが、「食器洗い乾燥機」、「IHクッキングヒーター」、「生ゴミ処理機」である。これらの世帯普及率はいずれも20%以下。今後の普及が期待される製品ばかりだ。

 その新・三種の神器の一角を担う食器洗い乾燥機において、圧倒的シェアを誇るのが松下電器である。

 '60年にいち早く生産を開始。すでに46年の歴史を持ち、累計出荷は500万台という実績がある。その歴史を見ると、新・三種の神器の「新」という言葉は、本来、似合わない製品なのかもしれない。

●起死回生を賭けた戦略的製品

左から、NP-CM1、NP-BM1、NP-C1

 松下電器が、この分野で戦略的ともいえる製品を投入した。

 それが、6月21日から出荷を開始したスタンダードサイズの食器洗い乾燥機である「NP-BM1」と、コンパクトサイズの「NP-CM1」である。NP-BM1は、最大で一度に60点(約6人分)までの食器の洗浄、乾燥が可能で、NP-CM1ではこれが37点(約2~4人分)までが可能となる。

 ここ数年、市場は縮小傾向にあり、新・三種の神器というには、やや言葉負けする状況であったのも事実。松下電器の中村邦夫前社長(現会長)も、食洗機には、「負けている商品」と厳しい評価を下していたほどだった。

 そのため、ビジネスユニットには、この1~2年で成功の道筋をつけられなければ、事業撤退を余儀なくされるという危機感もあった。

 プラズマTVをはじめ、勝ち組製品が相次ぐ松下電器において、後れをとっていた食器洗い乾燥機の開発チームが、起死回生を狙って世の中に送り出したのが、この2製品というわけだ。

 実は、6月21日の発売以降の売れ行きは順調である。

 生産ラインを新たに増やし、ラインの稼働時間も延長。それに伴い生産ラインの人員も2倍以上に増員した。それにも関わらず1カ月待ちの状況が続いているのが実態だ。前年割れ続きの食器洗い乾燥機を成長製品へと生まれ変わらせたのである。

最上位機種のNP-BM1 5~6人分の食器、約60点を洗浄できる

●「本質性能」を強化

 では、なぜこれだけのヒット商品となったのか。

 この製品には、いくつかのポイントがある。

 1つは、「本質性能」と呼ばれる部分の強化だ。食器洗い乾燥機の本質性能とは、「設置性」、「洗浄力」に大別できる。

 食器洗い乾燥機がこれまで直面してきた課題の1つに設置スペースがあった。とくに、キッチンスペースの高さに制限がある場合や、シンク横の幅が狭くて縦方向には設置できないなどの設置にまつわる問題は、食器洗い乾燥機の普及に大きな壁として立ちはだかっていた。

 松下電器は、デザインチームと何度もモックアップを作り直してデザインを検討。その結果、薄型インバータモーターの採用により、コンパクトタイプの「NP-CM1」においては、45.5cmという業界でもっとも低い本体高を実現。吊り戸棚がある場所でも設置することが可能になったのである。

 さらに、本体底部に6つの設置脚を用意し、シンクにはみ出す設置や、シンクを跨ぐような設置も可能にした。

 同社くらし研究所の調べによると、キッチンへの設置可能率は、従来の製品では75%であったものが、スタンダードタイプでは80%に、コンパクトタイプではなんと90%にまで向上したという。

 「設置可能率があがることは、それだけ多くの消費者に利用していただけることにつながる」(松下電器 松下ホームアプライアンス社 家庭電化事業グループ ランドリービジネスユニット 商品企画グループ 食洗機チーム チームリーダー・橋本茂幸氏)というのも当然だ。

コンパクトタイプのNP-CM1 約2~4人用。37点の食器を洗浄できる NP-BM1でも、465mmのスペースがあれば設置可能(資料提供:松下電器産業)

●職人技が光るノズルの角度設定

【動画】各ノズルが回転し、水を吹き出す仕組み(WMV / 15.9MB)

 基本性能のもう1つが洗浄力である。

 食器洗い乾燥機は、プロペラのような羽から水を噴出し、その羽を回転させることで、庫内の食器を洗う仕組みになっているが、まさにそこに、松下電器の長年のノウハウが生かされている。

 まず、羽そのものの形状。そして、羽に付いた、「ブーメランノズル」と呼ばれる、食器に対して水を噴射する噴射口だ。

 食器洗い機のノズルは、もともと、まっすぐな直線方向に水を噴射するものだったが、ノズルを持った羽を回転させて、噴射した水が放射線を描きながら食器を洗浄するように進化してきた。

 従来は、1つの羽で全体を洗浄していたが、2005年モデルでは、複数の羽を回転させ、庫内に設置された「かご」にそれぞれ最適化した洗浄を行なうよう改良を加えている。

 今回の製品では、これをさらに進化させた。

コップをななめに配置し、上下から水を噴射して洗浄する(資料提供:松下電器産業)

 まず、庫内を4つの「かご」に分割。上段はコップ、下段は皿など、それぞれの役割をはっきりさせた。

 役割が決まると、そこから最適な水の噴射方向が割り出せる。それぞれのかごに最適化した、3つのブーメランノズルと、背面およびドーム上部をカバーする新開発の固定型ダブルアームノズルを配置。「かご」ごとの洗浄力を引き上げた。

 橋本氏が「場所によって羽の形状を変えているのは、ウチだけ」と語るとおり、それぞれのブーメランノズル(羽)やダブルアームノズルに用意された噴射口の角度は、すべてが異なる設計になっている。

 「洗浄力を向上させる上で、もっとも重要なのは、食器に水が当たる角度と強さ。それぞれの『かご』ごとに置かれる食器の形、位置などにあわせて微妙な調整を行なっている。基本設計はコンピュータで行なっているが、最後の最後の微調整は、職人芸ともいえる技を持ったエンジニアが修正を行なう。ここに、松下電器の長年のノウハウの結晶がある。他社が追いつけない部分だと自負している」(橋本氏)という。

 たとえば、コップ用のかごは、従来機種では垂直方向にコップを収納していた。しかし、NP-BM1では、コップを傾けて収納するようにピンを配置。さらに、これまで下方向からだけだった水の噴射を、上からも行なうことで、グラスの外側や底の部分まで洗浄できるように改良されている。

 傾けて配置したピンは、コップの出し入れをしやすくするほか、底に水が貯まりにくくなるなど、使い勝手の面でも貢献している。

 汚れを落とすためには、汚れについての研究も必要だ。家庭において使用する食器や、そこに付く汚れも、時代とともに変化している。これは、現代人の食生活が変化していることにも起因する。松下グループでは、松下電器の100%子会社であるアイ・マーケティングアドバンスで「教えてあなたの晩ごはん」調査を'98年から実施するなど、食生活の実態を掌握する取り組みも行なっている。

 食洗機では、こうした食生活の変化、それに伴う食器の変化を考慮したノズルの設計が行なわれているのである。

これまで開発してきた、食器洗い乾燥機用のノズル。噴射口の角度や配置などに、ノウハウが詰め込まれているという
万が一、機械部分に漏水しても大きなトラブルを引き起こさないよう、電子回路にはコーティングが施されている 食器洗い乾燥機の中に入っているモーター。一番左側が、NP-BM1に搭載されているもの。従来機よりも小型化を図っている モーターのスケルトンモデル

●松下の切り札「除菌ミスト」の効能とは

【動画】口紅を塗った食器に、除菌ミストをかけて、その後で水をかけるデモ(WMV / 9.58MB)

 そして、今回の新製品で見逃せないもう1つの洗浄力強化が、「除菌ミスト」の採用である。

 松下電器が「食洗機はじまって以来の洗浄革命」と言い切る除菌ミストは、口紅や茶渋、油汚れといった食器洗い機の大敵に、大きな効果をもたらしている。

 「洗浄力を高めるには3つの方法がある。1つは、水の力を強くすること。だが、これはインバータモーターに負荷がかかり、限界がある。2つめには温度をあげ、汚れを溶かすという方法。しかし、これも子供用のプラスチック製食器では耐熱温度が低く、すべての食器に有効に作用するとは限らない。3つめには、いかに洗剤の力を引き出すかというアプローチ。この3つめの切り口に、ミストという回答を見いだした」(橋本氏)

 除菌ミストは、食器洗い乾燥機のために、専用に開発した超音波ミスト発生器によって、約30倍の濃縮洗剤のミスト(霧)を生成。洗剤の溶液を超音波で微振動させ、細かい霧状にして、庫内に噴霧する。

 ミストは内圧を持っているため、汚れの表面にぶつかったとき、内側からの圧力に耐えかねて破裂する。このミストが汚れに対して、約3μm(マイクロメートル。1μmは1/1,000mm)という小さな孔を無数に開け、そこに高濃度洗剤を浸透させ、汚れを剥がしやすくするという仕組みである。

 放出してから約6分間で庫内にミストが充満。水による洗浄の前に、この操作を行ない、食器の表面の汚れを剥がし、除菌する。

除菌ミストが汚れを剥がす仕組み(資料提供:松下電器産業)

 もちろん、この開発は一筋縄ではいかなかった。超音波によるミスト発生技術は、電化住設研究所が加湿器向けには開発していたが、食洗機では、ミストそのものの成分が、水ではなく、洗剤となる。

 使用する洗剤成分がアルカリ性であることから、この影響を受けて振動子の部分が壊れやすいという問題があった。また、大容量の庫内にミストをまんべんなく噴霧するには、一次振動面と二次振動面とを効率的に振動させなければならない。

 ミストの発生量を確保しながら、洗剤成分から振動子をカバーするケースを開発。さらに、超音波発生器の振動がユニットに伝わらないよう、ユニット内部の液体に振動のエネルギーを分散させ、故障を防ぐ形状に改良した。ようやくこうした問題を解決したというわけだ。

 実際に、口紅を塗った器を使って、除菌ミストの実験を行なってもらった。ミストを使用した方の器は、その後、水をかけるだけで口紅が簡単にはがれ落ちたのに対して、ミストを使用していない方は、油分に対して水をかけただけなので、そのままでは口紅は落ちなかった。

 「単に洗剤を濃縮しただけでは、同様の効果が見られない。また、スチームでは洗剤成分を含むことができずに、がんこな汚れを引き剥がす効果がない。高濃度洗剤のミストだからこその効果。除菌効果、漂白効果にも威力を発揮する」(橋本氏)という。

 NP-BM1およびNP-CM1で、品薄が続く人気を博しているのも、この除菌ミストという、松下電器ならではの機能を搭載した点が大きい。

従来機に搭載されていた超音波発生器 NP-BM1に搭載されている超音波発生器。二次振動面に凹加工を施し、ミスト発生量を増加させる構造に進化させている

●オープンドームで使いやすさを改善

オープンドーム方式にしたことで、上方向から食器がいれやすくなった(資料提供:松下電器産業)

 食器洗い乾燥機には、本質性能の強化のほかに、「ユニバーサルデザイン」、「環境対応」という観点からの差別化も重要なポイントといえる。

 ユニバーサルデザインは、言い換えれば「使いやすさ」の追求。ここでは、オープンドーム方式と呼ばれる上部背面まで回り込ませて開閉する仕組みを採用。開口面積を従来製品に比べて約10%拡大した。

 とくに、これまでは上かご部分へ食器をセットする際に、かがみ込んで、奥をのぞき込んだりといった使い方を余儀なくされていたが、オープンドーム方式によって、スムーズに出し入れが可能になったのは、大きな改善点だ。

 これにより、食器のセット時間は、従来製品に比べて約30%も短縮したという。

 また、卓上タイプの食器洗い乾燥機では初めて音声ガイドを搭載。誤操作を防ぐといった使い勝手の改善にも取り組んでいる。

ユニバーサルデザインを意識して設計された操作パネル。ボタンの表面には点字もある 【動画】音声ガイダンスのデモ(WMV / 3.34MB)

●分水機構の採用で節水を実現

【動画】分水機構のデモ。一定の時間が経つと、放水経路が切り替わる(WMV / 1.8MB)

 一方、環境対応では、松下電器独自の分水機構を採用することで、大幅な節水を実現した点が特筆されよう。

 もともと食洗機は、洗濯機と同じ発想で、大量の水を使って洗うというところからスタートしており、当時は手洗いの方が水の使用量が少なくて済んだ。その後、技術進歩とともに、手洗いよりも少ない水の量で洗浄できるようになったが、松下電器でも、この分水機構を採用することにより、飛躍的に節水効果が向上したという。

 同機構は、2003年の製品から搭載されているものだ。一度にすべてのノズルから水を出すのではなく、庫内のかごに順番に水を噴射することで、水の使用量を抑える効果をもたらす。

 汚れを落とすのには水圧と、ある程度繰り返して放水することが必要だが、運転中、常時水をかけなければいけないわけではない。

 この点に注目し、NP-BM1では、庫内を4区画に分け、それぞれに順番に放水することにより、水圧を確保しながら、全体の使用水量を下げるアプローチを取っている。

 この分水機構は、歯車がカムをはじいて、制御板を動かし、水の通り道を塞いだり、開いたりして水の流れを制御する物理的な仕組みだ。水圧だけで噴射する水の位置を自動的に切り替える仕組みがユニークである。

 分水機構の採用により、従来の製品では約17Lを使用していた水が、約11Lで済むようになった。これは、手洗いに比べると1/10の量だという。

 「これまでは、食洗機は、女性が家事の手を抜く商品というイメージもあり、なかなか浸透しなかった。だが、除菌ができること、少ない水の量で済むことというように、食洗機を利用するメリットが十分にあることが訴えられるようになった。今回の製品では、『新・子育て家電』という言い方をしているが、それは、親子が一緒にいる時間を少しでも長くとってもらえるように手助けする商品でありたいとの思いを込めたもの。現在、食洗機の購入層は50代、60代が多いが、新商品では、親子の時間を増やすことが必要な子育て世代に購入していただき、そのメリットを実感してほしい」と語る。

●静音性の改善が今後の課題

「改善要素はまだまだある」と語る橋本氏

 橋本氏は、食器洗い乾燥機の進化はまだまだ続くと話す。

 洗浄力や環境対応、ユニバーサルデザインという点でも、改善する要素はあるという。

 例えば、改善点の1つに「音」がある。

 現時点でも、洗濯乾燥機と同じ静音性を実現しているが、食器洗い乾燥機は、独立したキッチンならばともかく、リビングとキッチンが直結したLDKが主流となっている今、リビングでのTV視聴に邪魔になるという指摘があるのも事実。

 「防音の工夫をすると、筐体のスペースが大きくなったり、洗浄できる食器の数が少なくなるという問題も発生する。こうしたバランスをとりながら、新たな技術を活用することで、問題をどう解決するのか。壁はまだまだある。こうした挑戦は、これからも続くことになる」(橋本氏)。

 2006年度には、いよいよ世帯普及率20%に達すると予想されている食器洗い乾燥機。松下電器は、先行メーカーならではの技術とノウハウで、新たな目標に挑んでいる。

□ナショナル(松下電器産業)のホームページ
http://national.jp/
□ニュースリリース
http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn060418-2/jn060418-2.html
□製品情報
http://ctlg.national.jp/product/info.do?pg=04&hb=NP-BM1


 「この製品の新機能、どういう仕組みになってるんだろう?」というものについて、メーカーに取材し、“技術のキモ”をお伝えします。取り上げて欲しい生活家電がありましたら、編集部までメールを送って下さい。

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(2006年8月7日)

[Reported by 大河原克行]

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