そこが知りたい家電の新技術


東芝 ドラム式洗濯乾燥機
「エアコンサイクルドラム TW-2500VC」
~洗濯乾燥機にエアコンを積んだ理由

TW-2500VC

発売中

価格:346,500円

このコーナーは、メカ好きなPCユーザーの目で、生活家電について取材し、その技術の面白さを探る企画です。(編集部)




東芝家電製造 愛知工場 ランドリー技術部 ドラム洗技術担当グループ長の今井雅宏氏

 近年、流行のドラム式洗濯機。洗濯時の振動や騒音、かがんだ姿勢での洗濯物の出し入れや洗濯時間の長さから、日本では縦型洗濯機が主流となり、数年前まではほとんど注目されない状況であった。

 しかし、洗濯機と乾燥機が一体になったドラム式洗濯乾燥機が現れたこと、そしてドラムを斜め上方に傾けて洗濯物の取り出しやすさに工夫するという製品が登場したことで、それまでのドラム式洗濯機のイメージが変わり、現在では洗濯乾燥機といえばドラム式と言ってもいいほどの状況となった。

 実際に、現在販売されている洗濯機の中で、本格的な乾燥機能を持つ洗濯乾燥機は1/4ほどを占め、さらにその1/2がドラム式になっているそうだ。

 これだけの市場で大きなシェアを確保するためには、他社との明確な差別化が必要である。そこで、各社ともさまざまな新機能を盛り込んだ製品を次々に送り出しており、白物家電製品の中でも特に活気がある市場という印象を受ける。

 そのドラム式洗濯乾燥機に、また新たな機能が盛り込まれた製品が登場した。東芝が発売した「TW-2500VC」だ。「エアコンサイクルドラム」というペットネームで、洗面所を冷やす冷風機能が搭載されているという点が話題となっている。

 なぜ、洗濯乾燥機にエアコンの仕組みを取り入れる必要があったのか。また、なぜ洗濯乾燥機に冷風機能が必要だったのだろうか。この洗濯乾燥機を製造している東芝家電製造株式会社の愛知工場におじゃまして話を聞いた。

●エアコンの原理を、洗濯機乾燥機に持ち込む

 まず、なんといってもこの製品の“キモ”である「エアコンサイクルドラム」について説明しよう。

 ペットネームであると同時に、システム名でもある「エアコンサイクルドラム」は、その名の通り、エアコンに用いられるシステムのことで、圧縮機(コンプレッサ)、加熱用熱交換機(コンデンサ)、冷却用熱交換機(エバポレータ)、膨張弁の4つのユニット間で冷媒をやりとりすることにより、空気の熱を奪ったり、与えたりする仕組みだ。一般的にはこれらを総称して、「ヒートポンプ」と呼ばれている。

 TW-2500VCでは、このヒートポンプを使って、空気を暖めて洗濯物を乾燥させたり、冷却して冷風を出したりしている。

(1) 低温で気体状態の冷媒を、コンプレッサ(圧縮機)を使って圧縮する。高圧にすると、冷媒の温度が上がる。
(2) 高温の気体となった冷媒をコンデンサ(加熱用熱交換機)に通して放熱させると、高圧のまま温度が下がるため、冷媒が液化する。この熱を使って乾燥を行なう
(3) 液化した冷媒を、膨張弁を使って一気に減圧すると、冷媒が気化して温度が下がる。この低温の冷媒をエバポレータ(冷却用熱交換器)に通すことで周囲から熱を奪う。この作用を利用し、冷却を行なう。
(4) 気化した低温の冷媒は、再び(1)の工程に戻され、このサイクルを繰り返す。

 このサイクルの(2)に当たる部分で、空気を温め、ファンでドラム内に取り入れることで洗濯物の水分を奪う。そこで発生する湿った暖かい空気を(3)の工程に導き、結露によって除湿することで、衣類を乾燥する。冷風機能使用時は、このサイクルの(3)の工程で、冷やした空気をファンで機外に送出する仕組みになっている。

 しかし、ヒートポンプを導入した当初の理由は、「冷風機能を付けたいから」ではなかった。当初の目的は、大きく分けて2つある。1つは、乾燥運転時のランニングコストを下げるため。2つ目は、乾燥の仕上がりをよくするためだ。

ヒートポンプ。コンプレッサ、コンデンサ、エバポレータ、膨張弁とファンからなる エバポレータ。気化した冷媒を通し、空気の温度を下げる役割を果たす
コンデンサ。高圧・高温の冷媒を冷却するため、チューブが密に配置されている。そこに冷媒を流し、放熱する 実装密度を上げるため、エバポレータとコンデンサ、コンプレッサが近い位置で配置されている

●洗濯乾燥機は乾燥時にも多量の水が消費される

TW-2500VCの背面。ドラムユニットの下に、ヒートポンプが隠れている

 まず、1つ目だが、現在発売されている洗濯乾燥機のほとんどの製品が、洗濯時だけでなく乾燥時にも水を使っている。

 乾燥機は、ヒーターやガスの燃焼によって熱せられた空気を、湿った洗濯物に当てて水分を蒸発させ、湿った熱風を屋外放出したり、簡易的な除湿をしてから室内に放出するという方式を取っている。

 昔は、住宅の機密性も低く、洗濯機や乾燥機が屋外に置かれることも多かったため、この方式でも問題はなかった。しかし、現在では洗濯乾燥機を洗面所など、室内に設置するようになっており、湿った熱風を室内に放出する方式は使えない。

 そこで、現状の洗濯乾燥機の大部分は、乾燥時に発生する湿った熱風を洗濯乾燥機内で冷却/除湿することにより、室外に放出しない仕組みになっている。具体的には、湿った熱風を低温の熱交換機に通して過剰な水分を結露させ、水として排出する。また、空気は、冷却/除湿された後、再度ヒーターで熱され、乾燥に利用される。

 一般的な洗濯乾燥機では、この冷却/除湿を水により行なうため、乾燥時に大量の水が使われる。例えば、東芝製洗濯乾燥機の従来モデルでは、乾燥時に約61Lもの水が使われているそうだ。

 もちろん、各メーカーとも乾燥時の水の使用量を抑えるさまざまな仕組みや工夫を考えている。例えば、すすぎに使った水を貯めておき、冷却水として再利用するという方法は、水の使用量を抑えるための工夫の1つだ。

 ヒートポンプは、そういったアイデアの1つとして、数年前より考えられていた。東芝家電製造 愛知工場 ランドリー技術部 ドラム洗技術担当グループ長の今井雅宏氏も、「(水を節約するために)ヒートポンプを使えばいい、という発想自体は昔からありました」と語っている。

 しかもヒートポンプは、ヒーターと比べて非常にエネルギー効率が高い。TW-2500VCに搭載されているヒートポンプでは、消費した電力に対して、約2倍相当の仕事をする。そのため、大幅な電力の節約につながるのだ。

 もちろん乾燥時の水の使用もなくなったことで、トータルのランニングコストが大幅に低減している。ちなみにTW-2500VCでは、従来のドラム型洗濯乾燥機と比較して電気代・水道代ともに約半分になっている。


●ヒートポンプの搭載は乾燥性能向上のため

洗濯機を製造している東芝家電製造 愛知工場

 そして2つ目の「乾燥の仕上がりをよくするため」という理由だが、今井氏によればこれこそが、ヒートポンプを導入した最大の目的なのだという。

 今井氏は、「乾燥機能の究極の目標は、仕上がりを天日干しに限りなく近づけるということです。また、ランニングコストを低減するということが大きな課題です。そこでエアコンと同じ仕組みのヒートポンプを内蔵したのです」と語る。

 一般的な洗濯乾燥機では、ヒーターを利用して100度を超える熱風によって洗濯物を乾燥させている。この方式では、天日干しに比べてふっくら仕上がるという利点がある。

 一方で、熱風によって布が縮んだり、温まった衣類が洗濯乾燥機内で折り重なるために深いシワがついてしまうなどの欠点がある。

 こうした問題に対し、ヒートポンプを内蔵するTW-2500VCでは、ヒートポンプのエバポレータ側で洗濯物の湿気を含んだ空気を冷却/除湿し、乾燥した空気をヒートポンプのコンデンサ側に送って熱する。これによって乾いた低温の熱風を作り、洗濯物を乾燥させている。

 この時の熱風の温度は約70度。これによって、布の縮みは天日干しとほぼ同じ程度しか発生せず、シワも付きにくくなっているそうだ。これ以上温度が高いと布の縮みが増え、低いと乾燥効率が落ちてしまう。70度という温度は、洗濯物の仕上がりや効率などを考えると最適な温度なのだそうだ。

 シワや縮みが少ない乾燥。これこそがヒートポンプを導入した最大の理由だった。

 そんなに有用ならば、なぜこれまでヒートポンプが導入されてこなかったのか。

 今井氏によれば、この考え方は以前からあったものの、実際にはコストやヒートポンプを内蔵するための設置スペースの確保といった問題もあって、なかなか実現されなかったそうだ。

 しかし、冷却用の水を通すパイプを密に実装し、ヒートポンプを小型化。ようやく、TW-2500VCのようなヒートポンプを内蔵する洗濯乾燥機が登場してきたわけだ。

冷風運転時の操作パネル。涼しげな青色に光る 冷風はドアの下にあるルーバーから送出される 空気は、本体最下部のダクトから取り入れられる
空気を循環させるため、フィルターが付いている 【動画】冷風運転を開始したとき(左)と、冷風運転を停止したとき(右)。(WMV / 左:4.50MB、右:1.98MB)

●エアコン機能はヒートポンプ搭載による二次的産物

ダイヤルと大きな液晶パネルを中心としたインターフェイス。洗濯から乾燥までの工程を示すランプもある

 実は、話題になっているエアコン機能は、こうして導入されたヒートポンプの二次的産物として、考え出された機能だ。

 本体前面の下部に冷風が出てくるルーバーが用意されており、エアコン機能を起動するとルーバーが開く。そこから冷風が上に向かって吹き出てくるという仕組みだ。約15分で2畳ほどの空間を約5度下げるパワーを持っている。

 実際に試させてもらったが、エアコン機能のスイッチを入れるとルーバーが開き、ほとんど待つことなく冷たい風が吹き出してきた。エアコンが効いた室内でも十分冷たく感じる風で、これなら夏場の風呂上がりの洗面所も快適になるだろう。

 この機能が生まれたいきさつについて、今井氏は「ヒートポンプを使って乾燥性能やランニングコストの低減は実現できた。じゃあ、他にメリットがないのか、と考えたときに自ずと出てきた結果なんです」と語ってくれた。

 そのヒントとなったのは、過去に東芝が消費者アンケートで「洗面所に何を置きたいですか」という質問をしたところ、冷風機を置きたいという答えが2~3割ほどあったことだそうだ。確かに、設置するスペースの面でも、一般的な価格を考えても、洗面所に普通のエアコンを置くのは難しい。しかし、2~3割の人が感じているというアンケート結果を見逃せなかった。

 そこで、「せっかくヒートポンプを搭載しているんだから、エアコン機能も付ければ一石二鳥じゃないか」(今井氏)ということになり、エアコン機能が実現されことになった。

●難航した「室外機のないエアコン」の開発

ドアは左開き。ドラム庫内が青色LEDで光る演出も

 しかし、実際にTW-2500VCでエアコン機能を実現することは容易ではなかった。問題は、前述したサイクルでいうと、(2)にあたる排熱工程だ。

 エアコンならば、室外機でファンを回転させ、空冷することができるが、洗濯機に室外機はない。

 そこで、水を使ってコンデンサを冷却させるアイデアを用いた。コンデンサに冷却用の水が流れる管を設置し、その配管に水を流してコンデンサを冷却する仕組みだ。

 洗濯機には、空気を外に出す室外機がない代わりに、水を排出する経路がある。この性質を利用したのだ。

 今井氏は、「水冷のエアコンですね」と語っていたが、この水による冷却という方式を採用したことで、コンパクトにエアコン機能を搭載できた要因になった。

 しかも、このコンデンサ冷却用の水配管は、洗濯時にドラムに注入される水を温める機能としても活用されている。つまり、ヒーターを使わずに温水洗浄ができるようにもなっている。TW-2500VCは、温水洗浄機能や乾燥機能を持つ洗濯乾燥機ながら、ヒーターは全く搭載されていない。これは驚くべきポイントだ。

●1馬力のコンプレッサを搭載して立ち上がり性能を高める

受注生産で、パステルカラーも用意される。右から、パールイエロー、パールピンク、パールブルー

 これだけの機能を実現するために、TW-2500VCのヒートポンプには1馬力のコンプレッサが採用されている。

 1馬力のコンプレッサは、6畳用のエアコンに使われているコンプレッサと同じパワーだという。洗濯乾燥機に搭載するにはオーバースペックという感じもする。なぜこのような強力なコンプレッサを搭載しているのか。その理由は、乾燥機能の立ち上がりを良くするためだそうだ。

 ヒーターを使う暖房に比べると、ヒートポンプを利用するエアコンの暖房は暖まり方が遅いと言われる。これは、非力なコンプレッサを利用した場合、徐々に熱を高めていくことになるからだ。もし、パワーのないコンプレッサを採用すると、空気が暖まるまでに時間がかかり、当然、乾燥時間が長くなる。

 また、乾燥時間が長くなると、外に逃げていく熱も増え、効率も落ちてしまう。つまり、省エネ性能も落ちることになる。そこで、乾燥時に素早く空気を暖められるように、強力なコンプレッサを搭載しているのである。

 つまり、強力なコンプレッサは、乾燥機能を向上させ、省エネを追求するための必須要素だったわけだ。

●洗濯機と冷蔵庫、エアコンの3部隊が共同で作り上げた製品

東芝は、昭和5年(1930)に、国産初となる電気洗濯機を発売している

 ところで、洗濯機にヒートポンプを内蔵するということは、東芝としても過去になかったことで、部品類の選択や実装などでもかなり苦労したそうだ。

 狭いスペースにコンプレッサやコンデンサ、エバポレータをどのように配置すればいいのか。また、コンプレッサにはどの程度のパワーが必要なのか。

 当然、こういった点は洗濯機の技術者にとっては全く未知のことだった。しかし、そこは総合家電メーカーである東芝として、エアコンや冷蔵庫などの開発技術者と協力して、さまざまな問題点が解決されていったのだ。

 例えば、脱水による振動にも耐えられるようにヒートポンプを配置するにはどうすればいいか。

 エアコンの技術者によると、振動に弱いコンデンサーやエバポレーターを振動から守るには、振動が伝わりにくいように配管を長くする必要がある。とはいえ、設置スペースは限られている。

 そこで、狭いスペースにコンプレッサーを配置するノウハウを持つ冷蔵庫の開発部隊に協力してもらって、さまざまな形状の配管を試しつつ、エアコン開発部隊が持つ配管シミュレータを利用させてもらって検証し、最終的な形状が決定されたそうだ。

 「コンプレッサはエアコンの開発部隊によるものを使っています。また、内部の各種配管やヒートポンプの配置は、冷蔵庫の開発技術者に協力してもらっています。3つの部署が集まって協力して開発できなければ、この製品はできなかったと思います」と今井氏。

 まさに、全社上げての開発協力体制が整ったからこそ生み出された製品なのである。もちろん、東芝が持つ、さまざまな面での技術の蓄積がもたらす総合力が可能にした製品だろう。

発売当初の価格は370円。一戸建て住宅の約半分程度の価格だったという 愛知工場には、歴代の洗濯機が展示されている

●ライバルは太陽

 今回、TW-2500VCのさまざまな機能を説明してもらって、この洗濯乾燥機は、現在考えられる機能をほぼ全て詰め込んだ、まさに究極の洗濯乾燥機と言ってもいいのではと感じた。

 しかし、まだ課題は残されているそうだ。今井氏は「直近の課題は、コンパクトにすることと重量を減らすことだと思います」と指摘する。確かに、TW-2500VCは、ドラム型洗濯乾燥機の中でもかなり大きな部類に入るため、物理的に搬入できなかったり、洗濯機の設置場所に置けない可能性もある。

 重量もエアコンサイクルエンジンを搭載したことで、従来機種よりも30kgほど増えてしまっている。TW-2500VCの洗濯・乾燥性能を落とすことなく、コンパクトにして軽量化し、さらにコストダウンを実現するための技術開発を進めていくことが当面の課題というわけだ。

 そして、究極の目標として今井氏は、「私たちのライバルは太陽ですから、天日で干した以上の仕上がりを目指したいのです」と語る。

 現時点では、洗濯乾燥機を使っている人でも、晴れている日は天日で干したいと思っている人が多いように思う。そう思われている原因としては、乾燥したときの仕上がりや、乾燥機能を使った場合のトータルコストなど、さまざまな面があると思う。それに対する現時点での東芝の答えがエアコンサイクルエンジンであることは間違いない。

 しかし、「今後も研究を進め、天日干しに勝つような乾燥方式を技術開発することが必要なのです」と、力強く今井氏は語る。

 「洗濯乾燥機を使った方が天日干しよりもいい」。そう言われる洗濯乾燥機が登場するのも、そう遠くないかもしれない。

□東芝コンシューママーケティング株式会社のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/tcm/
□ニュースリリース
http://www.toshiba.co.jp/tcm/pressrelease/060601_j.htm
□製品情報
http://www.toshiba.co.jp/living/laundries/pickup/tw_2500vc_news.htm
□関連記事
【6月1日】【やじうま】東芝、冷房機能を備えたドラム式洗濯乾燥機
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0601/yajiuma.htm


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(2006年8月3日)

[Reported by 平澤寿康]

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