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AMDのATI買収でPCチップセットの構成が変わる




●ATIのIntel向けチップセットビジネス

 AMDによるATI Technologies買収の余波は大きい。特に、買収された側のATIには、Intelプラットフォーム向けの製品も多い。そのため、製品計画の変化が予想されている。

Radeon Xpress 200+ULi 1573のASRock「755Twins-HDTV R2.0」。Core 2 Duo対応(COMPUTEX TAIPEI 2006より)

 もちろん、一番大きな影響を受けるのはIntelプラットフォーム向けチップセットだ。ATIのIntel向けチップセットは、昨年(2005年)のIntel純正チップセットの不足以来好調だ。AMD/ATI両社は、ATIのIntel向けチップセットビジネスも継続して行くと説明している。「今まで通りのビジネス(Business as usual)」と強調しているが、これは買収などビジネス体制に変化があった時の常套文句で、額面通りには受け取れない。

 そもそも、AMD傘下となったATIに、Intelが易々とバスライセンスの更新を継続するとは思えない。反トラスト法への警戒から、ライセンスを与える可能性もあるが、少なくとも、Intel純正マザーボードに採用することは、ありえないだろう。

 一方、ATIには、よりAMDプラットフォームに最適化したチップセット設計が要求されるようになるだろう。そのため、ATIのチップセットも、今後、しばらくすると変化が見えてくると推測される。

 ATIのIntel向けチップセットを整理すると、まず、ノースブリッジチップ側にPCI Express x16で2リンクCrossFireをサポートするハイエンドチップセット「RD600」がある。これは、AMD向けの「CrossFire Xpress 3200(RD580)」と同等クラスチップだ。2つのPCI Express x16リンクはノース内部のPCI Expressコントローラに接続されているが、両x16リンク間だけの専用スイッチングもできる。ATIではこれを「Xpress Route」と呼んでいる。原理的には、NVIDIAのPCI Express x16 2リンクより、PCI Express x16間の転送レイテンシが小さい。NVIDIAがまだ弱い、IntelプラットフォームでのPCI Express x16 2リンクグラフィックスを狙った製品だ。

 Intel向けグラフィックス統合チップセットでは同じく600世代の「RS600」を投入する。RS600のGPUコアはDirectX 9 Shader Model 2.0世代で、Pixel ShaderだけでなくハードウェアでVertex Shaderも備える。4ピクセルパイプ構成で、ATIのビデオ再生支援技術「Avivo」と、HDMIを標準でサポートする。ここまでは、すでにCOMPUTEXではサンプルも動かしていたので、市場にも登場するだろう。

 ATIのIntel向けチップセットでは、このあとにローコスト版の「RC610」があり、以前はメモリ回りをアップデートする「RS650」というプランもあった。さらに、2007年には、新コアとなる「RS700」系が計画にあった。このあたりは、どうなってくるか、まだわからない。

 いずれにせよ、2008年にはIntelもFSB(Front Side Bus)をシリアル技術による「CSI」へと切り替える。そのため、バスライセンスなどの話も、そこでリセットとなる可能性がある。

●CPUとGPUの統合化で変わるチップセットの構成

 AMD+ATIの連携で、ATIのAMD向けチップセット製品では、構成の変化が起き始める可能性がある。この先、2008年以降に、AMD+ATIの統合プロセッサが完成すると、少なくともローエンドのグラフィックス統合チップセットは入り込む隙間がなくなる。必要水準のグラフィックスはCPU側に入ってしまうため、ぶら下がるチップセット側は純粋にI/Oチップとしての機能だけが求められるようになる。皮肉なことに、ATIチップセットが一番弱いのはその部分だが、ATIサウスブリッジも改善されつつある。

AMD+ATI Future Technology?
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 CPUにGPUコアが載ると、チップセット側では2チップ構成のソリューションは不要となる。ATIとしては現行のサウスブリッジチップにPCI Express x16(Gen2)を実装したワンチップソリューションを作ればいいことになる。もっとも、CPU側に内蔵したグラフィックスコアだけでは、パフォーマンス的に不足する市場はもちろん出てくる。その場合は、グラフィックスの拡張は、PCI Expressで行なうことができる。

 もっとも、グラフィックスの拡張でも、変化が起きる可能性がある。ATIや他のGPUベンダーがHyperTransportベースのハイパフォーマンスGPUを作れば、チップセットを経由せずにビデオカードを直接CPUに接続することも可能になるからだ。HyperTransportベースのスロットでビデオカードを拡張すると、PCI Express側のグラフィックスと、CPU内蔵のグラフィックスで、トリプルグラフィックスも可能になる。

 もちろん、接続したGPUにグラフィックス以外のタスクをやらせることも可能だし、そもそもグラフィックスカードではなくてもいい。例えば、64bitベクタプロセッサカードを搭載したワークステーションも可能だろう。

 ただし、HyperTransportベースのGPU/グラフィックスカードは、ビジネス的に成り立つかどうかという難しい問題をはらんでいる。PCI Expressベースなら、IntelとAMDの双方のプラットフォームに使えるが、HyperTransportだとAMD側だけに限定されるからだ。

 ATIは、AMD CPUソケットに挿入する「ソケットフィラー(Socket Filler)」型のGPUを作ることも可能になる。ただし、その場合はメモリ帯域がネックとなる。CPU側に接続できるメモリモジュールは、常にグラフィックスメモリより低速なので、ハイエンドグラフィックスに見合うだけのメモリ帯域が得られないからだ。

 こうして見ると、AMD+ATIで、現在の、CPU-ノースブリッジチップ(+グラフィックス)-サウスブリッジチップという形態が変わる可能性が見えて来る。しかし、同じことは、実はIntelにも言える。IntelがCSIへと移行すると、似たような変化が起きるかもしれない。Intelが、CSIベースの拡張スロットを標準化すれば、CPUに直接ビデオカードを接続できるようになる。ある業界関係者は、Intelもコプロセッサを接続できるようにすることを検討していると語っているため、可能性はないわけではない。

CSI時代のIntelチップセット推定図
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●当面はファウンドリとの関係を保つ必要があるATI

 ATI製品の製造態勢も、AMDによる買収で変わる可能性がある。Fabを持つAMDとファブレス(シリコンFabを持たない)ATIの組み合わせでは、当然ATI製品をAMD Fabへと移行させることが想定される。

 しかし、現時点では、ATIは、現行のファウンドリパートナーに製造を委託し続けると説明している。今のところATI製品をAMD Fabで製造するプランは一切発表されていない。ATIのディスクリートGPUやチップセットなどは、依然としてTSMCやUMCといったファウンドリで製造される。

 AMDは膨大なFabキャパシティを持つのだからATIが有効利用しないのは奇異に見えるが、ちょっと考えればこれは納得ができる。おそらく、将来、45nmプロセス世代あたりからはATIはAMD Fabを使い始めるだろうが、現状ではそれは政治的な理由と技術的な理由からアナウンスできないと思われる。

 シリコンファウンドリにとって、ATIとNVIDIAの2大GPUベンダーは最有力の顧客だ。製造量が大きいだけでなく、先端プロセスのドライバとなってくれる顧客だからだ。90nmまではGPUがファウンドリのプロセスを引っ張ってきたと言ってもいい。そして、ATIも、次のフラッグシップに使う65nmプロセスは台湾ファウンドリに頼っている。そのため、AMDとしても、ATIとファウンドリの良好な関係に水を差すようなアナウンスはできないだろう。

●プロセス技術のすり合わせも必要に

 技術的にも難しい点がある。まず、AMDとアジアファウンドリではプロセス技術や製造態勢が大きく異なる。AMDの現行のプロセスはSOI(silicon-on-insulater)オンリーであるのに、ATIが使うファウンドリのプロセスはバルクCMOSだ。ATIはSOIで設計し直す必要がある。

 また、現行のGPUはDAC(Digigal-Analog Converter)を内蔵する必要があるが、これもデジタル回路専門のAMDにとって多少ハードルが高い。AMDにはグラフィックス向けの高速DACのIPが必要となる。昔のようにDACを外付けにすることもできるが、コストがかかる上に、DACの供給も難しいだろう。ディスプレイ側が完全にデジタルに変わってしまえばこの問題は解決するが、それまではやっかいな問題として残ることになる。

 また、ファウンドリは多品種少量生産が容易で、サンプルなどのタイミングも速い。AMDは、CPUベンダーにしては多品種少量生産に向いた製造態勢だが、ファウンドリほどではないだろう。

 こうしたことを考えると、すでに開発に入っているGPUをAMD Fabに移すことは考えにくい。ATIの開発サイクルは18〜24カ月なので、少なくとも2008年までは現在のファウンドリを継続するだろう。AMD側も、対応できる製造態勢を整える必要がある。

AMDのプロセス技術&Fab推定ロードマップとATIのプロセス技術
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●AMDの膨大な製造キャパシティを埋めることができるATI

 もっとも、AMD+ATIが統合プロセッサをリリースするフェイズに入ると話が変わってくる。統合プロセッサは45nmプロセスで製造すると推測されるが、そうなると、ATIはAMDの45nm SOIプロセスでのGPUのIPを持つ。ATIは、ディスクリートGPUなどもAMD Fabで作りやすくなる。

 また、AMDのFab計画を考えると、ATI製品も全てAMD Fabへと持って行くのがロジカルだ。というのは、AMDのFab 36/Fab 38を合わせた製造キャパシティは、AMD CPUの製造だけならオーバーキルだからだ。AMD CPUだけを製造するとしたら、両Fabがフル稼働を始める2008年になると、AMDはx86 PC&サーバー市場のCPUの半数に近いシェアを取らないとFabを埋め尽くすことができなくなる。さもないと、AMD Fabのキャパシティは遊んでしまい、Fabへの投資を回収できなくなる。しかし、ATIのGPUとチップセットを製造するとなれば話は違ってくる。市場シェアはそこまで高くなくても、Fabをフル稼働させることができる。

 また、ATIにとっては、AMD Fabはプロセス技術面での大きな利点となる。ファブレスであるGPUベンダーは、シリコンファウンドリに製造を頼って来たため、どうしても最新プロセス技術への移行は遅かった。「我々とNVIDIA、どちらも、プロセッサ業界より若干(新プロセスの採用が)遅い」とATIを率いるDavid E. Orton(デビッド・E・オートン)社長兼CEOはCOMPUTEXの際に語っていた。

 特にクリティカルなのは、プロセス技術の大きな節目になる世代で、例えば、130nmプロセスはハードルが高かった。NVIDIAのGeForce FX 5800(NV30)が出遅れた理由の1つは、プロセスの立ち上げが遅れたためだと言われている。当時、NV30の製造を担当したTSMCは次のように説明していた。「130nmでは、これまでのプロセス世代と比べて(歩留まり向上の)ラーニングカーブが遅かった。その理由は、新しく加わった技術要素だった銅配線と、低誘電(Low-k)率(配線間膜)材料だった」。

●45nmプロセスでATIもAMD Fabへ移行し始める?

 新技術要素がプロセスに加わる時は、先端プロセスの開発により多くの投資をしているプロセッサベンダーの方が有利になる。その意味で、今後、ハードルが高いと言われているのは45nmプロセスだ。

 「誰もが45nmプロセスについては、立ち上げがこれまでより難しくなることを懸念している。技術的な飛躍があるからだ。45nmプロセスでは、製造装置レベルでいくつかの革新が要求されている」とOrton氏は5月に語っていた。Orton氏は、65nmプロセスは確実だが45nmは難しいと考えている。すでにAMDとの交渉が最終段階の時期での発言だけに、45nmについてのこの発言は意味深だ。

 ATIがもしAMD Fabを使うなら、45nmのハードルを軽減できるようになる。AMDは、IBMを中心としたプロセス開発提携に加わっており、IBM、AMD、ソニー、東芝などでプロセス技術のベースを共同開発している。この連合は、半導体業界でも最有力なもので、そのため、AMDはIBMとの提携以降のプロセス移行のサイクルを加速させつつある。45nmプロセスも、65nmプロセスの約1年半後の2008年中盤が予想されている。

 ATIが、AMD Fabの先端プロセス技術を使うようになると、AMD CPUとほぼ同時期の新プロセスの利用が可能になる。GPUの方がCPUより検証期間が短い分、より速く新プロセスの製品を出荷できるかもしれない。そうすると、ATIはNVIDIAなど他社に対して、プロセス技術で確実に優位に立てることになる。例えば、ATIが2008年半ばに45nmのGPUを出荷し、NVIDIAの45nmが2009年半ばになるとしたら、ATIはライバルに対して1年間のプロセス技術の優位を得ることになる。

●ATIの買収で注目されるNVIDIAの動き

 AMD-ATIの連合の成立で、注目されているポイントの1つはNVIDIAの動向だ。簡単に言えば、IntelがNVIDIAを買うかどうか。AMDがATIを買うくらいだから、何が起きても不思議ではないが、業界関係者には否定的な声が多い。

 あるIntel関係者は、過去にIntelがグラフィックスベンダを買って失敗をしている点を指摘した。Intelはその経験から、グラフィックスコアは社内の開発ラインで最初から開発するようになった。また、Intelはチップセットでシェアを握っているため、反トラスト法(Sherman Act)で、FTC(米連邦取引委員会:Federal Trade Commission)の目を気にする必要があるかもしれない。

 また、あるCPU業界関係者はAMDによるATIの買収金額があまりに高いため、Intelは買えても買いたがらないのではないかと指摘する。「AMDがATIに払った金額で、AMDはFabを2つ建設できる」「AMDは膨大なコストがかかるFabの2個分に匹敵する価値がATIにあると見たことになる。自社に開発リソースがあるIntelが、同じだけの価値をGPUに見いだすかはかなり疑問」。

 しかし、何と言っても多いのは、NVIDIAのトップであるJen-Hsun Huang(ジェンセン・フアン)氏(Co-founder, President and CEO)が、ATIのOrton氏よりずっとタフネゴシエータであると指摘する声だ。PC業界では、NVIDIAが交渉の相手としては最もタフだというのは有名な話だ。そのHuang氏なら、よほど好条件でない限りNVIDIAを売らないだろう。

 ともあれ、AMDとATIの動きが表面化した今春頃から、IntelとNVIDIAの関係が変わってきたことは確かだ。例えば、COMPUTEX時には、複数の業界関係者が、IntelとNVIDIAがチップセットで頻繁にミーティングを行なっていると語っていた。NVIDIAは、Intelのバスライセンスの問題から、これまでAMDチップセットにフォーカスしてきた。しかし、AMDとATIがタッグを組んだことで、IntelにとってNVIDIAは重要になった。

 NVIDIAにとっても、長期的に見るとAMDとATIの統合プロセッサの影響は大きい。ローエンドグラフィックスとグラフィックス統合チップセットは食われる。ただし、ATIがIntelプラットフォームから退潮して行くと、NVIDIAはそこを占めることができる。プラスマイナスがある。

 ATIの動きでMicrosoftと任天堂も影響を受ける。Microsoftと任天堂は、どちらもゲームコンソールのグラフィックスチップをATIから買っているからだ。ただし、両社ともATIから買っているのはIPで、ATIから完成チップを買うというモデルを取っていない。そのため、影響は間接的なものになる。

 任天堂にとっては、パートナーがSGIだったのがベンチャーのArtXとなり、ATIになって、AMDに変わる。任天堂自身はNintendo 64の時から同じチームと共同開発をしているつもりなのに、相手側がどんどん売られて変わってしまった。

 こうして見ると、AMDとATIの合流は、シリコンレベルだけでなく、PCの構成を含めて大きな変化の契機となる可能性があることがわかる。

□関連記事
【7月27日】【海外】正反対の方法論で対決するATIとNVIDIA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0727/kaigai291.htm
【7月25日】【海外】AMDとATIのプロセッサは1つに融合する
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0725/kaigai290.htm
【7月24日】AMD、ATIの買収を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0724/amdati.htm

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(2006年7月31日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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