第346回
フルサイズノートパソコンに
すべてを集約してみると……



 とうとうこの日がやってきたか。

 “モバイル通信”と名の付く連載を300回以上もやってきておきながら、自宅ではずっとデスクトップPCから離れることができなかった。2005年、執筆や普段のインターネットアクセスに使っているコンピュータをWindows機からPowerMac G5に変更したという、個人的にはかなり大きな変化があったものの、仕事のスタイルが変化したわけではない。

MacBook Pro 17型モデル

 しかし、MacBook Pro 17型の導入と共に、コンピュータに触れ初めてからずっと続いていた「やっぱり自宅ではデスクトップ」という利用スタイルからは離れ、すべての仕事をノートPCだけでこなす日がやってきた。

 加えてもう1つ、従来のスタイルを変えたところがある。それはキャスター付きのブリーフケースを使い始めたことだ。


●デスクトップの代替と移動ニーズの両立

スライド式キーボードを備えたVAIO type U

 あらためて言うまでもなく、利用者のワークスタイルによって、最適なノートPCのサイズや機能は異なる。新型VAIO type Uは工業製品として素晴らしいものだが、これだけを使って、出先で書類やレポートの作成をやるとなると、利用者はかなりのストレスを感じるはずだ。

 この連載を始めた'99年4月を振り返ると、当時のノートPCはまだA4ビジネス機が中心。エンターテイメント系の家庭用ノートPCなどカケラも存在せず、モバイル機はA4ビジネス機の小型版としての位置付けでしかなかった。あれから7年以上を経過して(と、自分で数えてみて驚いているが)、今のノートPCは多様なニーズに対して、多様な製品が並ぶようになった。

 そんな中で、自宅(兼オフィス)ではデスクトップPC、出先では小型軽量のビジネス機、出張時にはホテル据え置きのバックアップとしてA4薄型機を加えた2台のノートPC、といった体制を、ずっと変えることなく続けてきた。

 今でもこの体制を変える必要性は感じていないが、しかしふと現在のビジネスノートPCを見渡すと、以前よりもデスクトップPCの代替を本気で行なえる機能を備えたビジネス機が増えてきている。

 個人的に注目したのはMacBook Proの17型版だ。Windows機で17型モデルというと、完全据え置きに近い位置付けの製品がほとんどだが、アップルはPowerBookの時代から、17型でも可搬性を持たせてきた。より小型の13.3型では“重い”アップルのノート型コンピュータだが、17型に関しては約3kgと、15型のWindows機に近い。ディスプレイサイズを考えれば、むしろ軽いと言えるパッケージである。

 以前、この連載の中で15型版のMacBook Proを紹介したが、15型版は重量、サイズ、価格、ディスプレイ解像度などを考えると、やや中途半端なところがある。その“中庸”がいいという意見もあるだろうが、MacBook Proの弱点でもある熱処理の甘さが緩和され、より広いディスプレイを得られる17型の方が潔いように思う。

 価格面を見ても、15型版をカスタマイズして17型版と同じ構成にすると、2万円しか違わない。これで大きすぎると感じるのであれば、13.3型のMacBookを選ぶ方が良いのではないだろうか。

 しかし、これだけ多様な製品が登場しているのに、Windows機には17型の広い画面と、このフォームファクタなりの薄型/軽量設計を行なった製品がないというのも不思議だ。デスクトップの機能を包含しつつ、出張時にそのまま持ち出していけるというニーズも少なからずあると思うのだが、もっとも需要の多い15型クラスに製品が集中しすぎているのが、17型MacBook Proと同クラスの製品がWindows機に生まれてこない原因かもしれない。

 この17型MacBook Proを活用する仕事のスタイルを確立させれば、デスクトップとモバイル機の使い分けは不要となる。すでにデスクトップでの仕事環境はMac OSに移行しているから、作業はあっという間に終わった。あとは、実際に運用してみてどうか、だ。

●移動オフィス環境で仕事をする

 さて、17型版MacBook Proが我が家に届いた次の週末から、早速、アイルランド・ダブリン、イギリス・ロンドンと続く海外出張で持ち出すことになった。出張にはもちろん、12.1型のWindowsモバイル機も鞄に詰め込んだが、基本的には17型MacBook Proだけで済まそうという計画である。

 パフォーマンス面は全く問題ない。自宅のPowerMac G5/2.5GHz Dualは2.5GBにメモリを増設しているが、MacBook Proも2GBに増設している。さらに2.13GHzのCore Duoは、若干、PowerMac G5よりも遅い場合もあるものの、ネイティブアプリケーションであれば同等、あるいはより以上のパフォーマンスを感じさせる。HDD容量とアクセス速度は遅いものの、グラフィックはむしろ高速であり、デスクトップ機との差を感じることはなかった。

ビクトリノックスのキャスター付きブリーフケース

 移動に使った鞄は、ビクトリノックスのキャスター付きブリーフケース。残念ながら日本では販売されていないモデルだが、一眼レフカメラもザックリと入るスペースがあり、ACアダプタなどの小物を、ハンドル脇のスペースに専用ポーチで入れられる点などが気に入っている。ノートPCはABSフレームの間に帯ゴムで宙づりにするスリーブが付属しており、ラフな扱いをしてもノートPCを痛めることがない。

 標準では15型のノートPCにまでしか対応していないが、17型対応のスリーブが別売りになっていたので、それも同時に購入しておいた(ただし、今Webページを見ると米国ではカタログ落ちしているようだ。日本では販売されている)。

 キャスター付きということで、空港内やホテルへの移動はもちろん、現地での電車移動や取材先のオフィス内移動も楽。17型とはいえ、横幅は約40cmなので通常のブリーフケースの幅で十分に収まる。

 おそらく、将来的にはHDD容量などに不満は出てくるだろうが、それはFireWire 800接続の外付けHDDなどで解決できる。オフィスでの環境をそのままま持ち歩くというのは、その移動にかかる手間を考えても十分にメリットがあり、帰国後にはエイヤ! とばかりに、PowerMac G5に作っていた環境のほとんどをMacBook Proに移動させた。PowerMac G5に残っているのは、音楽データとビデオキャプチャした素材、それにデジタルカメラのRAWファイルぐらいのもの。

 今やMacBook Proは完全に移動オフィス化してしまった。

●フルサイズノートPCの価値を再発見

 おそらく僕がまだ学生だったなら、いくらヘビーなPCユーザーであったとしても、キャスター付きバッグなんて使おうとも思わなかっただろう。いや、20代の頃もそうは思わなかっただろうし、40の声が近くなってきた今でも、朝の通勤ラッシュに持ち運ぶとなると、キャスター付きは邪魔だ。

 通勤ラッシュとはほぼ無縁で、鞄の見た目をあまり気にしなくなってきた昨今の個人的事情がなければ、なかなか大きなノートPCを1台だけで済まそうとはできないだろうが、たとえば車移動が中心の地方であれば、同じようにキャスター付き鞄を使っても不便さはないのでは。

 この鞄のおかげで、取材先では「これから出張ですか?」、「出張帰りですか?」と尋ねられることがしばしばだが、割り切って使う限りには、それまで感じていたモバイル機の窮屈さや情報同期への気遣いが不要となった。Windows環境との情報共有という問題があるため、まだデータ同期の整合性を意識した運用はしているが、精神的な負担は軽い。

 ただ、キャスター付きブリーフケースを使った利用スタイルにも弱点はある。

 まず日本は移動時に階段を使わざるを得ないことが多い。地下鉄利用時の上り下りはしかたないとしても、行く先々で3~5段程度の小さな段差が多数ある。近年はビルのバリアフリー化が進んできたとはいえ、交通機関の施設に関しては未整備と感じることが少なくない。

 加えて雨の日には使いにくい。ちょうど梅雨の時期にあたる我が国。雨の日にはMacBook Proではなく、ThinkPad X60を手提げ鞄に入れて出かけている。こればかりは致し方ないところだろう。

 最後にユーザーとして使ってみた17型MacBook Proにも触れておきたい。

 本機はバッテリ容量が大きいこともあり、ワイヤレス機能をすべてOFFにした上で液晶パネルの明るさを絞れば、スペック値に近い5時間ぐらいはバッテリでの運用が可能だ。しかし無線LANをONにした時のバッテリ持続時間に対するインパクトは、省電力管理の違いなのか割と大きい印象だ。最近の無線LANモジュールは省電力で、たいていは30分ぐらい短くなるだけなのだが、本機を使っていると1時間近く短くなるように感じる。

 もっとも、キャスター付きブリーフケースとセットで使うことを考えれば、ACアダプタを常に持ち歩くことで、ほとんどの場合は問題ない。合間に10分でも20分でも充電できれば、バッテリ切れとはならないからだ。もちろん、もう1個バッテリを持ち歩くという選択肢もある。

 17型に1,680×1,050ドットという解像度も、Mac OS Xの画面デザインとベストマッチで見やすい大きさだ。将来的には1,920×1,200ドットといった高解像液晶を搭載することもあるだろうが、現状、全く不満はない。こうなると、デスクトップ機に接続していたUXGA(1,600×1,200ドット)ディスプレイとSXGA(1,280×1,024ドット)ディスプレイが邪魔で仕方ないと思うから不思議だ。

 そしてこの環境をそのまま出張先にも持ち出せる。長らく12.1型XGA(1,024×768ドット)という世界だけに固執してきたが、17型という大型液晶を用いたフルサイズノートPCの価値を再発見した気分だ。Windows機でも、このサイズ、このぐらいの携帯性を持つ製品が登場しないものだろうか?

□関連記事
【2005年3月30日】【本田】時代に合わせ新環境に移行した“我が家オフィス”
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0330/mobile283.htm
【2003年1月22日】【本田】家庭内ノマドよ何処へ行く
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0122/mobile187.htm
【'99年4月27日】【本田】僕がふだん外出先で使っているモバイル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990427/mobile04.htm

バックナンバー

(2006年6月22日)

[Text by 本田雅一]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.