●Broadwaterが転機となるIntelのチップセットの方向性 前回のレポートで、Intelが台湾のコンピュータショウ「COMPUTEX」で「Intel 96x(Broadwater:ブロードウォータ)」を前面に押し出した理由を解説した。Intelは、2005年CPU市場シェアを失う原因となったチップセットの不足を解消し、また、疑問符がついたチップセットの性能でも巻き返さなければならない。そのため、Broadwaterに力を注いでいる。 また、Broadwater自体も、これまでのチップセットよりコストをかけた製品で、Intelは自信を持っている。Broadwaterでは、90nmプロセスへの微細化とともに、ダイも増やしトランジスタ数を大幅に増やす。それによって、機能とパフォーマンスを拡張するのがBroadwaterの戦略だ。
しかし、Broadwaterの意味はそれだけにとどまらない。Intelは、Broadwaterを境に、チップセット戦略を転換。おそらく、CPUと並ぶ、PCの中のもう1つのプロセッサとして押し立てようとしている。そのため、Broadwater世代からは、製造面でも膨大な投資やラインの割り当てを行なっている。 ●グラフィックスにトランジスタを費やすBroadwater 現在、チップセットの中で、トランジスタを食うのはグラフィックス機能だ。Broadwaterでも、増えたトランジスタのほとんどはこの部分に費やされたと見られている。以前の記事でレポートした通り、Broadwaterではグラフィックス、特にProgrammable Shader(GPUのプログラマブル演算ユニット)回りが大幅に強化されている。 Broadwater世代では、チップセットの8割以上がグラフィックスと言われており、3Dグラフィックス/ビデオ系の部分だけなら、トランジスタ数は前世代から3倍に増えたと推測される。ダイの規模やトランジスタ数で言うなら、単体のGPUならローエンドクラスとなる。 IntelがBroadwater世代でチップセットに注力するのは偶然ではない。もちろん、Windows Vistaを睨んでいるからだ。Windows Vistaではグラフィックスパフォーマンスが重要になり、相対的にCPUに対するGPUの重要性が高まる。そのため、Intelもチップセットのグラフィックスを強化しなければならない。 また、Intelにして見ると、GPUがProgrammable Shader中心へと移っていることは、チャンスとなる。Intelはプログラマブル演算ユニットの専門家であり、Shaderは彼らにとって馴染みやすい世界だからだ。得意分野に開発リソースを投入して、NVIDIAやATIとの差を縮めようとするのは、当然の流れとなる。 今回のBroadwaterの発表でも、Intelは内蔵グラフィックスコアがマルチスレッド化されていて、フレキシブルにロードバランシングできることを強調していた。説明を聞く限りは、Unified-Shaderタイプのアーキテクチャと見えるが、今のところまだわからない。ちなみに、Intelはこの世代のGPUコアアーキテクチャで、DirectX 10までをサポートする予定だ。もしかすると、IntelはGPUコアを、同社にとってPCの2つ目のプロセッサとして、本腰を入れて開発しようとしているのかもしれない。 ●チップセットの強化のために製造キャパシティも増やす Intelチップセットのトランジスタ数が増え、ダイが相対的に大きくなっていることは、Intelの製造態勢にも大きな影響を与えている。 Intelは、以前なら、先端プロセスFabの多くは、次々に新プロセスに移行させ、旧世代プロセスの製造キャパシティは縮小して行った。ところが、現在は旧世代プロセスのキャパシティを多く残したまま、新プロセスの製造キャパシティを確保している。300mmウェハ化によって1 Fab当たりの製造量が増えたことで、この傾向は強くなっている。Intel全体で見ると、製造キャパシティはどんどん増強されていることになる。 4月に開かれたIntelの「Spring Analyst Meeting」では、Andy D. Bryant氏(Executive Vice President, Chief Financial and Enterprise Services Officer)が製造キャパシティとチップセットの関係について答えている。 「多くの人が、なぜキャパシティにさらにカネをつかうのかと言う」、「製造を増やす最大のドライバーはチップセットだ」 Intelはチップセットのために、製造キャパシティもどんどん増やしている。下が、Intelの製造計画による、ウェハ製造規模の要求を200mmウェハ換算で示したものだ。チップセットの比率がどんどん増えて、2006年はCPUと同程度にまで育っていることがわかる。つまり、製造上では、もうチップセットはCPUと同程度の比重を持つようになっている。
もっとも、製造プロセス技術自体は、チップセットはCPUの1世代遅れ。そのため、CPUとチップセットの使うウェハ数が同じでも、CPUの方が単純計算でウェハ当たり2倍のトランジスタ数となる。また、この図ではサウスブリッジチップ(ICH)のIntelで内製している分の製造も含まれていると思われる。 チップセットの製造キャパシティがぐんぐん増えている理由については、Bryant氏は、ダイが大きくなったことと、より多く出荷することの2点を挙げている。つまり、ダイを大型化して機能を強化し、それによってチップセットのシェアも取ろうというわけだ。 ●Intelのチップセットフォーカスの方向性はGPUベンダーとぶつかる チップセットの製造強化のために、Intelは製造機器への投資も増やしている。下のスライドがそれだ。
通常、装置への投資は、先端プロセスのものへと移っていくのに、2006年は例外的に90nmへの投資が増えている。「驚くかもしれないが90nmにも投資している。通常はカッティングエッジのプロセスに投資をするが、このケースでは、チップセットを300mmのネットワークに載せるため投資をした」(Bryant氏) 130nmまでは、Intelは200mmウェハを使っていた(130nmは300mmもある)。しかし、Intelの90nmプロセスは300mmウェハなので、Broadwaterからは300mmウェハに移行している。90nmの300mmウェハのFabに、チップセットに合わせた設備を導入するために投資を行なったというわけだ。 もっとも、ある程度追加投資をしたとしても、IntelにはCPUで減価償却が進んだFabを使うという利点がある。しかも、300mmウェハでは、ウェハ面積当たりのコストが相対的に200mmより下がる。そのため、原理的には、Broadwaterは、初期コストが高くても、ダイサイズの割には製造コストは有利となる。 Intelは、全体的にチップセットへの投資も増やしている。CPUへの投資が圧倒的なのは変わりはないが、下のスライドのように、チップセットへの投資も確実に増えている。
こうしたIntelの動きからは、明瞭な方向性が見える。それは、Intelがチップセットによりカネをつぎ込み、製造キャパシティにも膨大な投資をし、より高機能なチップセットで、より市場シェアを取ろうとしていることだ。これは、CPUとチップセットをセット化するプラットフォーム戦略の大きな原動力となっている。 そして、そのチップセットの強化のフォーカスはグラフィクス機能にある。これは、IntelはGPUベンダーと衝突コースにあることを意味する。 ●GPUとぶつかるIntelのチップセット強化戦略 チップセット市場でも、すでに旧来のチップセットベンダーは元気がなく、GPUベンダーの時代となっている。チップセットベンダーは、特にVista Premium対応に苦しんでおり、Windows VistaでGPUベンダー寄りの傾向はますます加速される。もちろん、バリューセグメントやエマージングマーケットと呼ばれる新興市場は異なるが、PCのメインストリームはGPUベンダーが有利となりつつある。 Intelの新チップセット戦略は、そこでGPUベンダーとぶつかるだけでなく、最終的には独立したGPUとも競合して行く可能性がある。Intelが独立したGPUを開発しているというウワサもあるが、そうでないとしても、あまり変わらないかもしれない。IntelがFSB(Front Side Bus)のアーキテクチャを変えると、グラフィックス統合チップセットのアーキテクチャも変わるからだ。 IntelはCPUのFSBを、シリアル技術を使ったCSIへと変えて行こうとしている。CSIは、AMDのHyperTransportのように、CPU同士を直に接続するほか、チップセットなど周辺チップとの接続もになうと見られる。しかし、CSIではパラレル/シリアル変換の「SerDes(Serializer/Deserializer)」を使うと見られるためレイテンシが伸びることが予想される。もし、IntelがCPUパフォーマンスを第一に考えるなら、そこでDRAMコントローラをCPU側に統合する可能性が高い。 その場合、CSIにぶら下がるグラフィックス統合チップセットは、ほとんどGPUと変わらないものになる。つまり、チップセット側にビデオメモリ用DRAMをつければGPU、つけなければ統合チップセットという程度の違いだ。DRAMインターフェイスも、GDDR系など、より転送レートの高いメモリを採用することも可能になる。 どう展開するにせよ、Intelのチップセット強化策は、周囲に波紋を呼ぶことは間違いない。製造面でのチップセットへの投資を見る限り、Intelは本気だ。 □関連記事 (2006年6月13日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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