【新連載】

そこが知りたい家電の新技術



 なんとなく安定期に入ってしまった感のあるPC業界に比べて、家電業界が熱い。

 他社の製品との差別化を図るために、新しいアイデアや技術が惜しみなく投入され、興味深い製品が次から次へと登場している。そういう新技術を搭載した製品を総称する「新家電」という言葉も普及し始めている。

 しかし、新しい技術のキーワードはTV CMで植え付けられても、それが実際はどういう技術なのかはあまりよくわからないことが多い。そこで、このコーナーは、メカ好きなPCユーザーの目で家電の新技術を取材し、その技術の面白さを探っていこうという趣旨だ。

 専用のメールアドレス kaden-watch@impress.co.jp も用意したので、これを取り上げてほしいとか、もっとこういう事を聞いてほしい、などの声をぜひお寄せいただきたい。


三洋電機 洗濯乾燥機「AQUA」
~水なしで洗える秘密


AQUA(AWD-AQ1)

3月11日発売

価格:262,500円


 「空気で洗う洗濯機」という、衝撃的なキャッチコピーで2月にデビューした三洋電機の洗濯乾燥機「AQUA(AWD-AQ1)」。「空気で洗う」機能とはいったいなんなのか。どうやって、その機能を実現しているのか。また、なぜ水を使わないで洗える洗濯機に、水を意味する「AQUA」という名前が付いているのか。実際に試してみるために、三洋電機におじゃました。



●ニオイが消えた!

 まずは目玉の「空気で洗う」というエアウォッシュを体験、ということで、三洋電機 コーポレートコミュニケーション本部 広報ユニットの石川ひとみ氏に話を伺いながら、検証用サンプルを洗っていただいた。

 サンプルは2点。1点目は、100円ショップで購入したアザラシのぬいぐるみ。編集部の喫煙室に丸一週間放置したもので、ニオイを嗅ぐと「強烈!!」とまではいかないが、ヤニの香りがただよってくる一品だ。もう1つは、キレイに洗濯された無臭のYシャツを、実験直前にビニール袋に入れ、タバコでいぶしてニオイを付けたものだ。時間にして10分近く、1本まるまる灰になるまでいぶしたもので、強烈なニオイがする。

検証に使用したアザラシのぬいぐるみ キレイな状態のYシャツを袋に入れて、タバコでいぶす AQUAの操作パネル

 エアウォッシュにかかる時間は30分間。庫内に入れた衣類は、ヒーターで温められ、噴射されるオゾンとともに、ドラムの中で回される。入れるものの制限は、衣類なら500gまで、靴ならば1足まで。Yシャツのような型くずれのあまりないものであれば、そのまま放り込んでしまえばよいし、帽子やフォーマルな衣服など、型くずれしやすいものをエアウォッシュする場合は、専用の棚を設置し、その上に洗浄したいものを置けばよい。石川氏によれば、「この棚を使えば、布や化学繊維以外にも、幼児が口に入れる可能性のある玩具など、固いものにも対応できる」という。

 エアウォッシュにかかった時間は、スペック通りぴったり30分間。エアウォッシュ中は、モーターを回す「ウィーン」と、ガスを吹きかける「プシュー」という動作音が聞こえる。水を使わないこともあり、あまりうるさくは感じない。個人差はあるだろうが、一人で読書や昼寝でもしていれば、多少は気になるレベル。2、3人で会話をしているとほとんど気にならないレベルと表現すればよいだろうか。そうこうして、エアウォッシュが完了すると、「ピー、ピー」と終了したことを知らせる電子音が鳴る。

【動画】ぬいぐるみをエアウォッシュ。あえて棚は使用しなかった(WMV, 5.15MB) 【動画】タバコでいぶしたYシャツをエアウォッシュ(WMV, 1.89MB)

 さっそくAQUAから取り出し、ニオイ嗅いでみると、Yシャツからも、ぬいぐるみからもニオイがしない。もっとも、石川氏によれば、「化学に詳しい開発陣は、“オゾンのニオイがするねー”と言っています」とのことだが。

 余談は置いておいて、肝心の消臭機能だが、強烈なタバコ臭のYシャツも、微妙に臭かったぬいぐるみも、まったくといっていいほどニオイを感じない。が、1つ、気になったことがあった。それは、エアウォッシュ直後のぬいぐるみとYシャツが、ほかほかと熱を持っていたことだ。「なぜ水を使わないのに熱を加えるんだろう」と疑問をぶつけると、「エアウォッシュ中の庫内は、オゾンを活性化させるため、ヒーターで50~60℃に温められているから」だという。こうした、熱を加える関係もあり、エアウォッシュは、一部の革製品や金属製品、犬や猫といった生き物には対応していない。シルクやビーズの付いた衣服など、熱に弱い素材を用いたものも、できれば避けた方がいいだろう。

●空気で洗っても、汚れは落ちない

 ただし、このエアウォッシュでは汚れそのものは落ちないので注意が必要だ。原理的に、気体であるオゾンを吹きかけているだけなので、汚れをこすったり、水で溶かしたりといった物理的な洗浄作業は行なっていない。実際、エアウォッシュにかけたぬいぐるみを手に取ると、たしかに無臭になっているのだが、手触りはエアウォッシュする前と同様、ヤニ特有のベタつきが感じられる。アザラシのしっぽ部分にはタバコの黄バミも残っていた。

 石川氏も「この機能のメリットは、バックパックや帽子、スーツといった簡単に洗えないものを、さっと消臭、除菌できることにあります」と説明しているとおり、エアウォッシュが「水の洗浄の代わり」になるものではなく、全く別の付加機能と捉えるべきだろう。具体的な利用シーンとしては、焼肉や酒の席から帰った後、風呂に入っている間にスーツを消臭したり、これからの季節だと、蒸れた靴なんかを入れても良さそうだ。

棚を置けば、固形物や型くずれしやすいものもエアウォッシュにかけられる 洗浄後のぬいぐるみ。黄バミは取れていない

●「エアウォッシュ」を実現するオゾンとは

 実際に試したように、いうまでもなくエアウォッシュのキーとなるのはオゾンの存在だ。ここからは、オゾンとそのオゾンを発生させる仕組みについて、技術的に掘り下げてみたい。

 O3という化学記号で表されるオゾンは、空気中にもわずかに含まれている、脱臭や脱色効果を持った気体。分子構造的に不安定で、酸素原子(O)を1個放出し、酸素(O2)になろうとする性質を持っている。この性質を利用し、ほかの物質を化学変化させることにより、脱臭や脱色、ウイルスの不活性化、有機物の除去などの効果が得られる。AQUAでは、この働きを利用して、浄水、消臭を行なっている。

 また、オゾンは基本的に酸素原子のみで構成されるため、化学変化を起こした後、残留物を残さないため、人体への影響もなく、東京都や大阪市で水道水の浄化に使われているほか、PC関連でいうと半導体の洗浄、家電分野でも空気清浄機や、エアコンの自動内部清掃機能などにも用いられている。

●AQUAのキーデバイス「オゾン発生装置」

 AQUAでは、このオゾンを本体下部にある、その名もズバリ「オゾン発生装置」と呼ばれるユニットで生成している。大きさは20cm四方くらいで、ユニットには、生成されたオゾンを洗濯槽と、浄化タンクに送り込むノズルが取り付けられている。

 このユニットは、オゾンの生成方法としてはもっとも一般的な、放電を利用する方式を採用している。高圧電流を流した2枚の電極板の間に酸素(O2)を流し込み、O2として結合していた酸素分子(O)を分離。さらに再結合させ、オゾン(O3)を生成する方法だ。石川氏によれば、「オゾンは雷が落ちたときに発生する気体としても知られていますが、AQUAのオゾン発生装置も基本的に原理は同じです」という。エアウォッシュでは、水を使わない代わりに、ここで生成されたオゾンを断続的に吹きかけて、消臭、除菌を行なっている。

本体下部に設置されている「オゾン発生装置」。ここからオゾンが洗濯槽と浄化タンクに送り込まれる

●実は、後付けだった「エアウォッシュ」

 エアウォッシュを実際に試した後で、ふと思ったのは、水なしで洗濯ができる洗濯乾燥機が、なぜ水を意味する「AQUA」というネーミングなのかということ。水なし洗浄で、水を節約するからだろうか、それとも、なにか深い理由があるのだろうか。

 このことについて石川氏に聞いてみると、「“水を大切に使うため、循環させて水の力を最大限に引き出し、洗う”というコンセプトから、AQUAというネーミングになったのですが、オゾンは除菌・消臭効果も高いことから、どうせオゾンを使うならとエアウォッシュという機能を加え、“空気で洗う”を大々的に打ち出すことになったんです」との答えが返ってきた。

 つまり、エアウォッシュは、「水を循環させる」ことの、副産物ということになる。では、どうやって水を循環させているのかを追求してみよう。

●「ドラム式でも水を使う」

 なぜ、水を循環させるのか。このことについて、石川氏は「実は水の使用量が少ないと言われているドラム式でも、洗濯乾燥機って思ったよりも使用水量が多いのです」と切り出した。はじめは、「あれだけ大きいドラムに水を入れて回すのだから、PCと同じように常に排熱の問題を抱えているのかな」と想像したが、そうではない。実は洗濯乾燥機、水を使うのは、洗濯のときだけではない。乾燥の時に発生する熱を冷ますためにも、水を使っているのだという。

 水でジャブジャブ洗ったあと、脱水するとはいえ、水気を含んだ衣類をヒーターで乾かすのだから、洗濯機の庫内は非常に高い湿度になる。しかし、その湿度を逃がせば、洗濯機を置いた部屋が湿気だらけになってしまう。さりとて、洗濯機の中にとどめていては、いつまでたっても衣類は乾かない。そこで、庫内の温度を下げて、湿気の元となる水蒸気を水に変えて吸収しなければならない。そのために使われるのが、水だ。

 石川氏は、「この水はドラム式でも、パルセータ式でも、洗濯機の機構にかかわらず、衣類を乾かすために必要なもので、洗濯乾燥機の宿命といってもいいものです。洗濯に使用する水は、ドラム式になって削減できるのですが、この乾燥に必要な、水冷除湿の水は削減できません。しかも、この水、パイプの中でチョロチョロと2時間以上に渡って流し続けるため、けっこうな使用量になるのです」と語る。

 そして、企画は「水冷除湿の水をどうするか」→「すすぎに使った水を使おう」という具合に進み、プールの水の浄水など、業務用の水浄化を手がける部門の提案により、ついに、浄化システムにオゾンが採用されることが決まる。「もし、除菌と消臭機能が欲しいだけなら、2001年に発売された電解水技術でもまかなえますが、AQUAでは、水の浄化がポイントです」と石川氏も語るように、水を繰り返し使うというコンセプトが、オゾンを導入する直接の理由となっている。

ドラムは洗濯物の出し入れを考慮して、斜めに設置されている

●2回目のすすぎ水を、洗濯と除湿に再利用

 ここでまず、エアウォッシュと対をなすAQUAの特徴である、「水の循環」がどうなっているかをおさらいしてみよう。

・洗濯→排水

・1回目のすすぎ→排水

・2回目のすすぎ→オゾンで浄化→水冷除湿/次の回の洗濯に使用

・乾燥

メンテナンスは、本体右下のフィルターを取り出して、ゴミを捨てるだけ

 洗濯から乾燥を行なった場合、合計、4回、水を使う作業がある。一番はじめの洗濯と2回あるすすぎのうちの1回目に使った水は、再利用されることなく捨てられる。これらの水は、汚れが激しいためだ。石川氏によれば「技術的に決して浄化することは不可能ではないが時間がかかるため、商品化するのは難しいと判断し、見送った」とのことだが、同時に、「将来的にはずっと水を循環できるようにするのが理想」と意欲も見せている。

 一方、2回目のすすぎ水は、汚れが8割方、1回目のすすぎで落ちているため、比較的きれいだ。この水をフィルターにかけて残留物を取り除いた後、オゾンを微小な泡(マイクロバブル)にして吹き込み、浄化する。マイクロバブルにするのは、水全体にオゾンを行き渡らせるためだ。2回目のすすぎ水は水中の残存物が限られているので、水とオゾンが混じり合うと、ほとんど時間がかからないうちに汚れやニオイが取り除かれるらしい。石川氏によれば、「オゾンを吹き込む前に、フィルターを通過した細かいゴミや汚れの成分は、オゾンによって分解されてタンクの中で自然に消えていくので環境にもいい」という。この点は、タンクの掃除が不要、メンテナンスはフィルターをたまに取り外して、残留物をゴミ箱に捨てるだけ、とユーザーにとってもうれしい仕組みだ。

 こうして浄化された水が、次回の洗濯に、そして「洗濯乾燥機の宿命」である、乾燥時の湿気を抑えるために使用され、トータルの使用水量を削減する役目を果たす。


●浄化水を利用すると、使用水量は縦型洗濯機の約半分

オゾンによる浄化システムのデモ装置

 こうして実現された「水の循環」だが、節水効果はどの程度なのだろうか。カタログスペック上では、最初の洗浄に水道水を利用して、乾燥まで行なった場合、78Lの水を使用するのに対し、浄化水を洗濯にも利用した場合、さらに50Lまで削減される。三洋電機の縦型洗濯機の水使用量は、99Lなので、水道水を洗濯に利用した場合で約1/5、浄化水を洗濯に利用した場合で約1/2の使用水量となり、「水の循環」による節水効果が高いことがわかる。

 なお、タンクに貯まったオゾン浄化水は、72時間使われない状態が続くと、自動的に排出される。物理的に1カ月以上放置しても問題はないらしいが、石川氏によれば、「ずっと水が貯まっているのが気持ち悪い」というユーザー心理に配慮した結果だという。

 実は取材時に、AQUAのオゾンによる浄水システムを再現するデモ装置を見せていただいたのだが、残念ながら機械の不調で、水が浄化される様子を観察することはできなかった。


●AQUAのボディ、あれこれ

AQUAの右開きモデル

 AQUAの2大機能について触れてきたが、今度は、AQUAの外観を見てみよう。AQUAには、外観もほかのドラム式洗濯機に比べて、一目でわかる違いがある。それは背の高さだ。他社のななめドラム式が概ね、高さ100~110cmの範疇に入るのに対し、AQUAは120cmを超えている。これは、日本人女性の平均身長、157.8cmのユーザーが台所仕事をするときと同じ感覚で洗濯物を出し入れできる高さ、85cmにドラムの中心を設定するためだという。

 もう1つは、左右両開きのドアが用意されていることだ。冷蔵庫で右開き、左開きの両方が用意されているのはもはや珍しくないが、意外なことにドラム型洗濯機ではまだ、左開きのものしか出ていなかった。開く向きが一種類しか用意されていないと、マンションのように、隣室と左右対称の間取りになって、洗面所が配置されている場合、どちらか片方の家庭は、作業スペースを塞ぐかたちでドアが開くことになってしまう。AQUAは左開き、右開きの双方を用意することで、この問題を解決している。ただ、この件に関しては、石川氏は「すぐに競合他社が追いついてくるでしょう」と至って冷静だった。

 実際に、ドアの開閉やシャツの出し入れを試してみた。まず高さについてだが、かがみこむ動作が極端でなく、166cmの筆者にとってもさほどつらくは感じなかった。販売店で見ると、高さがあるせいでスペック以上に大柄に見えるが、売り場に来ている人は、だいたいドアを開け閉めしたり、実際の動作を確かめて、慎重に選んでいる様子がうかがわれるので、さほど問題はないのだろう。

 ドアについてだが、私の周りには、「洗濯機の前方にドアの開閉スペースが必要になる」という理由でななめドラム式を選ばなかった、という人が多い。しかし、実際に見てみると、あくまでも個人的な感想だが、ドラムがななめを向いているおかげで、それほどジャマには感じなかった。

●洗濯機業界の最先端を突っ走ってきた三洋

「世界初」の機能を搭載したAQUA

 これまで、AQUAについて、外側、内側、両面から見てきたが、最後に三洋の洗濯機の歴史について振り返ってみたい。

 洗濯機の分野において、三洋電機は新しい試みにチャレンジし続けてきた開拓者だ。国産1号機の名誉こそ東芝に譲ったものの、電気洗濯機の爆発的な普及のきっかけとなった、国内初の噴流式洗濯機1号機「SW-53」を'53年に発売。'60年代には、二層式洗濯機の脱水槽に簡易乾燥機能を初めて追加したほか、'83年には、洗濯液を再利用して節約する「Lプール」のついた全自動洗濯機を開発。また、従来の縦型洗濯機の使い勝手と、使用水量の少ないドラム式の双方の長所を兼ね備えたトップオープンドラム方式の洗濯機を日本に持ち込んだのも三洋が最初だ。記憶に新しいところでは、2001年に世界初となる電解水を利用し、洗剤を使わないで洗える洗濯機も開発しており、その機能はAQUAにも受け継がれている。

 近年、経営状況の悪化が伝えられる三洋電機だが、今回の取材では、技術力や製品の魅力を存分に感じることができた。今後も、こうした革新的な製品や、それを生み出す開発力に期待したい。

□三洋電機株式会社のホームページ
http://www.sanyo.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sanyo.co.jp/koho/hypertext4/0602news-j/0202-1.html
□製品情報
http://www.sanyo-laundry.com/aq1/index.html


 「この製品の新機能、どういう仕組みになってるんだろう?」というものについて、メーカーに取材し、“技術のキモ”をお伝えします。取り上げて欲しい生活家電がありましたら、編集部までメールを送って下さい。

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(2006年6月5日)

[Reported by ito-d@impress.co.jp]

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