今回のWinHECで個人的に目立ったトピックは、前回まで取り上げたNANDフラッシュ絡みの話と、仮想化技術だ。NANDフラッシュの最大手であり、ハイブリッドドライブに熱心なのがSamsungだが、同社はUMPCの製品化にも熱心である。キーノートスピーチで、同社のUMPCが取り上げたことも含め、今回のWinHECで露出が目立っていた会社の1つだろう。 一方、仮想化技術だが、専門の技術トラックが用意されたことに加え、一部サーバートラックでも取り上げられるなど、大々的にフィーチャーされていた。現在Microsoftは、Virtual Server 2005 R2の無償提供に踏み切ったところ。まもなく提供されるであろうVirtual Server 2005 R2 SP1では、IntelやAMDの仮想化技術のサポートが加わるほか、アクティブディレクトリの統合など、さまざまな改良が施される予定だ。さらに年内にはLonghorn Serverで提供される見込みのWindows Server Virtualizationのベータ1もリリースされることになっている。Longhorn Serverのリリースから180日以内に提供される見込みのWindows Server virtualizationは、Hypervisorタイプの仮想化技術となり、64bitゲストOSのサポートも可能になる。
Hypervisorタイプの仮想化技術が加えられる(統合される)ことを前提にしているせいか、Longhorn Serverの中核(Server Core)はGUIさえ含まれない、極めてシンプルなもの。パッケージの必要に応じてシェルやIEといったモジュールが追加されていく構造となっている。 ●Longhorn Serverでサーバー向け32bit OSは終了 こうした仮想化を意識したアーキテクチャの採用に加え、Microsoftはサーバソフトウェアの64bit化を急速に進めるとしている。サーバOSとして32bit版が提供されるのは、このLonghorn Serverが最後で、2008~2009年に予定されているLonghorn Server R2では32bit版の提供がなくなる。サーバソフトウェアということでは、まもなくリリースとなるExchange Server 2007から、64bit専用となることが明らかにされている。 ところが、こうした変革の道筋が明らかにされているのはサーバOSだけで、クライアント向けのWindowsが今後どうなるのかについて、Microsoftは何も語ろうとはしない。x64版のWindowsが、XPの段階で多くのレガシーを切ったように、64bit環境へ移行したいのはヤマヤマなのだろうが、膨大なインストールベースと、ケタ違いに種類の豊富なユーザー資産の継承ということを考慮すると、クライアントOSを64bit専用にするというアナウンスは行ないにくいに違いない。実際、UMPCのように、新たに登場している32bit環境さえあるわけで、32bit版クライアントOSの提供をVistaで最後にする、というのはおそらく無理だろう。
また、32bitから64bitへの移行についても、どうやらアップグレードパスは用意されない。たとえば、現在32bit版のWindows XPをx64対応ハードウェア上で使っているユーザーが、Vistaのアップグレードパッケージを購入しても、アップグレードインストールできるのは32bit版のVistaだけで、既存の設定等をひきつぐ形で64bit版Vistaへそのままアップグレードすることはできない。この際64bit版のVistaへ移行しようと考えるユーザーは、クリーンインストールする必要がある。デバイスドライバ間の互換性がないことを考えればやむを得ないことだが、x64版導入時に言われた、x64ならいつでも64bit環境に切り替えられる、というセールストークはちょっと誇大だったような気がしないでもない。 いずれにしても、仮想化を前提に64bitオンリーの世界へ突き進むサーバOSに対して、クライアントOSは当面32bit環境をなくすことさえ難しそうだ。仮想化についても、サーバ向けでは極めて饒舌なMicrosoftも、ことクライアントについては音無の構えである。 筆者など、クライアントOSにしても、仮想化技術の利用を前提に、スッパリと過去との互換性を切り捨てた新しいモダンでコンパクトなOSを新規開発すべきではないか(もちろん過去との互換性や資産の継承は、仮想環境で動くXPやVistaで実現する)と思うくらいなのだが、MicrosoftがWindows Vistaを今後10年の基盤と呼んでいたりすることを考えると、どうやらそういう方向に向かうのではないようだ。仮想マシンごとに独立したソフトウェアライセンスが必要、という現在のライセンスポリシーを考えれば、ボリュームライセンス可能な大企業以外に、仮想化技術の恩恵を受けることは難しい、というのが現実なのかもしれない。 ただ、こうしてクライアントOSとサーバOSで機能が異なってくると、どこまで1つのWindowsとして扱い、1つの事業部で扱うべきなのか、という疑問も生じてくる。今回、Winodws Vistaの提供に5年要したのも、あまりにも組織が大きくなりすぎたこと、あまりにも要求の異なるものを1つのものとして扱おうとしていることに原因があるのではないのかという気がしてならない。
□関連記事 (2006年5月29日) [Reported by 元麻布春男]
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