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ゴールデンウィークもロボットは殴りあうっ!
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出場者とそのロボットたち |
5月3日~5日開催
5月3日~5日の3日間、大阪において二足歩行ロボットの格闘競技会「ロボファイト大阪3」が開催された。ロボファイトは株式会社エルエルパレスのロボット部門「ロボットフォース」が主催するホビーロボット競技会。競技会は総合展示会「インテックス・フェスタ2006」の会場内で行なわれていたもので、ゴールデンウィーク中ということもあり、子ども連れの来場者の注目を集めていた。
ロボファイトは二足歩行ロボットの格闘競技会。もともとは近藤科学製の二足歩行ホビーロボット「KHR-1」に限定された競技会だったが、現在ではオリジナル機体の出場も認められている。格闘競技はKHR-1と同じクラスの「SRC(スタンダード レギュレーション クラス)」と、より大きなロボット向けの「ORC(オーバー レギュレーション クラス)」の2クラスに分けて行なわれる。
エルエルパレスではロボファイト以外にも、同様のルールで競技練習会の「ロボゴング」という競技会も主催している。ロボゴングは練習だけでなく参加者同士の交流会という意味合いも強い。二足歩行ロボットの格闘競技会としては「ROBO-ONE」が有名だが、ロボファイトでは有線によるコントロールが認められているなどレギュレーションやルールに柔軟な点が多く、参加者への敷居を低くしているのが特徴だ。もちろんROBO-ONEとロボファイトの両方に出場している参加者も多く、ORCではROBO-ONEと同じ機体レギュレーションを採用していたりする。
競技は相手のダウンを奪い合うというオーソドックスなロボット格闘形式。有効な攻撃により足の裏以外が接地すると審判員によりダウン判定が行なわれる。ダウン後10カウント以内に立ち上がれなかったらKO負けとなるほか、3ダウン(準決勝以上などでは5ダウン)を奪われても負けとなる。攻撃以外の理由で転んだ場合はスリップダウン扱いとなり、ダウン数にはカウントされない。試合時間は3分の1ラウンドのみ(準決勝以降では5分の1ラウンド)。このあたりのルールはほぼROBO-ONEと同じだ。
ロボファイトでユニークなのは「発射体ルール」だ。ロボファイトでは投擲武器の使用が認められていて、相手の胴体中央付近に命中すると1ダウンと扱われる。装弾数は3発までで、3ダウン目は発射体で取れないなど制限があるが、競技者が「発射体、行きますっ!」と叫んで審判員の注意を喚起し(そうしないと命中判定してもらえない)、相手に向けて射撃する姿はなかなか面白い。
また、1対1の通常の格闘競技以外にも、2対2の格闘競技、全ロボットが2陣営に分かれて行なう競技、障害物コースを走破する競技などさまざまな競技があわせて行なわれる。
と、まじめに内容やルールを解説していても、競技の雰囲気はつかみづらいだろう。筆者も書いていてつまらない。ここからはロボファイト大阪3から面白い試合を抜粋して解説しつつ、ロボファイトの熱さをレポートしよう。
※掲載されている動画ファイルはすべてMPEG-4 AVC/H.264です。再生には最新版のQuickTimeなどが必要です。
■「打撃系」と「飛び込み系」の2つの攻撃トレンド
前述したとおり、ロボファイトの基本ルールは「相手をぶっ倒す」こと。この相手を倒す方法としてもっともよく行なわれるのが「腕でぶん殴る」だ。ほとんどのロボットはパンチモーションが可能になっていて、それを主戦力として使っている。近距離に入ってしゃがみこみ、重心を下げて安定させたうえで殴りあうというスタイルは、ロボファイトやROBO-ONEなどのロボット格闘競技の基本スタイルとなっている。
しかし最近のロボット格闘では、ロボットが持つ最大の質量=全身を使った攻撃、「飛び込み系」の攻撃もトレンドの1つとなっている。飛び込み系の攻撃としては、体を前後に投げ出すダイビング攻撃と、前転・後転しながら蹴りを入れる前後転攻撃の2種類に分類ができる。飛び込み攻撃のあとは倒れた状態になるので立ち上がり動作が必要になるが、ただのパンチよりも大きな打撃を敵に与えられるので、こちらも多くのロボットが多用する攻撃方法だ。
こうしたロボットの攻撃方法に注目し、いくつかの試合を抜粋して以下に紹介しよう。
【動画】ASSAULT-v1 vs fighting-β |
美しい飛び込み系攻撃の決まった試合として、SRCの第1回戦・第1試合、NAKAYAN氏の「ASSAULT-v1」と石井英男氏の「fighting-β」の1戦を紹介しよう。左側のシルバーの機体が「ASSAULT-v1」で右側のブルーの機体が「fighting-β」だ。
「ASSAULT-v1」は最終的にベストエイトまで勝ち残った優秀な機体だ。「fighting-β」の製作者・操縦者は本誌でもおなじみの石井英男氏。
この試合では「ASSAULT-v1」の前転攻撃やダイビング攻撃が非常にキレイに決まっている。「ASSAULT-v1」も「fighting-β」も機動力があるほうではないので、真正面から攻撃しあう格好となり、飛び込み攻撃モーションをうまく繰り出せた「ASSAULT-v1」が「fighting-β」を圧倒してしまい、3KOで「ASSAULT-v1」が勝利した。
横に避ける動作やしゃがんで攻撃に耐える動作を付け加えないとダメです>石井さん。
【動画】YOGO-CUSTOM vs あいぼー4 |
こちらはORCの第2回戦・第4試合、dauto氏の「YOGO-CUSTOM」と小南秀昭氏の「あいぼー4」の1戦。左側のブルーの機体が「YOGO-CUSTOM」、右側のシルバーで肩にジオン軍のモビルスーツみたいなチューブが伸びているのが「あいぼー4」だ。
「YOGO-CUSTOM」はパンチやつかみ攻撃、頭突き風ダイビング攻撃など多彩なモーションが可能で、さらに機動性も高いロボット。戦闘中はほとんどしゃがんでいるので足が短く見えるが、実は伸ばしきると相当な長さになるようで、前転攻撃は異常に遠くまで届いている。
一方の「あいぼー4」もダイビング攻撃が行なえる。「あいぼー4」のダイビング攻撃は両腕を高く振り上げ、相手の高い位置を突くように行なう。このため安定性の高いロボットでも倒せるのが特徴だ。
ちなみに「YOGO-CUSTOM」、パンチのモーションの中に「ツメを開いて腕を突き出し、ツメを閉じて腕を引き戻す」という動作を入れている。これによりロボファイトでも珍しい「相手をつかんで引き倒す」という攻撃が可能だ。試合開始早々にあいぼー4の肩に伸びるチューブをつかみ、引き倒すことに成功している。固定されたモーションしかできず、移動時の微調整も困難なホビーロボットで、どうやったらそんなファーストガンダム第1話みたいなことができるんだと突っ込みたくなる(たとえがわからない人はスルーで)。しかしせっかくの掴み攻撃も「あいぼー4」のダイビング攻撃と重なったため、「YOGO-CUSTOM」のダウンとみなされてしまった。残念。
【動画】ごえん vs ARUMO-SiR |
打撃系攻撃の多かった試合として、SRCの第3回戦・第2試合、のむむ氏の「ごえん」とSISO氏の「ARUMO-SiR」の1戦を紹介しよう。左側の木製賽銭箱に2つの木槌がついた独特なデザインの機体が「ごえん」、右側の白と黒プラスチックボディーの機体が「ARUMO-SiR」だ。
賽銭箱型デザインの「ごえん」は重心が低く安定性が高く、さらに巨大な木槌を搭載していて、攻撃・防御両面に優れたロボットだ。一方の「ARUMO-SiR」はオーソドックスな人型デザイン。打撃系を重視していて、飛び込み系の攻撃は行なわない。しかし「ARUMO-SiR」は機動性が高く、敵にあわせたさまざな攻撃モーションを内蔵している。試合開始早々、「ARUMO-SiR」が隙をつき左ストレートでダウンを奪う。何度もガンガン叩かれながらも果敢に距離を詰めて攻撃を繰り返す「ARUMO-SiR」の機動性・耐久性・安定性にも注目。「ARUMO-SiR」がたまに見せる両手を地面につけて片足を伸ばす下段キックモーションも、ロボファイトでは珍しい攻撃方法だ。
【動画】MAGI Type-M vs VALKYRIE |
こちらはORCの第1回戦・第2試合、zippon氏の「MAGI Type-M」とmabotan氏の「VALKYRIE」の1戦。左側の黒のミニスカ・黒髪ポニーテールが「MAGI Type-M」、右側のローブのような服を着たブロンドポニーテールが「VALKYRIE」だ。「VALKYRIE」は衣装が美しく、静止していると人形にしか見えない。動いていても夜中の洋館で見かけたら逃げてしまいそうである。
両者女性型ロボットで武器を構えているタイプだ。ロボファイトでは武器の使用が認められている(そもそもロボットの腕と武器の違いが判断しにくいが)。しかし「VALKYRIE」、リーチの長そうな武器を右手に装備しているにもかかわらず、主戦力は全身で大きく振りかぶる左パンチと左裏拳。なんで武器を使わないんだ、と突っ込みたくなる戦い方だが、この左パンチがかなり強烈だったりする。
開始早々の左パンチは空振りに終わるが、思わず相手の「MAGI Type-M」は距離を取ってしまう。「VALKYRIE」は位置取りもうまく、何度も攻撃をクリーンヒットさせてあっさり3KOを奪う。
【動画】KZR-4 vs VALKYRIE |
こちらはORCの第3回戦・第1試合、KAZZ氏の「KZR-4」とmabotan氏の「VALKYRIE」の1戦。左側の黒いロボットらしいデザインの機体が「KZR-4」、右側のローブを着たブロンドポニーテールが「VALKYRIE」だ。
「KZR-4」は打撃攻撃に特化したロボットで、両手に装備した「角材」で相手を殴りまくる。機動性がきわめて高いのも特徴で、相手の攻撃を避けて自分に優位な位置にすばやく移動する。同じく打撃系の「VALKYRIE」は強烈な左パンチを持っているものの、今大会随一の機動力を持っている「KZR-4」の動きに追いつくことができず、すばやく後ろを取られて1ダウンを食らってしまう。その後「VALKYRIE」は機体不調にて棄権。強烈なパンチを持っている「VALKYRIE」の活躍が見られず残念。
【動画】RL03 INDRA vs WR-07 |
こちらはORCの第3回戦・第3試合、みんなのやす氏の「RL03 INDRA」とHSWN氏の「WR-07」の1戦。左側の金色フレームに赤の手先と肩が映えるデザインが「RL03 INDRA」で、右側の背の高い車輪のついた機体が「WR-07」。ちなみに「RL03」は股関節が特殊なデザインになっていて、胴体を股間の下に回して恐竜形態に変形できる。
対する「WR-07」は車両形態に変形して車輪による走行できるという、変形ロボット対決だったりする。わかりにくく言えば(言うな)、トランスフォーマー対決だ。「RL03 INDRA」はビーストウォーズのメガトロンと同じで両腕が尻尾と頭になる(だから誰もわからないって)。
「RL03 INDRA」は飛び込み攻撃をほとんど行なわない打撃系ロボット。上半身にヨー軸が設けられていて、大きく両腕を振り回す攻撃が可能だが、見所はストレートパンチ。横移動でうまい位置に付き、全身を使って繰り出すストレートパンチは射程も破壊力も十分で、攻撃態勢に入った瞬間の「WR-07」を見事粉砕する。しかし「WR-07」も巨体を生かしたパンチやダイビング攻撃をしかけてくる。結果は2対1で「RL03 INDRA」が優勢勝ち。
■ロボット格闘の醍醐味、故障
個人的な意見だが、筆者はロボット格闘競技における隠れた醍醐味の一つは、試合中の故障だと考えている。歩行ロボットはもともと頑丈なものではなく、殴られたり転んだときの衝撃が駆動系やフレームなどさまざまな部品に負荷をかける。負荷は試合を重ねるごとに蓄積され、あるときいきなり故障してしまう。これは機械部品の宿命だ。
最近は歩行ロボット用のパーツも頑丈なものが増えたこともあり(昔は歩行ロボット用パーツというものがなかった)、試合中の故障は激減した。専門誌など情報源が増えて、参加者の技術レベルが向上したのも大きい。しかしロボファイトやROBO-ONEのようなトーナメントでは、上位になればなるほど疲労が蓄積され、強いロボットの揃う上位戦で思わぬマシントラブルが発生することも少なくない。
試合中の故障は参加者にとっては少々恥ずかしく、悔しい思い出になっているかもしれない。しかし筆者はあえて声を大にして「試合中の故障こそ、ロボット格闘競技の本質である」と言いたい。損耗故障こそ、機体を限界まで酷使して戦った証拠だ。そしてどうしてどこが故障したかを検証することで、そのロボットはさらに強くなり、さらに高い限界を目指すことができる。
ここでは、そんな偏ったことを言い出してしまう筆者の心に残った試合中故障をご紹介しよう。
【動画】イカdeすから vs MAGI Type-M |
ORCの敗者復活戦、イカロス氏の「イカdeすから」とzippon氏の「MAGI Type-M」の1戦。左側の2本の鉄棒にしか見えない腕を振り上げているのが「イカdeすから」で、右側の黒髪ポニーテールの女性型ロボットが「MAGI Type-M」だ。「MAGI Type-M」のように、限定されたフォルムで歩行ロボットを仕上げるのは、なかなかの技術力である。しかし女性型ロボットが鉄棒でガチガチ叩かれるという絵は想像するだけで痛々しいが、試合は予想をはるかに超える展開を見せた。
ORCでは本選2回戦までの敗者が参加し、トーナメント形式の敗者復活戦が行なわれる。トーナメントに勝ち残った2機のロボットが本選準決勝の敗者と戦い、そこで真の3位を2人選ぶという形式だ。
「イカdeすから」は本選とは異なるデザインの腕をつけて登場(そのためペナルティを受ける)。削り出しと思われる重量感のある金属棒に付け替えられていたが、そのせいで少々トップヘビーで不安定になっているという、見栄え重視の変更なのがなんともオチャメだ。対するは本選で「VALKYRIE」に敗北を喫した女性型ロボット「MAGI Type-M」。
「MAGI Type-M」は試合中、何度か自己コケをして、途中から右腕の方向がおかしくなってしまう。そして「イカdeすから」から攻撃をクリーンヒットされダウンを奪われると、右腕が折れてしまう。その後、再び「イカdeすから」にダウンを奪われてしまうが、なんとその後、タイムアップと同時に片腕で立ち上がりに成功する。多くのロボットでは立ち上がり時に両腕を使っているので、この立ち上がりは驚異的。試合はこの立ち上がりが評価されたためか、「MAGI Type-M」は判定勝ちする。
腕は転倒時に負担がかかりがちなパーツだ。人間も転等時に腕を突き出しているといとも簡単に骨折してしまう。このためロボット格闘競技では転倒を前提に腕部を頑丈に設計するパターンも多い。とくに飛び込み攻撃をするロボットでは腕部を強化しないと致命的だ。
ところが「MAGI Type-M」は飛び込み攻撃を行なわない純粋な打撃系ロボットで、腕部の強化はそれほど必要なく、人間的なフォルムを維持するために設計にも制限がある。さらに腕部の構造材にも軽いプラスチックを使っているようで、転倒時の衝撃に弱かったようだ。
「MAGI Type-M」はこの後、見事に右腕を修理し、敗者復活戦を勝ち抜く。惜しくも本選準決勝敗者との3位決定戦には敗れるものの、その健闘ぶりには惜しみない賛辞を送りたい。ちなみに「MAGI Type-M」の操縦者は女性で、ムービー中に聞こえる大きなリアクションの女声は操縦者の声だったりする。
【動画】KingKizer Jr vs キ01 |
SRCの第4回戦・第4試合、Ken氏の「KingKizer Jr」とのぶ氏の「キ01」との1戦。左側の赤いヒーローロボット風デザインが「KingKizer Jr」で、右側の黄色い長身ロボットが「キ01」だ。
「KingKizer Jr」はロボット格闘競技の常連チーム(というか親子)、MARU Familyの長男担当ロボット。ORCに出場する「KingKizer」の小型版といった機体で、本大会では2位となった強豪ロボットだ(決勝戦の模様は後述)。
第4回戦という機体の疲労がたまったところで、「キ01」は横方向へのダウンによりなんと胴体が分断されてしまう。「キ01」は胴体にヨー方向とピッチ方向の回転軸を持っている。その部分に転倒時の負荷がかかり、ヨー軸の方が破損してしまったようだ。最初の胴の分断はタイムアウトを取り修理して復帰するが、次のダウンで再び分断してしまい、3KO負けしてしまう。
動作部位はフレームなど構造体よりも強度は弱い。強度を優先するならば動作部位を減らす方が良い(ついでに軽量小型化とコスト軽減につながる)。さらにいえば胴体のヨー軸とピッチ軸は上半身動作の自由度を増やすのに有効だが、移動や攻撃には必ずしも必須ではない。しかしそこをあえて搭載するのが人型ホビーロボットの真髄だ。
【動画】ARUMO-SiR vs Shining-G |
SRCの準決勝・第1試合、SISO氏の「ARUMO-SiR」とRyoma氏の「Shining-G」の1戦。左側の白いガンダムデザインの機体が「Shining-G」で、右側のロボット的なデザインの機体が「ARUMO-SiR」だ。「Shining-G」はアニメ「機動武闘伝Gガンダム」の「シャイニングガンダム」をモチーフにしたデザインで、作中と同じく右手がちゃんと光っている。
今大会では通常コントローラーで出場しているが、操縦者の動きをトレースするマスタースレイブコントロールにも対応してる。ここまでやられると、例のキメ台詞を叫びながら右パンチを繰り出すのが楽しそうだ。ちなみに操縦者のRyoma氏は「Gガンダム」放送当時('94~'95年)は生まれていなかったであろう小学生。
「Shining-G」は先に紹介した「KingKizer Jr」と同じMARU Familyの次男担当ロボット。本大会で優勝する強豪ロボットだ。一方の「ARUMO-SiR」は先にも紹介したが、すばやい動きと正確で多彩な打撃攻撃が強いロボット。互いに機動力があり、フィールド狭しと歩き回っての攻撃となった。
ちなみに準決勝からは5分・5ダウン制となる。それまで3分制だった試合に比べると、一気に1.5倍以上となり、それだけ機体の損耗・疲労は増えることになる。
「Shining-G」は「ARUMO-SiR」ほど多彩な打撃攻撃はないが、前後へのダイビング攻撃が強力。それをかわし、適切な攻撃ポイントを取ろうと「ARUMO-SiR」はリング狭しと動き回る。その高速機動戦闘が災いとなったか、4分を過ぎたあたりでスリップダウンし、その後、立ち上がれなくなってしまう。攻撃によるダウンではないが、けっきょく立ち上がれず棄権となった。
これはサーボモーターが熱により正常に動かなくなる、いわゆる「熱ダレ」によるものだという。脚関節は移動時・起き上がり時に大きなパワーが必要で、このような移動し続ける試合展開では長時間負荷がかかり続ける。それでも限界まで戦い切った「ARUMO-SiR」にも惜しみない賛辞を送りたい。
■SRC決勝はなんと兄弟対決
今大会にはSRCに37機、ORCに25機のロボットが出場した。予選で本選トーナメント出場者を選抜するROBO-ONEと異なり、ロボファイトでは全機がトーナメントに出場する。試合数も多く、それらすべての試合・機体を紹介することはできないが、トーナメント上位入賞機を中心に好試合を抜粋して紹介しよう。
【動画】Shining-G vs KingKizer Jr |
SRCの決勝戦では、Ryoma氏の「Shining-G」とKen氏の「KingKizer Jr」が対決した。左側のガンダムデザインが「Shining-G」で、右側の赤いロボットが「KingKizer Jr」だ。
先述したとおりこの2機、ともに親子チームMARU Family所属機。「Shining-G」は弟のRyoma氏が、「KingKizer Jr」は兄のKen氏が操縦を担当している。両機体の開発整備はMARU Family父の担当で、操縦者も機体も兄弟対決ということになる。MARU Familyはロボット競技会常連だが、決勝が兄弟対決というパターンも珍しいだろう。
「Shining-G」、「KingKizer Jr」ともに同じ製作者の手によるものだけに、よく見るとフォルムが似ている。そして動き方も似ていて、股関節を使う起き上がりモーションもほぼ同じだ。いずれの機体も機動性は比較的高く、オーソドックスなしゃがんだ状態から腕を振り回すパンチに加え、前後に強力なダイビング攻撃をしかけることができる。とくに腕をうまく使ったダイビングモーションは完成度が高く必見だ。
機能的には細かい違いがある。「Shining-G」は発射体を装備していて、第3回戦・第4試合、HSWN氏の「ないん」相手では試合開始早々に連続射撃で2ダウンを奪っている。
一方の「KingKizer Jr」の方はコントロールにマスタースレーブ方式を採用している。「KingKizer Jr」が採用するマスタースレーブ方式は、操作者の上半身の動きをトレースし、ロボットが同じ動きをするというもの。操縦者のKen氏は背中にセンサー骨格を装着している。近距離戦闘で突然、腕をブンブンと振り回すKen氏の動きが面白い。
【動画】マスタースレーブ操作の様子 |
お互い前後へのダイビング攻撃を得意とするので、絶好のポイントが相手の前後となる。しかしそこは同時に相手にとっても絶好の攻撃ポイントでもある。そのため、反撃を受ける前に攻撃を仕掛ける、というスピード感があり、大技のダイビング攻撃が連発される試合展開となった。
試合結果は4対3で「Shining-G」が勝利を収めた。MARU Familyはこれまでに何度もロボファイトなどさまざまな大会で優勝・入賞経験のある高い実力のあるチームだが、今大会のSRCでは1位と2位を独占することになった。
ちなみに今大会のORCにおいても、MARU Familyからは「KingKizer Jr」の兄貴分とも言える大型ロボット「KingKizer」が出場している。「KingKizer」同様にマスタースレーブ方式を採用し、Ken氏が操縦を担当している。しかし残念ながらそちらは準々決勝で機体の不調もあり敗退している。
【動画】RL03 INDRA vs YOGO CUSTOM |
ORCの3位決定戦は敗者復活戦で勝ち残った2台のロボットと、本選準決勝で敗れたロボットで行なわれ、それぞれで勝ったロボットの2台が本選3位となる。
3位決定戦・第2試合では本選準決勝でDr.GIYの「ヨコヅナグレート不知火」に敗れたみんなのやす氏の「RL03 INDRA」と、敗者復活戦を勝ち残ったdauto氏の「YOGO CUSTOM」で行なわれた。金色の機体が「RL03 INDRA」で青い機体が「YOGO CUSTOM」だ。
先にも紹介したが、「RL03 INDRA」は上半身のヨー軸を使った両腕振り回しと、体全体で打ち出す射程の長いストレートパンチが得意技。腕の先には発射体も装備している。対する「YOGO CUSTOM」も先に紹介したが、高い機動性で相手を翻弄し、パンチや腕先のツメを使った掴み倒し、頭突き攻撃と多彩な攻撃手段を繰り出す。
「RL03 INDRA」も機動力は高いほうだが、とにかくすばやい「YOGO CUSTOM」がフィールドを歩き回り、絶好の攻撃ポイントを探りながら攻撃するという展開となった。
とくに見ものは「YOGO CUSTOM」が相手のパンチを掴んで引き倒す最初のダウン。「YOGO CUSTOM」は大会中、何度かこうした「掴んで引き倒す」攻撃を行なうのだが、これは「敵を引っ張れるロボットの安定性」、「掴んだ瞬間に引っ張るモーションに移る反応力」、「プログラムされたモーションで相手を掴む操縦テクニック(と運)」のすべてが揃わないとなかなか決まらない攻撃だ。
その後も「YOGO CUSTOM」は優位に試合を進め、ストレートパンチ、フックでダウンを奪っていく。「RL03 INDRA」は発射体でダウンを奪うものの、最後は後ろからのストレートパンチで5個目のKOを奪い、「YOGO CUSTOM」が勝利した。「YOGO CUSTOM」の高い機動性と豊富な攻撃モーションがすばらしい1戦だ。
【動画】KZR-4 vs ヨコヅナグレート不知火 |
ORCの決勝戦では、KAZZ氏の「KZR-4」とDr.GIY氏の「ヨコヅナグレート不知火」が戦った。左側の黒い小柄なロボットが「KZR-4」で右側の白い大柄なロボットが「ヨコヅナグレート不知火」。
「ヨコヅナグレート不知火」はORCでも最大級となる3.6kgの大型ロボット。巨体ながら機動性は高く、巨体を生かしたダイビング攻撃や長い手によるストレートパンチが得意技だ。一方の「KZR-4」は先にも紹介したが両手の角材によるストレートパンチが主力攻撃の打撃系ロボット。その機動性は大会でもトップクラスで、とにかく動き回って相手の攻撃をかわし、絶好のポジションからストレートパンチを放ってくる。
試合は高速機動戦闘になった。「KZR-4」の機動性は極めて高いが、「ヨコヅナグレート不知火」も機動性は決して低くなく、「KZR-4」にうまいポジションを取らせない。お互いに安定性も高く、ちょっとした攻撃では倒れないが、スリップダウンからの立ち上がりや攻撃中・移動中の不安定な隙を狙って、お互いにダウンを奪い合う。5分間たっぷり戦った結果ダウン数は同点で、決着は延長戦にゆだねられる。
延長戦は2分で先に1ダウンを奪ったほうが勝ちという形式。5分の休憩・整備時間を挟んで行なわれる。この5分間に両ロボット、ほかの参加者の手も借りて冷却や整備が行なわれた。
延長戦も機動戦闘となった。「ヨコヅナグレート不知火」のダイビング攻撃をうまくかわして耐えた「KZR-4」は、相手の隙をついて高い機動力で後ろを取り、得意のストレートパンチで見事にダウンを奪い勝利した。
重量級ながら機動力があり、多彩な攻撃が可能な「ヨコヅナグレート不知火」に対し、高い機動性とストレートパンチを武器に勝利した「KZR-4」。決勝戦にふさわしい迫力とスピード感に満ちた戦いだ。
■2×2やアスレチックなど多彩な競技
ロボファイトでは1対1の格闘競技だけでなく、2対2の格闘競技「2×2」や障害物競走の「ロボアスレチック」、参加ロボット全員による団体戦「ロボカオス」なども行なわれた。
【動画】「2×2」の様子 |
「2×2」はSRC部門で2回戦までに敗退したロボットで行なわれた。2対2といっても勝ち抜き戦などではなく、4体のロボットが同時にリングに上がり、同時に戦うというもの。誰が誰を倒したかよくわからず、かなり混沌とした試合が展開された。たとえばその第1回戦では樽本氏の「BARREL1GO」とmobotan氏の「GURDIAN」のペアが、ひろ研の「のばさん」と石井英男氏の「fighting-β」のペアが戦った。しかし試合途中に「BARREL1GO」が機体不調にて脱落。ロボファイト大阪2のSRC部門で優勝もした経験もある「GURDIAN」だが、さすがに2対1では分が悪く敗北を喫した。
「ロボアスレチック」は時間を競う障害物競走。一本橋、スイッチ付きエレベーター、ターンテーブル、スロープ、スライディングフロア、スイングボールといった障害物が設置されている。3分以内に走破できないと失格となるが、順調に走破してもギリギリという時間設定になっていて、多くのロボットが完走できず途中で失格となっていた。
【動画】ロボアスレチックでも活躍したヨコヅナグレート不知火 |
3位に入賞したDr.GIY氏の「ヨコヅナグレート不知火」。先に紹介したとおり、ORCでは2位に入賞する格闘も強いロボットだが、その高い機動力をロボアスレチックでも証明した。
【動画】側転で一本橋をクリアするnova001 |
akemi氏の「nova001」。SRCにも出場した機体だ。テレビのリモコン型の赤外線コントローラーで操作する。ロボアスレチックではいきなりの側転で一本橋をすばやく突破。ホビーロボットの精度では床面と足の裏の摩擦によってまっすぐ進むことは難しく、へたに歩くよりこうしたほうがすばやく進めるというわけだ。
「ロボカオス」はロボットが2陣営に分かれ、相手のフィールド内にある得点エリアに入り込んでポイントを競うというもの。数が数だけにどこで誰が何をやっているかわけがわからず、まさに「カオス」と呼ぶにふさわしい競技だ。勝敗といった競技的な意味合いは薄いが、数十台のロボットが同時に動く風景はなかなか壮観だ。競技者(そしていつのまにか参加している主催者も)も存分に楽しんでいたようだが、競技フィールドの周りに操縦者が集うため、観客が見る隙間がほとんどない状態。
■ロボットホビーの敷居を下げるロボファイト
ロボファイトは年2回のペースで開催されていて、次回は11月ごろの開催が予定されている。その前に8月6日には練習会と交流会を兼ねた「ロボゴング大阪4」が開催される予定だ。
国際的な大会となりつつあるROBO-ONEに比べると、ロボファイトはルールや審判に柔軟さがあり難易度が低く、初心者にとっても参加しやすくなっている。とくにロボゴングのような練習と交流の場は、ロボットホビー初心者にとって貴重だ。
最近では二足歩行ロボットのキットや歩行ロボット向けのパーツもさまざまなものが商品化されている。高い技術なしでも、市販キットのカスタマイズからオリジナルロボット製作を始められるようになった。競技ロボット製作の敷居は着実に低くなりつつある。歩行ロボット競技会は見ていても楽しいが、ロボットは自分で作って動かすのはもっと楽しい、ロボファイトは見ていてそう感じさせる競技会だ。
「競技人口」、「自作ロボット関連製品」、「ロボファイトのような敷居の低い競技会」、今後はこれら3つの要素がポジティブフィードバックを起こし、ロボット競技がより見ていて面白く、より簡単に参加できるようになることを期待したい。
□ロボットフォースのホームページ
http://www3.llpalace.co.jp/robo/
□【3月20日】第9回ROBO-ONEレポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0320/roboone.htm
(2006年5月10日)
[Reported by 白根雅彦]