大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

デルが最上級エンターテイメントPCに力を注ぐ理由




XPS M1710

 デルは、個人向けPCのプレミアムブランドと位置付けるXPSシリーズ初のノートPC「XPS M1710」を、5月9日から販売を開始する。

 同社では、この製品を「ウルトラゲーミングエンターテイメント・ノートブック」と呼び、ゲームやネットコンテンツを楽しみたいユーザーをターゲットとする。

 同時に、国内におけるXPSシリーズの展開を本格化する姿勢を明らかにし、最上級PCエンターテイメント分野を切り拓きたいとする。

 この新製品によって、デルはどんな戦略を国内で展開しようとしているのだろうか。

●これまで日本で本格展開してこなかった理由とは

 実は、デルがXPSシリーズのノートPCを発売するのは今回が初めてではない。米国では、すでに1年以上前からXPSブランドのノートPCが数機種投入されていた。しかし、日本では、デスクトップ製品だけの販売に留めていたのである。

石川里美マーケティングマネージャー

 デルのクライアント製品マーケティング本部Inspiron製品マーケティングマネージャー 石川里美氏は、「一部のユーザーからは、デルリアルサイトなどを通じて、XPSのノートPCを日本で発売しないのかといった問い合わせをいただくなど、すでに注目を集めていた製品」と前置きしながら、これまで日本で投入してこなかった理由を次のように話す。

 「XPSが主力としていたオンラインゲームの市場規模が、日本では小さかったことが1つの理由。さらに、日本のユーザーに受け入れられるような仕様やデザインではなかったことがもう1つの理由」と語る。

 前者に関しては、日本ではゲーム専用機が圧倒的ともいえる出荷台数を誇ることを背景に、PCオンラインゲーム市場が米国ほど育っていないという事情がある。

 日本におけるPCゲーミングユーザーの規模は、約300万~400万人といわれる。しかも、ここ数年、その規模にはほとんど変化がないとの指摘があるのも事実。米国に比べると10分の1程度ともいわれている。

 だが、その一方で、「ファイナルファンタジーXI」や「大航海時代」といった人気オンラインゲームが日本にも登場したことで、新規ユーザーがこの市場に参入しつつあるという状況の変化を指摘する声もあがりはじめている。

 「かつてのオンラインゲームユーザーは、自作PCでプレイするという傾向が強かった。だが、最近では自作まではやりたくないが、ゲームに適したハイスぺックな仕様を持ったPCで、オンラインゲームをやりたいというユーザーの声が増えてきた。大手PCメーカーのなかで、これだけハイスペックなゲームユーザー向けPCを用意しているメーカーは少ないことから、日本でも需要があると判断。今回、本格的な展開を開始することにした」。

 一方で、後者の日本の市場に受け入れられるデザインがなかった、という点はどう改善されたのか。

 「XPS M1710の開発に当たっては、デザイン面に関しても、日本からの要求を数多く出した。天板の質感にこだわったのも日本からの要求によるもの。XPS M1710は、デザインの観点でも日本のユーザーにも納得してもらえるものになったと考えている」と石川マーケティングマネージャーは語る。

 鮮烈な深紅のボディカラーと、インパクトの強いXPSのロゴは、ややアメリカンテイストが残るものの、日本人のユーザーにも所有してみたいと感覚を抱かせるには十分だといえる。

 16色のなかから、自分の好きな色を選択できる吸気口部分のネオンも、部屋を暗くすれば幻想的な雰囲気となる。また、タッチパッド部分にもXPSのロゴを配しており、このインパクトも大きい。

XPS M1710の天板デザイン 吸気口のネオンは16色から選択可能 暗い室内では幻想的に光る

 「米国の開発チームからは、タッチパッド部分のロゴは、LED表示を点けたままにしておきたいという声があがっていたが、日本のユーザーには、それが受け入れられないだろうとして、ON/OFFの切り替えができるようにしてもらった」という。

 こうした日本のマーケティングチームからの要求が反映された結果、日本のユーザーにも受け入れられる製品が、完成したといえる。

●リリースで宣言した本格展開

 今回の発表リリースのなかで、デルは、「今後、デルでは、XPSシリーズを国内で本格展開し、最上級PCエンターテイメントの世界を求めるお客様に、最新のテクノロジーによる最高のパフォーマンスとオリジナリティに溢れた製品を提供して参ります」と表明している。つまり、XPSシリーズを、いよいよ日本で本腰を入れて展開するという宣言でもあるのだ。

 では、デルがいう最上級PCエンターテイメントの世界における本格展開とは何を指すのだろうか。

 石川マーケティングマネージャーは、「XPS M1710の発売にあわせて、ゲームソフトメーカーとの協業によるプロモーションや、ゲームパッドやマウスなどの周辺機器メーカーとのコラボレーション、デルオンラインストアのなかに、XPSシリーズだけで構成されたサイトを用意するなどの各種プロモーションを開始する」と語る。

 デルリアルサイトでも、首都圏の店舗を中心に、5月15日以降、製品展示を開始。多くのユーザーが、XPS M1710に触れることができるようになる。

 確かにこれまでのXPSシリーズのプロモーションは、一部のパワーユーザーを対象とした展開だけに留めており、日本ではほとんど手つかずだったといっていい。

 それに比べれば、大きな進歩だといえる。

 だが、それだけでは本格展開と呼ぶにはインパクトが弱い。リリースにまで「本格展開」と唱った理由があるはずだ。

●シリーズラインアップを一気に強化

 実は、デルには、今後、XPSブランドによるノートPCの新製品を、矢継ぎ早に投入する計画があるようだ。

 早ければ5月末にも、その姿が我々の目の前に明らかになりそうである。

 「これまでXPSシリーズは、ハイエンドゲームユーザーだけのPCという印象が強かった。だが、今後、XPSシリーズは、デルのフラッグシップマシンとして、また、エンターテイメントPCとしての位置付けを、より明確にしていくことになる」と語る。

 ここで重要なのは、デルがXPSというブランドを、InspironやDimensionという同社の個人向けPCブランドに続く、新たな柱に育てたいということを明確にしたことだ。

 「むしろ、デルのブランドの認知度の高さに対して、InspironやDimensionといったブランドの認知度が低いという課題もある。言い換えれば、XPSをデルを代表するブランドに育て上げたい」とも、石川マーケティングマネージャーは語る。

 そして、もう1つのポイントは、XPSシリーズをゲーミングPCからエンターテイメントPCへと進化させるという点である。

XPS 600

 「今回発表したXPS M1710やデスクトップのXPS 600は、ゲームユーザー向けに適した製品であるのは確か。だが、今後は、エンターテイントモバイルやエンターテイメントラグジュアリーというようにゲームだけの用途ではなく、幅広いエンターテイメント利用に適した製品をそれぞれのカテゴリーに向けて展開していきたい」と語る。

 5月末にも発表される新製品は、そうしたエンターテイメントPCとしての幅を広げるものになりそうだ。

 1月のCESで、Intelのポール・オッテリーニ氏の基調講演にゲスト出演したマイケル・デル会長は、20型液晶を搭載したコンセプトモデル「XPS Mobile」を公開して見せた。

 その後、筆者もその製品に直接触る機会を得た。これが、新たなXPSシリーズであり、エンターテイメントラグジュアリーという分野を担う製品であるのは間違いなさそうだ。

1月のCESでデル会長とともに登場したXPS Mobile 20型液晶を搭載。畳んで持ち運びが可能 【動画】折り畳みのデモ

 いずれにしろ、日本市場向けの製品ラインアップを広げ、さらに「XPS」ブランドを確立するという明確な狙いがあることが、デルがいう「本格展開」の意味だといえる。

 「まずは、日本において、XPSといえばデルの最上位個人向けPCのブランドだと定着することを目指したい。これを今後1~2年でやり遂げたい。将来的には、米国で高い認知を得ているような状況まで持っていきたい」と石川マーケティングマネージャーは語る。

 社内的には、高い数値目標が出ているようだ。ただし、この数値はデルから発表されることがない。そして、直販が中心となるデルの数字は、調査会社の店頭シェアからも推し量ることができず、その成否はなかなか判断しにくい。

 ただし、外野から、XPSシリーズの本格展開の成果を推し量ることができる方法が1つある。

 それは、XPSの専任組織が、いつデルの日本法人社内にできるかどうかだろう。

 現在、XPSの事業は規模が小さく、XPSブランドのノートPCは、Inspironのチームが、デスクトップはDimensionのチームが担当している。もし、日本法人のなかに、XPSの専任組織ができあがったならば、それは、デルが日本において本気でXPSシリーズの展開に力を注ぎはじめた証といえるのではないだろうか。

□デルのホームページ
http://www.dell.co.jp/
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(2006年5月9日)

[Text by 大河原克行]


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