山田祥平のRe:config.sys【特別編】

Let'snote Y5開発者インタビュー
「防滴キーボードと1.49kgの秘密」



谷口尚史氏

 松下のモバイルノートPC「Let'snote」2006年夏モデルが発表された。

 オールインワンフルノートのY、2スピンドルモバイルのW、1スピンドルのT、ライトノートのRと、4つのラインアップを持つLet'snoteシリーズだが、今回のニューモデル発表で、各モデルともに『5』を称するようになった。

 各機種の詳細に関しては、関連記事をごらんいただくとして、ここでは、フルモデルチェンジになったY5の開発担当者、松下電器産業 パナソニックAVCネットワークス ITプロダクツ事業部テクノロジーセンターハード設計第一チームの谷口尚史氏に聞いた話を紹介しよう。今年から、来年にかけてのモバイルPC動向のトレンドが見えてくるはずだ。


●数字に表れにくい水こぼしの被害

 今回、フルモデルチェンジとなったのは、谷口氏担当のY5で、最大の目玉はキーボードの全面防滴だ。

 全面防滴に関しては、それで絶対に大丈夫という保証はできないと念を押しながらも、コップ一杯の水をキーボード上にこぼしても、本体の裏側に抜けていくように設計することで、実用レベルの防滴を実現した。実際、目の前で、ミネラルウォーターのボトルを渡され、キーボードの上から注がせてもらったが、水は、内部にたまることなく、本体を抜けていく。そして、330mlのボトルが空になっても、Y5は稼働し続けていた。

Let'snote Y5 【動画】防滴キーボードのデモ。水は内部にたまることなく抜けていく(MPEG-1形式、5MB)

谷口 「いろいろな調査の結果、キーボードへの水こぼしというのは、けっこう多いことがわかっているのです。ただ、修理サービスの窓口にに水をこぼしてしまったという申告がきちんと入るとは限らないんです」

 「たとえば、会社で支給されたパソコンを使っていて、キーボードの上から水をこぼしてしまっても、乾いてしまえば、普通に使えてしまうことも多いのです。なまじ、使えるものですから、本人は、余計なことを言わないようにしようと、内緒にしてそのまま使い続けます。で、数カ月後に、なんらかのトラブルが発生し、サービス拠点に持ち込まれるわけです。もちろん、そのときには、何もしていないのに、急におかしくなったということになっています。でも、サービスで調べてみると、水をこぼした痕跡が見つかるんですね」

 防滴のために、止水構造とウォータースルー構造をほどこしたY5だが、それでも総重量は前モデルから40g減っている。14.1型液晶としては世界最薄の0.2mmガラスを使ったこと、さらに、59.5gという超軽量の光学ドライブを採用し、さらには、世界最薄肉0.55mmのマグネシウム成型筐体などにより重量1,490gを実現したが、もし、防滴をあきらめていたら、1,400gを切ることも視野に見えていたと谷口氏は言う。だが、現実の課題に対応することを優先した結果、防滴対応が選択されたのだ。

0.2mmガラスを使用した液晶 搭載ドライブの比較。左はY5/W5搭載の59.5gドライブ、右はY2/Y4で使用されていた99gのドライブ

 しかも、懸案の100kgf対応も実現した。これで、Let'snoteは全モデルで100kgfに耐えられるようになった。

谷口 「Yは他の機種と同様の手法では、100kgfには耐えられなかったんです。ですから、同じボンネット構造でも、裏にリブを通して、加圧を分散させるようにしています。今回は、底面に関してもボンネット構造を強化し、上面と同じ加重に耐えられるようにしています」

Y5は冷却ファンを搭載 強化されたボンネット構造

 残念というか、仕方がなかったというべき点もある。Y5は、ファンレス仕様が標準だったLet'snoteシリーズの中で、ついに、冷却ファンを搭載することになってしまった。

谷口 「最初はファンレスで行こうとしていたんですが、どうしても無理でした。Core Duoを搭載する以上はどうしても必要だったことと、次の世代のプロセッサは、間違いなく搭載が必要になるはずなので、それにも耐えられるようなボディの設計ということで、ファンを搭載しました。ただ、実使用状態では、ほとんどファンは回らないはずです。また、回転数の制御も、ほぼ無段階、実際には70段階にコントロールできるようになっています。回っていても、まず気がつかないんじゃないでしょうか。きっと、HDDのモーター音の方がうるさいはずですから」

●NapaはTillamookの再来

 今回のLet'snoteは、プラットフォームを刷新、全機種でNapaを採用している。CPUは低電圧版Core Duo、または超低電圧版のCore Soloを搭載し、チップセットにはIntel 945GMS Expressを採用している。

谷口 「今回、各モデルで、数時間単位でバッテリ駆動時間が延びているのは、やはり、新プラットフォームの消費電力が下がったことによるものですね。また、945GMSの内蔵グラフィックスも、従来に比べて、かなりパフォーマンスが高くなっています。低消費電力という点では、個人的には'97年のTillamookの時代の再来という印象を持っています」

 Tillamookは、'97年9月に出荷が開始されたモバイル用Pentiumで、インテルが初めて0.25μmプロセスで製造した製品だ。それまでの166MHz MMX対応Pentiumが7.7Wの消費電力であったのに対して、200MHzで3.4W、233MHzで3.9Wと、電力をほぼ半分に削減することに成功している。

 当時、松下はこのプロセッサを採用し、「Let's note mini」と「Let's note ace」を出荷開始しているが、これらの製品が松下のモバイル路線に的を絞るきっかけとなったのはいうまでもない。ただし、今回の立役者は、プロセッサではなく、チップセットのようだ。

'97年に発表された「Let's note mini」(左)と「Let's note ace」(右)

谷口 「なんといっても、チップセットが貢献しています。というより、従来のAlviso、つまり、915系が悪すぎたともいえますね」

 しかも、今回は、W5とY5で、松下電池工業が2005年8月に発表した次世代リチウムイオン電池が採用されている。放電終止電圧を従来の3.0Vから、2.5Vに下げ、さらに、反応材料の変更により、電池容量の増大を実現したもので、従来比約30%高容量の2,850mAhセルのものが搭載されている。発表時には2006年4月の導入が表明されていたが、その約束が守られた形だ。

谷口 「次世代バッテリの採用によって、WとYはバッテリの設計を3直に変更しています。5Vを下回る電圧での回路の最適化が課題として残りましたが、新バッテリの導入効果は高いんじゃないでしょうか。本当なら、RとTにもこのバッテリを採用したかったのですが、セルの生産供給が追いつかない状況で、断念せざるを得ませんでした。もし、搭載できていたら、Rで12時間超、Tで17時間は実現できていたかもしれません。残念ながら、セルの供給が安定しても、2直、3直という違いのため、バッテリを交換して、長時間駆動を実現するというわけにはいきません。その点は申し訳ないと思っています」

●ノートPCを買うなら今は良い時期

 谷口氏は、今回のアーキテクチャ、すなわち、現世代のIntel Coreと945系チップセットを組み合わせたNapaは、いろいろな意味で「買い」であり、ノートPCの購入という点ではベストタイミングではないかという。2007年1月のWindows Vistaの登場を待ち、プロセッサは、次世代のMerom世代を待つというのは得策ではないらしいのだ。

 その理由として、おそらく、Merom世代は、消費電力が再び上がるだろうというのに加え、出荷の開始されたばかりのVistaの省電力機能が、まだ、完全に咀嚼しきれてない可能性が高いことを挙げる。

谷口 「XPの省電力機能の利用は、かなり枯れたレベルまで使いこなされていて、相当いい線をキープできています。Vistaの省電力機能をこのレベルで使いこなせるまでには、ちょっと時間がかかるんじゃないでしょうか」

 このほか、気になるコメントとして、薄型のLED液晶を採用しなかった理由として、時期尚早であるとする。松下としては、液晶に対して2万時間の寿命を確保したいのだが、まだ、それが現実のものとして保証できるだけの実証試験が終わっていないとしている。

 また、指紋センサーなどの個人認証機能に関しても、ユーザー企業の意見などを聞きながら、対応を検討しているが、それほど大きな需要はなく、それよりも、指紋認証が嫌われる傾向もあることをアピールする。さらに、Bluetooth搭載なども、やはり今後の課題として残し、ユーザーの意見を聞きながら搭載を考えていくということだ。気になるウルトラミニPC対応も、今の時点では、Rシリーズでそのニーズの多くは満たしているという判断であるということらしい。

□松下電器のホームページ
http://panasonic.jp/
□製品情報
http://panasonic.jp/pc/products/
□関連記事
【4月25日】松下、「Let'snote」新製品発表会
~Y5のキーボードに水をかけるデモも
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0425/pana3.htm
【4月25日】松下、1.5kgを切る14型SXGA+液晶ノート「Let'snote Y5」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0425/pana1.htm
【4月25日】松下、松下、Core Solo U1300搭載「Let'snote W5/T5/R5」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0425/pana2.htm

(2006年4月26日)

[Reported by 山田祥平]

【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp
お問い合わせに対して、個別にご回答はいたしません。

Copyright (c)2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.