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IRPS:国際信頼性シンポジウム前日レポート
~半導体の不良原因に関する情報を共有

会期:3月26日~30日(現地時間)

会場:米San Jose McEnery Convention Center



 マイクロプロセッサ(CPU)やフラッシュメモリ、DRAMなどの半導体デバイスは故障したり、誤動作したりすることがある。故障や誤動作などの不良が起こる原因はさまざまだが、物理的な現象が原因であることは少なくない。そこで、故障や誤動作などの不良を起こす物理的な要因を開発段階で探索し、製造後に不良が起こらないように設計内容や製造工程などを改良する。あるいは電子機器に組み込まれてから不良を起こした半導体デバイスを調べ、不良の原因を発見し、対策を打つ。半導体メーカーでは日々、こういった作業が行なわれている。

 個々の半導体メーカーが得た不良に関する知識や経験などは、産業界で共有することが非常に重要である。ある半導体メーカー(A社)の半導体製品が、不良モードの原因が物理的な現象であった場合、同種の製品を製造している別の半導体メーカー(B社)が同じ不良にぶつかる確率は少なくない。そこでA社は、競争相手であるB社の足を引っ張るために、自社で見つけた不良要因を隠しておく--というのは公正な競争の姿とは言えない。半導体産業全体で故障や誤動作などを減らして半導体デバイスの信頼性を高め、社会的な損失を最小にとどめるべきである。

 「社会的損失の最小化と半導体デバイス全体の信頼性向上」を目指し、半導体メーカー各社の信頼性エンジニアが集まって知識を共有しようという機会が「国際信頼性物理シンポジウム(IRPS:International Reliability Physics Symposium)」である。IRPSは毎年春に米国シリコンバレーで開催されており、40年を超える歴史を有する。今年のIRPSは第44回目であり、3月26日~3月30日(現地時間)に開催される。開幕を前に、その概要を紹介しよう。

●材料の変更で配線の不良モードが変化

 初日の3月26日と2日目の27日には、チュートリアルセッションが開かれる。チュートリアルセッションは初級エンジニア向けの技術セミナーなので、ここでは紹介を省く。シンポジウムのハイライトである技術講演は、3月28~30日に開催される。

 28日午前は、全体講演(プレナリセッション)で始まる。午前の前半は、キーノート講演が予定されている。IBMが信頼性技術のロードマップを述べる予定である。午前の後半は、MOSゲート絶縁膜の信頼性に関する技術講演が相次ぐ。Intelが2件、IBMが2件の講演を予定している。

 28日の午後は、3つのセッションが同時に開催される。「誘電体膜/化合物半導体」、「相互接続(配線)」、「ESD/ラッチアップ」のセッションである。「相互接続(配線)」のセッションではTSMCとIBMがそれぞれ、銅配線のエレクトロマイグレーション不良に関する知見を報告する。エレクトロマイグレーションとは、配線を流れる電流によって配線の金属イオンが時間経過とともに移動し、短絡や開放などの不良を起こす現象である。最近の高性能なCPUやDSP、FPGAなどは配線材料を従来のアルミニウムから銅に換えることが多くなってきた。銅配線のエレクトロマイグレーションの性質はアルミニウム配線とは違っており、新たな不良対策が必要となる。

●SRAMキャッシュやFPGAなどの誤動作対策を探る

 技術講演の2日目である3月29日(水曜日)は、注目の講演が少なくない。午前中は3つのセッションが同時に開催される。午前中は「高誘電体膜」、「ソフトエラー/パッケージング」、「製品と回路」のセッションを予定している。

 SRAMキャッシュやFPGAなどが誤動作する現象として最近注目を集めているのが、ソフトエラーである。半導体チップが壊れるのではなく、データの値が反転する不良モードだ。「ソフトエラー/パッケージング」のセッションでは、Philips、iRoC Technologies、Intel、Brigham Young Universityがそれぞれ、ソフトエラーに関する講演を行なう。このセッションではほかに、Micron Technologyが、X線検査とDRAMの間欠的な不良の関係を報告する。BGAタイプのパッケージでは、X線による外観検査が普及しているが、X線照射の強度によってはDRAMの不良を引き起こしかねないことを示した報告であり、非常に重要な知見である。

 「製品と回路」のセッションでは、世界最大の携帯電話機メーカーであるNokiaが、携帯電話機に搭載したフラッシュメモリが過去4年間にどの程度の不良を起こしたかについて招待講演する。不良発生のメカニズムや実施した対策などが報告される予定である。

 29日の午後も、3つのセッションが並行して進む。「高誘電体膜/高電圧デバイス」、「プロセス誘因損傷」、「MEMS/メモリ」のセッションである。「高誘電体膜/高電圧デバイス」のセッションでは、ホットキャリアに関する講演が目立つ。ホットキャリアとは、MOSトランジスタのキャリア(電子あるいは正孔)が高電界によってゲート絶縁膜に飛び込み、絶縁膜を劣化させる現象である。ここではNational Semiconductor、TSMC、STMicroelectronicsがそれぞれ、高耐圧MOSのホットキャリアによる劣化を調べた結果を報告する。また「MEMS/メモリ」のセッションでは、MRAMの基本素子である磁気トンネル接合の劣化と回復についてFreescale Semiconductorが発表する。

 29日の夜には、ポスターセッションが開催される。研究概要を記した10枚前後のポスターをパネルに貼っておき、研究者がパネルの前で参加者の質問に直接答えるというセッションである。60件を超える発表が予定されている。

●フラッシュメモリの信頼性を評価

 技術講演の最終日である3月30日の午前も3つのセッションが同時に開催される。「トランジスタ」、「配線工程/化合物半導体」、「メモリ/製品と回路」のセッションである。「メモリ/製品と回路」では、フラッシュメモリの信頼性に関する講演が相次ぐ。日立製作所、Macronix International、Samsung Electronics、Saifun Semiconductorsがそれぞれ発表する。いずれもセル構造は浮遊ゲート型ではなく、今後有望とされるONO(酸化膜/窒化膜/酸化膜)型である。

 30日の午後は、「不良解析」のセッションだけが予定されている。STMicroelectronics、東芝、IBM、Infineon Technologiesなどが、最新の不良解析技術とその効果を披露する。

 このほかにも興味を引く技術講演が少なくない。PC Watchでは現地からのレポートで随時、お届けする予定である。

□国際信頼性物理シンポジウム(IRPS)のホームページ(英文)
http://www.irps.org/

(2006年3月27日)

[Reported by 福田昭]

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