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エプソン、国内プリンタ事業を高機能路線にシフト
~中期経営計画「創造と挑戦1000」を策定

花岡清二社長

3月16日 発表



 セイコーエプソン株式会社は16日、中期経営計画「創造と挑戦1000」を発表した。

 1月27日に発表した収益力強化改革プランに基づいて、策定した中期経営計画。2006年度から業績回復フェーズへと移行し、最終年度となる2008年度には経常利益で1,000億円以上を達成することを目標に掲げている。

 同社花岡清二社長は、2003年に策定した中長期基本構想「SE07」で掲げた基本戦略に大きな変化はない、と前置きしながらも、「2006年度に経常利益率で9.0%を目標とする計画に対しては、2005年度予想で1.7%に留まるなど、目標と現状に大幅な乖離がある。この原因は、エプソンの強みが生かし切れていないこと、ビジネスの環境変化への対応力が不十分であること、さらにコスト作り込み力不足や短期投資回収力不足が原因といえる。これらの点を改善し、2006年度から成長戦略に転換するのが今回の中期経営計画の骨子」と語った。

 計画では、2006年度には売上高で1兆5,500億円、経常利益は440億円、経常利益率で2.8%を目標にしたほか、経常利益を1,000億円以上とする2008年度には売上高1兆6,700億円を計画しており、経常利益率は6%となる。2008年度の経常利益1,000億円の時点では、インクジェットプリンタなどをはじめとする情報関連機器の営業利益は830億円を予定している。

 創造と挑戦1000では、経営の枠組みを変革するとともに、経営の革新を推進することを掲げ、2006年1月の収益力強化改革プランで掲げた「事業・商品ポートフォリオの明確化と強化」、「デバイス事業構造改革の推進」、「コスト効率化の徹底強化」、「ガバナンス体系の変革」、「企業風土改革と全員による推進」の5つの観点から改善に取り組んでいく姿勢を改めて示した。

【お詫びと訂正】初出時に経常利益率の数値を誤って掲載しておりました。お詫びして訂正させていただきます。

創造と挑戦1000の骨子 -1 創造と挑戦1000の骨子 -2 創造と挑戦1000の骨子 -3

 「事業・商品ポートフォリオの明確化と強化」の中で注目されるのは、インクジェットプリンタ事業の再編である。

 花岡社長は、「SPP(スモール・フォト・プリンタ)、MFP(マルチ・ファンクション・プリンタ)、LFP(ラージ・フォーマット・プリンタ)は引き続き成長することを前提とするものの、SFP(シングル・ファンクション・プリンタ)は、減少を前提とする。プリントボリュームが見込める製品は引き続き強化する一方、プリントボリュームが少ないものに関しては製品を絞り込む考えである」ことを打ち出した。

 SPPおよびMFPに関しては、エプソンカラーを中心としたプレミアムフォトの訴求による拡販を継続的に維持。耐候性のある顔料インクをビジネス用途にも拡大していく方針とする。また、LFPについては、高画質、高耐候性、インクの自由度の高さを持つといったピエゾ技術の優位性を最大限に生かした市場拡大策を打ち出す考え。一方、SFPに関しては、国内市場での事業を縮小し、市場成長が見込めるBRICsを中心とした事業へと移行させる。

事業・商品ポートフォリオと個別事業戦略 中期開発戦略の展開と強化

 「収益性が高いインクカートリッジがこれまでの収益を支えてきたが、従来の10%台半ばから後半という出荷数量の伸び率は鈍化すると見ている。一方、利益の薄い本体は、1,700万台強の出荷計画を絞り込む予定である。2006年は、インクジェットプリンタ事業の体力づくりのための1年だと捉えており、プリントボリュームの多い製品で成長戦略を描く。エリアごとのきめ細かな製品戦略と、価格と機能のバランスを最適化した商品の提供、販売数量に見合った生産体制の確立が重要だ」としている。

 花岡社長によると、これまで製品ごとにバラバラだったプラットフォームを3種類程度に統合化するとともに、部品の共通化にも取り組むことで、これまで収益性が悪かったプリンタ本体のコスト改善に挑む。

 また、国内市場向けには、SFPを中心に機種数を削減し、高機能モデル中心のラインアップとする。

 「製品数の絞り込みについては具体的な数はいえない。また、削減する機種を一定の価格帯で線引きするというわけではない。ただし、プリンタ本体の抜本的コストダウンが必要であり、フォト技術、インク技術、画像処理技術、ヘッド技術といったエプソンの強みを生かすことで、プリントボリュームが大きなフォトユーザー、ビジネスユーザーにターゲットを当てた製品投入を行なう」とした。

 個人市場を対象としたプレミアムフォト分野、企業需要を主力とするA3対応のMFPや、LFPを製品ラインアップの主軸に据える考えだ。

 花岡社長は、「欧米では市場シェアが若干落ち込むことは覚悟しているが、国内のトップシェア維持への努力は続ける」とし、「機種を絞り込んだとしても、当社の特徴を生かした製品展開ができれば、引き続きトップシェアを維持できる自信がある」とコメントした。

インクジェットプリンタ事業 -1 インクジェットプリンタ事業 -2
インクジェットプリンタ事業 -3 インクジェットプリンタ事業 -4

 一方、「事業・商品ポートフォリオの明確化と強化」のなかで、インクジェットプリンタと並んで注目されるのが中小型液晶ディスプレイ事業。

 花岡社長は、「エプソンの主柱事業としてナンバーワンを目指した勝ち残り戦略を推進する」と発言。カラーSTNでは、携帯電話の世界的な需要がモノクロからカラー化へと進展することを見越して、数量増加への対応を図る一方、アモルファスTFTでも、今年度までの厳しい状況とは一変して、2006年度以降は需要が拡大するとみており、「中期成長の牽引役になる」として、投資を強化する考えを示した。また、低温ポリシリコンも、マルチメディア市場の拡大を背景に、事業が拡大すると予想しており、「PDA型の電話や、動画を閲覧できるマルチメディアプレーヤーなどの高精細表示が求められる市場に、新たに打って出たい」とした。

 だが、その一方で、半導体事業に関しては、構造改革による事業の縮小を進める考えを示した。

 「当社が得意とする低電力、低リークアナログIPを際立たせる製品開発に特化し、売上高成長がなくとも利益の確保が可能な体制を確立するとともに、生産拠点および生産ラインの統合、再編を行なう」とした。

 統合および再編の対象となる半導体生産拠点に関しては、「現在もお客様がいることもあり、来期の適切なところで公表したい」と、具体的な拠点名などについては言及を避けた。

 また、リアプロジェクションTVについては、「液晶やプラズマの価格下落という影響があるものの、今後も50型以上の市場に向けてコストダウンの取り組みを継続的に行なっていきたい。薄型化や高画質化など、まだまだ改善の余地がある分野だと考えている。ただし、この事業がエプソンの中期経営計画の柱になるとは考えていない。将来に向けた準備の1つ」と位置づけた。

 そのほか、1月27日の収益力強化改革プランの発表時点では、構造改革費用として、追加で100億円程度の費用が発生するとしていたが、今回の発表では、それが75億円の追加費用の発生に留まったことを明らかにした。

固定費構造改革 プランと改善効果額

 固定費の構造改革としては、半導体分野で今年度246億円の特別損失のほか、中小型液晶分野で171億円の特別損失、高温ポリシリコン分野で29億円の特別損失をそれぞれ計上。新たに欧州地区において、正規従業員を約100人削減する計画を打ち出し、16億円の特別損失を計上する。これにより、固定費の構造改革による今年度の特別損失は463億円となり、来年度に予定している固定費構造改革費用の30億円と合わせて、2年間で493億円の特別損失を予定している。

 この構造改革による改善効果は、2008年度までで640億円を見込んでおり、そのなかには、3,000人の外部社員の効率化などによる225億円の効果も含まれている。

 また、同社では、3月15日付けで、取締役の定員数の削減を発表するなど、ガバナンス体系の変革にも取り組む姿勢を見せている。

 「業務執行決定と監督、執行の明確化のために業務執行役員制度を導入、取締役数を25人から10人以内とし、議論の活発化と、意志決定の迅速化を図る。また、取締役の任期を1年ごととし、役員の責任と評価を明確化する。昨日発表した業績予想の下方修正を含めて、今年度の(4回にわたる)業績予想の下方修正は、経営層の環境変化の認識の遅れや、対策の遅れのほか、リスク分析が行なわれても、適切な行動へとつながらなかったことなどが要因。また、執行のチェックが甘かったこともあげられる。私が社長に就任して最初となる2006年度の計画策定と実行については、こうしたことがないように取り組む」としている。

 今回の中期経営計画は、SE07で掲げた中期計画を完全に見直す内容となった。

中期業績目標

 情報関連機器事業の採算性が悪化し、電子デバイス事業が赤字となる今年度の収益の状況を見れば、もう少し早い段階での計画の見直しと、その対策を打つべきだったともいえよう。

 とくにインクジェットプリンタ事業は、同事業が始まって以来の大幅な方向転換を余儀なくされている。インクカートリッジだけの収益モデルでは、インクジェットプリンタ事業の収益性が維持できないことを示したものともいえる。

 花岡社長は、「まずは2006年度にしっかりとした実績を残すことが大切」として、4月からの新年度でスタートダッシュをかける姿勢を見せる。

 その2006年度において、インクジェットプリンタ事業だけに限定していえば、プリンタ開発のリーダーであったセイコーエプソンの平野精一取締役が、4月からエプソン販売の常務取締役に就任し、販売の第一線で陣頭指揮を振るうことになる。必然的にインクジェットプリンタの販売が加速するのは明らかだろう。

 インクジェットプリンタのビジネスモデルの変革は成功するのか。そして、セイコーエプソンは収益性の回復を実現することができるのか。いよいよ花岡社長体制の真価が問われることになる。

□エプソンのホームページ
http://www.epson.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.epson.co.jp/osirase/2006/060316.htm
□関連記事
【3月10日】2005年の日本プリンタ市場は前年比11.3%増
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0310/gartner.htm

(2006年3月17日)

[Reported by 大河原克行]

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