元麻布春男の週刊PCホットライン

10年目を迎え転換を図るIDF




●テクノロジー寄りに日程を改編

 3月7日から18回目となるIDFがサンフランシスコでスタートした。'97年9月の第1回から数えて10年目を迎えたこのイベントには、全世界から3,000人ほどが出席する。サンフランシスコ空港のHyatt Regencyで開かれた第1回に参加した時には、IDFがこれほど長く続くものになるとは思っていなかったし、これほど大きな規模になるとも考えていなかった。Intelにとって、これは喜ぶべきことなのだろう。

 さて、10年目を迎えてIntelはIDFというイベントそのものを変えようとしているようだ。まず顕著なのは、これまでは会期中、基本的に毎日行なっていた基調講演を、初日にまとめてしまった。今回のIDFは最終の9日がドイツで開かれる大きな展示会(CeBIT)と重なるというスケジュールであるため、それとの競合を回避するための変更かとも思ったのだが、どうもそうではないらしい。当初からの計画だったという。

 2日目以降の基調講演に代わって設けられたのがTechnology Insights。1つのテーマに沿った講演を、基調講演と同じ大きなホールで行なうというもので、今回はマルチコア時代のソフトウェア開発、マルチコアアーキテクチャ、デジタルヘルス、半導体プロセスの4つのテーマが用意されており、2日目と3日目に行なわれる予定だ。

 テーマを絞ると、当然興味の分野から外れる人も出てくるわけで、それもあって基調講演と異なり、Technology Insightsには裏番組(通常のテクニカルセッションやショウケース)が用意される(基調講演には裏番組は存在しない)。その関係もあって、時に2時間近くに及ぶこともある基調講演に対し、Technology Insightsは一般のテクニカルセッションと同じ50分という時間枠が設定されている。

 今回のIDFでもう1つ変わったのは、Intelのトップによる基調講演がなかったことだ。これまでIDFではIntelの会長、あるいは社長が必ず基調講演を行なってきた。第1回だけは、当時会長だったGordon Moor氏が2日目に基調講演を行なった(内容も、歴史的な話とこれからのエンジニアに望むもの、といった教育的なものだったと記憶する)が、基本的には初日のトップに社長あるいは会長が、全体を統括するIntelのビジョンに関する講演を行なうのがなわらしとなっていた。

基調講演のトップをつとめたJustin Rattner CTO。事業部に所属するスピーカーが、従来通りの青いシャツを着るのに対し、IDFに参加するFellow/Senior Fellowは赤いシャツを着ることになった
 今回、初日のトップ講演を務めたのは、Intel Senior Fellowの肩書きを持つ現CTOのJustin Rattner氏である。'73年入社の氏は'48年生まれで、Paul Otellini社長('51年生まれ)より年長だが、肩書きでも分かるように研究職のトップ。業界に広く呼びかける役割がふさわしいかどうかは議論のあるところかもしれない。が、それでもRattner氏を基調講演のトップに据えたのは、Technology Insightの新設と合わせ、大きくなるにつれ、マーケティング面の色彩が強まったIDFというイベントを、もう少し技術寄りに戻したいという意図の現れとも考えられる。

 IDFで基調講演を行なったIntel役員のうち、最上位の肩書き(Executive Vice President)を持つのは、モビリティ事業本部のSean Maloney副社長だが、基調講演の内容は完全に事業部長としてのもの。いくらExecutive VPであろうと一事業部長である氏が、全体を統括する基調講演を行なうのはよろしくない、という判断があったのかもしれない(日本をはじめ海外でのIDFでは、結構あることなのだが)。今はまだ、次のステップ(COOなのか社長なのかは分からないが)を目指して、各事業部長を競わせる時、ということなのだろうか。

 もちろん、こうした変更が今後も継続されるのかどうかは分からない。たとえば2004年春のIDF(「San Francisco最大の秘密」のIDF)では、それまでの(そして今に続く)IDFがSystems Conferenceとして開かれる一方で、ソフトウェアやサービスにフォーカスしたSolutions Conferenceが同時開催されたが、その後Solutions Conferenceは併催されていない。今回の変更が定着するかどうかは、参加者からのフィードバックが決めることになるだろうが、とりあえず次のIDFでPaul Otellini社長の登壇があるのかどうか、注目したいと思っている。

●現行CoreはCoreアーキテクチャではない矛盾

 さて、Rattner CTOの基調講演だが、30分と時間が短かったこともあって内容はかなり絞り込まれていた印象が強い。

 IDFの前日、米国以外のプレス向けに、IntelのR&Dに関するブリーフィング(R&D Day)が開かれた。そこでRattner CTOは、命令レベルの並列性を重視したシングルコアの時代から、スレッドレベルの並列性を重視した現在のデュアルコア/マルチコアの時代、そして100以上のコアを集積するメニイコアの時代に関するビジョンを披露した。

 この流れに一貫したテーマは、エネルギー効率を重視した性能ということであり、現在のデュアルコア/マルチコアは、まさにこれを反映したもの。マルチコアのシリコン、最適化されたプラットフォーム、スレッド化されたソフトウェアを総合した上で、さらに将来のワークロードを予見した時、メイニコアの時代はTera-Scale Computingの時代になる。そこには大きな飛躍(One Giant Leap)が求められる、といった話だったのだが 、IDF本番の基調講演で触れられたのは、デュアルコア/マルチコアの時代、エネルギー効率の向上についてがもっぱらだった。

前日のR&Dにおけるスライド。よく見るとデュアルコア/マルチコアのところにだけ、「明日の基調講演参照」と書かれており、最初の予定通りだったことがうかがえる Tera-Scale Computingに求められる飛躍(Leap)。もちろん英文ロゴのタグラインにある「Leap Ahead」にかけられたものだろう。プラットフォームの最適化、マルチコアのシリコン、スレッド化されたソフトウェアを推進力に、まだ天文台の望遠鏡でしか見えない(将来のワークロードもそれくらい予見するのが難しいということか)はるかかなたの目的地、Tera-Scale Computingへたどり着こうというメッセージ

 前日に語られた未来のビジョンに代わって、現在が強調される形になったわけだが、現在の関心事ということで、初めて明らかにされたのが、これまでNext Generation MicroArchitecture(NGMA)と語られてきた次世代マイクロアーキテクチャの正式名称が「Intel Core Microarchitecture」になった、ということだ。新味に乏しいのは、すでにIntel Coreがプロセッサの名称として使われているからだが、この手の華々しいマーケティング寄りの話をするのに、Intel Senior Fellowはあまりふさわしくなかったかもしれない。

 ややこしいのは、Intel Core Microarchitectureを採用するプロセッサは、今年第3四半期から登場するMerom、Conroe、Woodcrestからであり、現在市販されているのIntel Core DuoおよびIntel Core Soloプロセッサ(つまりYonah)は、Intel Core Microarchitectureのプロセッサではない(非公式にはExtended Banias Microarchitectureなどと呼ばれる)、ということだ。もう少しうまいネーミングがなかったのだろうかと思うが、「Intel Core」を押したい、ブランドを一刻も早く確立したいという意図なのだろう。

発表されたIntel Core Microarchitecture Core Microarchitectureに基づくプロセッサのダイ

□IDF Spring 2006のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/spring2006/
□IDF Spring 2006レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/link/idfs.htm

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(2006年3月9日)

[Reported by 元麻布春男]


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