元麻布春男の週刊PCホットライン

Intel搭載Macを地味に仕立てるAppleの戦略




●インパクトが弱かったAppleの新製品

Intel Core搭載Mac mini

 Appleが2月28日に米国で開催した発表会は、ちょっと期待はずれだったかもしれない。発表されたのはIntel Coreプロセッサを搭載した「Mac mini」と、iPod用の外付けスピーカーである「iPod Hi-Fi」、iPod用の皮ケースだったからだ。

 多くの人が期待したIntel Core版iBookや、大画面を採用した本格的なビデオ対応iPodといった新製品のリリースはなかった。そのせいか、本稿執筆時点において、日本での発表会は予定されていないし、本社の発表も規模が小さかった。

 Intelプロセッサを搭載したiBook(「Pro」のつかないMacBookになるとも言われている)の発表がなかったのは理解できる。高価なMacBook Proさえ供給が十分でないのに、それより安いノートなど十分供給できるわけがない。そうでなくてもMacBook(非Pro)は取り扱いが難しい気がする。MacBookは、MacBook Pro、Mac miniと競合する割合が高そうに思えるからだ。

 あわててMacBookを出してしまうと、MacBook Proを検討している、とにかくノートが欲しいお客さんが流れてしまうことが考えられるし、Mac miniにしても、どうせなら液晶ついている方がいいか、なんてことになる可能性がある。まずは、この2機種をそれなりに売りたいのではなかろうか。

iPod Hi-Fi

 発表になった(実際にはもう売っているわけだが)新製品のうち、iPod Hi-Fiは日本の家庭にはちょっと大きすぎるように思うし、日本人の持ち運び用には明らかに重すぎる。広い家に住み、どでかいSUVに乗るアメリカン仕様だ。皮ケースも価格が微妙だし、液晶が見えないのはどうよとか、Dockコネクタを使うラジオリモートだと使いにくそうとか、突っ込みどころが見受けられる。

 Intel Core搭載Mac miniは、良くできた製品だと思うし、コストパフォーマンス的にも良さそうだが、初代ほどのインパクトはない。I/Oが強化されているから割高ではないものの、絶対金額としてちょっと値上がりしたのは痛いと思う。


●Windowsユーザーが使いたくなる製品を

 Mac miniに限らず、Intelプロセッサを搭載したMacintoshに共通しているのは、外観イメージについて従来のPowerPC版のそれを忠実に踏襲している、ということだ。これが新製品のインパクトを弱める要因の1つになっているのは間違いないところだろう。まるで今度のMacは性能が上がりました、ただそれだけです、プロセッサが変わったことなど気にする必要などありません、とでも言いたげだ。

 それは、既存のMacユーザーに対して安心感を与えるメッセージかもしれないが、新しいユーザーを取りに行く、というアグレッシブさはあまり感じない。Windows PCユーザーは、従来のMacに乗り換えるほどの魅力、Windowsに替わって選ぶほどの魅力を感じなかったからWindowsを使っているわけで、従来のイメージを踏襲されても乗り換えるわけがないのだ(魅力を感じる感じないは、個人の問題であるが)。

 そういえば、オンエア中のTVコマーシャルも、「その可能性を考えてみよう」なんて、どこかいいわけがましい。プロセッサを切り替えた最初の世代の製品では、まず既存のユーザーのケアを重視しよう、という戦略なのかもしれないが、早くWindows PCユーザーが乗り換えたくなるような心揺さぶられる製品のリリースを期待したいところだ。

●次のサプライズは

 それはともかく、Mac miniのリリースで、Appleのラインナップ中、半分がIntelプロセッサへの転換を終えたように思う。Macのラインナップは、高いデスクトップ(PowerMac)、安いデスクトップ(iMac)、小さいデスクトップ(Mac mini)、高いノート(PowerBook)、安いノート(iBook)の5種類で構成されている。ノートの場合、液晶のサイズ違いというバリエーションもあるから、単純ではないが、一応ラインナップ的に残っているのは安いノートと高いデスクトップの2つだ。

 このうちどちらが先に発表されそうかというと、それは間違いなく安いノートだ。というより、高いデスクトップはしばらく出せない。現在PowerMacのハイエンドモデルは、デュアルコアの64bitプロセッサを2基搭載している。残念ながら現在のYonahコアによるIntel Coreプロセッサは64bit拡張をサポートしていない上、デュアルプロセッサにも対応していない。iMacやバッテリ駆動のノートはともかく、動画編集等のプロフェッショナル向けという位置づけのPowerMacが64bit拡張をサポートしないというのは、さすがに格好がつかない。

 64bit拡張をサポートした新マイクロアーキテクチャ待ち、というところだと思うが、新マイクロアーキテクチャになってもデスクトップ向けのConroeやノート向けのMeromはデュアルプロセッサをサポートしないだろう。性能が上がった、ということでデュアルプロセッサを止めるのか、WoodcrestコアのXeonでデュアルプロセッサ構成を貫くのか、興味深いところだ。

 ただこの場合、Xeon向けのチップセット(Blackford)ではメモリが高くつく(FB-DIMM)のが難点だが、ハイエンドだから許されるのかもしれない。提供時期が年末までずれ込むであろうことも難点だが、PowerPC G4チップを使わざるを得なかったノートPCやMac miniに比べれば、PowerMacにはまだ性能上の余裕がある。

 残る安いノートのデビュー時期は予測が難しいが、今年前半に出ないことは考えにくい。Appleにとって次の節目は4月の創立30周年だが、記念モデルが安いノートということはあるまい。限定モデルを用意するか、17型ワイド液晶の大型MacBook Proというのが順当なところだろう。あるいは、いよいよのビデオiPodで、スペシャルカラーでも用意するという線だろうか。MacBookはその後になるというのが筆者の予想だが、ジョブズがやると言えばそれで決まりの会社だけに、予想が当たる確率はあまり高くない。

□関連記事
【3月1日】アップル、Intel Core CPU搭載のMac mini
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0301/apple.htm
【3月1日】Apple、iPod用スピーカーシステム「iPod Hi-Fi」(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20060301/apple1.htm

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(2006年3月6日)

[Reported by 元麻布春男]


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