大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

LenovoブランドのPCに、ThinkPadのDNAは入っているか




石田聡子執行役員

 レノボ・ジャパンは、LenovoブランドのノートPCおよびデスクトップPCとして、「Lenovo 3000ファミリー」を発表した。これまでは中国国内だけの販売に留めていたLenovoブランドのPCを全世界へ展開。日本でも同様に製品投入を開始した。レノボ・ジャパンにとって、Lenovo 3000ファミリーはどんな意味を持つのか。レノボ・ジャパンのマーケティング担当・石田聡子執行役員に話を聞いた。


--レノボ・ジャパンにとって、Lenovo 3000ファミリーはどんな位置づけを担う製品ですか。

石田 出荷比率という観点で見れば、やはり、9割程度をThinkブランドの製品が担うということになります。残りの1割がLenovo 3000ファミリーですね。Lenovo 3000ファミリーは、新たな市場を開拓する製品ですから、それほど爆発的に出荷台数が増加するとは見ていません。あくまでも、SOHO(スモールオフィス/ホームオフィス)という、特化した市場向けの製品だと考えています。

--出荷比率で見ると、それほど力が入っていないように感じますが。

石田 いえ、そんなことはありません。これはレノボにとっては大きな挑戦だといえます。マーケティングという観点から見れば、4対6、あるいは五分五分ぐらいの力をLenovo 3000ファミリーにつぎ込みたいと考えています。では、なにがレノボにとって大きな挑戦であるか。それは、成長分野であるものの、どこも食い込めていないSOHO市場に挑んでいく製品だからです。ThinkPadは大企業向けの製品として高い評価を得ています。しかし、この製品をそのまま中小企業やSOHO市場に持っていくと少し無理がある。ThinkPadでは、SOHO市場に合致した製品にはならないのです。

--それはなぜですか。

Lenovo Careを起動したところ

石田 例えば、大企業向けの製品というのは、長い期間をかけて製品を供給する必要があります。場合によっては、2年以上同じものを提供し続けなくてはならないということもあります。裏を返せば、素早く製品を出すといったことがやりにくい。また、中小企業やSOHOには、IT担当部署はありませんし、専任の担当者もおけない。そうした企業向けにBTOの仕組みを用意して、何千通りから選択できますよ、というのも実際には現実的ではない。「1.3GHzがいいですか、それとも1.5GHzがいいですか」なんて社内で相談していたら、「そんなこといいから、本業の仕事をしろ」という話になるのが関の山です。Lenovo 3000ファミリーは、中小企業やSOHOが必要される機能に限定し、それを低コストで提供する。設定や運用でつまずいても、それをヘルプする機能として「Lenovo Care」を用意しましたし、サポート体制ではブリスベンのサポートチームを活用してしっかりと対応できるようにしている。しかも、ラインナップを3機種程度に限定していますから、その中から選択してもらえばいい。これは、Lenovo 3000ファミリーという新たなブランドだからこそできたものなんです。

--どこかのメーカーを意識した対抗製品なのですか。

石田 レノボに対しては、2005年5月の事業開始当初から、価格面で優れた製品の投入に期待していたユーザーもいました。その点では1つの回答と言えるかもしれませんし、ここではヒューレット・パッカードやデルといったメーカーが競合となるでしょうね。また、今回の製品では、在庫を確保して、即日出荷を行ないますから、納期という点では国産メーカーと競合する製品といえます。SOHO向けという点では、その分野にフォーカスをしているソーテックもその1つかもしれません。また、店頭で販売するという観点やSOHO向けに販売するという点では、また別のメーカーとの競合があります。ある特定のメーカーと競合するものではなく、それぞれのフェーズで、いくつかのメーカーと戦うことになるでしょうね。

--Thinkシリーズを上位製品と位置付ければ、Lenovo 3000ファミリーはどうしても廉価版という印象がつきますが。

石田 我々が最も避けたい最悪のシナリオを挙げるとすれば、それは「Lenovo 3000ファミリーは、価格が安いだけ」という印象を、市場に植え付けてしまうことです。実際、その点が大きく異なることを知っていただきたいですね。ThinkPad同様に、日本IBMのサポート体制をそのまま利用できるという点でも、安いだけではないということがわかるはずです。

--Lenovo 3000ファミリーの開発に関して、大和研究所はどの程度絡んでいるのですか。

石田 Lenovo 3000ファミリーでは、ノートPCとして、今後、14型および15型のワイド液晶モデル、12型のB5サイズノートPCを追加する予定で、今回発表した製品を含めて全部で4機種の投入を予定しています。どの機種とは明言できないのですが、このうち2機種は、大和研究所がベッタリとくっついて開発しました。また、残りの2機種は、中国レノボがずっと暖めてきたものに対して、最後の仕上げの部分で、大和研究所の技術チームが関わっています。つまり、すべてのノートPCに、大和研究所で培ったThinkPadのノウハウがつぎ込まれていると言っていいわけです。

 テストに関しても、ThinkPadと同様のものが行なわれ、この製品に求められた品質基準をすべてクリアしています。LenovoブランドのノートPCの責任も、ThinkPad同様に内藤(=ThinkPad生みの親と言われる内藤在正副社長)が持っていますから、その点からも、品質面では安心していただけるのではないでしょうか。一方、デスクトップ製品では、IBMのPC事業部門があったラーレイ(米国)が責任を持ち、旧IBM時代の品質基準を守っています。特に、日本では、電源まわりの品質が厳しいのですが、これもパスしている。安いだけという製品ではなく、品質の面でも安心していだたけるのが、Lenovo 3000ファミリーというわけです。

Lenovoブランドで投入されたLenovo 3000 J100 Small Desktop ThinkPadと同じ品質テストを実施しているLenovo 3000 C100 Notebook

--生産はどこで行なっているのですか。

石田 ThinkPadなどの生産も手がけている中国・深センのLIPCです。ここで需要動向にあわせて生産したものを、船便で1週間分単位で日本に運び、神奈川県綾瀬の倉庫に保管します。一斉に作って、一気に日本に送るというやり方はしません。このやり方は、日本IBM時代のAptivaの時に体験して、痛い目にあっていますから(笑)。綾瀬の倉庫には約2週間分の在庫を確保し、販売店やパートナーから要求があれば、即日出荷する体制をとります。日本向けの製品は、日本の市場性を考慮した仕様にしたことで、他の国向けの製品よりも、リッチスペックになっています。他の国や地域では、大企業は資金があるが、中小企業やSOHOは資金が少ないため、スペックが低い、安いPCを購入するという傾向があるようですが、日本は違います。日本のユーザーが求める使い方を想定すると、どうしても一定のHDD容量やメモリサイズが必要になる。その点を考慮した仕様となっています。

--Lenovo 3000ファミリーは、4カ月に1回ずつ、年3回の新製品投入を目指すということですが、次は、6月から7月にかけての新製品投入となるのですか。

石田 今回は最初ということもあって、ノートPCを9月ぐらいまでの間にラインアップを揃えますから、ちょっとサイクルが長くなります。来年ぐらいから、年3回というサイクルを維持できるのではないでしょうか。今回の日本での発表は3月上旬でしたが、日本特有ともいえる年度末の決算需要を狙うにはあまりいいタイミングではありません。このあたりも是正していく必要があるでしょうね。ThinkPadの開発サイクルは約18カ月間です。それに対して、Lenovo 3000ファミリーはその半分ぐらいの期間で開発を進めます。標準品の採用などによって、期間の短縮を図ることができるのです。今回の製品も、10月を過ぎた段階で、ボディカラーを変えようなんて話をしていましたからね(笑)。ですから、つい最近まで、デスクトップのカラーはシルバーだったんですよ。それが、発表時点ではダークグレーになっていた(笑)。こうしたスピード感を持った製品投入を続けていく考えです。

--Lenovoブランドの製品が、日本で成功した、とするゴールはなんでしょうか。

石田 1つはシェアですね。まずは、SOHO市場で2桁のシェアを獲得するということが目標です。それと、SOHOユーザーから「うちにピッタリの製品だ」と言われることを期待したいですね。この製品は、価格と仕様のバランスがいいと言われるだけでなく、使いやすさや、設定や操作に手間がかからないといった点、あるいはSOHOユーザーが安心して利用できる環境を実現するためのサービス体制の確立、といったことまでを含めたトータルバランスが大切だと思っています。そこまでを含めてパフォーマンスがいいという評価をしていただける製品に育てたいと考えています。今は、実際に製品を触ってもらえるところが少ないので、この点をまずは解決したい。先入観だけで評価されるのが一番怖いですから、パートナーとの協力関係によって、実際に触って、体験していただく場を全国に用意し、そこでLenovo 3000ファミリーの良さを多くの人に体感してほしいと思っています。

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(2006年3月7日)

[Text by 大河原克行]


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