ATIは1月24日のRadeon X1900シリーズの発表に続き、3月1日にチップセットの新製品となる「CrossFire Xpress 3200」を発表した。Athlon 64シリーズに対応したハイエンド向けのチップセットで、製品名からも分かるとおりCrossFireに対応する。また、NVIDIAのnForce4 SLI X16と同じように2枚のビデオカードをPCI Express x16で接続できる。ここでは、これまで本連載で取り上げていないRadeon X1900 XTXと同CrossFire Editionと組み合わせて、ATIの最新ハイエンド環境を検証してみたい。 ●Xpress Routeによる2つのPCI Express x16インターフェイスを実装 今回取り上げる製品のうち、ビデオカード製品となるのが「Radeon X1900 XTX」、「Radeon X1900 CrossFire Edition」の2つだ(写真1)。スペックなどはすでにRadeon X1900 XTを取り上げた記事で紹介済みなので、一読されたい。 簡単にまとめておくとRadeon X1900 XTXは、同社のハイエンド向けGPUシリーズであるRadeon X1900シリーズの最上位モデルにあたり、コア/メモリの各クロックがもっとも高く設定されている(画面1)。 一方のRadeon X1900 CrossFireだが、これはCrossFire時のマスターカードなる製品だ。基本的にはRadeon X1900 XTのスペックをベースにしている。スレーブ側にはRadeon X1900 XTXまたはRadeon X1900 XTを使用でき、DMSコネクタをケース外で接続するスタイルも従来どおりだ(写真2)。 そして、今回新たに発表された「CrossFire Xpress 3200」だが、こちらはPCI Express x16 2基に加え、PCI Express 4レーンの計36レーンを持つチップセットだ。すでにNVIDIAはデュアルビデオカード環境用にPCI Express x16を2基を持つ「nForce4 SLI X16」をリリースしており、これに追従するための製品となる。 特徴は、このPCI Express x16×2を1チップで実現している点で、ATIではこの方式を「Xpress Route」と名付けている。nForce4 SLI x16の場合は、ノース側とサウス側にそれぞれPCI Express x16を設けているため、チップ間コネクトによるボトルネックが発生し得るが、Xpress Routeによるチップ内コネクトならこの問題は発生しないとアピールしている。 ただし、PCI Express x16の帯域幅は上下合わせて8GB/sec。例えばASUSTeKのnForce4 SLI X16搭載製品「A8N32-SLI Deluxe」などは、BIOS上からノース-サウス間の周波数とバス幅を指定できる。ここのデフォルト値はそれぞれ1,000MHz、上下各16bitとなっており、理論上はPCI Express x16と同じ上下合わせて8GB/secの帯域幅を実現できるわけで、その影響はそれほど大きくないと推測できる。 むしろこの製品は、前モデルのRadeon Xpress 200との互換性を重視したのではないだろうかと思われる。というのも、Radeon Xpress 200ではノース-サウス間を帯域幅1GB/secのPCI Express x2で接続している。この方法を踏襲しつつ2つのチップにPCI Express x16を1基ずつ実装した構成では、ノース-サウス間が確実にボトルネックになるからだ。 そうすると、PCI Express x16とボトルネックにならない帯域幅を持つノース-サウス間インターフェイス、IXP450が持つインターフェイス類を、すべて実装した新チップセットを開発する必要がある。PCI Express x16×2を実装するCrossFire Xpress 3200の方式であれば、従来のサウスをそのまま利用しつつ、PCI Express x16×2の構成をとることができるわけで、これまでRadeon Xpress 200搭載製品を発売していたマザーボードベンダーに対するアピールもしやすいだろう。 さて、今回試用したCrossFire Xpress 3200搭載製品は、ASUSTeKから発売が予定されている「A8R32-MVP Deluxe」だ(写真3)。ノースブリッジにCrossFire Xpress 3200、サウスブリッジにULi M1575を搭載するマザーボードである(画面2)。PCI Express x16スロットを2スロット持っており、その実際のレーン数はBIOSからカスタマイズすることもできる(画面3)。同社のRadeon Xpress 200搭載マザー「A8R-MVP」に比べて、2つのPCI Express x16間を1スロット分、余裕を持たせているのも特徴といえる。
●NVIDIA製ビデオカードにおける3DMark06のアンチエイリアスについて さて、ベンチマークの結果を紹介する前に、3DMark06のアンチエイリアス(AA)について、少し述べておきたい。本連載の過去の記事における3DMark06の結果には、GeForce 6/7シリーズでAAを適用した場合の結果を掲載してきた。 これは、ForceWare側でAAを指定して実行したものだ。そうした理由は、3DMark06の初出時の記事でも触れたとおり、GeForce 6/7シリーズではHDR時のAAをサポートしないため、3DMark06上でAAを指定するとHDR/SM3.0テストが実行できず、3DMarks値が算出されないためだ。だが、この方法に問題があることが分かった。 まず、画面4~5は3DMark06のHDR/SM3.0テストのGT2の1,428フレーム目をImageQuality機能でキャプチャしたものだ。画面4がAAを適用しない場合、画面5がForceWare上から4xAAを指定した場合であるが、画面はまったく変化がない。つまりForceWare上からのAAの指定がキャンセルされている現われである。HDRに対するAAを適用できないGeForce 6/7シリーズでは、当然ともいえる結果ではある。
続く、画面6~8は、SM2.0テストのGT1の2,095フレーム目のキャプチャである。こちらは3DMark06上からAAを指定しても実行が可能なテストとなっており、画面6にAA非適用、画面7に3DMark06上から4xAAを指定、画面8にForceWare上から4xAAを指定したものを掲載している。この結果を見ると、3DMark06上から指定した場合はAAが働いているものの、ForceWareから指定した場合はキャンセルされていることが分かる。 つまり、3DMark06はすべてのテストにおいて、ForceWare上からのAAの指定はキャンセルされてしまうということになる。本連載の過去記事でも、GeForce 6/7シリーズでAAを適用した場合のスコア下落が小さい傾向にあったが、これはForceWareから指定したため、AAがキャンセルされて実行されなかったためということになる。
同様の傾向を示した3DMark05についても、検証してみた。画面9~11は3DMark05のGT1の480フレーム目をキャプチャしたもので、画面9がAA非適用、画面10が3DMark05上から4xAAを指定、画面11がForceWare上から4xAAを指定したものである。これもまた、ForceWareからのAA指定がキャンセルされていることが分かる。
では、3DMark03はどうか。画面12~14は3DMark03のGT4の1,669フレーム目をキャプチャしたもので、それぞれAA非適用、3DMark03上から4xAA、ForceWare上から4xAAを指定している。こちらは、ForceWareからの4xAAがちゃんと働いており、3DMark03上からAAを指定した場合と同一の描画となっている。
このように、3DMark06と3DMark05はForceWareからのAAの指定がキャンセルされ、3DMark03は有効なまま機能するというわけである。本連載でもこの結果を踏まえて、今後は3DMark06/05上からAAを適用することとする。これによりGeForce 6/7シリーズについては3DMarksとHDR/SM3.0テストの結果が提示されない点は了承いただきたい。また、過去のGeForce 6/7シリーズでの3DMark05/06におけるAA適用時のスコアが不適切なものとなっていたことをお詫びしたい。 ●ATIとNVIDIAの両ハイエンド環境を比較 それでは、ベンチマークの結果を紹介したい。用意した環境は表1のとおりで、ATIはRadeon X1900 XTXと同CrossFire環境、NVIDIAはGeForce 7800 GTX 512とSLI環境を用意し、この両者を比較する。また、PCI Express x8×2環境とPCI Express x16×2環境の比較も行なうため、それぞれに対応したマザーボードを用意している(写真4~6)。
では、まずは3DMark06の結果を見てみたい(グラフ1~3)。Radeon X1900 XTXとGeForce 7800 GTX 512の比較では、総じてRadeon X1900 XTXのスコアが良好である。とくにHDR/SM3.0テストのスコア差が大きいのが特徴だ。CrossFireとSLIについても、この結果が反映されている傾向が見られる。
CrossFire Xpress 3200については、CrossFire環境でシングルビデオカード時と比べて最大で約83%の性能向上を見せる場合があるのに加え、シングルビデオカード→CrossFire時の性能向上についても、全体にRadeon Xpress 200に比べて高めの傾向は見られる。ただ、nForce4 SLIとnForce4 SLI X16の違いに比べて大きな差が見られるわけでもない。PCI Express x16×2の効果はそれなりにはあるものの、Xpress Routeの優位性はほとんど感じられない結果といえる。 続いては3DMark05の結果(グラフ4)だが、この結果はCrossFire Xpress 3200の効果が薄いスコアとなっている。Radeon X1900 XTX単体の場合はCrossFire Xpress 3200環境の方がスコアが良い傾向があるものの、CrossFire環境になるとRadeon Xpress 200の方がスコアが良いケースが多いのだ。この傾向はCrossFire環境にも現われており、Xpress Routeを用いたPCI Express x16×2の場合でも、PCI Express x8×2環境における性能を下回る場合がある。
3DMark03の結果(グラフ5)は、それほど大きくはないものの、CrossFire Xpress 3200の効果が見て取れる。シングルビデオカードからデュアルビデオカードへの性能向上の度合いという点に着目すると、nForce4 SLIとnForce4 SLI X16では、nForce4 SLIの方が性能向上の度合いが大きいというスペックを逆転したケースがほとんどである。一方のRadeon Xpress 200とCrossFire Xpress 3200の場合は、後者の性能向上の度合いは前者に対して同等もしくはやや大きく、スペックに沿った傾向になっている。
残る2つのテスト「AquaMark3」(グラフ6)、「DOOM3」(グラフ7)については、両テストともATI環境では似たような傾向を示した。Radeon Xpress 200環境の方がスコアが総じて高く、性能向上の度合いもRadeon Xpress 200の方が高い、という傾向である。このあたりは、CrossFire Xpress 3200において、ビデオカードのドライバやマザーボード側のBIOSのチューニングが進んでいない雰囲気も見受けられる。 それでも、AquaMark3はnForce4 SLI X16で大幅にスコアを下げるという結果が出ているし、DOOM3ではnForce4両製品よりもATI製品の方が性能向上の度合いは、特に高負荷の条件で大きく、NVIDIAとの比較では悪くない結果といえる。
最後に各チップセットにおける、シングルビデオカードのスコアを1としたときの、CrossFire、SLI環境のスコアの相対値をまとめておくので参考にされたい(表2)。 【表2】各チップセット利用時における,シングルビデオカードとCrossFire/SLIの相対値(シングルビデオカード=1)
●CrossFire普及の起爆剤となれるか勝負の製品 以上の通り、結果を見てみると、Radeon Xpress 200に比べて劇的に性能向上が期待できるというほどはなく、逆に性能を下げるテストも見られることから、nForce4 SLIとnForce4 X16の関係と大きく変わりはない印象を残す結果となった。すでにRadeon Xpress 200を導入している人が買い換えるほどのインパクトは感じられない。 だが、CrossFire Xpress 3200にはPCI Express x16で動作するスロットを2基持てる製品として、スペック面での存在意義は小さくない。ライバル関係にあるNVIDIAがハイエンドとして同様のスペックを持つnForce4 SLI X16というアイテムを用意している以上、ATIもこれに並ぶ製品を用意する必要があったわけで、戦略的には投入されて当然ともいえる製品である。 GPUはというと、Radeon X1900 XTXのパフォーマンスは良好で、流通量の少ないプレミアム製品となっているGeForce 7800 GTX 512に比べても遜色がなく、3DMark06や3DMark05のようにシェーダユニットの性能がスコアを左右するベンチマークでは完全に上位に立っている。 自作シーンにおいても、ASUSTeK、MSI、DFI、ABIT、ECS、Sapphireといった日本の自作市場への製品展開が期待できるメーカーが、CrossFire Xpress 3200搭載製品を予定している。後は、ビデオカードのCrossFire Editionが順調に流通すれば、CrossFire環境の普及に弾みがつく可能性も十分にある。マルチGPUソリューションについては、SLIの後手を踏んでいる印象があったCrossFireだが、追撃体制がようやく整備され、今後の勝負が楽しみになってきた。 □関連記事 (2006年3月2日) [Text by 多和田新也]
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