今年のCOMPUTEX TAIPEI 2005で発表されたATIのマルチGPU技術「CrossFire」だが、発表後3カ月以上が経過し、ようやく実際に動作するサンプルを入手することができた。ここではCrossFire環境の使用感や、パフォーマンスの検証を行なっていきたい。 ●専用コネクタを備えるRADEON X850 CrossFire Edition ATIのCrossFireは、NVIDIAのSLI同様に、3D描画を2枚のビデオカードで分散処理させることで、パフォーマンスを向上させる技術だ。詳しい仕組みについては、COMPUTEX TAIPEI時の発表会レポートにあるので参照されたい。 CrossFireを利用するためには、NVIDIA SLIでnForce4 SLIチップセットが必要だったように、まず対応するチップセットを搭載したマザーボードが必要だ。ATIからは「RADEON XPRESS 200」シリーズをマイナーチェンジした、「RADEON XPRESS 200 CrossFire Editon」と「RADEON XPRESS 200P CrossFire Edition」の2種類がリリースされる。前者はグラフィック統合型、後者はグラフィック非統合型である。 RADEON XPRESS 200のノーマル版との最大の違いは、PCI Express x16の再構成が可能になった点で、従来モデルはPCI Express x16×1の構成のみが可能だったのに対し、CrossFire EdiitonではPCI Express x8×2の構成が取れる。x8相当のPCI Express x16スロットを2基持たせることで、CrossFireを実現するわけだ。 このほか、IDF Fall 2005レポートでもお伝えしたとおり、Intel 955Xチップセットを搭載した「D955XBK」でもCrossFireをサポートすることが表明されている。
ビデオカードも、CrossFireに対応したものが必要となる。リリースされるのは「RADEON X850 CrossFire Edition」、「RADEON X800 CrossFire Edition」の2種類。 ただし、CrossFire Editionはプライマリのみが対応していればよく、2枚目には従来のRADEON X850シリーズ、およびRADEON X800シリーズが利用できる。NVIDIA SLIにはないメリットであり、アップグレードパスとしてアピールは小さくないだろう。 今回テストに利用するのはATIから借用した、リファレンスキットだ。マザーボードはチップセットにRADEON XPRESS 200P CrossFire Edition AMDを搭載した、Socket 939用マザーである(写真1)。当然ながらPCI Express x16スロットを2基持っている(写真2)。 そのスロットの真上には4ピンのペリフェラル用電源コネクタを備えているが、ビデオカードを2枚搭載する際は、こちらに電源コネクタを接続する必要がある。 ビデオカードは、RADEON X850 CrossFire EditionとRADEON X850 XTの2枚を組み合わせてテストする(写真3)。ちなみに、RADEON X850 CrossFire Editionは、コアクロック520MHz、メモリクロック1,080MHz(540MHz DDR)、ピクセルパイプライン16本というスペックでRADEON X850 XTと同等のスペックである(画面1)。
RADEON X850 CrossFire Editionと、通常のRADEON X850 XTの違いについては、一般的な機能ではビデオ入出力の有無が異なる程度(写真4、5)。ただし、ブラケット部にDMS-59と呼ばれるCrossFire用の専用コネクタが設けられている(写真6)。CrossFireではブラケット部のケーブルを接続することで2枚のビデオカードを連結する。実際の接続においては、CrossFire Editionに設けられたDMS-59と、通常版ビデオカードのDVI端子とを接続する形となる(写真7、8)。 Windows上での設定は、CATALYST Control CenterからCrossFireを有効にするのみ(画面2)。なお、この際、通常版の出力端子は利用できなくなる(画面3)。この仕様はNVIDIA SLIと同等だ。 ちなみに、NVIDIA SLIの場合、NVIDIAのディスプレイドライバであるForceWareを使ってアプリケーションごとにSLIの有効/無効を切り替えられる。CATALYST Control Centerでは、こうしたアプリケーションごとの設定を行なう画面は用意されていないが、CATALYST A.I.を有効にする(初期設定で有効状態)ことで、アプリケーションごとに有効/無効、また3種類の描画モードを切り替えているようだ。 また、CrossFireでは、アンチエイリアシング(AA)の処理分散を行なうSuperAAという機能を持ち、これにより、CrossFire有効時には最大14点サンプルのAAが可能になる(画面4)。
やや余談にはなるが、こうしたAAの処理分散については、NVIDIAのForceWareにも実装が始まっている。ForceWare 77.xx以降のバージョンでCoolbitsをONにすることで、最大で16xAAを指定できる機能を持っている(画面5、6)。後に行なうテストでは、この機能を利用した場合のパフォーマンスも測定していきたい。
さて、CrossFireにおいて、SLIと同様にPCI Express x8相当のPCI Express x16スロットに2枚のビデオカードを接続することは先述した。CrossFireを使用しない場合は、1基のPCI Express x16へと構成を変更することになるのだが、その設定はBIOSで指定するのに加え、セカンダリ側のPCI Express x16スロットにターミネータカードを装着する必要がある(画面7、写真9)。この両方の作業を行なわないと、PCI Express x8相当での動作になってしまうので注意が必要だ。
●似た傾向を見せるCrossFireとSLI それではベンチマークの結果を紹介したい。環境は表1に示したとおり。CrossFireの環境については、RADEON X850 CrossFire Editionのみを使用した場合と、RADEON X850 XTを用いてCrossFire環境で使用した場合。SLIの環境は、GeForce 7800 GTXのシングル使用とSLI使用の各パターンをテストする。なお、グラフ中、CrossFire Editionは“CFE”と略して表記している。 解像度等の条件については、本連載の過去記事に準拠するが、先にも触れたとおり、CrossFire/SLIを使った場合の8xAA+8x異方性フィルタリング(Aniso)、14xAA(CrossFire)/16xAA(SLI)+16xAnisoの2条件を追加している。
では、FutureMarkの「3DMark05」(グラフ1)から順に結果を見ていきたい。CrossFireのスコアを見てみると、シングル利用時に比べ、倍とまではいかないが、70~80%超の性能向上が見てとれる。NVIDIA SLIはCPU側がボトルネックになっている傾向が見られるものの、55~80%超といったところ。こと3DMark05に関していえば、おおよそ似た傾向を見せている。
続いて、同じFutureMarkの「3DMark03」(グラフ2)の結果だが、こちらは、条件によってSLIが最大85%程度の性能向上を見せるのに対し、CrossFireは最大65%程度、ややSLIに分がある格好となっている。
一方で、「AquaMark3」(グラフ3)や「DOOM3」(グラフ4)では、3DMark03とは逆にCrossFireのほうが良い傾向を見せる。最大の性能向上率を見ると、前者はCrossFireが約46%、SLIが約37%。後者はそれぞれ約87%、約67%といった具合だ。
このほか、「FINAL FANTASY Official Benchmark 3」(グラフ5)、「Unreal Tournament 2003」(グラフ6、7)については、ご覧のとおり。SLIにおいては、概ねシングル構成の方が良い結果で、CrossFireでも同様の傾向が表れている。
最後に、高いビデオカード性能が要求される1,600×1,200ドット/4xAA/8xAnisoの条件における、各テスト結果の性能向上率を表2に示している。SLIでは実際のゲームでは性能向上がそれほど見られない傾向があった。だが、今回のテスト対象となるアプリケーションにおいて、CrossFireでは実際のゲームエンジンを使ったテストでも良好な性能向上を見せる点が印象的である。
●この先登場するGPUの魅力をも引き出すCrossFire CrossFireとSLIを比較してくると、今回テストした範囲ではあるが、ややCrossFireのほうが性能向上率が高いような印象を受ける。ただ、ビデオカードの絶対性能が違うため、グラフを見るとCrossFireのインパクトは小さいかも知れない。 だが、CrossFire、SLIとも実際に導入しているのがエンスージアストと呼ばれる性能追求志向の人々である以上、今回の検証で示された絶対性能の差はATI劣勢という表現を用いるべき状況だろう。 もう1点、GeForce 6シリーズで最初からマルチGPUの仕組みを盛り込んでいたNVIDIAと、そうでないATIで違いが生じるのは当然だが、CrossFire Editionのビデオカードを必要とするATIと、同一ビデオカードを必要とするSLIの違いは賛否両論あるだろう。 この点についても、CrossFire/SLIの導入を前提に購入する点を考慮すれば、筆者はSLIの仕組みに賛同している。個人ユーザーであっても、CrossFire Editionと通常版の別々の製品を購入するのは注意が必要であるし、販売店やBTOを行なうメーカーにとっても、SLIは同じもので済むというメリットがある。 現時点で、実売価格に関する情報がないのだが、少なくともビデオカードについてはCrossFire Editionだからという理由でプレミア価格は付けることは避けてほしい、また、例えばDMS-59同士を繋ぐケーブルを提供してCrossFire Edition同士でもCrossFireを構築可能にするなど、さらに組み合わせのバリエーションが増えれば、魅力は増すのではないだろうか。 とはいえ、この先のATIは楽しみだ。というのも、同社の次世代GPU「R520」の発表が近いと考えられているからだ。この製品が登場したときに、CrossFireによってさらに上の性能を目指すこともできる。 ちょうどGeForce 6800シリーズや7800シリーズが登場したときのNVIDIAと同じ状態である。NVIDIAのパフォーマンスを見れば、ATIとしてはR520の発表前にCrossFire対応プラットフォームを何としてでも市場に用意しておきたいだろう。つまり、CrossFire対応プラットフォームを市場に送り出せる状態になったということは、R520の発表も近いと推測されるわけだ。 1年前とは打って変わって、ハイエンドセグメントにおけるNVIDIAの優位性が目立っているが、CrossFire、R520によって、ATIがどう巻き返していくか期待したい。 □関連記事 (2005年9月27日) [Text by 多和田新也]
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